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通過儀礼


 コーギー侯爵家からやってきた、新たな妾であり武官のトウカ。

 屋敷へ連れて来た彼女をセリカとユリスへ紹介するため、二人が仕事をしている第二執務室へ向かう。


「も、もうすぐ奥様と対面なんッスね」


 緊張気味のせいで表情が少し硬い。


「あまり心配するな。二人とも心が広いから、多少の粗相は笑って済ませてくれるさ」

「そ、そうッスか。でも、不安なものは不安なんッスよ」

「自分らしく挨拶をすれば、そう悪いようにはしないって」


 屋敷に着くまで話していたけど、喋っている様子からは欲望や悪意といったものは見られず、猫を被っているようにも見えない。

 かつてはそういったのを持つ連中に絡まれていたから、そういうのがなんとなく分かる。

 そういった経験から読み取れるトウカの性格は、明るくて明け透けがなく、嘘とか腹芸とか企みといった類が苦手な感じだ。こういう人は変に気取ったりカッコつけたりせず、自分らしく接した方がセリカとユリスには受け入れられやすいと思う。

 本当に好感を得られるかは分からないけど、少なくとも第一印象が最悪になることは無いんじゃないかな。


「分かったッス。自分らしく接してみるッス」


 うん、その意気だ。頑張れよ。

 表情から少し硬さが取れたトウカを心の中で応援していたら、目的の第二執務室へ到着した。


「じゃ、行くぞ」

「は、はいッス」


 またちょっと表情が硬くなったものの、このまま行っちゃえと扉を開く。


「戻ったぞ」

「旦那様、おかえりなさいませ」


 扉を開けて中へ入ると、仕事の手を止めたセリカが笑みを浮かべて迎えてくれた。

 うん、何度見てもかわいとおしい。さすがは我が極愛の妻。


「ただいまセリカ。留守中は大事なかったか?」

「はい。何事もありませんでした」


 俺も自然と表情を緩ませながら、軽い抱擁を交わして額へ唇を落としてやる。


「またお二人は人前でそんな……」


 呆れた表情のユリスも仕事の手を止め、こっちへやって来た。

 額が赤くなっているから、またぶつけたか転んだかしたのかな。


「お、お疲れさまです」

「「お疲れさまです」」


 同じ部屋で仕事をしているブレイドさん達も席を立って挨拶してきたけど、なんでそんなにソワソワして視線を逸らしてるんだろう。


「それで、そちらで固まっていらっしゃる鬼族の方はどなたですか?」


 うん? 固まってる?

 抱擁を解いて後ろを振り向くと、真っ赤になったトウカがはわはわ言いながら固まっていた。

 どうしたんだ? 緊張してるにしても、反応がちょっと変だぞ。


「まあ、いきなりあんな場面を見せられたら戸惑うか」

「初心な反応をする方ですね」

「見た目は気が強そうなのに」


 顔を寄せ合ったブレイドさん達がこそこそ喋ってるけど、小声でよく聞こえない。


「あの、大丈夫ですか?」

「は、はい! 大丈夫ッス!」


 おっと、セリカに声を掛けられて復活したか。なら、このまま紹介に移ろう。


「トウカ、紹介する。こっちが妻のセリカで、こっちがお前の先に入ったユリスだ」


 二人をトウカへ紹介すると、セリカとユリスは佇まいを直す。


「妻のセリカ・バーナードです」

「シオン様にお仕えしています、ユリスと申します」


 スカートの裾を摘まんで会釈するユリスに対し、立場が上のセリカは笑みを浮かべて自己紹介をするだけ。

 如何にユリスとトウカがそれぞれ辺境伯家と侯爵家の血を引いているとはいえ、庶子や庶子の娘である以上、正式な貴族の一員であるセリカの方が上だから頭を下げる必要はない。


「こっちは今日到着したトウカだ。代々コーギー侯爵家に仕えている武の家臣の一員で、外出時の警護をしてくれるそうだ」

「押忍! 紹介に与りました、トウカッス! 新参者なので、色々とご指導いただきたいッス!」


 俺との初対面の時と同じ、足を肩幅に開いて背筋を伸ばし、サラシで押さえてるだけで実は大きいというほんのり主張した胸を張り、後ろ手を組んで挨拶する。

 声の大きさに尻尾を振りながらトウカを見ていたロイとマルコが驚き、小さく飛び跳ねると我先に部屋の隅へ逃げ、こっちを見ていたブレイドさん達もビクッと驚いた。それに対してセリカとユリスは驚く素振りを見せず、笑みを絶やさずにいる。


「まあ、元気の良い方ですね」

「これから協力して、ご主人様を支えていきましょう」

「は、はいッス!」


 とりあえず第一印象は悪くなかったようだ。

 トウカの性格からして二人が嫌うことはないだろうけど、どうか仲良くやってほしい。

 その後、屋敷の案内がてら女同士で話し合うと言うのでセリカとユリスに後を任せ、三人とロイとマルコが部屋を出たのを見届けたら書類仕事に取り掛かる。

 しばらくして戻って来たセリカ達は和気藹々としていて、なんだか微笑ましい。


「随分と仲良くなったな」

「ええ。表裏の無いさっぱりした方で、とてもお話がしやすかったです」


 ユリスからブレイドさん達を紹介されているトウカを見つつ、自然な動きで俺の隣へ座ったセリカへ小声で尋ねると、かわいとおしい笑みで同じく小声でそう返してきた。


「俺も話していてそう思った」

「明るい方ですから、楽しくなりそうですね」

「それもあるな」


 明るい人が近くにいれば、それだけで職場や屋敷が明るくなる。

 考えてみればそういう性格の人がいなかっただけでに、そういう意味でもトウカが来たのは大きいかもしれない。


「だけど俺の中での一番がセリカなのは変わらないから、安心しろよ」

「へぅっ!? も、もう旦那様、不意打ちはやめてくださいよ」


 とか言いながらもデレデレ笑顔で頬を押さえ、体をくねらせて照れる様子は正にかわいとおしい極愛の妻。

 そんなのを見せられたら、もう抱き寄せるしかないじゃないか。というかもう抱き寄せる、決定、異議も異論も許さない。


「じゃあ、さらなる不意打ちを仕掛けたら?」


 肩に手を回して抱き寄せ、寄り添わせる。


「きゃっ!? もう旦那様ったら」


 驚きはしたものの頬を染めて笑みを浮かべてるから、嫌という訳じゃないんだろう。それどころか、肩に頭を預けてきたよ。

 これはこのまま愛でていいということだな、そう判断するぞ。

 という訳で抱き寄せた手で、そのまま頭を撫でてやる。


「んふふ~。すんすん」


 撫でられて上機嫌に擦り寄りつつも、しっかり匂いを嗅いでいるとはさすがだ。

 ついでに身をよじったから、存在感抜群の胸がポヨンと当たっている。


「ご覧くださいトウカさん。ご主人様と奥様にとって、あれは先ほどのやり取り同様、人前であろうとも自然にできてしまうことなのです」

「はわわわ。凄いッス、あれはやれと言われても出来ないッス。あれを自分達の前で見せられてたら、変な気になっちゃいそうッス」

「それだけじゃないですよ。奥様とああしている影響か、ご主人様は私達まで甘えさせようとしますからね」

「マジッスか!?」


 ユリスとトウカはコソコソと何を話しているんだろう。

 しかもトウカはなんか赤くなってるし、旅の疲れでも出たのか? おまけにブレイドさん達は、恥ずかしそうに俯いてるし。


「皆様、お飲み物を用意しますが紅茶とコーヒー、どちらがよろしいでしょうか?」

「俺は紅茶だ」

「私も紅茶をお願い」

「「「コーヒーください。砂糖とミルクは無しで」」」

「自分は紅茶でいいッス。苦いの苦手なんッス」

「承知しまし、ひゃわっ!?」


 注文を受けたユリスは尻尾を振るロイとマルコを連れ、紅茶とコーヒーを取りに行こうとして転んだ。


「だからぁ、なんで毎回オデコ打つのよぅ……」


 ロイとマルコから心配そうに鳴かれつつ、額を押さえたユリスが退室する。

 それにしても最近ブレイドさん達は、何故かコーヒーを頼むことが多くなったな。しかも砂糖やミルクも無しだなんて、相当苦いはずなのにどうしてだろう。

 そうだ、この領地ではコーヒーの生産はしていなかったから、フミャー商会に頼んで種か苗を入手して開拓地の一部で栽培することを提案しよう。土壌改善した畑で育てれば、苦くないコーヒーができるかもしれない。

 なんでコーヒーを飲むことが多くなったのかは知らないけど、どうせ飲むなら苦いより苦くない方がいいもんな。


「ご主人様と奥様は仲が良いんッスね」


 開いている席に座り、両腕で頬杖をついたトウカが呟く。


「そうです。私と旦那様はとても仲が良いんです」


 仲の良さをアピールするように腕に絡みついてきたから、ポヨン程度だった接触がボヨヨンになった。相変わらず実に素晴らしい柔らかさだ。


「貴族なのに珍しいッスね」

「運命のお導き、という奴でしょうね。きゃっ」


 自分で言っておきながら照れているセリカが、あまりにかわいとおし過ぎて困る。

 そんなに体をくねらせるから、ボヨヨンの接触がボヨンボヨンに変化して弾む弾む。


「……よく平然と、そういうこと言えるッスね」

「だってこんな素敵な旦那様、望んで得られるものじゃないんですから、そうとしか思えませんよ」

「同感だ。こんな素敵な妻、いくら金を積もうが得られるものじゃない。というか金で得ようとする行為自体がセリカに失礼だ」

「へうぅ……。旦那様、照れるじゃないですか……でへへ」


 とか言いながら喜ぶ様子がかわいとおしい。

 しかしどうして、ブレイドさんは口を押えて前のめりになって、リックは両手で顔を覆って俯いて、ユーナは頭をガシガシと掻いているんだろうか。


「わー、なんか自分、ここでの生活に一抹の不安が生じたッス」


 なんでだよ。そしてなんでブレイドさん達は、同意するようにうんうん頷いているんだ。

 その後、飲み物を運んできたユリスからコーヒーを受け取ったブレイドさん達は一気飲みすると、すぐにおかわりを要求。ユリスはそれが分かっていたかのように、すぐさまおかわりを注いだ。コーヒーって、そんなにがぶ飲みするものじゃないと思うけど。


「うわっ、なんッスかこの紅茶!? これ本当に紅茶ッスか!?」


 一方でトウカは、土壌改善で味が向上した紅茶に驚いてくれた。

 紅茶でこの反応なら、作物で作った料理を食べたらどんな反応をするか、今から見るのが楽しみだ。

 そう思いつつセリカと寄り添いながら紅茶を飲んでいると、ユーリがユリスへ話しかける声が耳に届いた。


「ユリスさんは飲まないんですか? コーヒー」

「さきほど厨房で塩を一摘まみ口に含んだので、大丈夫です」


 何故に塩?



 *****



 夕方が近くなってきた頃、コーギー侯爵が手配してくれた文官達を連れた義母上が帰ってきた。

 ちょうど書類仕事が終わったから、彼らへこの領地についてと仕事に関する説明をして、元々の職場での話を少し聞いた。

 それによると、彼らは種族や平民出身であることや実家の爵位が低いことから理不尽な冷遇を受け、閑職に就かされたり雑用ばかりさせられたりしていたらしい。そんな時にコーギー侯爵からここで働くことを打診されたそうだ。


「こんな辺境へ来るのは、不安じゃなかったか?」

「不安と言えば不安でしたが、もうあんな職場にはいたくありません」

「こっちには同族が多くいると聞いたので、そこは心強かったです」


 種族的な点はともかく、どんな職場だったんだろう。


「昇進したければ愛人になれなんて言う、碌に仕事も出来ない無能な馬鹿上司の下から逃げるには、ちょうどいいと思いまして」

「生まれが僻地の農村だったからか、都会が肌に合わないなと思っていまして。理不尽な指示ばかり出す上司との人間関係にも疲れてきたので、誘いを受けました」


 理由は人それぞれとはいえ、本当にどんな職場だったんだよ。

 そういえばケルムさんも、前の職場で彼らと似たような境遇だったから、話を受けてっこっちへ来たんだよな。


「なんにしても、こっちへ来た以上はうちでしっかり働いてもらうわよ。知っての通り、うちは文官がいないに等しい状況だから、ちゃんと働けば相応の待遇を用意してうちで迎えるからね」

『はい!』


 彼らの給料は当面の間、開拓支援団の一員扱いとしてコーギー侯爵家が支払うけど、開拓が終わった後はうちが雇い入れて給料を支払うことになっている。

 それまでに相応の収入を確保する必要はあるものの、それを出来るとコーギー侯爵家が見込んでくれたから、そういう条件で彼らを送ってくれたんだから頑張らないと。

 しかし、誰も彼もやる気に満ちてるな。婿入り先の領地をこう言うのはちょっと憚れるけど、普通は王都からこんな辺境へ移るとなったら、左遷されたような気になるものなのに。


「頑張ろうな」

「ええ。王城で文官といっても、所詮はその他大勢だものね」

「こっちは上手くいけば、家臣になって領地運営に深く関われるんだからな」

「そうなれば、いずれできる子供にも仕事を用意してやれるぜ」

「家臣になれなかったとしても、それなりの立場には就けるはずだしな」

「レトリバー辺境伯様とコーギー侯爵様が期待している領地だ、絶対にそうしてやろうぜ」


 なるほど、やる気の原因はそこか。

 いくら王城で文官として働いていたとはいっても、所詮はその他大勢の中の一人にすぎない末端も末端。

 対するこちらは辺境の小領とはいえ、辺境伯と侯爵から期待されている地。しかも家臣どころか文官も武官もいない状態だから、しっかり働けば家臣になれる可能性がある。仮に家臣になれずとも、文官として高い地位に就いて領地運営に深く関われる。

 同じ雇われでもその他大勢の一員に比べれば、辺境の士爵家とはいえ家臣に取りたてられたら、半ば一国一城の主のようなもの。

 冷遇されていた職場での昇進を狙うよりは、栄達の可能性があるってわけか。

 なんであれ、やる気があるなら大歓迎だ。


「早速だけど、明日からバリバリ働いてもらうわよ。コーギー侯爵家の開拓支援団が到着したから、他の村や集落の開拓も順次進めていくんだからね」

『はい!』

「でもその前に、トウカも含めて歓迎会を開きましょうか。ブレイド達も参加しなさい、あなた達の歓迎会はまだしていなかったからね」

「「「ありがとうございます!」」」


 そういえばサミーが厨房で、トルシェさんとサラさんに手伝ってもらいながら忙しそうにしてたっけ。

 あれは歓迎会の準備をしていたのか。

 早速場所をリビングへ移すと、既に料理と飲み物の準備が進められていた。 


「うん? なんでケルムがいるんだ?」


 料理を並べるトルシェさんと一緒に、ケルムさんが喜々とした様子で椅子を端に寄せている。


「帰って来る途中で会ったのよ。学会参加について伝えることがあるし、向こうも研究の報告をしに来るところだったから誘ったの。そしたら普段お世話になっているから、ああして手伝いを買って出てくれたの」


 なるほど、そういうことか。

 学会参加について伝えることって、コーギー侯爵家の開拓支援団から何か連絡を受けたのかな。

 だけどそれ以上に、手伝いを買って出たってことがなによりだ。だってそれは、サミーの世話によって駄目人間と化していないってことだから。


「今日は立食形式だから、好きに飲んで食べてちょうだい。あまり豪勢な内容じゃないけど、楽しんでね」


 テーブルに並ぶ料理は野菜が中心で、肉料理や魚料理は数品しかない。

 だけどそれでいい。この領地はこれから、この野菜で盛り立てていくんだから。トウカや文官達には、この味をしっかり堪能してもらわないと。きっと食べたら驚くぞ。

 それから手伝いをしていたケルムさんも加わり、各々が自己紹介したら思い思いの飲み物を手にし、義母上の乾杯で歓迎会が始まった。


「美味っ!?」

「なんだこの野菜!?」

「きゃう~ん。何度食べても美味しいです」

「ヤバいッス、美味すぎるッスよ! 話には聞いていたけど、こんなに美味い野菜が採れるッスか!?」


 予想通り、全員が野菜の美味さに驚いて酒もそこそこに料理を口にしている。

 冒険者が取ってきた肉や、竜人族が空を飛んで運んできた採れたての魚も美味いけど、やっぱり野菜類が一番美味い。

 部屋の隅で餌を食べてるロイとマルコも、嬉しそうに尻尾を大きく振っている。


「これが話に聞いた、調理魔法で土壌改善した田畑で採れた作物か」

「この味なら、辺境伯様や侯爵様が期待するのも分かるわね」

「うぅぅ。この地に住んでいる同族達が羨ましいわ」


 誰も彼もがこの味に喜んでいて、特にエルフの女性はこの領地に住んでいるエルフを羨んでいる。エルフは野菜好きが多いから、その反応も納得だ。


「この味つけはなんだろう?」

「美味くて香ばしいけど、食べたことないぞ」

「これはミソとショウユッス! 鬼族独特の調味料ッス! うおっ、米を使った酒もあるじゃないッスか! 成人祝いに父上から一杯だけ貰って以来ッス!」


 そうそう、その酒も美味いよな。

 果実酒も良いけど、米を作った酒も甲乙つけ難い。しかも甘口と辛口、それぞれがそれぞれに良さがある。


「わっ! これ酸っぱいけどさっぱりして美味しい!」


 野菜の酢漬けを食った一人が驚いている。


「それは酢だ。米を使った酒造りに失敗して偶然出来た、酸味の強い調味料だ」

「こんな調味料もあるのか。紅茶も美味しいし、なんて土地だよ」


 そうだろうそうだろう、ここは良い土地になっていくぞ。

 分かったら、明日からしっかり働いてくれよ。


「料理の追加、持ってきました」

「うおっ! スゲェ良い匂いだ!」


 サミーが追加で持って来たのは、米の酒を造った時に出たサケカスっていうのに肉や魚を漬け込んだ、カスヅケっていうのを焼いたものだ。

 生の状態や塩に漬けたものを焼いたのとは、また違った風味と味がして美味いんだよな。


「うはっ、カスヅケじゃないッスか! 父上でも滅多に食べられないものが食べられるなんて、嬉しいッス!」


 カスヅケを知っていたトウカが、皿がテーブルに置かれると同時に肉を取って口にした。


「んは~、最高ッス! 匂いを嗅いだことがあるだけで食べたことは無いッスけど、こんなに美味いんッスね!」


 そんなに美味そうに食っている姿を見ていたら、食べたことがある料理でも美味そうに感じるじゃないか。

 駄目だ、俺も魚のカスヅケを貰おう。くう、美味い。


「やるッスね、サミーちゃん。こんなに美味しい物を作れるなんて、良いお嫁さんになれるッスよ!」

「あっ、自己紹介の時に言い忘れてましたね。僕、男です」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

「マジッスか!? こんなに可愛いのに、男なんッスか!?」


 いるんだよ、現実に目の前に。


「わっふぅ~ん。そうなんですよ。しかも料理だけじゃなくて、掃除も洗濯も完璧なんです」

「どうして男のなのかが不思議ッス! 本当に女じゃないんッスか!?」


 そうなんだよ、サミーはまごうことなく男なんだよ。親友の俺でさえたまに性別を勘違いしそうになるけど、間違いなく男なんだよ。


「でゅへへ~、旦那しゃま~」


 おっと、久々の酔っ払いセリカの誕生だ。

 真っ赤な顔に蕩けた笑みを浮かべ、酒を片手に引っ付いてきた。お陰で存在感抜群の胸がボヨンボヨンと押し付けられて、バインバインと弾んでいて素晴らしいじゃないか。


「にゅへへへ~、旦那しゃま~、ちゅー」


 痕でもつける勢いで頬を吸われている。しかも一回だけでなく、二回三回と。


「こら、痕が残るだろ」

「でへへ~、マーキングれしゅ~」


 全く悪びれもせず、蕩けた笑みで手にしている酒を飲み干したセリカが、かわいとおしくないはずがない。


「だったら俺もマーキングしないとな。いいか?」

「は~い、どうじょ~。ん~」


 そこで頬や額じゃなくて唇を突き出す辺り、さすがは酔っ払いセリカだ。ならばそれに応えるのが、夫の務めというもの。

 遠慮なく唇を重ねたら、空のグラスを持ったままの腕でもしがみついてきた。

 そのまましばし唇を重ねて離れたら、蕩けた笑みの頬にグラスを持っていない方の手を添えて、くねくねと体を揺らして照れだした。


「にゅへへへ~」


 照れる様子はかわいとおしく、体の揺れに合わせてたゆんたゆん揺れる胸は素晴らしい。


「ひゃわわわわっ」


 なんだトウカ、そんなに真っ赤になって。もう酔ったのか?

 文官達はこっちに注目してるし、ブレイドさん達はテーブルに手を置いて俯いてるし、ユリスとサミーは表情が引きつってるし、トルシェさんとサラさんは温かい笑みを浮かべてるし、義母上は圧倒的存在感の胸をバルンバルン揺らしながらグラス片手に大笑いしているし。

 どうしてそんな反応をされるのか、意味が分からない。


「皆様、コーヒーか塩の準備がありますが、どちらにしますか?」

『塩でお願いします』


 義母上以外が一斉に塩を求めた。

 だから、なんで塩なんだよ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 大量に酒粕が手に入るならオヤツは焼き酒粕だな クッキーぽくてイケる、トッピングで色々出来るし
[一言] 私のお気に入りは6倍濃縮のラテベースをショットグラスでいただくことです(もちろん無糖)。
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