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さぁ、百鬼夜行を始めよう  作者: 一等ダスト
サブルバーナ平野の戦い&神器『生くるダンジョン』編
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23.こうして異形は少し、認められ

 空に浮かぶ大きな眼は神の化身が、"生くるダンジョン"が破壊されたことを確認すると、すぐさま瞼を閉じて消えて行った。ほぼ同じくして、気絶していたこの世界の生命たちが目覚め始める。

 王国軍も、シェダリス三世も、祝聖聖騎士NO.3のカーリヤも、目覚めて最初にみたのは大空を駆ける蒼き星だった。長く尾を引くその星から少し上空には、燃え尽きていく神の化身の姿がある。あの星が化身を打ち砕いたのだと言う確信と、どこか安心するその淡く綺麗な光は一瞬にして、見る者の心を奪った。

 星が落ちる。それが本当は何であるのかを確認するために、王国軍が動き始めた。

 一方、もはや満身創痍な四人パーティーは誰もが地に伏して一言も喋らない。ただ確かにある満足感が、無言でも充分だと知らせてくれる。

 それでもやはり、冒険には締めくくりが必要なのだ。神の化身にトドメを刺した勇者はよろよろと立ち上がると、他の三人の中で唯一動けるまで回復したヴァリスの手を取った。

 それから、砕け散った聖杖ミュライアを確認して顔を真っ青にしている聖女と、利き腕が使い物にならなくなっている王国親衛隊を集めて勇者は、最初の一言を発した。

「いやぁ……楽しかったなぁ!」

 化身とは言え神を打ち倒した男の言葉は、取りようにとっては不謹慎な言葉だったが、彼は心からそう言った。

「……そうですね。何だかんだ、楽しかったです」

 何か言いたげな間はあったが、続けてエイラメインが同意する。だがその流れをサミアーナがぶった切った。

「皆さんとの冒険は楽しかったですけど、今の私は全く楽しい気分じゃないですよぉ!聖杖を失った責任が……良くて死罪?悪くて死罪?もう私、詰んでます……」

「あ、ならウチに逃亡して来る?いつでも歓迎するぞ」

 ヴァリスが気軽にそう誘うとサミアーナは嬉しそうに顔を綻ばせたが、すぐに少しだけ寂しげな表情を浮かべて誘いを断った。

「どうあれ私は聖女ですから。聖杖を失った責任は、とらなければなりません」

「変なところで真面目だな、聖女様は」

「え?変なところじゃなくても始終真面目なタイプの聖女ですが?どういう意味ですか、エイラメインさん?」

 さぁてね、とエイラメインは肩を竦めた。

 レインは辺りを見渡し、自分たちに近づいてくるヴァリスの仲間たちや、王国軍の騎兵の姿を認めた。それから、悪戯っ子のようににんまりと笑い、そのちょっと不気味な笑顔をヴァリスに向ける。

 何だ?何とも言えない奇妙な予感がして、新興勢力の主は眉を顰めた。程なく、レクカインは声を張り上げて言葉にした。

「我が名はレクカイン・ラズリット!ラズリット王国初代国王にして、勇者や英雄と呼ばれる存在である!」

 その言葉を聞いた人間たちの間にどよめきが起こる。勇者を騙る者はこの世界に数えきれないほど居るが、レクカインであると堂々と名乗る度胸のある者はそうはいない。朗々とした自信満々な響きはその名乗りに真実味を持たせ、王国軍はすぐに先ほど天空で起こった神の化身殺しを連想する。

 そんなことが出来るのは、ほんの僅か。レクカインなら確かに、それをやり遂げることが出来るかもしれない。

「この声が聞こえる人々にまずは告げたい。"生くるダンジョン"への対処、真に苦労を掛けた。私が一人でこの神器を攻略できていれば、当世の人々に負担を掛けずにすんだのだと思うと、自分の力の無さに対する無念で一杯だ。だがしかし、ここに"生くるダンジョン"は討ち果たされた。これより後にこの神器が、世界を苦しめることはなくなったのだ!」

 皆、聞き入っていた。その人物がレクカインと名乗れるだけの威風を持っていることもそうだが、今回の騒動の経過を、結末を聞きたかったのだ。

「だがそれは、私の功だけではない。龍瘴の森の主であるヴァリス。シェグルダール王国の親衛隊長であるエイラメイン。レバリス教の聖女サミアーナ。彼らが居なければ、"生くるダンジョン"の攻略は不可能であった!」

 長めの間を作る。その間に、馬に乗ったシェダリス三世が駆けつけてきた。一国の王のその目は、勇者に対する憧憬に溢れたものであった。

「いや、三人だけではない!イグルマルグイ神の権能を受けて皆が意識を失う中、魔物の襲撃を退けてくれたのは彼らだ!」

 レクカインはそう言ってヴァリスの仲間たちを見つめ、掌を横にしてそれを彼らに向けた。

「彼らも功労者だ!その姿形は確かに人とは違うものだ。だが、神の化身の脅威に立ち向かってくれたことを決して忘れてはならない!」

 今度はヴァリスの仲間たちが騒ぎ始める。まさか自分たちについて言及されるとは思っていなかったのだろう。それも、良い方向で。

 一斉に人間から視線が注がれる。が、それはこれまで向けられていたものとは少し違った色合いを持っていた。恐怖、嫌悪そう言った負の感情とは少し違うそれにむず痒さを覚え、そして化け物たちは戸惑いを浮かべる。

 自分たちはただ、思うがまま敵に暴威をぶつけただけなのだ。なのに何故、こうも奇妙な視線を向けられるのだろう。

「彼らもこの大陸に生きる存在だ!脅威に対し、共に立ち向かうことは出来るのだ!手と手の形は違っても、握り合うことは出来るのだ!今でこそ龍は人の間で信仰されているが、彼らも元々は人とは在り様も姿も違う異形の近寄りがたき存在であった。自分とは違う。ただそれだけで言葉を交わさない理由にはならない!私は共に戦ってくれた彼らに、敬意を表する!」

 そう言って勇者は異形の存在達に頭を下げた。

 ヴァリスはレクカインのつむじを見つめながら、なんてことをしでかしてくれるんだ、と少し怒っていた。同時に、勇者よりも役者の方がお似合いなんじゃないかと少し呆れてしまう。

 レクカインは深めに息を吸った。敵が居なくなったことで、『絶対勝利のやり直し』の力が体から消えて行くのを少し前から感じていた。今ここに立つ自分は、人間では耐えきれない時の流れと、肉体の限界が一気に押し寄せる前の泡沫。すでに死んでいる存在が、スキルの残り香によって何とか動いているだけなのだ。

 そしてそれももはや限界。これ以上大声を張り上げられそうにないので、レインはくるりと身を翻した。

 仲間たちの元へと戻る。彼は亀裂だらけの魔剣の柄頭を、他の三人に見せた。

 杖を失ったサミアーナのグーの手が伸びる。続いてエイラメインが"三残湾刀"の柄頭を。そしてヴァリスが、大きな拳を。

 それらは一斉にぶつかり、不協和音をもたらした。

「ありがとう」

 レインは楽しかったダンジョン攻略を思い浮かべながら、礼を言った。ほんの一週間。その間に、どれだけ自分が彼らに救われたのか、どれだけ楽しかったのか、伝える余力もない。既に口を開けるだけでつらいのだ。それでも、どうしても伝えたかったことを、最期に三人へ伝えることが出来た。

「俺にとっては、君たち三人こそが勇者だったよ」

 大衆には勇者として、三人にはただの仲間として。

 風が吹く。その瞬き一つ分の間に、勇者の姿は何の余韻もなく、消えていた。



 一か月後。

 大陸の状況は一変していた。シェグルダール王国は、ヴァリス率いる新興勢力に謝罪と感謝を述べ、彼らが龍瘴の森に領地を持つことを正式に認めた。

 今回の戦争の引き金を引いたオルマント・ジェイバム伯爵には、サロイザースに賠償金の支払いと貿易品の関税に特恵を与えること、ホセナド川の関所の管理をサロイザースに譲渡すること、その他細々とした要求をされた。だが、命までもを求められることはなかった。

 ヴァリス率いる新興勢力に対する賠償は、意外にもそれより遥かに軽かった。サロイザースに払う額より少ない賠償金の支払いと、ガルドオズムでの出店と営業に許可を出すこと。

 ただそれだけだった。

 レクカインによって強引に向上させられたイメージを崩したくない、と言う思惑があったのかどうかはさておき、その条約は素早く締結された。現在シェザーシャがガルドオズムへの出店準備を主導していて、早ければ二か月後には開店するようだ。サロイザースに開かれたお店も繁盛しており、また体を壊さないかヴァリスは少しだけ心配している。

 聖杖レバリス教国でも動きがあった。聖杖ミュライアを失った責任を問われたサミアーナだったが、勇者レクカインに名指しでダンジョン攻略の功を言及されこともあり、その評価は二分されることになった。彼女を非難する信徒も多かった。だが、そもそも聖杖ミュライアを国外に出すことを許可した枢機卿たちに非難が集中したのだ。そこに何者かの思惑があったのか、それは分からない。あったとしても、明るみに出ることは無いだろう。

 八都市連盟の諸都市も、それぞれの思惑通りに動いた。サロイザースの代理領主となったリーダス・ラドップは、他の諸都市との関係改善のために奔走しているが、その成果は芳しくない。背後に居ると思われている新興勢力の存在はそれだけ、他の諸都市にとって脅威なのだ。だが、ただの化け物たちの集団と言う認識から脱却しつつある彼らと親交を持とうと言う都市も増えてきており、サロイザースの先行きがひたすら暗いわけではない。どうなるかは、新しい代理領主次第だろう。



 ヴァリスは手製の小さな船の上に、酒を置いた。

 サロイザースの港から、その小さな船が出航する。遺体すら回収できなかったオクト・ラズームに対する彼なりの手向けだ。頼りない船だが、オクトと親友たちが再開することを信じて彼は踵を返した。

 目も回る激動に、彼は少々ついていけなくなっていた。そろそろ龍瘴の森の奥地の探索や拠点の開拓に専念したいと考えている。

 しかし、それは中々許されないだろう。全てはレクカインのあの行動のせいだと憤慨しつつも、ちょっとばかし笑む。

 彼にとっても"生くるダンジョン"での冒険は、悪くない記憶となっているようだ。

 レクカインは本当に勇者だったのか。改めてヴァリスは考えてみたことがある。

 彼はレクカインについて書かれた英雄譚、評論、物語の幾つかに目を通した。だが、ピンとこない。そこに書かれている人物は常に堂々していて、常に敵より先んじ、常に先見の明がある大人物だった。

 これが、一般的な民衆がレクカインに抱いているイメージなのだ。そしてそのイメージは"生くるダンジョン"を完全に破壊したことにより、更に確固たるものになるだろう。

 だがヴァリスの頭の中に居る男は、常に迷っていた。常に自分を卑下し、英雄ではなくただの冒険者だと自嘲していた。

 きっとレクカインはこの先も、民衆にとっての大きな希望として語り継がれていくだろう。

 ならせめて、自分はあの迷い続けていた、ただの冒険者を覚えておくとしよう。

 ヴァリスはそう思いながら、サロイザースの大きな道を歩いていくのだった。

ここまでの読了、ありがとうございました。キリ良く終わったので「さぁ、百鬼夜行を始めよう」は一旦ここで完結させようと思います。

この初めての連載小説で頂いた評価とブックマーク登録が、自分が拙作を書き続ける原動力となっていました。妖怪や『百鬼夜行』のスキルをうまく活用させられなかったり、設定に矛盾だらけだったりと目も当てられない惨状だったと思いますが、それでも下さった評価とブックマーク登録に、心から感謝しております。拙作がもしまた目に留まりましたら、一読頂ければ大変うれしく思います。

本当に、ありがとうございました。

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