贅沢とは
ドライアドのシードから、一族揃って移住したいっていう申し出があってから一夜が過ぎ、朝方に再びシードが訪ねて来た。
しかも今回は、シードより背が低くて髪が長い幼い少女も連れて来ている。
違うのは髪が黄緑色なのだけで、褐色肌は同じだし顔の造りが似ている気がするから妹かな。
「先日はお世話になりました! 仲間の皆もあの土と肥料で納得し、満場一致で移住に同意してくれました!」
「そう、それは良かったわ」
昨日同様にリビングへ案内してからの色良い報告に、義母上は満足そうに頷いている。
それは領民が増えることが嬉しいのか、はたまたドライアドが自分の領地に住んでくれるのが嬉しいのか、それともドライアド達のお陰で先送りにしていた開拓が行えるのが嬉しいのか。
なんにしても、ドライアド達にとっては安住の地を得て、こっちにとっては領地の益になるのならいいか。
「ところで、そちらの子は?」
紅茶を飲んで嬉しそうに足をパタパタ揺らす、シードの妹らしき少女について義母上が尋ねた。
すると少女はカップを置き、椅子から飛び降りて姿勢を正す。
「申し遅れたのじゃ。我はシードの曽祖母にして一族の長を務めておる、ブロッサムと申す。この度は我々の移住を認めてくれたこと、誠に感謝するのじゃ」
しっかりとした挨拶の後に深々と頭を下げる。
ちょっと待ってくれ。いや、やっぱりすごく待ってくれ。
普通ならここで、年の割にちゃんとした子だなと思うけど、今回はそうはいかない。
「……曾祖母?」
「はい! 私達の長でひいお祖母ちゃんのブロッサムお祖母ちゃんです!」
「あまりお祖母ちゃんお祖母ちゃん言うでないのじゃ!」
「ごめんなさいです!」
聞き間違いじゃなかったか。
だけど曽孫のシードより小さくて幼いって、どういうことだ。
そしてシード、お前って長老の曽孫だったのか。
「我の容姿を疑問に持っているじゃろうから、説明せねばなるまい。我らドライアドは栄養と魔力が豊富に含まれた良質な土を直接摂取することで、しばらくの間じゃが大人は若返り、子供は成長できるのじゃ。中身は変わらんのじゃがな」
本当にもう、生態が謎だらけだよドライアド。
いや、今回の交流でいくつか明らかになってはいるんだけど、分かったからこそ謎というか……。
というか直接摂取って、土を食ったのか。
「我の本来の姿は、杖がなければ歩けない皺だらけで腰も曲がったババアじゃ。そんな我でも良質な土を食べれば、この通り曽孫の妹かのようなピッチピチの若者になれるんじゃよ」
ピッチピチて。しかも若者どころか幼子になってるよ。
そしてやっぱり土を食ったんだな。
「住めなくなってしまった土地の土だと、杖が不要になって腰が伸びて皺が減るくらいなのですが、お土産に持ち帰った土と肥料を混ぜた物だのこんなに若返ったんです」
それはつまり、食った土の栄養や魔力によって若返りや成長の度合いも変化するってことか。
ケルムさんに調べてもらって分かっていたとはいえ、どれだけ凄いんだあの土。
「うむ。おまけに普段なら一日で本来の姿に戻ってしまうところじゃが、あれならば三日はこの姿が保てるじゃろう。いやぁ、まっこと見事な土がある地を見つけたものじゃ」
その土は俺が作りました。
「しかも曽孫に聞けば、そこにおる領主殿の後継者があの土を作ったと聞く。いやぁ実に良い後継者がおって羨ましいのじゃ。それに比べて我の子と孫は、とんだボンクラじゃ。嘆かわしいわい、まったく」
土作りで後継者として評価してもらっても、正直微妙だ。
そんでドライアドの長は後継者育成が目下の課題なのか。
ひょっとして派遣してきたのがシードなのは、そういうことも絡んでいるのかな。
「おっと、話が逸れてしまったの。そういう訳でせっかく若返ったのじゃから、長として我が直接話をしに来たのじゃ。領主殿、今後ともよろしく頼むのじゃ」
「え、ええ。私達はあなた方を歓迎します」
そう言って義母上とブロッサムさんが握手を交わそうとして……交わそうとして……。
若返りすぎたブラッサムさんがテーブル越しだと手が届かず、失礼と言って椅子の上に乗り、身を乗り出して握手を交わす。
微妙に締まらないなぁ……。
こらセリカ、笑おうとするな。全力で堪えろ。
ただ、笑いを堪えることで体が震えて、それによってプルプルと微かに揺れる胸は是非そのままで。
「では早速、移住してもらう予定の土地へ案内するわ」
「うむ、よろしく頼むのじゃ」
握手を解いて床へ飛び降りたブロッサムさんとシードを連れ、義母上はドライアド達の移住先に選んだ開拓予定地へ向かう。
俺とセリカは留守番で、その間は義母上から与えられた課題を解いたり、菜園で手入れや収穫をしたりする。
「なんだか旦那様が来てから、凄く贅沢をしている気がします」
「急にどうしたんだ?」
通常より太く長く育ったインゲンマメとスナップエンドウを収穫していたら、急にセリカがそんなことを言い出した。
「だって、こんなに美味しい野菜を毎日のように食べていたら、他所の野菜を物足りなく感じてしまいそうです」
ああ、そういうことか。
確かに土壌改善した畑で育った野菜は美味いから、他所で採れた野菜だと物足りなく感じそうだ。
「今後はこうした作物を使って、お酒とか調味料を作るようになるでしょうから、絶対に他所での食事が物足りなくなりますよ」
「うん、確かにそう考えると贅沢になったかも」
金を掛けるって意味での贅沢よりはいいんだろうけど、他所で食事をしたくなくなりそうなのはちょっと困るな。
こんな辺境の小領の領主とはいえ、外部との交流はあるから、どこかしらに遠出する機会はある。
例えば近隣の領主との会談や懇談会とか、寄親のレトリバー辺境伯家主催のパーティーとか、十年に一度開かれる国中の貴族が王城に集まっての王国祭での宴とか。
そうした場で出される食事に使われる野菜や一部調味料や酒は、間違いなくここのより落ちるだろう。
この領地の野菜や酒や調味料を、主催者側が仕入れていない限りは。
「これでドライアド達が栽培する薬草も品質が上がったら、どうなっちゃうんでしょうね」
「……どうなっちゃうんだろうな」
とても予想なんてできないから、それに関しては考えるのを止めておこう。
少なくとも、ケルムさんは研究したがって騒ぐだろうな。
「でも、その……」
「どうした?」
「えっと、ですね……」
急にセリカが真っ赤になって俯き、モジモジしだした。
そんなかわいとおしい様子を見せられたら、ちゃんと言えるまで待つしかないじゃないか。
本当に天然で俺のツボを的確に突いてくるよ、この極愛の妻は。
「一番の贅沢は、旦那様と結婚できたことです……」
「……」
「? ひゃわあぁぁぁぁぁっ!?」
今の間で何が起きたのか説明せねばなるまい。
恥ずかしがりながらも言いたいことを口にしたものの、結婚の後からはしりすぼみして声が小さくなっていき、それに伴って俯きが深くなるセリカがあまりにもかわいとおしいのに加えて発言内容があまりにも嬉しくて、収穫したスナップエンドウを積んだ笊を一旦地面に置いて無言で全力抱擁。
それによってセリカは耳や首まで真っ赤になって声を上げ、収穫したインゲンマメを積んでいた笊を落とした。
いやだってこれ無理、抱きしめるなってのが無理。
仮に社交辞令的なものだったとしても、かわいとおしい極愛の妻からあんなことを言われたら、とてもじゃないけど抱きしめるのを我慢できない。
普段なら押し付けられている存在感抜群の胸の柔らかさにも意識が行っているけど、今はそんなことも気にならないほどセリカがかわいとおしくて言われたことが嬉しくて、抱きしめることに全神経を集中している。
「だだだ、だんにゃしゃまっ!? いきなりなんれすかっ!?」
「あんな嬉しいことを言われたんだ、お礼に抱きしめさせてくれ」
「まじゃ日も高いでしゅし、一応外でしゅよ!?」
それは性的に抱こうとしている時の台詞じゃないか?
「こうして抱きしめるくらいなら大丈夫だ」
「恥じゅかしいきゃら、らめえぇぇぇぇぇ……」
らめぇ、じゃない。こっちも今のは嬉しすぎて我慢できないんだ。悪いが気が済むまでこうさせてくれ。
「ほあぁぁぁ、超至近距離かりゃ旦那様の香しい匂いが漂っちぇ、これはこれでえぇぇぇぇ」
恥ずかしさで混乱してるせいか、本音がダダ洩れだぞ。
だけど今はそんなことすら気にならない。
まだまだしっかりギューっとしとこう。
「もう駄目です、私もお返しにギューしたくなっちゃいました。ギューッ!」
くっ、向こうからさらなる密着だとっ!?
段々と冷静になってきたところへ、思わぬセリカからの反撃でグイグイボヨンボヨン押しつけられる胸を、意識せずにはいられないじゃないか。
おそるべき反撃だ、また嬉しくなってきて離れたくなくなってくるじゃないか。
このままじゃキリが無いぞ。
「失礼します。収穫の方は……失礼しました」
菜園に顔を出したトルシェさんが、表情一つ変えず一礼して去って行った。
うん、これでキリがついた気分になって冷静になれた。
「収穫を続けるか」
「はい……」
抱擁を解いて中断していた収穫を再開。
その際の、特に変な場面を見られたわけでもないのに、恥ずかしさで赤面しているセリカの様子は一層かわいとおしかった。
*****
厨房で無駄に優しい表情で出迎えてくれたトルシェさんへ今日の収穫物を渡し、休憩しようと茶葉と紅茶を淹れる道具一式をリビングへ向かっていたら、正面から義母上が満足そうな表情で帰ってきた。
機嫌が良さそうにスキップしてるから、圧倒的存在感の胸がゆっさゆっさだっぷんだっぷんと上下左右へ縦横無尽に揺れる揺れる。
「おかえりなさいませ、お母様」
「たっだいまー!」
立ち止まっても余韻でボインボインと揺れる。
実に見事です、ありがとうございます。
「その様子だと、あの場所は満足してもらえたんですか?」
「ええ、無事にね。その後でブロッサムが転移して仲間を呼んで来て、ドライアド七十三人が移住完了よ。魔力量の関係でそれぞれが別々の位置に出ちゃって、集合するまでが大変だったけどね」
それは大変だったろうな。
あいつがいないこいつがいない、あの子はどこ行ったとか大慌てて探していそうな光景が目に浮かぶ。
「そうそう、家を造る様子を見させてもらったんだけど凄かったわよ。辺りの木々が何十本も地面に沈んでいったと思ったら、それが地中で一つになったかのようにとても大きな樹木がどーんと生えてきて、それ自体が家だったのよ。中を見させてもらったら、彼らの体に合わせてか部屋は小さいけどなかなか良かったわよ」
なにそれ凄く気になる。
家の中よりも、家を作る工程の方がずっと気になるから見てみたい。
「ところで、二人はなにしてるの?」
「課題と菜園の手入れと収穫が終わったから、休憩するところ。課題は執務室の机の上に置いてあるよ」
「あら、だったら私も休憩しようかしら。課題は後で目を通すわ」
というわけで休憩するリビングへ移動し、「加熱」で温めたお湯に茶葉を入れて軽く「撹拌」しながら「抽出」で紅茶を作り上げたらカップへ注ぎ、セリカ用のミルクと義母上用のハチミツを添えてテーブルに置き、三人でそれを飲みながら休憩を過ごす。
ちなみに俺はレマンの果汁入りを少量加える。
「なんにしても、移住が正式に決まって実行されたし、村長への説明とブロッサムからの挨拶も済ませたから、シオンは午後から向こうでの作業を頑張ってね」
「……はい」
移住が決まったということは、ドライアド達のために土をかき混ぜなくちゃならなくなった。
それがあるからこそ移住してくれたんだから、準備するのが筋ってものだ。
とはいえ、どれだけ耕すことになるやら。
「旦那様、私も同行しますから頑張ってくださいね」
「任せておけ」
セリカが一緒に来るとなれば、それだけで元気千倍だ。いくらでも耕してやるぜ。
「肥料に必要なものはドライアド達が集めているから、安心していいわよ」
「いっそのこと、調理魔法での農業を練習している方々も連れて行きますか?」
「いや、今回はドライアド達が住む範囲だけだし、彼らは俺が作った土を求めているから俺だけでいいよ」
「そうね。彼らが土地整備ついでに耕す練習をするのは、ドライアド達が住む場所以外の方が良いわね」
土壌改善計画で俺が手を加えた土があるからこそ、ドライアド達はここへの移住を決めた。
だったら、それに応えて土を用意する義務が俺にはある。
他の人達がそこを担当するのは、ドライアド立会いの下で腕前が認められてからだな。
そうだ、ならいっそのこと。
「義母上。ドライアドに頼んで、練習の場に立ち会ってもらいませんか? ドライアドなら土の状態を見抜けますし、俺以外の人があの土を作れるようになる練習だと伝えれば、協力してもらえるのでは?」
「良い案ね。それに、ドライアドからの合格が出れば調理魔法での農作業をやっていいっていう基準も作れるし、賛成だわ」
よし、賛成してもらえたのなら善は急げだ。
「ドライアド側には出向いた際、俺達から打診してみます」
「それで色良い返事がもらえたら、明日にも私から農業組合に話を通しておくわ。調理魔法での農作業に興味がある人は、組合に相談しているらしいから」
先送りになっていた新規開拓が一気に進んだだけでなく、調理魔法での農作業にも明確な基準が作れるようになるかもしれないなんて、ドライアドが来てから一気に流れが変わったな。
その切っ掛けが土壌改善計画なんだから、世の中っていうのは分からないもんだ。
「じゃあそういうことで、午後もお願いね。私はその間に課題の採点をしておくわ」
今回は結構頑張ったけど、義母上の採点は辛いからなぁ。
いや、単に俺の考えが甘いだけか。
領主になるための勉強は楽じゃないよ、本当に。
「そういえば玄関でサラに聞いたんだけど、あなた達菜園で何してたのかしら?」
菜園って……あの抱擁かっ!?
というかサラさん? まさかトルシェさんが話したのか!?
くっ、秘密にしてくれとは言ってないし、秘密にするほどのことでもなかったとはいえ、いざ喋られて広められていると滅茶苦茶恥ずかしい。
厨房では分かっていますよ、なんて言っていそうな無駄に優しい笑みを浮かべていたのに、サラさんに話してそこから義母上にまで伝わって、今はその義母上からニヤニヤ笑顔を向けられてるよ。
恨むのは筋違いとはいえ、恨むぞトルシェさん。
「ねぇ~、何してたのよ。ママ気になっちゃう」
ニヤニヤ笑顔で身を乗り出す義母上は、絶対に分かって言っている。
そして身を乗り出したことで、圧倒的存在感の胸が間近でプルンプルンと揺れて実に眼福だ。
「へ、変なことはしてません!」
「それは分かってるわよ。なんであんな所で抱き合っていたのか、それを聞いてるんじゃない」
真っ赤な顔で反論するセリカに対し、義母上は余裕の笑み。
こりゃ駄目だ。明らかに義母上の方が優勢で、弄られるのが目に見えている。
「いやー、若いわね。日も高いうちから、しかも外で抱き合うなんて。私がいないからって、妙に滾っちゃった?」
「ですからぁっ!」
半泣きで違うんですと主張するセリカが前のめりになり、すぐ横で存在感抜群の胸が義母上に負けじとプルンプルンと揺れて、実に素晴らしい。
「シオン、あなたから何か言うことはある?」
「とても嬉しいことを言われたので、抱きしめられずにはいられませんでした。後悔は全く、これっぽっちも、欠片もしていません」
「旦那様ぁっ!」
本当のことを正直に言ったら、セリカからポカポカ叩かれる。
なんで叩かれるのか分からないけど、その様子がかわいとおしいから気にしない。
そして義母上は大爆笑。前のめりになったかと思えば、倒れそうなほど背もたれに身を預けて仰け反って笑っているから、またも圧倒的存在感の胸がバインバイン、いやバッインバッインと揺れている。
動きが大きいから、揺れ自体もとても大きい。
「いやー、清々しいほど潔くて笑えたわ。で? で? 何を言ったのよセリカ」
「えと、その、それはですね……」
「一番の贅沢は俺と結婚できたことだって言ってくれたんです」
「だんにゃしゃまあぁぁぁぁっ!?」
だって本当のことじゃん。
またも真っ赤になって涙目のセリカからはポカポカされ、義母上は腹を押さえての大爆笑。
極愛の妻はかわいとおしいし どっちも動きが大きいからプルンプルンとバッインバッインが夢の共演を果たした。
なにこの光景、天国を越えた聖域か?
こんなのを見れた上に、かわいとおしい嫁を貰えたんだから俺も俺で贅沢してるな、うん。
「確かに贅沢ね。この領地の未来に光明を差してくれた切っ掛けは、どれもシオンだものね。そんなシオンを夫に迎えて愛されているセリカは贅沢者よ。だったら母親で領主の私はそれに次ぐ贅沢者かしら?」
そう受け取ってくれても過言じゃないと思う。
所詮俺がやったのは切っ掛け作りと現地での作業だけで、それの指揮を執っているのは義母上なんだから。
これで領地が発展したら、その功績は指揮を執った義母上が六で俺が三、残る一は協力してくれた領民達ってところかな。
「あ、愛され……」
ポカポカを止めたセリカが真っ赤な頬に手を添えて恥ずかしがっている。
実にかわいとおしいから、頭を抱き寄せて頬ずりしたい。
「なら、その贅沢が夢物語にならないよう、午後の作業も頑張りますね」
「ええ、お願い。それと課題の解答に反省点や問題点があったら、夕食後に反省会をするからね」
「……はい」
義母上の反省会は厳しいから、避けられるものなら避けたい。
もう提出したから見直しすらできないけど、どうか反省点や問題点が少ないことを願う。
そう思いながら紅茶を飲みながらの休憩と昼食、食休みを挟んだらセリカとドライアド達の下へ向かう。
村の囲いの外側にあるドライアド達の移住地へ向かうと、以前に新規開拓の予定地として視察した時のような光景は無く、拓けた土地に樹木の家が何本も生えてドライアド達が行き交っていた。
「あの土地が、こんな風になっているなんて……」
「義母上の話通りにあの家を作ったなら、こうなるのも当然か」
複数の木を使って一つの樹木の家をいくつも作ったんだから、木が減って土地が拓けたのは不思議じゃない。
さらには木を切り倒して家を作る手間が省けたのは、領地を治める側としては時間と人手と費用の削減になってとても助かる。
ドライアドは生態こそ謎だらけだけど、土地の開拓にはこれ以上ないほど貴重な戦力だ。
「おっ、来たなシオン殿。それにセリカ殿も。待っておったぞ」
既に半ば集落と化しているドライアド達の居住地を見ていたら、ブロッサムさんが現れた。
「待たせてすまない」
「なぁに、気にしておらんのじゃ。それよりも早くあの土を作ってほしいのじゃ。肥料に必要な物は、十分そろえておいたぞ」
「分かった。でも作業に取り掛かる前に、ちょっと話がある」
「ほう? なんじゃ?」
話っていうのは義母上に提案した、調理魔法での農作業の練習への立ち合いだ。
最初は何故かって表情をしていたブロッサムさんも、この地を俺が存命している間の繋ぎにする必要が無くなること、自分達が求める土の質を自分達で管理できること、今後ドライアドの数が増えてもそれに対応できるだけの人材と人数を育てられること。これらの有益な点を説明したら表情を明るくした。
「よかろう、協力するのじゃ! 他の者達には我から伝えて。協力者を募っておこう!」
うし、快諾を得られたぞ。これで田畑やドライアド用の土の品質を保つことができる。
「頼む。練習開始の日取りが決まったら、また連絡する」
「分かったのじゃ!」
お互いに合意したらしっかり握手を交わす。
セリカ、これは友好の握手だから不機嫌そうにむくれないでくれ。
それはそれでかわいとおしいけど、いつまでも握手をしている訳にはいかないから手を離し、ここへ来た本題へ取り掛かる。
「じゃあ、土作りをしよう。どこでやればいい?」
「場所は決めておいたのじゃ。まずはこっちからじゃ」
「ああ。行くぞ、セリカ」
先導するブロッサムの後に続く前に、セリカに手を差し伸べる。
「あっ……はい!」
一瞬反応が遅れつつも、笑顔で手を握ってくれた。
うん、やっぱりセリカは笑顔が一番かわいとおしい。
改めてそう思いながらブロッサムの後を追い、周囲のドライアド達からの視線を浴びながら作業現場へと向かう。
ドライアド達は誰もが褐色肌で髪の色が緑系だから、肌と髪の色は種族的な特徴なのかな。
注目を浴びながら連れて来られたのは、公衆土浴場と書かれた大きな看板が掲げられ、出入り口には準備中の札が掛けられた、囲むには数十人は必要そうなとても太い樹木の家。
まさかここって、全裸で土の上に寝転がるための場所か?




