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帰ってきてから


 ようやくバーナード士爵領へ帰ってこられた。

 王都からの道中で数回ほど魔物と遭遇したけど、トウカや護衛のラッセルさん達やレトリバー辺境伯家の護衛によって難無く退けられた。

 想定外だったのは、その魔物を調理魔法で解体して調理した肉が、レトリバー辺境伯とシバイ殿とチワンさんからとても気に入られたことだ。「血抜き」で完璧に血抜きした肉の美味さに、雇っている人の中に調理魔法を使える人がいたかどうか真剣に話していたくらいに。

 それ以外にこれといった出来事は無く、途中でレトリバー辺境伯一行と別れて領地へと帰ってきた。

 村に到着したらラッセルさんの仲間の一人が先触れに走り、領民達から声を掛けられながら屋敷へ向かうと、屋敷の前では先触れに向かわせたラッセルさんの仲間とユリーカさんが待ち構えていた。


「やっと帰ってきたか! 予定より遅いじゃねぇか、どんだけ仕事に苦労したと思ってんだ!」


 到着と同時にユリーカさんが文句を叫ぶ。


「悪かったわね。思っていた以上に反響が大きくて、滞在を延長せざるを得なかったのよ」

「当然! 土産はあるんだろうな!」

「当たり前じゃない。迷惑料込みで、良いお酒を何本か買ってきたわ」

「いやっほー! そうでなくっちゃな!」


 土産に酒があると分かったら、あっさり上機嫌になったよ。

 実に現金な叔母上だけど、喜んで飛び跳ねるから義母上に勝るとも劣らない圧倒的存在感の胸がだっぷんだっぷんと揺れている。非常に眼福です、心からありがとうございます。

 さてと、上機嫌なところを悪いけど尋ねたいことがある。


「ところでユリーカ、何故か屋敷が大きくなっているんだけど、これはどういうことかしら?」


 義母上の指摘通り、屋敷が大きくなっている。

 今まで通りの古い部分に新しい部分が加わっているから、正確には増築かな。


「ああ、こりゃ領民達からの礼だよ、礼」

「お礼?」

「姉貴やシオンのお陰で、領地が発展してるだろ? 元からいる連中はそれへの礼で、移住してきた連中からは受け入れてもらった上に同等に扱ってもらえることへ、礼をしたいって言われたんだ。でも、礼とはいえ金を直接受け取るわけにはいかねぇだろ?」


 そりゃそうだ。お礼とはいえ直接金なんか受け取ったら、賄賂や脱税の疑いが掛かる。注目されている現状、そうした話題は避けなくちゃならない。

 ユリーカさんの説明に義母上はうんうんと頷き、組んだ腕にのっしりと乗った圧倒的存在感の胸が頷きに合わせてプルプル揺れてる。


「そしたらあいつら、礼に屋敷の増築と改築をするって言いだしたんだよ。建材はたくさんあるし他に必要なのも金を出し合ってくれたし、なによりドワーフの連中が任せろって張り切ってさ、あっという間にできちまったぜ」


 なるほど、それが増築の経緯か。ユリーカさんによると部屋を増やしたのとリビングと台所と風呂の拡張、それから菜園と倉庫も拡張してもらえたらしい。


「これなら別に問題ねぇだろ?」

「そうね。お金を直接受け取って、それで増改築したわけじゃないし、代行を頼んだユリーカが許可を出したのなら、領民の善意を受け取ったことになるから問題無いわね。ただ一点、不在の最中にやっていた点を除けばね」

「うっ……」


 納得したように頷いていた義母上が睨むと、ユリーカさんが怯んだ。

 そう、屋敷の主は義母上であって、ユリーカさんは不在の間を任されているに過ぎない。領内の出来事ならともかく、屋敷を主の承諾無しに増改築するのはいただけない。


「いやその、驚かせようと思って? サプラーイズ?」

「ユリーカ?」

「ごめんなさいお姉様、驚かせようと思ったのは事実ですが調子に乗りました、申し訳ありません。いやマジで本当に」


 怒気の籠った声で名前を口にしただけなのに、ユリーカさんはその場で土下座した。

 しかも呼び方を姉貴じゃなくてお姉様にまでして。


「はぁ。やっちゃったものはもういいわ。私達の部屋や執務室はどうなってるの?」

「そこは手を付けさせてねぇよ。何か大切な物があるかもしれねぇし、何が重要な物か分からねぇし」

「ならいいわ。だけど、後でちょっと小言を言わせてもらうわよ」

「……ですよねー」


 ユリーカさん、頑張れ。それと項垂れたことで圧倒的存在感の胸の谷間が目に飛び込んできて、実に嬉しいです。

 それと義母上も、組んでいた腕を解いて腰に当てたことで腕に乗っていた圧倒的存在感の胸が解放され、ゆっさっと大きく揺れた光景は誠にありがとうございます。


「とりあえず中へ入りましょう。増改築した場所を確認して、留守中の報告を聞かなくちゃね」

「あの、その前に依頼書に完了のサインをいただけますか」

「あらごめんなさい。そうだったわね」


 義母上が護衛の依頼書にサインをすると、ラッセルさん達は引き上げて行った。

 それを見届けてから屋敷へ入ると、玄関前で待ち構えていたミィカが、嬉しそうに尻尾を振って耳をピコピコと動かしながらテテテーと駆けて来た。


「おかえり、お兄ちゃん、お姉ちゃん」

「ただいまミィカちゃん」


 満面の笑みでセリカに抱き着く様子にちょっと癒される。

 セリカほどじゃないにしても、可愛い子には癒されるものだ。


「おかえりシオン、久々の王都はどうだった?」

「相変わらず騒がしいし、貴族連中の掌返しがウザかった」


 性別を勘違いしそうな笑みを浮かべ、サラさんとトルシェさんとブレイドさん達、そして文官達と一緒に出迎えに来たサミーへそう返す。


「きゃうん! サミー君、会いたかったです! ご飯作って下さい!」


 ついさっき別れたラッセルさん達とは違い、サミーの飯目当てで付いて来たケルムさんがサミーの手を握った。

 帰って来て第一声がそれってどうよ。


「僕も会いたかったですよ。部屋を散らかす人がいないから、掃除しに行ってもやり甲斐が無くて」


 普通は散らかすな、手間を掛けるな、と言うところなのに散らかっていないのが残念そうなのはどうなんだ。


「あっ、これお土産です。それと私自身もお土産です」

「はい?」


 その話は後でな。まずは皆へお土産を配って、次に屋敷の増改築した場所を見て回ろう。

 ちょうど全員集まっていたからそれぞれへお土産を渡し、サミーへケルムさんとのことを相談。すると……。


「こんなにお世話のし甲斐がある奥さんを貰えるなんて、大歓迎だよ!」


 受け入れてもらえたのはともかく、なんとも微妙な答えだ。しかもケルムさんは、それを聞いてたっぷりお世話させてあげますって喜んでる。


「あの、旦那様。本当に大丈夫でしょうか?」

「上手くいくいかないとは別の意味で、駄目だと思う」


 だけど本人達は既に乗り気だから撤回はできない。

 こうなったらもう、なるようになれだ。見える、見えるぞ。研究以外は自堕落になったケルムさんと、喜々としてそれを世話するサミーの姿が。


「今はまだサミー君が未成年だから婚約にして、成人したら式をあげましょう」

「「よろしくお願いします!」」


 これで二人の結婚話は終了。もうこれ以上、この二人のことは考えずにユリーカさんの案内で増改築した場所を見て回ることになった。

 増築された部屋は子供部屋と新たな客室、それと使用人が増えた場合も想定しているようで結構な数が用意されていて、なんならどれかを義母上や俺とセリカで使ってもいいとのこと。だけど使い慣れた部屋の方がいいからと、部屋は今まで通りでいくことにした。

 台所は以前より広くなって使いやすそうで、ちょっとしたものなら解体できるスペースまで設けられているし、地中の食料保管庫も拡張されている。さらに人数が増えても対応できるよう、かまどが増設されていて石窯まで設置されていた。

 そして風呂に至っては、今までが二人か三人ぐらいが入れる金属製の風呂桶を設置していたのに対して、新しい風呂は床から少し掘り下げた、十人で入っても余裕そうな木製の広い浴槽になっている。なんでも鬼族特有の風呂を参考にしたようで、これなら子供が何人できても一緒に入れるだろ、とのことだ。


「おっほー! こんなに広かったら泳げそうッスね!」

「確かにそうだけど、泳いじゃ駄目よ」


 風呂で泳ぐのは貴族でも庶民でもマナー違反だ。

 周りにも迷惑だから、絶対にやるなよ。一人の時でもやるなよ。

 言っても泳ぎそうなトウカにしっかり言い含めた後、拡張した菜園を見物ついでに拡張して手つかずの地面を「撹拌」で耕しておき、最後に倉庫の確認をしたら留守中の報告を聞くために執務室へ向かう。


「では、報告させていただきます」


 文官の一人の報告によると、大きな案件としては盗賊団の襲撃があったそうだ。だけどドライアド達によって事前に察知していたのと、開拓支援団の兵士達がいたこともあって難無く撃退。捕らえた盗賊は近隣の騎士団の基地へ連行して引き渡し、報酬を受け取ったとのこと。

 それ以外は特に事案は無く、開拓は計画より少し早めに進んでいて、自警団の設立準備も順調とのことだ。

 移住希望者もまだ増えていて、ドワーフ達による家屋の建設とドライアド達による樹木の家の作成が、急ピッチで進んでいるそうだ。

 他にも数点の報告をすると、他の文官達によって書類が運ばれてきた。


「こちらがそれらの詳細をまとめた報告書になります」


 積み重ねられた報告書の山に、義母上の頬が引きつった。

 今から義母上は領主としてこれに目を通し、しかるべき対応が必要な場合はそれを考えなくちゃならない。

 勿論、俺とセリカも手伝う。そのせいか、セリカはかわいとおしく苦笑している。


「さあ、アタシに予定以上の仕事を押しつけたんだ、姉貴達も苦労してもらうぜ」


 これがユリーカ叔母さんなりの仕返しのつもりなのか、とても良い笑顔でニヤニヤしている。

 この後でお小言があるの、忘れてない?


「そういうことなら仕方ないわね。セリカ、シオン、一緒に頑張りましょうね」

「「はい」」


 向こうは向こうで忙しかったけど、帰ってきたら帰ってきたで忙しいってか。まっ、立場上は暇でいるよりかはいいか。

 そういうわけで帰って早々に仕事へ取り掛かり、山のような報告書に目を通していき、指示が必要な案件は文官達を通じて指示を出し、留守中に開拓が進んだ地域の視察予定を組んでいく。

 さらに自警団の視察に、移住希望者への対応とやることは山積みだ。

 ユリーカ叔母さんもある程度はやってくれていたとはいえ、やっぱり最終決定権は領主の義母上にあるから、どうしても処理できない仕事がある。だからこそ、これだけの量の仕事が待っていたと言える。


「うぅぅ、向こうで遊んでいた訳じゃないのに……」

「領地持ち貴族の宿命ってやつだよ」

「二人とも、口より手を動かしなさい」


 承知しました義母上様。

 言われた通り手を動かし続け、夕食後にも少しだけ仕事をして、どうにか留守中に溜まった仕事を全て処理し終えた。

 そして疲れた体を癒すため、早速新しい風呂へ「注水」して「加熱」でお湯を沸かす。

 後はゆっくり風呂に浸かって疲れを癒そう。そう思っていたのに、どうしてこうなった。


「これだけ広いと、皆で入っても余裕ね」

「だな。改築を頼んで正解だっただろ?」

「そうね。だけどそれとこれとは話が別よ。仕事も済んだし、お風呂から上がったら小言を聞いてもらうわね」

「……分かってんよ」


 少し離れた所に湯浴み着姿の義母上とユリーカさんがいて。


「これ邪魔。脱ぎたい」

「駄目よ、ミィカちゃん。ご主人様もいるから、ちゃんと着てなさい」


 湯浴み着を脱ぎたがるミィカを諫めながら頭を洗ってあげている、湯浴み着姿のユリスがいて。


「いやー。良い湯ッスね、ご主人様」

「旅と仕事の疲れが取れますね、旦那様」

「……だな」


 湯浴み着姿で存在感抜群の胸を押し付けてくるセリカを右側に、同じく湯浴み着姿でなかなかの大きさの胸を押し付けてくるトウカを左側に侍らせ、入浴中の俺。

 ふっ、なんて嬉しくて安らげない空間なんだ。

 この状況の発端は義母上だ。以前から親子のスキンシップとか言って突撃してきたくらいだから、風呂場が広くなったと知れば家族でのスキンシップとか言って、これくらいのことは計画するし実行する。

 ちなみに俺も湯浴み着を着用している。なにせ幼いミィカがいるからな、教育の観点から何も身に着けないという訳にはいかない。


「しっかし、こんなデカい風呂でも湯を準備できるなんて、やるじゃねぇのシオン」

「どういたしまして」


 いくら大きくなろうとも、バカでかい鍋だと思えば案外できるもんだ。

 魔力こそ以前の風呂とは比べ物にならないほど消費するけど、俺の魔力量からすれば大したことはない。


「そういや、これを参考にした公衆浴場建設の提案書があったな」

「ええ、あったわね。領民達にも広いお風呂を堪能させてあげたいし、許可を出しましょう」


 言葉を交わす義母上とユリーカさんの、圧倒的存在感の胸が湯船にプカプカ浮いてる。

 ということは、密着していなければセリカの存在感抜群の胸も浮くんだろうか。


「はい、洗い終わったわよ」

「ありがとう、ユリスお姉ちゃん!」


 お礼を言ってニパーと笑ったミィカは、プルプルと体を振ってお湯を飛ばすと、駆け出して風呂へ飛び込んで水飛沫が飛び散る。


「こらミィカ、風呂に飛び込むんじゃねぇっ!」

「はーい、ごめんなさーい」


 母親から叱責されたのに、全く気にした様子を見せずに湯船から顔を出し、またプルプルと頭を振ってお湯を飛ばす。

 こんなに広い浴槽だから飛び込みたい気持ちは分かるけど、絶対にやっちゃいけないぞ。


「ふんすふんす。旦那様の汗の香りが……ふおぉぉぉぉ」


 密着しながら匂いを嗅ぐセリカが変な声を上げてるけど、押し付けられている存在感抜群の無念の柔らかさと、かわいとおしさに免じて許す。


「ユリスさん、ご主人様に密着したいなら正面が空いてるッスよ」


 湯船へ入るため、浴槽の傍に立つユリスへニヤニヤ顔のトウカが声を掛けた。


「膝の上に座れと!? それとも正面から抱き着けと!?」


 どっちでもいいぞ。座れば尻の感触が、抱き着けば控えめでも柔らかい感触に包まれて幸せだから、こっちは全く気にしない。さあこい、今すぐこい。


「無理です、恥ずかしい!」


 ちっ、残念だ。


「すんすん。だったら私が正面へ回るので、ユリスさんがこっちをどうぞ」


 ぬおおぉぉっ! 匂いを嗅ぎながらセリカが正面へ回っただと!?

 腕から伝わっていた存在感抜群の胸の感触が、体を沿うように移動して、今度は正面から押し付けられてきた。


「そちらなら……きゃあぁぁっ!?」


 誘いに乗ったユリスが浴槽へ入ろうとしたら、ツルリと滑って湯船へ転落した。

 うん、なんとなくそうなる気はしてた。


「あー、ユリスお姉ちゃんも飛び込んでる」

「ぷはっ! 飛び込んだ訳では、ああぁぁぁぁっ!? 鼻に、鼻にお湯があぁぁぁっ! 水面でオデコも打ってえぇぇっ!」


 鼻にお湯が入ったか。それって地味に痛いよな。

 額と鼻を押さえているユリスを見ていると、いつもの日常に戻ったって感じがするよな。

 こうして元の生活に戻ったと思いきや、そうは問屋が卸してくれなかった。

 しばらくすると学会で発表した件について知りたいと、何人もの研究者がわざわざ尋ねて来たり、話を耳にした領地持ち貴族達から、領内にいる調理魔法の使い手にその技術を学ばせてほしいという申し出が、距離の遠近を問わずに届いたりしたからだ。

 これに対して義母上は。


「今さら隠す必要はないし、貰える物を貰った上で公開しちゃいましょう」


 そうした判断により、研究者達は開拓作業へ支障をきたさなければという前提で見学や視察の許可を出し、技術を学ばせてほしいという申し出には、滞在費はそちら持ちかつフミャー商会を通じてこちらに比較的有利な形での交易契約を結んでもらうことで、技術研修という形で調理魔法使いを研修生として迎え入れることになった。

 申し出を利用して、ちゃっかり外部との交流を広めたり収入を増やしたり贔屓にしている商会を儲けさせたりと、やっぱり義母上も貴族の当主なんだと再認識させられた。


「うふふ。お金儲けはやり過ぎないよう、ほどほどにしないとね。でないとひんしゅくを買っちゃうし、作らなくていい敵を作っちゃうじゃない。それにやり過ぎなければ、相手からの信用や信頼が得やすいのよ」


 金を通じた付き合いだからこそ、そういうことに気をつけないとならないのか。

 金の切れ目が縁の切れ目とも言うし、金を通じた人付き合いには注意しないとな。


「だけど引き過ぎると逆に侮られるし、場合によっては強気に出た方が良い時もあるわ。その辺りの駆け引きは、しっかり考えてやるのよ」

「分かりました」


 相場や状況をよく考えて、強気でいくか引いておくかを考えろってことか。

 それは今後も義母上の交渉を参考に、勉強させてもらおう。


「じゃあ俺はそろそろ、現地視察へ行ってきます」

「ええ、よろしくね」


 視察先は鬼族とドワーフが中心の村。同行者はセリカとユリスとトウカだ。

 増えた資金で購入した馬に乗って村へ向かうと、開拓は報告書の通りだいぶ進んでいて、その大きな要因となっている調理魔法使い達が地面の整備をしたり、切り倒した木を「かつら剥き」や「ささがき」で加工したりしている。

 離れた場所では研究者らしき人達がその様子に関心を示しながら意見を交わし、さらに別の場所では数名の研修生が教えを受け、四苦八苦しながら「撹拌」で地面をかき混ぜる練習をしている。


「だいぶ賑やかになったな」

「はい。領内が活性化するのは良い事です」


 今領内へ集まって来ているのは、一時的に滞在している学者や研究者、それに他所からの研修生ばかり。

 だけどそうした人達によって領内の評判が広まれば、新たな移住者の誘致に繋がるから、決して馬鹿にできたものじゃない。


「あっ、シオン様。いいところに。ちょっと彼らに手本を見せてくれませんか?」

「ん、いいぞ」


 研修生へ指導をしていた蜥蜴人族の青年からの要望に応えるため、馬から降りて伐採が済んだ大地の前に立つ。


「ヒャッハー! テメェら、目ん玉ひん剥いてよく見てやがれよ!」


 蜥蜴人族の青年と一緒に指導に当たっていた、ヒャッハー状態のドライアドの青年に誰もが戸惑っている。無理もないか、俺もいまだに戸惑う時があるし。


「この辺り一帯は農地にする予定ですし、枯れ葉や肥料は既に撒いてあるので、遠慮なく思いっきりやっちゃってください」


 なら遠慮なくやらせてもらおう。

 馬から降りたセリカ達と見学に来た研修生、それと興味深そうに見物しに来た研究者達を前に、言われた通り遠慮なく思いっきり耕しにかかる。


「撹拌」


 複数同時展開した「撹拌」によって目の前の大地を一気に耕しだすと、まるで強風で荒れ狂って波打つ水面のように土が躍る。

 撒かれていた枯れ葉や肥料は土の動きによって大地へ混ぜ込まれていき、直接「撹拌」の効果を及ぼせない僅かに残っていた小さな雑草と木の根も、地面の方が動いてしまってはひとたまりもなく、土の動きに巻き込まれて混ぜ込まれていく。

 切り株とかが残っていればそれも巻き込むために威力を強めるところだけど、見当たらないからこのまま「撹拌」を継続しよう。

 だけど地面の硬さに合わせて、少しばかり調整する必要はあるか。こっちはギュワッであっちはシュルルッとしてそっちはガウンッ、そして向こうはブワンッて感じかな。掴んだ感覚に合わせて魔力をピシュルワンと制御し、シュギュルゥンと操作して「撹拌」の強さを調整しながら耕作作業を進めていく。


「えっ、なにこれ」

「まさか、この辺り一面を全部同時に耕してるんですかっ!?」

「こんな広い範囲を一度に……」


 後ろからざわつく声が聞こえるけど、今はそっちよりも作業に集中だ。といっても、感触からしてもうすぐ作業が完了する。

 部分的な調整はそのまま一気に仕上げて、ほい完了っと。


「終わったぞ。って、どうした?」


 作業を終えて振り返ったら、研修生達は唖然とした表情を浮かべていて、研究者達は口をあんぐり開けて立ち尽くしている。

 特にそういった様子を見せてないのは、何故か呆れているユリスと頭の後ろで手を組んで苦笑いを浮かべるトウカ、そしてニコニコとかわいとおしい笑みを浮かべる極愛の妻セリカの三人だけ。一体どうしたっていうんだ?


「久しぶりに見ましたが、これは……」

「いやー、相変わらず凄いッスね」

「見事なお手並み、さすがは旦那様です」


 セリカからのさすだん、いただきました。

 だけど研修生達や学者達や研究者達は固まったままだ。


「こんな感じで、手本になったか?」

『凄すぎて参考になりません!』


 ありゃー?


「当然の反応ですね」

「ッスね」


 ユリスとトウカ、それはどういう意味だ。

 その後、言葉での説明を求められたものの、魔法の説明に関してだけはどうしようもなくポンコツな俺の意味不明で支離滅裂な説明を理解できはずも無く、研修生達は揃ってきょとん顔で研究者達は頭を抱えていた。


「旦那様、どんまいです」


 セリカの優しさが身に染みるよ、本当に。


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