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親友来訪


 今俺の前では、親友と言い切れる存在であるサミーが笑みを浮かべている。

 サミーの来訪とその過程を聞いて、すぐに宿屋へ向かって呼んでもらい、宿屋の食堂で席を借りて向き合っているのが現状だ。


「話は聞いたぞ、サミー」

「うん。久しぶりだ……ですね、シオン様」

「今は普通の口調でも大丈夫だぞ」


 この場にいるのは俺とサミーの他は、厨房の奥で洗い物をしている宿屋の大将だけだ。

 義母上は早速仕事に取り掛かってるし、セリカはユリスに屋敷の案内をしている。

 だから呼び方や喋り方ぐらい、気にする必要は無い。


「分かったよ、シオン。久しぶりに会えて嬉しいよ」


 頬に手を添えてほがらかに笑う様子は、本当に男なのかと疑いたくなる。でも間違いなく男だ。

 まあ今はそんなこと、正直どうでもいい。

 目の前にいる親友が女々しいのは今に始まったことじゃないし、トーマスも奥さんもその点は諦めていたから、いまさらどうこう言わなくてもいいだろう。

 それよりも、今は聞いておくべきことがある。


「俺も会えて嬉しいぞ、サミー。で、トーマスに黙ってここへ来たんだって?」

「黙ってないよ。ちゃんとここへ行くって、置き手紙してきたもん」


 そういうのを黙って出てきたって言うんだよ。

 第一、許可自体を得られていないって聞いたぞ。

 あとぶりっ子みたいな仕草をして、「もん」とか言うな。分かっていても性別を勘違いしそうになるだろ。


「そもそも、ここへ来るのを反対されたんだろう?」

「そうなんだよ。僕だって来年には成人なのに、まだ早いって言うんだよ? 失礼だと思わないかい?」


 早いっていうのは年齢的なことじゃないと思う。

 料理の腕とか人生経験とか、そういうのを指しているんじゃないかな。

 かつては王宮勤めをしていたトーマスだから、年齢だなんて浅い理由で反対するはずがない。

 いや、まだ成人していない以上は年齢的な早いも含まれているのか?


「向こうは辞めたって、本当か?」

「うん。旦那様、君のお父さんに直談判して暇を貰ってきたよ。お前程度の見習い、いてもいなくても構わないから好きにしろって」


 あの人は……。見習いだからこそ、定着してもらって将来を任せられるように育てるべきなのに、それをいてもいなくても構わないだなんて何を言ってるんだ。

 これが義母上なら、なんとか説得して妥協点を模索してでも思いとどまらせようとするはずだ。

 次代のことも考えなくちゃならない貴族なのに、そんなことも分からないのか。


「ちゃんと辞めてきたのなら、向こうとは問題にはならないと思うけど、トーマスがどう反応するか……」


 辞めずに飛び出して来ちゃったら、うちで働いている奴を返せとかそういうのになるけど、辞めたのならその心配は無い。

 後はもう、トーマスとサミーの親子間での問題だ。


「でもなんだって、反対を無視してまで飛び出して来たんだ」

「そんなの決まってるじゃないか。親友の君の誘いに応えて、また一緒にいたかったからだよ」


 そこでふわりとした笑みを浮かべないでくれ。男だと分かっていながらも、一瞬ドキッとしちゃったじゃないか。

 かわいとおしい極愛の妻セリカに比べれば劣るとはいえ、これはこれで破壊力があるから困る。

 とはいえ、嬉しいことを言ってくれる親友だ。


「あと、僕好みのだらしない年上女性の世話をしてあげられるって書いてあったから、つい居ても立っても居られなくなっちゃって」


 せっかくの友情が、今ので色々と台無しだよ。

 ケルムさんの世話をできると知って、居ても立っても居られなくなるって、どういうことさ。

 そういえば、前にチラッとだらしない年上女性が好みだって聞いたような聞いてないような……。


「というか、ここに来るまでの金はどうしたんだ?」


 サミーみたいなのが一人旅なんて、狙ってくれと言っているようなものだ。

 おまけに見た目はか弱い少女に見えなくもないから、道中だけでなく町中でも絡まれる可能性が高い。

 加えて道中に魔物と遭遇したり、盗賊に襲われる危険性だってある。それを考えれば、少なくとも護衛を雇ったり馬車に乗ったりしたはず。

 仮に危険を承知で移動を徒歩にして護衛は無しにしても、食料は欠かせないからやっぱり金が必要だ。

 そんな金をサミーが持っているのか?


「暇を貰った時に少ないながらも退職金が出たし、ほとんど使わずに貯めていたお給料と合わせて、なんとかなったよ」


 ああそうか、退職金のことを忘れてた。

 まだ未成年とはいえ働いていた以上は雇用契約を結んでいたから、辞めれば退職金が出るのは当然だ。

 おまけに両親と一緒に暮らしていたから、給料をほとんど使わなかったのも頷ける。

 それを使ってなんとかしたのか。


「なんとかっていうのは、具体的には?」

「途中までの馬車の代金と、そこから先の護衛に冒険者を雇った時の報酬、それと最低限の旅の準備だね。あとここの宿代」

「馬車の代金はともかく、よく冒険者を雇えたな」

「同じ方向に用がある冒険者パーティーが、荷物持ちと野営時の雑用をすることを条件に、少額の報酬で引き受けてくれたんだ」


 へえ、そういうのもあるのか。

 詳しい話をサミーから聞いてみると、報酬の相場に足りないから護衛依頼を出せずに困っていたら、話を聞いていた冒険者パーティーがそういう条件で護衛を引き受けてくれたそうだ。

 ただ、その冒険者パーティーは女性だけのパーティーで、サミーを女の子と勘違いして手を差し伸べたらしい。


「僕が男だと知ったら、凄く驚かれたよ」

「すっかり女だと思い込んでいたんだな」

「そうみたいだね。ああそういえば、なんか髪の長い暗い感じの人が僕のことを「おとこのこ」とか言いながら、でゅふふふふって笑ったっけ」


 なんだろう。その「おとこのこ」っていうのが、若い男を指しているだけじゃない気がする。


「それにその人、バーナード士爵領へ行く理由が親友のシオンに会いに行くためって教えたら、シオンの性別を確認した後で妄想が滾るって言って、うひひひひって笑ってたよ」


 なんだろう、その暗い感じの女性に良からぬ妄想をされた気がする。

 根拠は無いけど笑い方からそんな気がしてならない。

 いったい、どんな妄想をされたんだろう。


「それ以外は何も?」

「うん。その暗い感じの女の人にシオンとの日々を聞かれたり、野営時に用意した食事がすごく喜ばれたり、倒してもらった魔物の解体を手伝ったら手際が良いって言われて血生臭いもみくちゃをされたりしたけどね」


 血生臭いもみくちゃってなんだ。

 なになに? 戦闘で返り血を浴びたまま解体をして余計に血塗れになった状態の冒険者達に囲まれて、もみくちゃにされた?

 羨ましいのかそうでないのか、よく分からない状況だな。


「そんな苦労をして昨日到着したのに、肝心のシオンがいないって聞いてね。もう、呼んでおいて不在ってどういうことさ」


 プンプンとでも音を出しそうな頬を膨らませるその様子を、是非セリカにやってもらいたい。

 笑顔ほどではないだろうが、きっと素晴らしくかわいとおしいに違いない。


「いきなり来るなんて、普通思わないだろ。事前に来るか来ないか、手紙の一つくらい寄越すものじゃないのか?」

「あっ……」


 今のあっ、ってなんだ。


「……テヘ」


 そこで顔を傾けてウィンクしながら舌先を出すな。どう見ても女にしか見えないぞ。

 お前のそういうところが多くの勘違いを生んで、数多の夢見る少年達の恋を木端微塵に破壊してきたというのに。

 この場に年頃の少年が俺と本人以外、いなくてよかった。


「ごめんね。そうだよね、予め手紙を出しておくべきだったね。ああでも、そこまでのお金は無いし、いや前と同じようにスフン様と共同で出せばなんとかなったかな?」


 むしろスフン義姉さんならトーマスの説得に協力してくれるだろうし、多少なら金の都合もしてくれそうだ。

 スフン義姉さん、本当に兄さんには勿体ないお嫁さんだよ。

 無論、セリカほどじゃないけどな!


「はぁ。済んだことはもういいや。で、本当にうちで働く気か?」

「当たり前だよ。そのために来たんだからね」


 手紙一通で本当に来てくれた友情が嬉しいやら、反対を押し切るどころか無視して密かに飛び出してきた行動力が悩ましいやら、実に複雑な心境だ。

 しかも、ちゃんと向こうを辞めてきたから来てくれたから始末に負えない。

 これで放り出したら、確実絶対に俺が悪者で友情が終わる。


「ひとまず義母上に相談するよ。受け入れられるのは事前に確認してるけど、ちょっと事情が変わってな」

「分かった。だけどできるだけ早くね。実を言うと手持ちだと、明日までしか泊まれないから」


 そんな懐事情を聞いたら、なおのこと無下にできないじゃないか。

 お願いと両手を合わせてお願いするポーズといい、狙ってやってるんじゃないのか?

 もしもセリカにそんなポーズをされてお願いされたら、多少の無理で済むなら願いを叶えちゃうだろうな。


「……全力を尽くす」

「今の間は何さ」

「なんでもない」


 お願いポーズをしたセリカを想像して、そのかわいとおしさに一瞬気が抜けただけだ。



 *****



「ということだそうです」

「シオンの親友は、困った意味で行動力があるのね」


 話を聞きながら仕事を進める義母上に、同じく仕事をしながらのサミーの現状を説明したら、まったくもってその通りな返事をされた。


「いいですね。これぞ男の友情です!」


 向かいの席で仕事をするセリカが、やたら目をキラキラさせている。

 その様子は当然ながらかわいとおしくて、身を乗り出した拍子に存在感抜群の胸がブルンと揺れて余韻でタプンと揺れたから、仕事のやる気が少しだけ上がった。

 しかし男の友情ね。外見や仕草から少女に見えなくもないサミーからは、想像がつきにくい言葉だ。

 まっ、俺もそこまで男らしくないから人のこと言えないし、こういうのは見た目じゃなくて気持ちの問題だから男の友情として成立するだろう。


「で、どうしますか義母上。雇いますか?」

「そうしたいんだけど、ユリスを受け入れちゃったからね」


 一番の問題がそこだ。

 サミーが来てくれるのなら雇おうって話は、ユリスを受け入れる前の話だ。

 妾としてうちに来たユリスだけど、彼女は使用人としても働くから、給料を出さなくちゃならない。

 娘婿の妾だから、衣食住を保証すればそれでいいよね、という訳にはいかない。

 この屋敷で住む部屋と食事を保証する分、多少は安くしても構わないけど給料は支払う必要がある。

 だからこそ、こうしてサミーが手紙も送らず突然現れたのは困るわけだ。せめて事前に手紙をくれていれば、ユリスのことを理由に来るのを待ってもらったのに。

 ちなみにそのユリスは現在、サラさんの指導で菜園の世話の仕方を教わっているとか。


「サミー君には屋敷の厨房の他、ケルムさんのお世話も頼むから、食と住を保証してもそこそこの額を払う必要があるのよね」


 その通り。ユリスと同じく屋敷でしか働かないのなら、金額を抑えられるんだけど、ケルムさんの世話も加えたらそれなりの額を支払う必要がある。

 ケルムさんの世話が無ければ額を抑えられるものの、彼女の私生活を放っておけないからこそ出た話だから、今さらそれを無下にするわけにはいかない。

 今頃は住居兼研究所へ戻って、物が散乱した部屋でだらしない格好で寝てそうだし。


「品質向上させた野菜による収入は、まだありませんからね」


 つい先日に流通を開始したばかりだから、領地へ収益が入るのはまだ先になる。

 せめてそれぐらいに来てくれれば、余裕で給料を支払えるのに。


「そうそう、その件だけど商人ギルドから報告書が届いてるわ。市場に流した途端に話題になって、いくつかの商会から早くも問い合わせが来ているそうよ」


 マジですか。売れるのはともかく、もう問い合わせが来ているんだ。


「しかも収穫量増加のために新規開拓の計画が進んでいることを知った二つの商会から、資金援助の申し出があったらしいわ」


 どんだけ欲しいんだよ。いや、あの味なら分かるけど。

 というか資金援助の申し出って、それはどうするんだろう。


「受けるんですか? 資金援助」

「商人ギルドが調べてくれた双方の商会の資料を見るに、一方は誠実な商売をしているみたいだから受けても平気そうだけど、もう一方からは辞めておくわ。儲け主義で生産者を蔑ろにする傾向が強いみたい」


 ナイス調査、商人ギルド。

 生産者あってこその商売なのに、それを蔑ろにするのはいただけない。

 土壌改善計画でたくさんの農家と交流して、多少なりとも生産者側の作業を経験した今なら、それがどれだけ愚かなことか分かる。


「酷い商会ですね。農家さん達がどれだけ苦労して作物を作っているか、分かっているんでしょうか」


 まったくもってその通りだ。そして腕を組んでプリプリと怒るセリカはかわいとおしい。

 ついでに、組んだ腕にノッシリと乗った胸も見事です。


「それが分かってないから、こういうことをするのよ。とにかくここはお断り。辺境伯様からの援助を取り付けたから、おたくの援助は不要って伝えれば引っ込むでしょ」


 対抗相手が辺境伯じゃ、さすがに引くしかないだろう。

 下手に食い下がって不興を買ったら、その商会が大きなダメージを負いかねないもんな。


「もう一方からの援助を受けた理由を突っ込まれたら、どうします?」


 組んでいた腕を解いたら、ノッシリ乗っていた胸がプルン。

 実に見事な揺れを見れたことに感謝します。


「辺境伯様の協力でコーギー侯爵様の援助を受けられるかもしれないけど、それが駄目だった時の保険ということにすればいいわ。ちょうどいい具合にこっちの商会が先に申し込んでるし、それを理由にしましょう。侯爵様の援助を受けられた時はどうするかって突っ込まれたら、一度は受けた話を反故にするのは悪いからそのまま受けるってことで通すわ」


 なるほど、そういう回避方法もあるか。

 レトリバー辺境伯がコーギー侯爵に援助の協力を要請することになったけど、必ずしも上手くいくわけじゃないからな。

 実家の寄親で爵位が上の相手を利用するみたいで悪いけど、良くない商会を退けるためだから勘弁してください。


「おっと、何故か話が関係無い方向へズレちゃったわね」


 ハッ、いつの間に。


「えぇっと、旦那様の親友のサミーさんを受け入れるかどうかでしたね」

「とはいっても、今さら帰れないだろうし、かといって宿に泊まるのは明日までが限界らしい」


 何か良い解決策はないだろうか。

 こうなったら、トーマスに迎えに来てほしいと手紙でも出すか?

 いやでも、迎えが来るまでの期間を放っておくわけにはいかないし……。


「あっ、お母様。アレがあるじゃないですか、ユリスさんから受け取ったお金が」

「「あっ」」


 そうだ、それがあったじゃないか。

 ユリスが母親から受け取った路銀と心付け。

 路銀は旅路の資金とラッセルさん達への追加報酬として使い、余った分は心付けと一緒にユリスへ渡そうとしたんだけど、持参金の意味があるのならと心付けの半分を受け取ることになった。

 元々が相場を超える額だったから、半分でも結構な額なんだよな。

 本当は二割だけ受け取るつもりだったんだけど、こんな大金を持っているのが怖いから八割を受け取ってほしいとユリスが震えながら言うものだから、話し合って半分に落ち着いた経緯がある。

 よく思い出してくれたぞセリカ。さすがはかわいとおしい、我が極愛の妻。


「そうよ、あのお金のことをすっかり忘れてたわ。あれだけのお金があれば、収益が入るまで一人雇うくらい問題無いわ。セリカ、よく思い出してくれたわね」


 義母上に褒められたセリカは照れながらも、当然ですと存在感抜群の胸を張る。

 その拍子にふわふわの髪がふんわり揺れ、胸はプルンと大きく揺れだ。

 ありがや、ありがたや。今ので仕事に対するやる気がさらに上がったぞ。


「というわけでシオン、そのサミー君を明日にでも連れて来てちょうだい」

「分かりました」


 これにてサミー問題はほぼ解決。唯一の懸念はトーマスとその奥さんの反応だけど、これはもう向こうが何かしらやっているかもしれないから、少し様子を見ることに決まった。。

 ……まさかとは思うけど、親子揃って前触れも無しに現れるってことはないよな?

 トーマス、お前はそこまで考え無しに行動する男じゃないはずだ。


「さて、じゃあ仕事も一気に片付けちゃいましょう」


 義母上はそう言ったものの、簡単には終わらないだろう。

 不在中の報告書だけでも結構な量があるから、全てを確認するのも一苦労だ。

 とはいえこれも領地のため、頑張りますか。

 だけどやっぱり簡単に終わるはずがなく、残った仕事は翌日へ持ち越しとなった。

 その後は久々の屋敷での食事とセリカとの入浴を堪能して、そのまま部屋でセリカと夜の営み……とはいかない。


「ほれほれ、ここがいいのか?」


 部屋で一人、子犬のロイとマルコを膝の上に乗せて腹をわしゃわしゃ撫でてやると、気持ちよさそうにきゅんきゅん鳴く。

 なんでこんなことをしているかっていうと、現在セリカが俺との夜の営みについてユリスへ指導しているからだ。

 妾としてバーナード家に入った今夜、ユリスは俺の夜の相手をする。だけどその前にセリカから、俺との夜の営みについての経験談を教わっている。

 これは新しい妻や妾が入った際には必ず行う慣習だそうで、今頃はユリスの部屋でそういった話をしているんだろう。

 正直、義母上から聞いた時はちょっとだけ驚いたよ。


「今頃お前のご主人様は、どんな話をされているんだろうな?」


 わう? と揃って首を傾げる様子に撫でる手が早くなる。

 そんなに変わった事はしてないし、特殊な趣向も無いから話は早く終わると思ってたけど、少し時間が掛かっている。

 これは俺の体感時間がそう勘違いしているのか、それともユリスが心の準備に時間を掛けているのか、はたまた自覚が無いだけで変わったことをしていてそれを教えているのか。

 いかんいかん、落ち着け。ロイとマルコを愛でて気持ちを落ち着けるんだ。

 焦るな、いくらセリカ以外の異性と事に至るとはいえ、セリカ公認だし俺は未経験じゃないんだから。


「ご、ご主人様、入ってよろしいですきゃっ!?」


 ノックとユリスの声がしたと思ったら噛んだ。

 今頃、扉の向こうで口を押さえて俯いているか、蹲っているだろう。

 ご主人が心配になったロイとマルコが、扉へ向けてキャンキャン鳴きだした。

 心配なのは俺も同じだから、二頭を床に降ろして扉の方へ向かう。


「ユリス、大丈夫か?」

「はひ、なんちょか……」


 しゃがみ込んで口を押えて涙目でそう言われても、説得力が欠片も無い。

 ほらみろ、ロイとマルコが不安そうな様子できゅんきゅん鳴いてるじゃないか。


「こんな調子で大丈夫でしょうか」


 セリカが不安そうになるのも分かる。

 ……うん?


「まあなんとかするよ。それよりもセリカ、ご苦労様」

「いいえ。これも正妻としての務めです」


 やたら正妻の部分を強調しながら胸を張るから、その勢いで存在感抜群の胸がブルンと揺れて、余韻でプルプルしている。

 くっ、セリカとの一夜は明日にお預けだから、今夜はそれを楽しめないのが残念だ。

 だけどそれ以前に……。


「では旦那様。この子達は連れて行くので、どうぞ今宵は存分に励んでください」


 今夜は元々使っていた部屋で二頭と一緒に過ごすセリカは、ユリスの傍をうろつくロイとマルコを抱き上げる。

 主人と引き離されるのを察したのか、二頭が寂しそうにキュンキュン鳴いてるけど、今夜は主人を独り占めさせてもらうぞ。

 おっと、その前に。


「セリカ、ちょっと耳を貸してくれ」

「はい?」


 部屋へ向かおうとするセリカを引きとめ、耳元で囁く。


「寂しい思いをさせるお詫びは、明日の夜にちゃんとするから」


 貴族的な理由で許したとはいえ、夫が他の子と一夜を過ごすのは複雑だろうから、しっかりフォローしておかないと。

 平静を装っていても、さっきから表情がどこか冴えないし辛そうだったからな。


「はぅっ!?」


 一瞬で真っ赤になったセリカが、思わずといった様子で飛び退く。

 くっ、ロイとマルコを抱き抱えていなければ、今の拍子にブルンと揺れただろうに。実に残念だ。

 というかそこの二頭、場所を代われ。その存在感抜群の柔らかい胸、絶対に当たってるだろ。


「きき、期待してます。では、失礼しますね!」


 アタフタしながら足早に去っていく様子も、またかわいとおしい。

 明日は存分に愛でてやろうと決め、ユリスと部屋に入って一夜を過ごした。

 最中にドジられて失敗したら互いに気まずいから、経験者ということで俺が主導で進めた甲斐あって失敗せずに済んだものの、二つの想定外があった。

 一つ目はユリスの体型。ムッチリでプルンプルンなセリカと違いスレンダーだなと思っていたら、尻がとてもデカかった。

 スカートだから気づかなかったけど、脱いだら尻がバインでプリンで触れたらもっちりで、見応えだけでなく触り応えもあったんだよ。

 二つ目は久し振りの情事だからつい調子に乗って、セリカとしているのと同じようにしたから途中でユリスがダウンした。

 気づいた時には凄い状態になっていて、翌朝ユリスだけでなくセリカにも謝罪した。いや、セリカにも謝ったのはなんとなく。

 なお、サミーは正式にバーナード家で雇うことになり、その日の夜は徹底的にセリカを愛でてとても情熱的な夜を過ごした。


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