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文官確保


 レトリバー辺境伯家からの開発支援団が到着してから、開拓は以前に比べて格段に早く進んでいく。

 人手も資金も増えたから当然と言えるけど、差し入れとして土壌改善で品質向上した野菜を差し入れてから、やたら作業員のモチベーションが高い。

 文官の人達も、老農会の方々が育てた品質向上した紅茶を差し入れたら舌鼓を打ち、買えるのなら買いたいと言い出す始末。商人ギルドを通じれば買えると教えたら、走って買いに行って休憩中に味わっている。

 この調子なら他の村や集落の周辺への開拓も、予定より早く着手できそうな勢いだ。

 だけどそうなると当然、領主である義母上の仕事は増える。そしてそれは次期領主予定の俺と、その妻であるセリカにも波及している。

 今はまだなんとかなっているけど、この調子だと確実に新たな人手が必要になる。


「今はレトリバー辺境伯様の下から来た文官の方々がフォローしてくれているけど、後々のことを考えると、自分達で人を雇って育てる必要があるわね」


 いつまでも他所の人達を頼みにはできないからな。

 そうなると問題は資金と人材発掘なんだけど、まず資金は問題無い。


「作物が売れたことによる収益が入りましたから、今なら人を雇うのも容易ですね!」


 かわいとおしい笑みを浮かべるセリカが言う通り、土壌改善した田畑で育った作物による収益が入った。

 しかも、そこまで大量に出荷したわけじゃないのに、相当な額が入っているから人手を雇うのに、なんら問題は無い。

 ということで、問題は次の人材発掘だ。


「どんな人を雇いますか?」

「現状なら読み書き計算ができれば、それでいいわ。他のことは、じっくり時間を掛けて育てればいいもの。そうなると、年齢も若い方が良いわね」


 確かに、現状なら読み書き計算ができれば優秀であろうがなかろうが関係無いか。

 今は読み書き計算しかできなくとも、育てれば化けるかもしれないし、化けなくとも文官として働くには十分だからな。

 そして育成目的なら、当然若い人材の方が良い。


「ですが義母上、人を雇うとなると執務室が手狭になるのでは?」


 今は三人だからこの執務室で十分だけど、人が増えれば執務室だと手狭になるのは目に見えている。

 だけどさほど大きくないこの屋敷では、大人数を収容できるのはリビングしかない。


「どこかの空き部屋を、第二執務室にしようかしら?」

「いっそドライアドに頼んで、仕事用の住居を建ててもらいますか?」

「屋敷の増築か改築も視野に入れるべきでは?」


 人を雇う話から、思わぬ方向へ飛び火していく。

 それぞれが意見を出して話し合った結果、一時的に空き部屋を第二執務室にして、そこで収容できる人数のうちに屋敷を増築か改築しようということになった。

 そして肝心の雇用者だけど、こういうことはまず領民に対して機会を与えるのを優先にしようということで、まずは領民から立候補者を募ってみることにした。それで駄目なら、レトリバー辺境伯家の開拓支援団の総責任者や、近く支援についての打ち合わせに来るコーギー侯爵家の使者に相談して、人手を紹介してもらうしかない。

 だって、ツテらしいツテがその線しかないんだもの。


「これを機に、もっとツテを作ろうかしら」

「そうしたら人付き合いとか大変ですよ。お茶会や食事会、懇親会とか色々参加することになりますから」

「うわぁ、面倒そうね」

「面倒ですよ、実際」


 まだ期待されていた頃、王都でそういうのに嫌というほど参加させられたから、どれだけ大変で面倒かよく知ってる。

 だからといって、貴族として人付き合いを無視できないのもまた事実。こればかりは貴族の宿命と、諦めて割り切って上手くやっていくしかない。


「なんにしても、まずは領民へ呼び掛けてみましょう。少なくとも村長や長、それと商人の子供なら読み書き計算は学んでいるでしょうから、ある程度は集まるでしょう」


 農家だけでなく、村長や長の子供も余っている所は余っているからな。

 わざわざ領地を出て、あるかも分からない仕事を探しに行くよりは、身近で働ける方が良いだろう。

 というわけで、領地運営や開拓や生活に影響しないよう資金を見積もり、今回は三人ほど雇うことで決定。全ての村や集落へ向け、読み書き計算ができることと成人した若手なのを条件に文官を募集しする旨を報せ、立候補者は期限内に村長や長へ申し出る形にまとめた。


「私が書類仕事をお手伝いしても構わないませんよ?」

「気持ちは嬉しいけど、もうすぐトルシェがいなくなるから、あまり負担をかけたくないのよね」


 仕事の合間の休憩中、紅茶を淹れるユリスからの提案に義母上は難色を示す。

 実は新たにユリスとサミーが加わったこともあり、腰と膝の痛みを理由にトルシェさんが暇を貰いたいと申し出た。

 今はまだ、二人がこの屋敷での仕事に慣れてもらうまで働いてもらっているけど、そう遠くない内に身を引くのは決定している。

 加えてサミーはケルムさんの世話が有るから、ユリスに書類仕事をさせて負担を掛けたくないんだろう。


「とはいえ、いずれはシオンの補佐をしてもらいたから少しだけ頼むわ」

「承知しました。お任せください」


 ということで、負担にならない程度にユリスが手伝ってくれるようになったけど、文官に専念というわけじゃないから、やっぱり専任の文官となる人材が欲しい。


「そういえば、今日はロイとマルコはどうしたの?」


 普段ならユリスの足下にいるのに、今日は見当たらない。


「村の子供達と遊んでいます。村の外には出ないように言いつけたので、ご安心ください」


 そういえばあの二頭、子供達に大人気なんだよな。

 どっちもまだ子犬だから遊びたい盛りだろうし、従属魔法で従えているから言いつけはしっかり守るから、目を離していても安全だ。

 この翌日、全ての村の村長や集落の長へ文官を募集する旨を伝え、住人達に報せるように頼んでおいた。

 結果、期日までに文官になりたいと立候補してきたのは十一人。その人達は屋敷へ招き、どれくらい読み書きができるのかを試験で確認し、面接でそれぞれの事情や家庭環境を考慮した上で三人に絞り込んだ。


「「「よろしくお願いします!」」」

「こちらこそ、よろしくね」


 採用したのは魔族とエルフの少年達とドワーフの少女で、合格を通達された三人は執務室で横一列に並び、義母上とその傍らに立つ俺とセリカへ頭を下げた。

 彼らを連れて来たユリスは、足元でお座りするロイとマルコと一緒に扉の傍で待機している。


「誠心誠意、頑張らせていただきます」


 真面目な表情をする魔族の少年。彼は獣人と魔族を中心とする村の村長の次男ブレイド、年齢は十六歳。

 村長の息子ということで、いざという時に備えた教育は受けていたものの、やっぱりそんなことはそうそう起きるはずもなく、無事に長男に子供が生まれたこともあって今後の事を考えていたところ、今回の話を聞いて立候補したそうだ。


「恩義を返すためにも、一生懸命働きます!」


 ハキハキと喋るエルフの少年。彼はエルフの集落の長の三男リック、年齢は十四歳。

 彼もまたエルフの集落の長の息子で、いざという時に備えて教育を受けていたけどそんなことは起きず、これからどうするかを悩んでいたらしい。

 今回は集落の復興を支援したバーナード家への恩を返すため、立候補したとか。こっちは領主として当然の対応をしただけなんだけど、向こうは恩義を感じているようだ。


「雇ってくれて、本当にありがとうございます、領主様」


 涙を浮かべ、心底嬉しそうに感謝するドワーフの少女。彼女は鬼族とドワーフが中心の村から来た鍛冶職人の次女ユーナ、十三歳。

 手先が器用で物作りが上手なドワーフだけど、彼女は極稀に生まれるという「壊し屋」とのこと。

 「壊し屋」とはどれだけ修行をしても不器用で物作りが上手くなるどころか、逆に物を壊していってしまうドワーフを指していて、厄介者扱いをされるそうだ。

 そんな「壊し屋」のドワーフが行きつくのは冒険者か傭兵か兵士、女なら夜の商売をすることもあるとか。

 戦うのが怖くて夜の商売をするのも不安なユーナは、なんとか別の道を模索するために読み書き計算を始めとした勉強に励み、今回のチャンスに飛びついた。

 彼女がどれだけ頑張ってきたかは、立候補者の中で最優秀だった試験結果が物語っている。


「あなた達は当面の間、研修という形で仕事に慣れてもらうわ。いきなり難しい事はさせないし、分からなかったらなんでも聞いてくれていいからね」

「「「分かりました」」」

「差し当たっては、雇用のための契約書にサインを頂戴」


 人を雇う以上は、雇用契約書で形に残しておくのは大事だ。仕事上のトラブルが生じた際、契約書の有無が焦点になることは少ないくない。

 だから俺達が保管する物とは別に、雇用者が持つ控えにもちゃんとサインを貰う。

 控えの方にはバーナード家の家紋の印が押されているから、何かあった時にうちは無関係という言い分は通用しない。

 書き終わったら回収し、三人がしっかりとサインしたのを確認して義母上へ渡す。


「確かに。皆、控えの方はちゃんと持っていてね。それと、こっちでの住居は大丈夫? 当てが無いのなら、開拓地区の家を使えるよう手配するけど?」


 今回雇った三人は全員ここの村の住人じゃないから、住居の確保が必要だ。

 だからといって、家なんてそう簡単に買ったり建てたりできるものじゃないから、必要とあれば開拓地の家を提供する準備がある。

 こっちが求めて来てくれたんだから、それくらいはしないとな。

 ちなみに家を手配した場合、給料からちょっとばかり家賃として引かせてもらうことは雇用契約書に記載してあるし、本人達にも説明済みだ。


「「「是非、お願いします!」」」


 どうやら当ては無いようだ。

 まあ無理もないか。同じ領内に暮らしていたとはいえ、他所の村に家があるはずがないし、若い彼らに家を買える貯蓄があるはずもないからな。

 ということで、ちょっと距離はあるけど開拓地にある空き家を一軒ずつ彼らへ貸し出して、契約に乗っ取って給料の一部を家賃として引くことになった。


「分かったわ。ただ、家の手配は今日中にやっておくけど住めるのは明日からになっちゃうから、今夜は客間に泊まるといいわ」

「「「いいんですかっ!?」」」

「こっちの都合で家に住めないんだから、いいに決まってるじゃない」


 誰を採用するかは決まるまでは、何軒手配すればいいか分からなかったからな。

 三人全員がここの村の出身者だったかもしれないし、ひょっとしたら何かしら当てがある可能性もあったし。


「あと、今日の夕食と明日の朝食も付けるわよ」

「そ、そこまで領主様のお世話になるわけには」

「こっちの都合で家の手配が遅れるんだから、これくらいは当然よ。気にせず泊まりなさい」

「「「ありがとうございます!」」」


 うん、いい返事だ。

 こうなるのは分かっていたから食材は揃えてあるし、ちょっとだけ酒も用意しておいた。

 全員成人だから、飲めない限りはちょっと酒を入れるくらい構わないだろう。


「さっ、仕事は明日からにして今日はゆっくりするといいわ。ユリス、彼らを客間へ連れて行ってちょうだい」

「承知しました」


 一礼したユリスに連れられ、三人は退室。ロイとマルコも尻尾を振りながら、それに付いて行った。

 その後で義母上は家の手配に向かい、俺とセリカは留守番しながら書類仕事を片付けていく。

 どうしても義母上の判断が必要なものは後回しにして、できるものだけを処理する。


「これなら、私か旦那様が手配に行けば良かったのでは?」

「そうはいかないんだ。雇用者の家は、雇用主本人が自分の名義で手配する必要がある」


 こっちが提供する形で用意する家だから、名義が雇用者の義母上でないと、所有についてのトラブルになりかねない。

 無論、彼らがその家を買い取れるだけの金を用意できれば、名義変更はするけど。


「委任状による代理人でも、駄目なのですか?」

「それは法的に認められていない」


 なんでも昔、上手いこと貴族からの委任状を偽造して代理人を偽った奴が不正に家を入手しては即転売をしては姿を消す、なんて事件が繰り返されたらしくて規制が厳しくなったとか。

 ちなみにそいつは捜査の網に掛かり、無事捕まったそうだ。


「そうなのですか。まだまだ知らないことがありますね」


 そう言って頬杖を突くと、やや前のめりになったから存在感抜群の胸が机にのっしり乗った。

 ふむ、同じのっしりでも組んだ腕に乗るのとはまた違う趣がある。

 組んだ腕に乗ったのは障害物を乗り越えたかのような、せき止められないほど溢れ出る感じなのに対して、机の上に乗ったのは平面に押し付けられて広まっていく感じがある。

 どちらも良いからどっちが良いかなんて決められないけど、これだけは確かだ。

 膝枕状態でそれを顔の上に乗せてください!

 それと悩める表情も、かわいとおしくて最高です!


「旦那様、なにか?」


 おっと、思わず見つめていたか。


「悩むセリカもまた魅力的で、つい見入ってた」


 胸元に目が行っていたのは嘘じゃないけど、それも嘘じゃないから正直に答えた。


「ちょっ、やめてください仕事中に」


 一瞬で耳や首まで真っ赤になったセリカが大きな手振りでワタワタ慌てる。

 うん、やっぱりかわいとおしい。

 しかも座った状態でそんな動きをするから、ふわふわの髪はふわんふわんと揺れて、存在感抜群の胸は右へ左へ上へ下へと縦横無尽にバルンバルンと揺れているから、双方が合わさって実に眼福だ。

 ふう……。書類仕事は止まってるけど、こっちでは良い仕事をした。


「悪い悪い。お詫びはハグでいいか? 前からでも後ろからでも、好きな方でいいぞ」


 両腕を広げていつでも来いと構えると、「へぅっ!?」とか言って動きが止まる。

 急停止するから髪はふわわん、胸はバルルンと大きく揺れた後に余韻でふわふわ、プルプルしてる。


「で、では、膝の上に座らせていただいて、後ろからあすなろ抱きでお願いします」

「よしきた」


 要求を叶えるために椅子を引き、座るためのスペースを作る。

 そこへ緊張した面持ちのセリカがやって来て、おそるおそるといった様子でゆっくり腰を下ろす。

 スカート越しとはいえ、肉付きのいいムッチリした尻は実に柔らかく、その感触を堪能しつつセリカの両肩の上から両腕を回してあすなろ抱きにする。

 前は腰の方へ腕を回したけど、この体勢なら上側の方がいいだろう。ただ、この抱き方だとムッチリの腹やノッシリかつボヨンな胸どころか、プニプニな頬の感触すら堪能できないのが実に残念だ。でもこれがセリカの要望だから仕方ない。

 それにセリカの要求を叶えるためなら、煩悩ぐらい捨ててやる。とはいっても尻が膝の上に乗ってるし、胸元の僅かな隙間からバッチリ谷間が見えているから、完全には捨てきれてないんだけど。


「これでいいか?」

「ひゃ、ひゃい。あっ、いえ、もう一つ、お願いが……」

「なんだ?」

「手を、取らせてください」


 なんだ、そんなことか。


「いいぞ。どっちでも好きな方を取って」

「で、では、失礼して……」


 両手で取ったのは右手。それを顔の傍に持っていって、指や掌に触れながらマジマジと眺めてる。

 何か気になることもでもあるのかと思っていたら、それを頬に当てて頬ずりしだした。


「んふふ~。旦那様の手、暖かいです」


 そうきたかっ!?

 体勢的に顔は見えないけど上機嫌な声だから、きっとかわいとおしい笑顔を浮かべているに違いない。それに関しては記憶の中にあるかわいとおしい笑顔を思い出して補完しつつ、頬ずりされて伝わるプニプニした感触しよう。

 ……うん、実にいい。

 なんかフンフンと手の匂いを嗅いでいるのは気にしないでおこう。


「ん……」

「っ!?」


 今なんか、手首の近くを舐められた!?

 舌先でペロッと程度とはいえ、今のは間違いなく舐められた!


「ふふっ……すーはーすーはー」


 どうして舐めた後で嬉しそうな声を漏らして、また匂いを嗅ぎながら頬ずりするんだろう。

 ……まあいっか、かわいとおしい極愛の妻セリカだから気にしないでおこう。


「ただいま戻りました。彼らの要望でお手洗いの場所も教えてたので遅く……って、なにやってるんですか!?」


 戻ってきたユリスがこっちを見て鋭いツッコミをくれた。


「おかえりユリス、案内ご苦労様」

「いえ、これも仕事ですから……じゃなくて、ご主人様も奥様も仕事中に何をしているのですっ!」


 何をしていると言われても、見ての通りとしか返事のしようがない。


「ななな、なんでもなんいですよ。ちょっっっっと色々あって、見ての通りの状況になっただけですから」


 目に見えて動揺するセリカだけど、俺の手は離さず頬ずりを続けながら、落ち着くためかスハスハと激しく匂いを嗅いでいる。


「まったく要領を得ません! なにがどう色々あって、そんな状況になっているですきゃっ!?」


 思いっきり噛んだ。今となってはお馴染みの光景だけど、やっぱり痛そうだ。

 プルプルと震えながら口を押えて俯いているから、相当痛いんだろう。

 足元にいるロイとマルコも、心配そうにきゅんきゅん鳴いている。


「大丈夫か?」

「らいじょうぶじゃありましぇん! 責任取ってくだしゃい!」


 どんな責任転嫁だそれ。明らかに自爆なのに、理不尽にもほどがある。


「ユリスさんだけ責任取ってもらおうなんて、狡いです! 旦那様、私も責任取ってほしいです!」


 なんのだよ。


「奥しゃま、なんにょ責任を取ってもらうのれすか?」

「えと……私をここまでメロメロにした責任です!」


 絶対に今考えたんだろうけど、そんなことへの責任なら望むところだ。いくらでも取ってやろうじゃないか。


「よし、セリカの責任を取ってやろうじゃないか。だけどもう結婚はしてるし、どう責任を取ろうか」

「いやそれ以前に、今さらそんなことへの責任を求めますか!?」

「理不尽な責任転嫁で責任を求めたユリスさんに、言われたくありません!」


 なんだろうこの状況。かわいとおしい極愛の妻を膝に乗せてあすなろ抱きしながら、手を取られて頬ずりと匂いを嗅がれつつ、妾と責任について言い合うなんて。

 とはいえ、この険悪ムードはよろしくない。


「まあまあ、まずは落ち着け」

「そ、そうですね。クンカクンカ、スーハ―スーハ―」


 どうしてそこで俺の手の匂いを全力で嗅ぐんだ。別に構わないけど。


「ご主人様の言う通りです、落ち着かなくては。というわけで、少々粗相をお許しください」


 うん? 何の粗相をするのかと思いきや、背もたれ越しに背中へ寄り添って肩の上に頭を置かれた。

 ユリスや? 君はそういうことを自分からするタイプだったかな?


「すんすん」


 しかも首筋のところで匂いを嗅ぎだした!?

 地味にくすぐったくて、笑ってしまいそうになるのを堪える。

 というかユリス、お前もそういう趣味があるのか? セリカみたいに、洗濯前の俺の服とか嗅いでるのか!?

 そしてご主人様の真似をして、ロイとマルコが俺の足下で匂いを嗅いでいる。


「ふう……。何故でしょう、ご主人様の匂いを嗅ぐと妙に落ち着きます」

「ですよね。私もちょっとした好奇心で嗅いでから、もうすっかり虜ですよ」


 責任に対する言い合いをしていた様子はどこへやら、同志を見つけたように笑みを浮かべ、頷き合っている。

 俺の体から、一体どんな匂いが発せられているんだろう。ロイとマルコもまだふんふん嗅いで尻尾を振ってるし。


「そうですユリスさん。責任の件ですけど、今夜は二人で旦那様の匂いを存分に堪能させてもらう、というのはどうでしょう」

「それです奥様! 是非、よろしくお願いします!」


 本人の承諾無しに話が進んでいく。まあ別にいいけどさ。


「どうでしょう。いっそのこと、お風呂と夜の営みも一緒にしてお互いに旦那様の匂いを堪能するというのは」

「奥様に一生付いて行きます!」


 こんなことで一生付いて行く宣言していいのか。それとあまり耳元で叫ばないでほしい。

 ロイ、マルコ、きゃんきゃん鳴かなくてもいいよ。君達のご主人様はちょっと暴走しているだけだから。


「そういう訳です、旦那様。今夜は覚悟してください」

「奥様と頑張らせていただきます」

「あっ、はい。分かりました」


 拒否権は無さそうだし、そもそも拒否するつもりは無い。

 だって俺も年頃の男だもん、二人に迫られて拒否するはずがないじゃないか。


「じゃあ、そのためにもさっさと仕事を片付けよう」

「そうですね」

「お手伝いします」


 離れた二人と一緒に迅速かつ丁寧に仕事を片付けていく。

 不純とはいえ気合いが入ったことで、義母上の判断が必要でない書類は次々に片付いていく。

 ロイとマルコは構ってもらえず暇なのか、部屋の隅で大人しくわちゃわちゃ組み合って遊んでいる。


「ただいま~。あら、やけに気合い入れて仕事してるじゃない。どうかしたの?」

「「「ちょっと色々あって」」」


 なんとことやらと首を傾げる義母上の一方、俺達はそのままの勢いで仕事を終わらせた。

 なお、三人での入浴と夜の営みは大変盛り上がった。主にセリカとユリスの方が。

 ただちょっと盛り上がり過ぎたようで、部屋が近かったユーナから翌朝に苦情が出た。ごめんなさい。


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[一言] 妻と妾にはシオンを、雇われた連中には当面は農産物をボーナスにすればモチベの維持は出来そう
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