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辺境伯との面会


 ある日、仕事をしていたらバーナード士爵家からの手紙が届いた。

 届けたのは冒険者らしく、返事がほしいとのことだ。


「分かった。読み次第、返事を書こう。冒険者は客室で待たせておけ」


 使者を遣わせるのではなく、冒険者や商人に頼んで手紙を届けさせる。

 こちらへ寄越せるような人物がいない、貧しい貴族にはよくある連絡手段だし、こちら持ちで使者や手紙を送らせまいとその場で返事を求めさせる気遣いも、よくあることだ。


「これはおそらく……」


 バーナード士爵家の家紋が押された蝋の封を解き、手紙を読む。

 予想通り、領内の新規開拓についての相談を目的とした面会を求めるものだった。

 領内の開拓は領主の仕事とはいえ、金銭や人手が不足だと判断した際、寄親や親交の深い家に助力を求めるのは珍しくない。

 だが、今までバーナード士爵家からこの手の相談は無かったし、バーナード士爵領の財政状況だと独自開拓は小規模が精々。

 そこへ寄親のうちを頼ってまで開拓をしたい理由は、既に掴んでいる。

 シオン・ザッシュ。いや、今はシオン・バーナードか。彼をバーナード士爵家へ婿入りさせることで、どう我が家とコーギー侯爵家に益をもたらすのかを調べるため、出入りしている商人に頼んで行商人を向かわせ、現地の情報を仕入れてはウェルシ殿と共有していた。

 だからこそ分かる。新規開拓は、彼の調理魔法で耕した田畑から採れた作物の増産と、それによる収益での発展を目指すのを目的にしていると。

 作物の販売はまだされていないが、宿で作物を使った料理を実際に食べたという行商人によると、もう他所の野菜は食べられないと言うほどの絶品とのことだし、最近では彼の作った土を気に入ったドライアドが集団で住み着き、かの地で珍しい薬草を育てだしたという。

 それだけの作物とドライアドのもたらす貴重な薬草。これらか導き出せるのは、バーナード士爵領が農業都市として発展しいく未来。

 勿論、そう簡単にはいかないだろうが、その開拓初期に携われば大きな利益を見込める。

 いかに爵位が低くて貧しかろうと、バーナード家とて貴族。協力の見返りに利権ぐらいは用意するはず。

 それを得た上で誠実な付き合いを続けていけば、どれだけの益に繋がるだろう。

 ならば断る理由は無い。すぐに面会に応じる返事を書き、封に使った蝋が固まる前に家紋を押し、人を呼ぶためにベルを鳴らす。


「失礼します。お呼びでしょうか」


 部屋の外で待機していたのであろう、手紙を持ってきた若い男性使用人が一礼しながら入室してきた。


「これを客室にいる冒険者へ渡してほしい。手紙の返事だ」

「承知しました」


 手紙を受け取った執事が退室したのを見送ったら、今度はコーギー侯爵へ宛てる手紙を書く。

 あの占いは双方が益を得ることを前提としている以上、私だけが益を得ようとしたら占いが外れて、どうなるのか分かったものではない。

 たかが占いと一蹴することなどできないゆえ、このことをウェルシュ殿にも伝えなくては。

 まだ伝えていない追加の情報に加え、遂にその時が来たかもしれないとバーナード士爵家からの手紙の件も書き連ねていく。


「これでよし」


 書き終えた手紙を先ほどと同じく蝋で封をして家紋を押し、ベルを鳴らしてやってきた女性使用人へ手紙を渡し、執事長にこれを渡して使者に送らせるよう伝える。

 後は執事長が信頼できる使者を選び、その者がコーギー侯爵へ手紙を届けてくれるだろう。

 さて、ではこちらはこちらで下準備を整えておかなくては。

 向こうの用件は私の予想で間違いないとは思うが、万が一という可能性もあるから下準備段階で留めておこう。

 事は慎重かつ冷静に、だ。



 *****



 レトリバー辺境伯が、面会に応じてくれた。

 手紙の配達を依頼した冒険者によって了承の返事が届けられたら、そこから日程の調整や移動のための馬車や護衛をしてもらう冒険者の手配、それと留守にする間のことなど諸々の準備を整えていく。

 護衛には義母上が貯めに貯めていた貯金を使い、腕が良くて信頼できるラッセルさん達を雇った。

 俺も俺で道中の食事のため、食材や調味料や水をいっぱいに詰めた樽を大量に「冷蔵庫」へ収納しておく。

 調理道具は調理魔法でなんとでもできるから不要だし、道中の温かい食事がどれだけ嬉しいかは、王都からバーナード士爵領への移動中に実感している。

 本当、調理魔法があると旅路での食事が楽だ。

 報酬とは別にこの食事を振る舞ってもらえると知ったラッセルさん達が、喜ぶくらいだからな。


「だとしたら、干し肉と黒パンは不要だな」

「また道中で温かい食事が食えるのか。燃えるぜ!」

「なら、なんとしてもお守りしないとね」

「彼がいれば、いざとなったら動物や魔物を狩って食べられるしね」

「気合いが入るぜ!」


 気持ちは分からなくもないけど、食事一つでこれなんだから現金な人達だ。

、そうして急ぎ気味で準備を整えたら、義母上とセリカと、作物に関する説明のために同行するケルムさんを連れてレトリバー辺境伯領へ出発。

 数日掛けての旅路は盗賊や魔物どころか、熊や狼のような動物と遭遇することなく、拍子抜けするほど穏やかな旅となった。

 なお、道中の温かい食事はやっぱり喜ばれた。

 米を入れた「調理器具・釜」に「注水」して「加熱」させて米を炊いたり、「調理器具・蒸し器」へ入れた鳥肉を「蒸気」で蒸し上げて調味料を「撹拌」で調合したタレを掛けたり、乾燥キノコ入りの「調理器具・鍋」に「注水」して「加熱」からの「抽出」で作った出汁へ、ミソと「いちょう切り」や「半月切り」とかで切った野菜を加えてミソスープを作ったりしたら、義母上もセリカもラッセルさん達もケルムさんも大喜びだった。


『あおぉぉん! 私が調理魔法を授かっていれば、王都からの道中での食事も充実していたのに!』


 というケルムさんの喜びと悔しさが混ざった叫びに、ラッセルさん達が何度も頷く様子が印象的だった。

 そんな旅路を経て、面会前日にレトリバー辺境伯家の屋敷がある町へ到着したら宿で一夜を過ごして疲れを取り、可能な限り服装を整えてレトリバー辺境伯の屋敷へ向かう。

 普段がだらしないケルムさんに関しては、これでもかってくらい徹底的に義母上が身支度をしてくれたから、髪型から服装までキッチリ整えられていた。

 外見は良い方なんだから、普段からこうしていればいいのに。


「お、大きな屋敷ですね」


 馬車で到着した屋敷の大きさに、ポカンとしながらセリカが呟く。

 確かにデカい。さすがは辺境伯家、こんなに大きな屋敷は王都でもそうそう見ないぞ。


「失礼。どちらさまでしょうか」

「本日面会の約束をした、バーナード士爵家当主代理のリーチェ・バーナードです。辺境伯様へお取次ぎ願えませんでしょうか」

「お話は伺っています。少々お待ちください」


 声を掛けてきた門番が話を聞き、一旦屋敷へ向かう。

 その間はもう一人の門番がこっちを警戒しているけど、視線がセリカと義母上の胸元へ向けられている。

 同じ男としてそこへ目が向くのは分かる。でもそれとこれとは話が別だ、人の妻と義母にそんな目を向けられて不快でないはずがない。

 門番の視線からセリカを守るように位置を移動して、視線を遮りつつ軽く睨みつける。

 義母上への視線は背丈の問題で遮れないから、勘弁してください。


「うっ」


 睨まれているのに気づいた門番は、バツが悪い表情を浮かべて顔を別方向へ向け、誤魔化すように口笛を吹く。

 こっそり視線を戻そうとしてるけど、睨みは利かせたままだからすぐに視線を外した。


「旦那様? どうしました?」

「いや、別に」


 俺が旦那様と言われたのが聞こえたのか、門番は如何にも「げっ」って顔になって完全に視線を外した。

 大方、俺を義母上の息子でセリカの兄か弟とでも思ったんだろうけど、生憎と夫だよ。

 別に犯罪というわけじゃないけど、夫の目の前で妻の胸を凝視していたのを睨まれているんだ、気まずいのは当然だな。


「お待たせしました。士爵様とお連れの方々は彼女が案内しますので、どうぞ。馬車は私が案内します」


 おっ、さっきの門番が戻ってきた。

 案内に連れて来られた女性使用人が一礼し、先導するのに続く。

 門を潜る際、セリカと義母上の胸を見た門番に向けてニッコリを笑みを向ける。

 人の嫁と義母のどこを見てるんだテメェ、って怒りを露わにして。


「ひっ!?」


 笑顔を向けたのにビビったってことは、ちゃんと怒りは伝わったようだな。

 ならばよしと少し満足し、女性使用人の後に続く。

 屋敷の内部は外観に劣らぬ立派なもので、置かれている物だけでなく内装や構造に至るまで品を感じるし、行き交う使用人達の立ち振る舞いも洗練されている感がある。

 さすがは辺境伯家だけあって、使用人達の教育も行き届いているようだ。さっきの門番はだいぶムカついたけどな。


「護衛の方々は、こちらでお待ちください」


 ラッセルさん達が待機するよう言われたのは、扉の前に年配の男性使用人が控えている部屋。

 その男性使用人が扉を開けて入室を促すと、落ち着きなくキョロキョロしていたラッセルさん達の戸惑いは増して、キョドキョドした様子で返事をして入室していった。

 落ち着きが無いといえば、さっきからセリカもしきりにそわそわしている。

 案内された応接室のような部屋に通されてもそれは変わらず、何度も室内を見渡し続けている。


「落ち着かないか?」

「だ、だって、こんな立派なお屋敷に来るのは、初めてですから」


 それもそうか。バーナード家の屋敷とは大違いだし、こうした立派な場所とは無縁だもんな。

 レトリバー辺境伯家が主催する、寄子を集めての宴は数年に一回開かれているそうだけど、セリカは生まれる前だったりまだ幼くて連れて行けなかったりでここへは来たことがないらしい。

 それに対して義母上は、何度か来たことがあるからか落ち着いている。


「こんなことなら、幼いうちに一度でも連れてくれば良かったかしら」


 今となってはもう遅いです義母上。


「ケルムも緊張してるみたいだな」


 膝の上に置いてる手が震えているし、尻尾もせわしなくバタバタ揺れてる。


「きゅう~ん。当たり前ですよ。辺境伯様のような方と会うなんて、初めてですから。むしろ、なんでシオン様はそうも落ち着いてるんですか」

「王都にいた頃、こうした立派な屋敷によく招待されていたからな」


 まだ王都で勝手かつ一方的な期待を寄せられていた頃、早めを唾を付けておこうと考えて近づいて来た連中の中には、爵位が高い家の当主やその関係者が大勢いた。

 そいつらからの断り難い誘いや、父親が俺への相談も無しに勝手に決めた宴やお茶会への出席とか、そういう理由でこうした立派な屋敷には何度も赴いていたから、良くも悪くも慣れちゃったんだよ。

 最初こそ緊張していたけど、いつからか屋敷へ赴く度に面倒とか億劫とか思うようになって、よく分からない置物や派手なだけの内装に辟易するようになったっけ。


「うぅ~。旦那様だけ慣れてるなんて、ズルイです」


 そんなこと言われても、どうしろというんだ。

 理不尽な文句だと思いつつも、怒って膨れる様子もかわいとおしいから許す。


「くぅ~ん。そうですよ、シオン様だけズルイです」


 だからどうしろっていうんだ。

 それとケルムさんはセリカと違って、どう振る舞おうと許さない。

 あと、義母上とお茶を用意してくれている女性使用人は、どうして楽しそうに微笑んでるんですか。


「失礼します。旦那様をお連れしました」


 室内に強い緊張感が走った。

 年配の女性使用人の後に続いてやってきたのは、壮年の男性。

 あの人がレトリバー辺境伯家の当主、ゴルデン様か。

 姿を現すと義母上が立ち上がったのに合わせ、俺達も立ち上がって背筋を伸ばす。


「待たせましたね、バーナード士爵」

「いいえ、こちらもお時間をいただき感謝します。レトリバー辺境伯様」


 義母上が礼をするのに合わせて俺達も礼をする。

 この場では義母上がバーナード士爵家の代表だから、挨拶の類は義母上がやって俺達はそれに続くだけでいい。

 注意すべきは不用意に発言しないこと、ただそれだけ。


「そう固くならず、かけて楽にしてください」

「はい。失礼します」


 上座の席に腰掛けたレトリバー辺境伯に着席を促され、俺達も着席。

 貴族同士で顔を合わせる時は、こういう所作にも気をつけなくちゃならないから面倒だと思っていたのを、久々に実感する。


「それでは話を聞きましょうか。新規開拓の支援について、ということでしたね」


 しかし爵位が高い貴族にありがちな、嫌な雰囲気の無い人だ。

 立場はこっちの方が下なのに、口調も丁寧だし。

 それでいて威厳っぽいものも感じるから、これが年の功ってやつかな。


「はい。ですがその前に、同行者の紹介をさせていただきます」


 義母上はまずレトリバー辺境伯を俺達に紹介し、次に俺とセリカとケルムさんをレトリバー辺境伯へ順番に紹介していく。俺達は自身の紹介に合わせて、起立と礼と着席をするだけ。

 公式の場における同行者の動きなんて、声を掛けられたり発言を求められたりしない限り、こんなものだ。

 それが済んだら、義母上による新規開拓の理由が説明されていく。

 用意した報告書や資料を提出しながらの説明に淀みは無く、それを聞きながら資料や報告書へ目を通すレトリバー辺境伯の目は真剣そのもの。

 自然と張りつめる緊張感の中、俺は調理魔法で肥料を作ったり畑を耕したりすることになった経緯を説明し、ケルムさんは土壌改善計画によって田畑と作物に何が起きたのかを説明する。

 滅茶苦茶緊張していたケルムさんが噛まないか心配だったけど、無事に説明を終えると本人だけでなく、こっちもホッとした。そういう俺も、さほど大した説明でなかったとはいえ心臓バクバクだったし。


「以上で新規開拓の必要性と、それに至った経緯の説明を終了します」

「ふむ……」


 資料と報告書を閉じてテーブルに置いたレトリバー辺境伯が頷く。

 手を組んで考える素振りを見せるだけなのに、妙に緊張してしまう。


「話は分かりました。肝心の作物ですが、実物はありますか?」

「ございます。シオン」

「はい」


 調理魔法の「冷蔵庫」を発動させ、出発当日に収穫した野菜を乗せた笊を取り出す。

 それを隅の方に控えていた年配の女性使用人が進み出て回収すると、お茶を運んできた台車にある小さな刃物で手にしたトマト切り分けて皿へ乗せていき、最後に残った一切れを毒味として口にした。


「おっ、おいしっ!?」


 思わずといった様子で声を上げたその人は、すぐに口を閉じたけどもう遅い。

 俺達を案内してくれた女性使用人だけでなく、レトリバー辺境伯も少し驚いた様子で彼女を見ている。


「失礼しました。旦那様、問題はありません。それどころか、今までに食べたことが無い絶品です」

「全く手を加えていないのにそう言わせるとは、期待できますね」


 小さなフォークを添えて出されたトマトを、興味津々な様子で眺めた後にフォークで一口。


「……」


 いや、なんで目を見開いて無言になる。かと思ったら、そのまま次々に口へ運んでいき、皿が空になると無言で女性使用人の方へ差し出した。


「だ、旦那様!?」

「早く、私におかわりを!」

「は、はい!」


 戸惑った様子の女性使用人は皿を受け取り、その間にもう一人がキュウリを手にして切っていく。

 その間、レトリバー辺境伯は急かすように空いている左手の指でテーブルをトントン叩き、毒味をするため一切れ口にしようとしたら、目をクワッと開いた。


「毒味は結構です! 早くしてください!」

「えっ、で、ですが」

「いちいち毒味をする時間が惜しいのですよ! それと一切れでも多く、食べたいのです!」


 ドハマりしてるよ、レトリバー辺境伯ってば。

 呆気にとられる女性使用人から渡され、これまたあっという間に食べてしまうと、無言で立ち上がって直接手づかみで食べようとして、女性使用人達に落ちついてくださいと止められる。

 ここまで夢中になる反応は初めてだな。

 それから少しして落ち着いたレトリバー辺境伯は、苦笑しながらコーヒーを飲む。


「ハハハッ、申し訳ありませんでした。私としたことが」

「お気に召していただけたようで、なによりです」

「正直、あれほど美味だとは思っていませんでしたよ。今食べておかないと後悔すると思い、つい粗相を」


 粗相どころか、一歩間違えれば醜態だよ。


「それで辺境伯様、如何でしょうか? これらの増産と安定供給を実現するための新規開拓に、ご協力願えませんでしょうか」

「これほどの物を作れるのなら、断れませんよ。いいでしょう、我が家からの支援をお約束します」


 協力に応じる返事が貰えて胸を撫で下ろす。

 セリカとケルムさんどころか、義母上もホッとした様子を見せている。


「ですが、こちらの資料や報告書を読んでいて気になった点がいくつかあります。それらの説明をしていただき、修正が必要ならば修正してもらう必要があります。よろしいですか?」

「構いません」

「では早速ですが、まずは」


 資料を開いて始まる質疑応答で甘い点を多々指摘される。

 良いんじゃないかと思っていた義母上の計画でも、レトリバー辺境伯からすればまだまだなんだな。

 これは後々の自分のためになるから、しっかり聞いて勉強させてもらう。

 しかしこうして聞いてると、割と穴があるんだな。完全に防ぐことはできないとはいえ、転売とか密売にも注意しなくちゃならないのか、なるほど。

 そうして長々とした打ち合わせが済んだら、今度はケルムさんの研究を学会で発表することなど、相談すべき件に関しての話に移行。

 レトリバー辺境伯は概ね呑んでくれたけど、学会での発表に関しては難しいと言われた。


「学会での発表となると、相応の機関や爵位の高い貴族の下に所属していないとできません」


 さすがにバーナード士爵家所属じゃ無理か。

 せっかくの機会を得られなくなったケルムさんは俯き、尻尾も力なく下を向いて落ち込む。


「ですが学会に顔が効く人物からの推薦があれば、発表することが可能です。幸いシオン殿とセリカ嬢の婚姻により、コーギー侯爵家との繋がりができたので、その線で当たってみましょう。現当主のウェルシ殿は学会のお偉方と学友だったので、彼の推薦を得られれば発表は可能でしょう」


 おぉっ、ここで俺とセリカが結婚することになった切っ掛けが効いた。

 一度落ち込んだケルムさんは、希望が出たことで目を輝かせて尻尾を振っている。


「そうです。いっそ彼にも新規開拓の支援を頼みましょう」

「コ、コーギー侯爵様にもご助力を願うのですか!?」

「はい。これほどの作物に加えてそれを使った調味料も作るとなれば、成功する見込みは十分にあります。コーギー侯爵もそれが分からない方ではありませんから、協力してくれる見込みは十分にあります」


 ここでまさかのコーギー侯爵からも支援を得られる可能性が浮上するとは。

 全くもって予想外の展開だぞ。


「ですが、当家には辺境伯様に加えて侯爵様へ用意できる見返りは……」


 うん、もうこれ以上は利権を差し出せないし金も無い。


「それなのですが、開拓と開発における利権の優先権でどうでしょうか?」


 利権の優先権? 要するに、今後新たな利権が発生したらレトリバー辺境伯とコーギー侯爵を優先するってことか。


「そちらが今回用意してくれた利権をコーギー侯爵と折半し、残りはこれで補うということにすれば、そちらの体裁は保てますよ」

「よろしいのですか? どうなるかなど、まだ分からないのに」

「大丈夫ですよ。十分に勝算は見込めますし、優先権で納得してくれると思います」


 おおっ、まさかレトリバー辺境伯がここまで評価してくれるなんて。

 そう言われると、頑張って土壌改善した甲斐があるってもんだ。

 不安気だった義母上も、表情に少し自信が出てきている。


「幸い当家はバーナード家の寄親ですし、跡継ぎとなる入り婿にシオン殿を紹介したのはコーギー侯爵家です。その二家に義理立てしたとなれば、不自然ではありません」


 義理立てほど、貴族社会で有効な理由付けは無い。

 何かにつけて関係を作ろうとしたり縁を結ぼうとしたりしようとするのは、王都にいた頃に嫌ってほど経験している。

 だからこそ義理立てという理由が、どれだけ有効なのか分かる。

 寄親だから、跡継ぎとなる娘婿を世話してもらったから、こういった理由でレトリバー辺境伯とコーギー侯爵を優先しても文句は出ないだろう。

 なにせ寄親は寄子にとって大きな存在だし、後継者は貴族にとって重要な存在だからな。


「それに、この開拓からの開発が成功して発展すれば、そこに目を付ける面倒な輩が必ず出ます。ですがうちとコーギー侯爵家が先に食い込んでおけば、下手には動けないでしょう」


 確かに、爵位の高いレトリバー辺境伯家とコーギー侯爵家が先に食い込んでいれば、その二家に配慮して他家は簡単には動けない。

 下手に動いて配慮を欠いて二家から睨まれたら、社交界での居場所を失いかねないからだ。

 貴族にとって社交界で居場所を失うのは、貴族としての死に等しい。

 そんな愚の骨頂を犯すようなのは……たまにいるって聞くな。


「コーギー侯爵には私から連絡を取り、説明と交渉をします。それと、私の方で行う支援はすぐにでも準備しましょう」

「はい、よろしくお願いします」


 義母上のお礼の言葉と共に、席を立って四人揃って頭を下げる。

 なんとか支援を取り付けられて良かった。おまけにコーギー侯爵からも支援を受けられれば、今後の見通しはより明るくなる。

 その切っ掛けがセリカとの結婚だったんだから、本当にセリカが嫁で良かった。


「ちなみにこの作物ですが、独自に入手することは」

「申し訳ありません。まだ出荷量が少ないので、流通ルートを制限していまして」

「そうですか。残念です」


 どれだけ気に入ったんだ。作るのに関わった側としては嬉しいけどさ。


「ところで話は変わりますが、私の孫娘をシオン殿にもらっていただけませんか?」


 いや本当に話変わりすぎ! なんでいきなりそんな話が出るのさ!?

 あれか? より繋がりを強固にするための、政略的なやつか!?

 そんでセリカが渡さないとばかりに必死に抱き着いてくるから、存在感抜群の胸がプニョンプニョンと押し当てられていて、誠にありがとうございます!


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[一言] >食事一つでこれなんだから現金な人達だ かつては士気維持のために戦場で美味しいご飯を食べる方法を研究する部隊が居たくらいだしね、食事大事
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