表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/64

フラグをへし折った生還者


 書類仕事に励んでいるある日、第二執務室へ駆け込んできたサラさんによって、その一報は届けられた。


「お嬢様、ユリーカ様からのお手紙が届きました!」

「えっ!? ユリーカ叔母様からの手紙が!?」


 ユリーカって誰だ?

 驚いて立ち上がったセリカの胸がブルルンと揺れたけど、それと同じくらい誰なのか気になる。


「はい。先ほど冒険者の方が届けてくださったので、リーチェ様にお渡ししました」

「そうですか。良かった、生きておられたのですね……」


 えっ、ひょっとして死んでると思われてた人なのか?

 気になる、どういう人なのか気になる。

 本当に死んでいるのなら聞くのは失礼かもしれないけど、生きているのなら聞いても大丈夫かな。


「奥様、ユリーカって誰ッスか?」


 先を越されたー!

 というかブレイドさん達か文官達の誰かならともかく、どうしてさっきまで机に上半身を伏せて、頭から湯気を出してそうなほど書類仕事に苦戦していたトウカが聞くんだ!

 お前は一番動けない状態だと思っていたのに!


「ユリーカ叔母様は、お母様の妹に当たる方です」


 義母上に妹がいたのか。聞いたことが無かったから、知らなかった。


「七年も音信不通だったので亡くなったと思っていたのですが、無事だったんですね。ああ、良かった……」


 再び潤む目元を拭うセリカの傍に行き、優しく抱いてやりながら頭を撫でてやる。

 ふわっふわの髪は今日も実にふわっふわかつサラサラで実に良い感触だ。そして優しく抱いていることで、フニンフニンとした軽い胸の接触が心地よい。


「良かったな」

「はい。きっとお母様だけでなく、亡くなったお祖父様とお祖母様も草葉の陰で喜んでると思います」


 泣き笑いするセリカが実にかわいとおしい。今すぐにでも強く抱きしめたい。


「その叔母さんって、どんな人なんだ?」

「剣を振るのが好きで、幼い頃は勉強なんてやってられるかー、って叫んで剣を片手に山や森へ入って狩りをしていたと聞きています」


 随分と豪快な人だな。


「その後、お母様がお父様を入り婿として迎えた後、家を出て傭兵になったんです」

「傭兵?」

「はい。嫁入りして大人しくするのは性に合わないと、愛用の剣を手に半ば強引に屋敷を出て行ったんです」


 跡を継げない貴族の子が冒険者になるのはよく聞くけど、傭兵になるのは珍しいな。


「どうしてまた、傭兵に?」

「冒険者になったら剥ぎ取りとか素材になる部位を傷つけないように戦うとか、そういうのが面倒だからだそうです」


 要するに細かいのが苦手な人なんだな。冒険者は強さだけでなく、そういうのも求められるってラッセルさんに聞いたことがある。

 しかし傭兵か。魔物との戦闘が主体の冒険者とは違って、傭兵は人との戦闘が主体なんだよな。

 それは盗賊だったり、紛争地での敵兵だったり、護衛対象次第では暗殺者や先日まで一緒に仕事をしていた同業者だったり。

 だからこそ、人を殺せる覚悟とそれに耐えられる精神が冒険者以上に必要らしい。


「出て行ってからも年に一度は顔を見せに来ていたので、私も毎年会っていましたよ。その度に、仕事で行った土地のお話をしてもらいました」


 年に一回は帰省って、出て行った割には律義なんだな。


「ただ、さっきも言ったようにここ七年は会えていませんし、音信不通状態でした」

「なんでだ?」

「最後にお会いした時、次の仕事はかなり遠方にある異国へ出向くことと、所属している傭兵団で素敵なお相手を見つけて、その仕事が終わったら結婚するんだとおっしゃっていました」


 それって言ったら死ぬやつじゃないか?

 そう思ったのは俺だけじゃあるまい。事実、この場にいるトウカもブレイドさん達も文官達も、死ぬやつじゃないのって表情で仕事の手が止まってる。

 まあ結果的には生きてるみたいだけど。


「死ぬ人がよく言うやつッスね、それ」


 トウカ、思っても言わないのが礼儀ってものだろうが。


「私とお母様だけでなく、亡くなったお祖父様とお祖母様とお父様も、あんなことを言ったから死んだんだと諦めていたんです。どこでの仕事なのか詳しく聞いていなかったので、調べようがありませんでしたし」


 いいんだ、死んだと判断した理由がそれでいいんだ。


「それが生きておられたなんて、本当に良かったです」


 ……うん、この嬉し涙が浮かんだ満面の笑みを見られたのなら、そこの所はもうどうでもいいや。

 パァッって擬音がして、後光が差しているかのようなこの笑みを見れたのなら、もう全部許す。あんなことを言ったから死んだと判断したことなんて、もうどうでもいい。

 今大事なのはセリカが喜んでいること、このかわいとおしい極愛の妻を愛でることだ。


「そうだな、生きていて良かったな。おめでとう」


 というわけで全力抱擁。だけどセリカが痛くなったり苦しくなったりしないよう、絶妙に加減をしている。

 しかしそれはあくまでセリカに対してのみ。ふわふわの髪はともかく、間に挟まれた胸にはそうした配慮は一切していないから、ぐにゅうぅぅんと押し潰されて役得だ。

 それでいて鼻にはふんわりと甘い匂いが……あれ? まさかセリカの匂い好きがうつったか?


「はい! ありがとうございます!」


 ……まあいいか。この弾ける笑顔を見れたのなら。

 嬉しくて胸に顔を埋めながらさりげなく匂いを嗅いでいるセリカの頭を撫でつつ、もっと嗅いでいいとばかりに頭だけをちょっと強めに抱き寄せたら、それを察したように匂いを嗅ぐ勢いが増した。

 死んでいたと思っていた叔母さんが生きていたんだ、お祝いにこれくらいしてあげてもいいだろう。


「スハー、スハー、にゅふふふふ~」


 うん、かわいとおしくて眩しい笑顔だ。

 なのにどうして周りは、またか、って感じで呆れてるんだろう。


「失礼します。ご主人様、奥様、お館様がお呼びで……って、仕事中になんでそんなこちょっ!?」


 義母上の仕事の手伝いをしていたユリスが来たと思ったら、急に怒って噛んで痛がりながら俯いた。足下のロイとマルコが心配そうにきゅんきゅん鳴く様子も含め、見慣れてきた光景だ。


「――!」


 いや、口を押えて恨めしくキッって睨まれても困る。

 だってなにも悪いことしてないもの。ユリスの自爆だから。


「えっと、義母上が俺とセリカを呼んでいるんだな?」


 コクコク頷いている。


「分かった、すぐに行く。セリカ、行こう。サラ、ユリスを頼む」

「はい」

「承知しました」


 抱擁を解いて、サラさんにユリスの世話を任せて義母上がいる執務室の方へ向かう。

 ノックをして入室の許可を得て執務室へ入ると、手紙を広げている義母上が涙を拭いつつ微笑んでいた。


「お母様、ユリーカ叔母様から手紙が届いたというのは!?」

「ええ、本当よ。もう見ることは無いと思っていた、あの子の字よ。まったく、相変わらず乱暴で汚い字と適当な文面なんだから」


 とか言いながら義母上は喜んでいる。

 もう血縁者はセリカしかいないはずだったところへ、死んだと思っていた妹が生きていたんだから当然か。


「どうやらあの子、この七年間は記憶を失っていたそうよ。読んでごらんなさい」


 手渡された手紙をセリカと二人で読む。

 それには、音信不通になった経緯が書かれていた。



 *****



 七年前に伝えていた仕事自体は上手くいった。

 だけど帰りの道中でキマイラっていう強力な魔物と遭遇した。

 どうにか倒したけど、仲間は恋人含め全滅で自身は気絶。

 気がついたら手当てをされてベッドの上におり、治療してくれた医者によると冒険者によって発見され、この町まで運ばれたと聞かされた。

 ところが頭部へ受けていた怪我かショックによって記憶を失ってしまい、自分の名前と傭兵をしていること、キマイラに襲われて仲間や恋人が死んだこと以外は何も覚えていなかった。

 身分を証明する物はキマイラとの戦闘で失い、異国の地ということもあって身元不明扱いに。

 怪我が回復してからはその町で厄介になり、動物や魔物を狩ったり盗賊を退治したり行商人の護衛をしたりして七年が経ったある日、唐突に記憶が戻った。

 すぐに帰りたかったけど身分証のこと以外にも色々あってそうはいかず、二月ほど掛けて準備を整えて帰路へ着いた。

 つい先日ワンダール王国に入ってから、急に帰ったら悪いだろうと思ってこの手紙を出した。

 もうすぐそっちへ帰るから、その時はよろしく。



 *****



 とまあ、そういった内容が分かりにくい文章で書かれていた。しかも字が汚くて読みづらい。

 だけど叔母からの手紙にセリカは笑って涙してるから、黙って目元を拭ってやる。


「ありがとうございます、旦那様」

「気にするな」


 それにしても、キマイラに襲われて仲間が全滅しながらも生き延びたのに、記憶を失っていたなんて運が良いのか悪いのか。

 生きていたんだから運が良いと思えるけど、この場合は仲間や恋人が死んだから運が悪かったのかな。


「なんにしても、生きていたのならそれでいいわ。帰ってきたら、暖かく迎えてあげましょう」

「はい!」

「シオンも、義理とはいえ叔母になるからよろしくね」

「分かっています」


 しかし叔母さんか。外見はどんな人なんだ?

 やっぱり義母上に似ているのかな? ……大きさとか。


「驚くでしょうね、あの子。七年ぶりに帰ってきたら、故郷がこんなことになっているんだもの」

「私が旦那様を迎えていることにも、驚くでしょうね」


 七年もの歳月が流れているんだもんな、変わっているのは当然だ。

 とはいえ、開拓作業に関しては想定外も想定外だろうな。


「さてと、いつ帰ってくるか分からないけど、あの子を迎える準備をしておきましょう。シオンは仕事に戻って、セリカはユリスと一緒に物置になっているあの子の部屋の掃除をお願い」

「「はい」」

「私はちょっとこの事を伝えに行ってくるから、しばらく席を外すわ。手紙は机の上にでも置いといて」


 そう言い残して部屋を出ていく義母上を見送る。伝えに行くって誰にだろう。


「きっとお祖父様とお祖母様、それとお父様に伝えに行ったんでしょうね」


 あっ、なるほどね。確かに伝えなくちゃいけない相手だ。

 ということは、墓前へ報告に行ったんだな。


「さあ旦那様、お母様に言われた通りにしましょう」

「そうだな。でももう一つ、気を利かせておくか」

「ええ。村や集落への連絡の手配は、私の方でやっておきます」


 さすがはセリカ、分かってるな。



 *****



 父様と母様と旦那が、ご先祖様達と共に眠る墓前に立って両手を合わせる。


「今日は皆へ、報告したいことがあるの」


 死んだと思っていたユリーカから、手紙が届いたの。

 本当よ? あの子、生きていたのよ。

 記憶を失って私達や故郷のことを忘れちゃったのに、見知らぬ土地で一生懸命に生きて、やっと思い出してもうすぐ帰ってくるの。

 父様は死に際に、あの親不孝者に会ってくるって言っていたけど、向こうにはいなかったから驚いたでしょ? 私も手紙を読んだ時は驚いたわ。


「親不孝者じゃなかったんだし、許してくれるわよね?」


 だってあの子、親不孝してなかったんだもの。

 生きていたのよ? 親より先に死んでなかったんだから、親不孝者じゃないわよね? 母様もそう思うでしょ?

 母様は向こうでユリーカに会ったら、思いっきり説教するんだって言っていたけど、向こうにいなかったんだからお説教できなかったでしょ。

 そのお説教は心配を掛けた罰として私がちゃんとやっておくから、向こうで見ていてね。


「ねえあなた。あなたが死んだあと、もう身内はセリカしかいなくなっちゃったのに、どんどん増えていくわね」


 夫であるあなたが死んでから、たった一人の身内になったセリカと二人、頑張って生きてきたわ。

 色々大変だったけど、そこにシオン君があなたと同じくお婿さんとしてやってきて、とんでもないことをやらかしたのは前に伝えたわよね。

 そのお陰でユリスちゃんとトウカちゃんって子が、妾っていう関係だから正確には家族じゃないけどうちに来てくれて、そして今回ユリーカが生きていて帰ってくる。


「二人っきりにさせちゃってごめんって、謝りながら逝っちゃったけど、これからうちは賑やかになっていくわよ」


 生きていたユリーカに、いずれはセリカやユリスやトウカに子供が生まれるし、ひょっとしたらまたお妾さんかお嫁さんを押し付けられちゃうかもしれない。

 それが貴族というものだから仕方ないことだし、入り婿にそういう相手が増えるのは正直言って複雑だけど、家族と呼べる存在が増えるのは嬉しいわ。


「もう寂しくなんかないわよ。というか、そんな暇がないほど忙しくなっていくわ」


 寂しがっている暇があったら、一枚でも多く書類を処理しないといけないもの。

 できることなら忙しくとも楽しいこの日々を、あなたや父様や母様と一緒に過ごしたかったわ。

 皆の分は私がしっかり楽しんで働いて、いずれそっちへ行ったらゆっくり話すわね。


「まっ、まだまだそっちに行くつもりは無いけどね」


 シオンは次期当主としても次期領主としてもまだまだ未熟だし、せめて孫が生まれて成人するくらいまでは生きていたいもの。できることなら、曽孫の顔も見たいわね。

 そういうわけで、私は当分そっちへ行く気は無いからよろしく。


「さてと、そろそろ仕事に戻るわね。次に来る時はユリーカとセリカ、それにシオンとユリスとトウカも連れて来るから」

『――』


 立ち去ろうとしたら、誰かに何か言われたような気がした。何かしら報告に来ると、いつもこんな感じがするのよね。

 分かってるわよ、あなたでしょ。あなたはそういう魔法を授かって、死の間際にそれを使っていたものね。


「あまり余計なことしない方がいいわよ。でないと残した力、一気に使い果たしちゃうわよ」

『――』


 もう、言ったそばからまた。でも、無茶しがちだったあなたらしいわね。


「死んじゃった以上は、その魔法で干渉できるのは一回きりなんでしょう? 余計なことは控えてよね」


 でないと、一回きりを使った時の干渉時間が大きく減っちゃうんだから。

 その一回をいつ使うかはあなた次第だけど、ちゃんと考えて使うのよ。たった一回きりじゃ、後悔できないんだから。


「じゃあね、また来るわ」


 そう言い残して、今度こそ墓前から立ち去る。さてと、頑張って仕事しましょうか。



 *****



 ユリーカって人からの手紙が届いて六日が経過した。

 あれ以降の連絡は無く、義母上とセリカだけでなくトルシェさんやサラさんも、まだかまだかと帰りを待ち侘びている。

 領民達にも話は広まっていて、生きていてよかったとか、いつ帰ってくるのかって話で持ち切りだ。

 だけど日々の仕事は待ってくれず、生活のためや領地開拓のために仕事をこなす。

 今日は開拓地へセリカとトウカを伴って出向き、その一角で行われている実験の視察をしている。

 実験っていうのは、伐採によって失った木々を土壌改善した土によって素早く再生できないかというもので、提案者であり実験の責任者を務めるケルムさんが植えた苗木の状態を観察中だ。


「わふぅ! やっぱり通常より成長が早いです! 生き生きとして元気そうですし、これなら成長しきるまで三年くらいで十分そうです!」


 経過は上々のようで、サミーのお陰で汚れどころか皺一つない白衣とサラサラになった髪をはためかせ、ピョンピョン飛び跳ねながら尻尾をブンブン振っている。

 開拓や生活に木材は必要不可欠だけど、失い過ぎてもいけない。伐採したらその分、再生させることを考えないといずれ生活が破綻するし、自然災害が発生しやすくなってしまう。

 そんなケルムさんの主張を義母上が理解したことから、この実験は承諾された。


「きゃふ~ん! やっぱりシオン様の作った肥料や土は、他の調理魔法の使い手が作ったものとは一味違いますね。今度の学会での発表が、楽しみです。あおぉぉん!」


 吠えるな吠えるな。


「成長を早め、品質を向上させ、野菜の微弱な毒は成熟した頃には消えてしまう。本当にもう凄すぎますよ、この肥料や土に宿る混合魔力は。うおぉぉぉんっ!」


 だから吠えるなって。


「今日もケルムさんは絶好調ッスね」

「その絶好調も、サミーさんがいてこそですけどね」


 まったくだ。もしもサミーがいなかったら、今頃ケルムさんはどうなっていたことか。


「くぅ~ん! この肥料と土の作り方なら、植物が育ちにくい荒野すら緑豊かにできる可能性があります! もっと、もっと実験して研究しないと!」


 そこまで研究に没頭できるのもまた、サミーがいてくれているお陰だ。

 これは本格的に二人をくっ付けてやるべきだな。でないとケルムさんがどうなるか分からないし、サミーが駄目人間を量産してしまう恐れがある。

 それからひとしきり騒いだケルムさんが落ち着いたら、開拓の様子を視察していく。


「おいおい、なんだいこりゃっ!? 一体何が起きてるんだよ!?」


 うおっ、なんだこの大声。思わず振り向くと、そこには一人の女性がいた。


「えっ? 義母上? いやでも、違う?」


 義母上かと思いきや、よく見ると違う。

 長い髪や圧倒的存在感を放つ胸や顔つきは似ているけど、髪はボサボサで所々がピンピンに跳ねてるし、目がツリ目で気が強そうだし、前を開けたコートみたいなのを羽織って剣を腰に差したパンツ姿の服装もそうだ。それにさっき聞こえた声も、義母上のものじゃなかったし。

 おまけに猫っぽい耳と尻尾が生えている、黄色い髪の女の子と手を繋いでいる。


「あれは……まさかっ!」


 スカートを少し持ち上げ、満面の笑みでセリカが駆け出す。

 存在感抜群の胸がプルンプルン揺れる光景は眼福だ。


「ユリーカ叔母様!」


 えっ、あの人がユリーカ叔母さん? どうりで義母上と似ているわけだ。


「叔母様? ってことは……セリカかっ!? お前、セリカかっ!」

「はい! 叔母様、お帰りなさいませ!」


 駆け寄る勢いそのままに抱き着くセリカを、幼い子から手を放したユリーカさんが受け止めた。

 まさしく感動の再会だな。邪魔しない方がいいけど、挨拶をしたいから黙って歩み寄る。


「本当に、本当に生きておられたのですね」

「何言ってんだい、手紙ちゃんと届いただろ? 見ての通り、ピンピンさ」


 ニシシと笑う表情は義母上と似ているようで違う。なんというか、悪戯が成功した子供のようだ。


「しっかしデカくなったなぁ。ちょっと見ないうちに、随分と成長したじゃないか」

「ちょっとって、もう七年も経っているのですよ」

「ハッハッハッ、そりゃそうか。どうりでデカくなったわけだ、背丈だけでなくこっちもな」


 悪戯が成功した笑みそのままに抱擁を解き、セリカの存在感抜群な胸をツンツンする。

 おいこら、それは俺のだぞ。あと、やや前のめりになったことでで義母上に匹敵する胸がたゆんと揺れたのは、ありがとうございます。


「ちょっ、やめてください叔母様!」

「ハッハッハッ、わりぃわりぃ」


 両腕で胸を守って下がるセリカに、全く悪いと思っていない様子で笑いながら謝る。

 なるほど、こういう性格の人か。変に腹の内が読めない貴族連中に囲まれて育ったから、こういう人はむしろ好感が持てる。


「失礼、ちょっとよろしいですか?」

「あん? 誰だ坊主」


 坊主なんて呼ばれるのは初めてだ。


「ユリーカ叔母様、この方は私の旦那様です」

「はぁっ!? セリカの旦那だぁっ!?」


 驚いた拍子にブルンと揺れてたゆたゆと余韻を残している。うん、良い光景だ。


「はい。バーナード家へ婿入りしました、シオンと申します」

「はぁ~、セリカが婿を貰っているとはね。そういえばもう成人して十四なんだっけな。旦那がいてもおかしくねぇか」


 参った様子で頭を掻きつつも、品定めするようにジロジロ見てくる。

 あまり気分のいい視線じゃないけど、身内ならそういう目を向けるのも仕方ない。


「おいこら、アタシの可愛い姪を泣かせてねぇだろうな?」

「はい、勿論です」


 泣かせてはいないけど、ベッドの上では鳴かせています。


「本当ですよ、ユリーカ叔母様。シオン様はとっっっっても素敵な旦那様なんです!」


 そう言ってかわいとおしい笑みで抱き着いてきたから、存在感抜群の胸がぐんにゅううぅぅと押し付けられて実に幸せです、ありがとうございます。


「おいおい、セリカが女の顔全開じゃねぇか。やるなテメェ」

「それほどでもありませんよ」


 ニヤリとするユリーカさんへ、笑って返す。

 というか、こんなかわいとおしい極愛の妻を泣かせるとか、そんなことするはずがないじゃないか。ああでも、嬉し泣きと泣き笑いは対象外であってくれると助かります。


「ねぇ……。この人達、誰?」


 おっと、連れてえいる子のことをすっかり忘れてた。

 ユリーカさんのコートをくいくい引っ張るその獣人族の子は、黄色と黒の縞模様をした毛に覆われた耳と尻尾に加え、牙っぽい八重歯もあるから虎の獣人族か。

 クリッとした丸い目をしていて、可愛らしい子だ。


「ああ、わりぃわりぃ。こいつらはお前の姉ちゃんと兄ちゃんだ」


 姉ちゃん? 兄ちゃん? どういうことだ?


「紹介するぜ。この子は死んだ恋人の間にできていた愛娘、ミィカだ!」


 えっ? 娘? ということはこのミィカとやらは、俺とセリカにとっての従妹?


「お、叔母様、お子さんがいたんですかっ!?」

「おう! どうやら仕事前に恋人とヤッた時に出来たみたいでな。記憶喪失中に腹にいるのが分かったから産んで育てたぜ」


 いや、そういうぶっちゃけ話は結構です。後で義母上がいる時にお願いします。


「聞いてませんよ!」

「ありゃ? 手紙に書き忘れたか?」

「書いてませんでした!」

「そうだったか。ハッハッハッ、わりぃわりぃ」


 豪快と言うべきか適当と言うべきか、判断に困る人だな、このユリーカさんって。


「お兄ちゃん……お姉ちゃん……!」


 そんでもってミィカちゃんからは、なんかキラキラした視線を浴びている。

 いいやもう、とりあえずトウカを走らせて、ユリーカさんが帰ってきたことを義母上に報せよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ