ノームコンボ炸裂
二つの畑からノームっていう精霊が一体ずつ誕生した。
あうあう言いながら懐いてくる様子は、皆で一緒になって愛でてしまうほど可愛らしく、そのうちバーナード領のマスコットになりそうな予感がする。
そんな彼らに名前を付けようという話になり、俺も含めて名付けたいという人が多かったため皆でじゃんけんをして、激闘の末にトウカが命名権を獲得。そうして付けられた名前は、ケルムさんとブロッサムさんが連れて来たボサボサ髪の方はボサノム、屋敷の菜園から誕生したサラサラストレートヘアの方はサラノムという、髪質をそのまま流用したものだった。
「あううー!」
「あっううっ!」
さすがにこんな名前じゃ気に入らないだろうと思ったら、二体はとても嬉しそうに両手でハイタッチを交わしていた。
いいのか? その名前でいいのか?
「あっうー!」
「ううあ!」
二体揃って満面の笑みを浮かべ、親指を立てた手を突き出した。
うんまあ、本人達が気に入ったのならそれでいいか。
ということで、次はボサノムとサラノムが土か植物にどんな好影響を与えるのかを調べるため、村へ向かう。
できれば屋敷の菜園でやりたいけど、サラノムが誕生したばかりで魔力が激減してるし、調理魔法で回復を促すにしても三日掛かるから、今回は村で協力者を募ろうというわけだ。いなかったらいなかったで、三日掛けて菜園の土を回復させて試すつもりだ。
村へ向かうメンバーは俺とノーム達と護衛のトウカ、それから調査に協力してくれるブロッサムさんとケルムさんだ。
セリカも一緒に行こうとしたけど、義母上から体調を崩しやすい妊娠初期に寒い外へ行くのを禁止され、大人しく留守番することになった。
「きゃふぅん、楽しみですねぇ。研究者として興味深いです」
「我もじゃ。これも母君から聞いた話じゃが、かつて現れたノーム様は薬草を肥大化させたそうじゃ」
肥大化、ということは大きくするのか。
しかも味や効果が落ちることはなく、そのままの状態を保っていたらしい。
ただ、大きくなり過ぎて薬草畑がちょっとした森のようになってしまったとか。
「おまけにデカいから収穫したり運んだりするのも一苦労で、町へ売りに行っても、大きすぎてあまり買い取ってもらえなかったらしいのじゃ」
だろうな。数が増えるのとは違うから、買い取る側も扱いに困るだろう。
スペースは取るし、処理も大変そうだしな。
「もしもそれがタマネギとかジャガイモだったら、大きくなって土の中で押し合いになって、畑の外へ溢れてそうッスね」
言えてる。大きくなったタマネギやジャガイモが土から飛び出すだけでなく、押し合いになって畑の外へ溢れ出る様子が容易に想像できる。
しかもジャガイモは繋がっているからともかく、タマネギはどこかへ転がっていくかもしれないな。
「きゅうん。どんな作物でも、大きすぎたら駄目ってことですね」
「今回のノーム様達は、どんな影響を与えるのか楽しみじゃの」
「「あう?」」
なに? とでも言ってるように首を傾げる仕草がピッタリ揃って、まるで双子のようだ。
そんでもって絶対正義な可愛いさだから、トウカもケルムさんもブロッサムさんも表情が緩んでる。まあ、俺も緩んでる自覚があるけど。
だけど愛でるのは後だ、今はノーム達の力の検証を優先しよう。
「くぅ、男の子でも女の子でも、こんな可愛い子供が欲しいッス!」
気持ちは分かるから、期待の眼差しをこっちへ向けないでくれ。
頑張るから、頑張るからさ。正妻のセリカとの間に子供はできたし、護衛はユリーカさん率いる自警団に代わりを頼めばいいから、頑張ってトウカとも励むから。あっ、勿論ユリスともな。
「孫達の幼い頃を思い出すのじゃ」
そういえばブロッサムさんって、何人孫がいるんだろう。
「でゅふふふふっ、私もいずれサミー君とこんな子を。じゅるり」
妄想するのは勝手だけど、その笑い方と涎を啜る様子は邪な気持ち満載に感じるからやめてほしい。
「「あううー!」」
もう意気投合したのか、手を繋いでスキップしながら移動するノーム達よ、そんな微笑ましい姿を次から次へ見せられたら狙っているのかと疑いたくなるぞ。
そんなことがありながらも村へ到着し、冬向けの作物を育てている農家のおじさんに声をかけて協力してくれないか尋ねたら、二つ返事で了承してもらえた。
「いいのか?」
「ええ、構いませんよ。上手くいけば、また何か凄い事が起きるのでしょう? それに協力できるのなら、お安いご用です」
「必ずしも凄い事とは限らないぞ」
「若様が絡むのですから、きっとまた突拍子もない凄い事ですよ」
それどういう意味だ。俺が絡むとか、また突拍子もないってどういうことだ。
いや確かにノームが誕生したのは俺が原因と言えるし、調理魔法で農作業なんて突拍子もないと言われても仕方ないけど、今回もそれに匹敵するとは限らないぞ。
「さすがに全面は無理ですが、端の方の一列ならばどうぞお使いください」
「助かる。それでお前達、何か必要な物はあるか?」
検証開始前に必要な物をノーム達へ尋ねると、揃ってこくりと頷いた。
「あっううっ」
ボサノムが右手を広げて掌を上に向け、そこから左手で何かを摘まんで撒く仕草を見せた。
これは種が欲しいってことか?
「あうっう」
対するサラノムは何かを持って振り下ろす仕草をする。
これは鍬かな?
「種と鍬か?」
「「あうっ!」」
ニッコリ笑って頷いたから正解のようだ。
鍬はおじさんに頼んで借り、種はケルムさんが買いに走って行ったから、一先ず鍬をサラノムへ渡しておく
「あっうー!」
手にした鍬を嬉しそうに掲げたサラノムは、許可を得た個所へ走って行き耕しだした。
「あうっあうっ♪」
鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌に鍬を振るい、畑を耕していく姿は微笑ましい。
だけど鍬が振り下ろされるたびに、土が微かに輝いてる。輝き自体はすぐに消えるけど、見た目は特に変化が無いように見える。
「ブロッサム、あの辺の土に変化はあるか?」
「ちょっと待ってほしいのじゃ。……ふむ、おぉっ!?」
なんだ? 急に声を上げて驚いて、どうしたんだ?
「どうしたッスか?」
「鍬が振り下ろされるたびに栄養や魔力が変化して、土質そのものが変化しておるようじゃ。しかもこれは……」
溜めるな、続き早くっ!
「この栄養と魔力なら、環境と関係無く作物を作れそうじゃぞ」
「環境と関係無く? どういう意味だ?」
「分かりやすく言うのなら、万能土壌というところじゃな。季節の影響はあるじゃろうが、本来ならこの土地では育てられない、もしくは育ちにくい作物が育てられそうじゃ」
マジかそれ。つまりサラノムには土に何かしらの影響を与えて、その万能土壌とやらにする力があるのか。
もしもそれが本当なら、輸入しなくちゃ食べられなかった他国の作物が育てられるんじゃないのか?
この土で他国の作物が育てられるかの実験と称して、フミャー商会に他国から種を仕入れてもらおうかな。
「あうっあうっ!」
サラノムによって耕されていく土を見て、なんかボサノムが興奮して両手をぶんぶん振っていて可愛い。
やがて一列全てを耕し終え、やりきった表情で額の汗を拭うサラノムの姿が農家の子供っぽいなと思っていたら、ケルムさんが走って帰ってきた。
「買ってきましたよ! はいこれ、大根の種です」
掌に乗るような小さな袋に詰められた大根の種を差し出されると、それを聞いたボサノムが待ってましたとばかりに掻っ攫い、つぶらな瞳をキラキラさせながら大事そうに両手で袋を覆う。
すると袋が一瞬強く輝き、思わず目を庇う。
「あううー!」
できたと言わんばかりにドヤ顔で袋を掲げるけど、何をしたんだろうか。
「なあボサノム、今のはなんだ?」
何をしたのか尋ねると、こっちへ歩み寄りながら掌へ種を何粒か出して見せてくれた。
「あう!」
ニパッと笑って種を見せてくる姿は、子供が見てって主張してるみたいだ。
だけど生憎、普通の種にしか見えない。微妙に形状が違うようだけど、それが関係あるのか?
「わふぅ!? こ、これはっ!?」
息を整えていたケルムさんが種を見た途端に驚いた。
「どうした?」
「これ、私が買ってきた種じゃありません!」
えっ? じゃあ何の種なんだ?
「では何の種なのじゃ? 我は薬草以外はサッパリなのじゃ」
「大根です」
大根って、買ってきたのと同じじゃ――。
「同じじゃないッスか! 大根の種を買ってきたんッスよね!?」
トウカに先に言われた……。
「きゃいん、失礼しました。大根は大根でも、品種が違うんです」
品種が違う?
ケルムさんによると、同じ作物でも育った土地や環境によって見た目や味や食感が異なるため、それらに品種名を付けて区別しているそうだ。
前の職場での研究の一環で、あらゆる品種の種を見たことがあったから気づいたとのこと。
「じゃあ、この大根の種も?」
「ええ。私が買ってきたのは、この国ではありふれたアオクビなんですが、こちらの種は赤くて小さいラディッシュという品種で、こちらは大きなカブのような見た目のサクラジマですね。これは……細長いモリグチです」
大根一つでもそんなに品種があるのか。
しかも袋の中に残っている種も調べてみると、色は赤いけどラディッシュのように小さくないアカ、色が黒いクロ、強い辛味があるカラミがあるらしい。どれも品種名が単純なのは、結構初期に見つかったからとかなんとか。
「あ、あの、ボサノムちゃん、これはどんな作物でも変化可能なの? 思い通りに品種を変化させられるの?」
「あうっ!」
任せておけとばかりに胸を張って叩いた。どうやらいけるらしい。
「じゃあ、種以外でもできますか? 苗とか?」
「あうぅ……」
今度は肩を落とし、残念そうに首を横に振った。どうやら種でないとできないようだ。
「きゃうぅぅん! これは凄いですよ、なかなか手に入らない品種でも、同じ作物の種さえあれば入手したも当然なんですから!」
興奮したケルムさんの尻尾と耳がバタバタ揺れる。
確かにこの能力を使えば、こっちで育てていない種類でない限りは入手可能かもしれない。
ということは、ボサノムには植物を同じ種類の別品種に変える力があるのか。
「あっ、でもこの大根もそうですが、この土地で育たなければ意味がありませんよね。きゅうん……」
今度は落ち込んで尻尾と耳が力無く垂れた。
ふっふっふっ、その心配は不要だよケルムさん。なにせ俺達には、サラノムが耕した畑があるんだから。
万能土壌と化した畑なら、普通ならこの土地では育たない作物だって育てられる。
すぐにサラノムを隣に立たせてそのことを伝えると、胸を張ってドヤ顔をするサラノムを大喜びで抱きしめ、何度もありがとうと叫びながら頬ずりした。
褒められたのが嬉しいサラノムは、ご満悦なようで良い笑顔だ。
「あーうー!」
解放されたサラノムが駆け寄って来て、期待の眼差しを向けてきた。これは褒めてってことか?
「あうっ!」
同じくボサノムも期待の眼差しを向けてきた。
はいはい、一緒に褒めてあげますよ。実際凄い事をやってくれたんだ、褒めないわけがない。
「凄いじゃないか、お前達」
「「あっうー!」」
褒めながら頭を撫でてやったら、二体はジャンプして擦れ違いながらハイタッチを交わし、着地したら振り向きながら反対の手でタッチ。そして二体で腕を組んでスキップしながらくるくる回りだした。
なにこのやり取り、可愛いの一言に尽きるんだけど。
「さあ、すぐに種を撒きましょう! 観察は私がしますから、ご安心ください!」
「待て待て、まずは許可を得てからだ」
一応ここ、人様の畑。使っていい許可は得たけど、作物を育てるのなら別途相談は必要だろう。
そういうわけでおじさんに鍬を返すついでに一部始終を説明して相談したら、自分がそんなことに関われるのなら喜んで協力しますと、あっさり承諾してくれた。しかも世話まで買って出てくれたからありがたい。
すぐにボサノムが品種を変化させた大根の種をサラノムが耕した場所へ撒き、後のことをおじさんとケルムさんに任せて一旦屋敷へ戻り、畑での出来事を義母上へ報告した。
「嘘でしょ。生育速度と品質向上に加えて、今度は様々な品種を環境と関係無く育てられるなんて……」
驚きを通り越して呆然とする義母上は、見開いた目をボサノムとサラノムへ向ける。
二体はどんなもんだいとドヤ顔で胸を張った。
「ねえブロッサム、ノームってこんなに凄いの?」
「いえ、我が教わった限りではここまでではなかったですじゃ。おそらくじゃが、畑に含まれる混合魔力によって能力が強化されたのではないかと」
その可能性はあるかもしれない。
普通の土地でも条件が揃えば誕生するノームが、今回は混合魔力がある土地で誕生したんだ、何かしらの影響を受けていてもおかしくない。
「なるほどね……」
頭へ手を置いた義母上が前のめりになる。あれ? ひょっとして頭が痛い報告だった?
どんな反応をするかハラハラしつつも、前のめりになった体と机との間に挟まれてムニュンと変形している、圧倒的存在感の胸の谷間に視点が固定されてしまう。
「ふっ、ふふふふふっ」
うん? 義母上、笑ってる?
「いける、これはいけるわ。冬の間にしっかり準備を整えておけば、春から多種多様な品種を栽培できるわ」
義母上? おーい。
「これは農業組合と打ち合わせをしないとね。それと商会にも連絡をして、他国でしか育てていない作物の種の入手をお願いする案件だわ。それから一応レトリバー辺境伯様と、コーギー侯爵様にも連絡を入れて」
駄目だ、完全に自分の世界に入ってる。
トウカとブロッサムさんも苦笑いを浮かべてるし、ノーム達は状況を理解できずに首を傾げてる。
……うん、せっかくだから義母上が戻ってくるまで、圧倒的存在感の胸の谷間をガン見させてもらおう。
「安全面を考えるとノームちゃん達のことは明かせないから、シオン君ぐらいの魔力量と魔力の制御と操作ができる人が、調理魔法で長期間農作業をしないと駄目ってことにして、周囲の目を誤魔化しましょう」
あっ、そうか。でないとノーム達を狙う輩が出かねないもんな。
俺はノーム達の力に驚いてその点を見落としていたっていうのに、さすがは義母上。略してさすぎぼ。
そしてノーム達は俺が誕生させたようなものだから、ある意味で義母上の言い訳も筋が通るわけか。改めてさすぎぼです。
「そうすれば、国内ではここでしか入手できない農作物ということで付加価値が付けられるわね。また忙しくはなるけど、それによる発展と儲けは想像がつかないわ」
他国からの輸入品は関税と輸送費が掛かるから、どうしても値段が高くなってしまう。
対するこっちは輸入品と違って関税は掛からないし輸送費も抑えられるから、付加価値があるとはいえ、結果的に輸入品より安く提供できる。そうなれば確実に買い手が付くだろう。
「なんにせよ、大根での実証実験の結果が出てからでも遅くはないわね。ふふふっ、燃えてきたわ!」
目を爛々とさせた義母上が立ちあがり、ノーム達が驚いて左右それぞれの脚へしがみついてきた。大丈夫だぞ、怖くないからな。
それと義母上も、立ち上がった勢いでブルルンと大きく揺れてプルプルと余韻を残している、圧倒的存在感の胸の揺れをありがとうございます。
「シオン君!」
「はい? わぶっ!?」
感極まった様子の義母上が、圧倒的存在感の胸をブルンブルン揺らしながら駆け寄ってきたと思ったら、抱きしめられて顔を谷間に埋められて左右からパフフンと最高に柔らかい感触が押し寄せてくる。
「次から次へ、本当によくやってくれるわね! 調理魔法での農作業は外部へ伝えなきゃならなかったけど、今度のは完全に独占できるわ! だって他所にはシオン君がいないもの!」
この件は俺でないと無理ってことにするし、そもそも俺がいなければノームはそう簡単に誕生しないからな。
うん、パフンパフンの感触が素晴らしい。少々振り回されたり揺さぶられたりされようが、全く気にならない。
「あうー!?」
「あううー!?」
一緒に足元のノーム達も揺さぶられているようだ。君達、手を放せばいいんじゃないか?
「本当にシオン君には感謝しかないわね! お礼は何をすればいいのか、分からないわ!」
今のこの柔らか幸せ時間で十分です、心から誠にありがとうございます。
だけどそろそろ息苦しくなってきたから、脇腹をペシペシ叩いて苦しいアピールをする。
「領主様、シオン殿が苦しそうなのじゃ」
「早く放してあげるッス!」
「あら、ごめんなさいね」
こうして柔らか幸せ時間は終わり、思いっきり息を吸う。ふう、もうちょっと浸りたかったけど助かった。
「あ~」
「う~」
ずっと脚にしがみついたままだったノーム達が、揺さぶられたせいで目を回してフラフラしながら離れた。
なんで途中で手を放さなかった。いや、考えてみれば揺さぶられていたんだから、途中で手を放す方が危ないか。
背中合わせで床に座ってぐったりする姿は可愛いけど、本人達はそれどころじゃないから、表情は緩めないようにしないと。
「春までの時間はたっぷりあるから、結果が出たら張り切って準備しないとね!」
今回の件で、バーナード領が農業都市へ突き進む速度が間違いなく加速したな。
また忙しくなりそうだけど、自分が継ぐ予定の領地の事だから頑張ろう。




