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原因解明


 前日にエルフの集落の復興作業の様子を確認しに行き、その際にエルフの長と話しあった復興計画における資金運用と、必要な資材の手配について義母上から教わっている時に一報が届いた。

 作物が変貌した原因の解明に成功したケルムさんが、それを伝えに来たと。

 早速待たせているというリビングへ向かうと、尻尾を大きく振って嬉しそうに飛び跳ねるケルムさんの姿があった。

 よほど熱心に調査し続けたのか、また服がヨレヨレで靴が泥だらけだ。


「わっふぅ~ん! 領主様、分かりました! 作物があんなことになった理由が、分かりましたよ!」


 ウサギじゃなくて犬の獣人族なのに、どうして飛び跳ねているのかは聞かずにおこう。

 そんな彼女の様子に、既にリビングにいるセリカは苦笑していた。

 惜しむらくは飛び跳ねるのに合わせて揺れているのが、胸でなく三つ編みの髪だということか。


「報告はちゃんと聞くから、まずは落ち着きなさい」

「あおぉん。失礼しました」


 飛び跳ねるのを止めたケルムさんが深呼吸している間に、俺と義母上も着席。

 紅茶の用意をしていたサラさんが紅茶を置いた頃には、ケルムさんは落ち着いていた。


「お待たせしました。では、ご報告させていただきます」


 佇まいを直したケルムさんはとても真剣な表情になり、足元に置いた鞄から資料らしき紙の束を取り出す。


「結論から申し上げます。おおよそ見当は付いているでしょうが、原因は土壌改善計画で施した作業に間違いありません」


 それはもう確定的事実だから、誰も異論は無い。

 問題はそれによって何が起きて、あんな育ち方や品質に至ったかだ。


「では作物に影響を与えた要因が何かというと、魔力です」

「魔力?」

「はい。魔力は人だけでなく、大地や水や空気や植物といった自然や、魔物や動物や虫や魚にも存在します。つまり、死者でない限りはどんなものにも魔力は微量ながら存在します」


 それについては俺も知っている。

 実家にいた頃に読んだ本にそうあったし、期待されていた頃に魔法に詳しいお偉いさんから聞いた覚えがある。


「ところが、土壌改善計画を施した土と肥料とそれで育った作物を調べると、通常とは異なる未発見の魔力が存在していたんです。比較のために回収した、土壌改善計画を施していない土と肥料と作物からは確認できないかったので、今回の件の原因はこの魔力によるもので間違いないかと」


 通常と異なる未発見の魔力だって?

 というか、ちょっと待った。


「待ってくれ。ケルムはどうやってその魔力を見つけたんだ?」

「ああ、お伝えするのを忘れてましたね。私が授かったのは視認魔法です。これで魔力を視認しました」


 なんだ、そういうことか。

 追加情報にセリカも義母上も納得して頷いている。

 視認魔法は、通常なら目に見えないものを見れる魔法。

 この魔法はケルムがやったように魔力を見るだけでなく、植物の中の水流や血管内の血流、内臓の状態まで見られるようになる。

 そのため、これを授かった人は研究者や医療従事者になることが多い。

 ちなみに透視とは違うから服だけ透かすなんてことはできないから、安心安全だ。


「話を戻しますね。これを発見してすぐ、土壌改善計画を施した畑と田んぼから可能な限りサンプルを集めて調べた結果、その全てから同種の魔力を発見しました。これは今までに確認されていない、第三の魔力と呼ぶべき魔力です」


 第三の魔力って、それって魔力は現状二種類あるってことか?

 これからの説明のためにケルムさんが教えてくれた内容によると、現在確認されている魔力は二種類。

 一つは自然や生物に宿る魔力、もう一つは魔法という力へと変換されている時の魔力。

 研究者の間では、前者を自然魔力、後者を魔法魔力と呼称しているらしい。

 そして魔法魔力は魔法の使用を終えると周囲へ霧散するように広まり、僅か数秒で自然の中に溶け込んで自然魔力へと変化する。


「これが現在確認されている魔力と、その流れです」

「でも、今回発見した魔力はそのどちらでもなかったのよね?」

「はい。私が視認魔法で見て資料で調査したところ、自然魔力の性質と魔法魔力の性質が混ざり合った魔力です。仮称するとしたら、混合魔力でしょうか」


 混合魔力ね。まんまだけど分かり易くていいや。


「土壌改善計画による作業を施した畑の作物を収穫せず、視認魔法で直接調べたところ、地面から混合魔力を取り込んでいる様子を確認しました」


 土壌改善計画を施したことで、混合魔力が蓄えられた土と発酵させた肥料。

 植えられた作物の苗や種は、この土と肥料から養分や水分と一緒に、この混合魔力を取り込んでいるとケルムさんは述べる。


「自然魔力と比べると、取り込んでから吸収するまでとても時間が掛かりますが、それによって魔法魔力の性質を吸収したことが今回の現象に繋がったようです」


 吸収するまでに時間が掛かるから、途中までは普通に育っていたのか。

 そして吸収し終えると、急激な成長を成し遂げた。


「吸収する速さは私が視認魔法で確認したので、間違いありません。混合魔力が吸収される速さは、自然魔力の吸収と比べて数十倍遅かったです」


 数十倍も遅いのなら、途中から急激に成長したのも納得だ。

 成長させる要素が後から入ってくるんだから。


「なるほどね、筋は通っているわ。でも魔法魔力の性質が、どうして作物の成長や品質の向上に繋がるの?」

「これは以前いた研究機関の資料室にあった、とある論文にあった理論からの引用なのですが……」


 落ち着くために一拍置くように、ケルムさんは眼鏡の位置を直す。


「魔法というのは、通常ではできないことを実現する力。昨日までは手から火を出せなかった人も、火魔法を授かれば今日から手から火を出せる。それはつまり、通常ではできないことを魔法によってできるように成長したということ。その魔法の残滓である魔法魔力が自然魔力へ戻る前に回収し、魔法魔力の状態を維持したまま取り込むことができれば、人はさらなる成長ができるのではないか」


 ということは、魔法魔力には成長を促す可能性があるのか?

 それを取り込んで時間を掛けてでも吸収したから、作物があんなことになったと?


「先ほども言いましたが、魔法魔力は僅か数秒で自然魔力に変化するので、この理論は検証しようのない推論、酷いと妄想とまで言われているそうです」


 実証どころか検証すらもできないのなら、そう言われても仕方ない。

 証拠が無ければ、証明しようがないんだから。


「ですがこの理論が正しいことを前提すれば、今回の件の説明ができます」


 成長を促す可能性を秘めている魔法魔力。

 その性質を持っている混合魔力を取り込んで吸収したことで、作物がことごとく成長した。

 確かに説明がつく。


「混合魔力はあくまで性質を持っているだけなので、正しいと証明できた訳ではありません。ですが、今後も研究する余地のある成果が今回の調査で判明しました」


 思わぬ副産物、ってところか。


「混合魔力には、他に何か性質はある?」

「そうですね。混合魔力も自然魔力へ変化する兆しを見せてはいますが、自然魔力の性質を併せ持っているためか、変化が極端に遅いんです。あくまで試算ですが、おそらく年単位の時間が必要でしょう」


 自然魔力への変化が年単位なら、月単位で成長する植物が吸収を終える方が早いのは当然だ。

 でも、待てよ?


「だったら混合魔力を摂取れば、さっきの理論は人にも当てはまるんじゃないか?」

「それは無いでしょうね」


 一刀両断かよ。


「人は腸から魔力を吸収できず、呼吸によって空気中の魔力を取り込んで肺から全身へ行き渡せます。なので混合魔力が含まれる物を食べても、体には吸収されないんです。空気中にあるのなら可能かもしれませんが、現実的に不可能でしょう」


 一刀両断されて当然でした、知らずに意見してごめんなさい。


「あの、そもそもどうして混合魔力というものが生まれたんですか?」


 小さく挙手して首を傾げながら尋ねるセリカがかわいとおしい。

 落ち込んだ気分が癒される。


「私もそこを疑問に思い、土壌改善計画で行った内容を再度調べてみると、土にも肥料にも「撹拌」という共通点がありました」


 そりゃそうだな。それで土を耕せたのが、土壌改善計画の原点だからな。


「ですので、ひょっとしたら「撹拌」によって土や肥料の素をかき混ぜている際に、自然魔力と魔法魔力が混ざり合って混合魔力となったのではないかと推測しました」


 んなアホなとは言い切れない。

 だって実際問題、共通項はそれくらいしか思い浮かばない。


「というわけでシオン様、検証のために目の前の紅茶へ「撹拌」を使ってみてくれませんか?」

「分かった」


 半分ほど飲んだ紅茶に手をかざす。


「撹拌」

「魔力視認」


 俺が「撹拌」を使うのとほぼ同時に、ケルムさんは「魔力視認」を使った。

 中身が零れないよう、静かにかき混ぜられ渦巻く紅茶。

 それをジッと眺めるケルムさんの垂れ下がっていた尻尾が、急にピンと上を向いて立った。


「おお、水と茶葉に含まれている自然魔力が、発動中の調理魔法の魔法魔力に触れて徐々に変質していっています。これは混合魔力に含まれていた、自然魔力の性質とよく似ていますね」


 じわりじわりとケルムさんが近づいて来る。

 やめてケルムさん、凝視しているのが撹拌中の紅茶なのは分かるけど、妻がいる身の俺にそんなに顔を近づけないで。

 極愛の妻セリカが、かわいとおしくムッとして頬を膨らませてるから。


「これ以上の変化はありませんね。魔法を解いてみてください」

「ああ」


 魔法を解除したら、席を立ってセリカの傍に立つ。

 すると黙って引き寄せられ、座ったまま腕に抱き着く。

 まるでこれは自分のだと主張する子供のようだけど、そんな態度もまたかわいとおしいから良し。


「紅茶内へ広まった魔法魔力が変質した自然魔力に触れ、取り込まれて変質していく。なるほど、自然魔力へ変化するのは周囲の膨大な自然魔力に取り込まれることで引き起こされる現象だから、カップ内という限られた空間で変質した自然魔力に取り込まれるで魔法魔力も変質し、混合魔力と化していくのね。しかも攻撃性のある魔法の回転が自然魔力を遠ざけるとに対して、「撹拌」はむしろ受け入れて混ぜ合わせている。だからこういった現象が――」


 なんかブツブツ言っていて少し怖い。

 だけどセリカがギューと抱きついているから、怖さが半減した。

 さすがは我が極愛の妻セリカだ。


「わっほほーんっ! 大発見、大発見ですっ!」


 うわっ、驚いたな。

 興奮した様子のケルムさんは、耳と尻尾を激しく動かしながら飛び跳ねている。

 だからなんで、ウサギじゃなくて犬の獣人族なのに飛び跳ねるんだ。その耳と尻尾は偽りなのか。


「こんな大発見をするなんて、夢にも思いませんでした! きゅう~ん!」


 あえて突っ込まずにはいたけど、その犬の鳴き声みたいなのは興奮すると出るんだな。

 説明している時は、これぽっちも出なかったから。


「シオン様、あなたのお陰で大発見ができましたっ! わっふぅ~ん!」


 ぶぉっ!?

 興奮して感極まったケルムさんに抱きつかれた。

 背丈は向こうの方が高いから胸元に顔が押し付けられているけど……硬い。

 柔らかさの欠片も無い、虚無の堅さだ。

 存在感が抜群なだけでなく、柔らかくて甘い香りがして適度な張りと弾力があるセリカの胸とは大違いで、無いが故の固さがここにある。

 それと、なんかちょっと臭う。

 よく見れば服のヨレヨレ具合がだいぶ酷くて、汚れが目立つ。

 対面初日と同じ服装なのはともかく、これはいつから着ていて、最後に体を洗ったのはいつなんだ?


「何やってるんですかっ!?」


 うおぅっ!?

 怒りの形相で席を立ったセリカによって引き剥がされ、抱きつかれた。

 そして虚無の堅さとは大違いの、存在感抜群の柔らかさに包まれる。

 ああ、やっぱりこの柔らかさは最高だ。

 しかも上書きするように摺り寄せてくるから、パフパフとした感触が伝わってきて実に素晴らしい。


「わふぅ、何するんですか」

「それはこっちの台詞です、人の旦那様に何やってるんですかっ!?」


 嫉妬してる様子までかわいとおしい。

 なんかこう、自分の物を取られないように相手を威嚇する猫っぽさがある。

 尻尾を立てて体毛を逆立て、シャーとか鳴いていそう。


「あっ、そうでした。申し訳ありません、あまりの感激につい。きゅう~ん……」


 頭と一緒に耳と尻尾も下を向く。

 そんな彼女に悪いけど、一言付け加えておこう。


「ちなみにケルム。最後に体を洗ったのはいつで、その服はいつから着ているんだ?」

「……あっ!?」


 その反応はなんだ、その反応は。

 大事なことでもないのに、思わず二回思っちゃったじゃないか。


「えっと……王都を出発する前日?」


 頭を自分で小突きながらウィンクをして、テヘとか言いそうな様子で舌を出す仕草は可愛らしいと思う。

 だけど言っていることは、正直引く。

 そんな相手に抱き着かれたのか、俺は……。

 異性に抱き着かれておいてなんだけど、やっぱり引く。

 どうりで服が酷くヨレヨレになっているわけだよ、あの日からずっと着続けていたんだからな。

 加えて体を洗ってもいなかったって、そりゃ臭うに決まってる。

 おまけにあんな虚無の硬さを押しつけるなんて、酷い目にあった。


「「……」」


 あまりの返答に義母上とセリカも言葉が出ないようだ。

 義母上は頭痛でも抱えているように頭に手を添え、セリカは信じられないものを見る目をケルムさんへ向けている。


「そ、そんな恰好で、旦那様に密着しないでください! いや、そんな恰好でなくとも、密着しないでください!」


 ケルムさんから遠ざけるように、ぐいぐい俺を引っ張って距離を取とろうとするセリカ。

 力が弱いから引っ張られないけど、その度にポヨンポヨンと胸が当たって幸せかつ、ムキになっている様子がかわいとおしいから、逆らわずに引っ張られてあげた。


「も、申し訳ありません……」


 気まずそうな表情になったケルムさんが頭を下げる。

 一応、反省はしているようだ。

 というか、臭いとか汚れとか移ってないよな? 服を確認して匂いも確認、よし大丈夫。


「結果を出したから不問にするけど、あなたはもう少し身だしなみに気をつけた方がいいわよ」


 呆れた口調の義母上に頷いて賛同する。

 セリカも頷いて、その際にふわふわの髪からケルムさんとは大違いの甘い香りがした。


「そんなことを気にしている暇があったら、研究をしたいんですが」

「い い わ ね ?」

「きゃいーん! 分かりました!」


 怒りのオーラを発しながらの言葉に、果敢に反論したケルムさんは恐怖で表情を引きつらせながら同意した。

 うん、あれは逆らえない。


「とにかく話は分かったわ。報告は以上かしら?」

「は、はい。混合魔力は撹拌によって生まれたと、確認できたので」

「なら、村長や農協組合、それと商人ギルドのギルド長にも同席してもらった上で、改めて説明会を開くからもう少し内容を詰見直してもらえるかしら? 解説が分かり辛かったり、説明の順序を変えた方が良いと思う箇所があったから」

「分かりました!」


 しなくてもいい敬礼をしながら同意した。

 どうやらケルムさんの中では、義母上は完全に上位者になったようだ。

 これは犬の獣人族だからこその反応か?


「だったら早く帰って、まずは体を洗って服を着替えなさい。改めての説明会は、あなたの作業が終わってから開くから、慌ててやらなくてもいいわよ」

「はい!」

「それと、次はちゃんとした格好で来なさいね?」


 義母上、笑顔なのに迫力が怖いです。

 セリカも怖がって口を半開きにして震えて、当たっている胸がプルプル震えています。


「承知しました! では、失礼します!」


 資料を鞄に押し込んだケルムさんが、嵐のように勢いよく退室する。

 それを見届けた義母上は、怖い迫力を引っ込めてこっちを向く。

 悪いことはしていないのに、セリカと一緒についビクリと体が跳ねてしまう。


「シオン、もし気になるなら着替えてらっしゃい。その後は、執務室へ戻ってさっきの続きよ」

「あっ、はい」


 うん、これからは義母上を怒らせないように気をつけよう、そうしよう。

 一旦部屋に戻って着替えている時、ついそれをセリカの前で呟いてしまったけど……。


「そうした方がよろしいです! お母様は怒ると、本当に怖いので!」


 胸がたゆんたゆんと揺れるぐらい、体を揺らしながら何度も頷いて同意するセリカの表情がやたら必死だから、どんだけ怖いんだろうと少し気になった。

 だからといって、怒らせてみる気はしない。だって怖いもの。


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― 新着の感想 ―
[一言] ケルムさんは嬉ションするんじゃないかと心配になるなぁ 跳ね回るくらいだから相当に興奮してるだろうし
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