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さぁ、百鬼夜行を始めよう  作者: 一等ダスト
サブルバーナ平野の戦い&神器『生くるダンジョン』編
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1.ヴァリス・サロイザース異種連合軍①

「みんな、聞いて欲しい!」

 龍瘴の森に、ヴァリスの朗々とした声が響き渡った。すでに、彼の仲間たちが周囲に集まっている。妖怪、魔物、エルフ、ドワーフ。全く統一性のない集団だが、毎日睨み合いをしつつ、気が付けば勢力の立ち上げからもう半年以上が経過していた。

 その間彼らは、人間に対して友好的とは言えないまでも、ほとんど危害を加えたことはなかった。しかし、異形の存在とはただ居るだけで憎まれるもの。だからこそ起こったと思われる今回の戦争にあたり、自分たちがどう立ち回るべきなのか。ヴァリスはあまり回転の良くない頭で考えていた。

「俺たちは、ガルドオズムから宣戦布告を受けた。これから奴らと、戦争をすることになる!」

「「「ウォオオオオオォォオオオォォォ!!!!」」」

 スケイルメイルを身に付けたコボルトやオーク、ゴブリンが一斉に雄たけびを上げた。『従属登録』を終えた魔物たちには、ヴァリスが言っていることが何となくではあるが伝わるのだ。彼らはみな意気軒昂としており、元々戦うことが生活の一部であった魔物たちらしい反応だ。

「俺たちはこの半年間、理性的に過ごしてきた!」

 そうだっけ、と妖怪や魔物が目くばせした。が、口を挟むことはしない。勢力の主がそう言うなら、そうなのだろう。

「だが結局、言われなき汚名を被せられ、戦争に巻き込まれることになった!むかつくよなぁ!許せないよなぁ!」

 そうだそうだ、と同意する声と魔物たちの大声があわさり、この場はヒートアップしていく。主の声一つで凶悪で強大な集団となりえるこの勢力の恐ろしさを肌で感じているシェザーシャは、これからどうなるのか不安で仕方ない。

「それじゃあぶったおすか!全部破壊して、皆殺しにして、全て奪って、スッキリするか!」

 意外にも、ここで主の意見に素直に同意の歓声を上げたのはおよそ半数だった。残りの半数は、それが本当に主の求めていることなのかと疑問に思うものや、それを好まないもの、そこまでしなくてもと思うものたちだ。驚くべきことに、魔物の中にさえほんの僅かながら歓声を上げていないものがいるようだった。

 ヴァリスは全ての反応を見渡し、一度落ち着くよう動作で示した。

「俺たちが戦うやつらは、俺たちの事をそう思ってやがるんだ。龍瘴の森の奴らは、破壊や、殺しや、略奪……そんな事しか出来ないと思ってやがるんだ」

 拳に力を入れ、憤る様に自らの大腿部を叩く。それから新興勢力の主はますます声に力を入れた。

「だが俺は知っている。コボルトたちは足が速くて、踊りや楽器の演奏なんかが得意だ。ゴブリンたちは手先が器用で、作った木彫りの人形はすごく趣深い。オークたちは嗅覚が優れていて、作ってくれる料理のようなものは美味しい。妖怪だって、それぞれ得意なことがある。エルフも、ドワーフも。俺たちは、破壊しか、殺ししか、略奪しか出来ない集団じゃない」

 全員の視線が、ヴァリスに集まって行く。ヴァリスは、自分が口が回る方ではないと自覚している。だから彼は、率直に思っていることを伝えた。

「俺は、それを知ってもらいたいと思っている。俺たちの中でだけじゃない。俺たち以外の存在に、だ。そのために、無駄な殺しや、破壊や、略奪なんかはしないようにしてもらいたい。そしてそれが出来そうにないものは、ここでこの拠点を守って欲しい!頼む!」

 言い終わって龍瘴の森の主は頭を下げた。周囲のものたちは顔を見合わせている。どのような答えが返ってくるのかヴァリスは不安だったが、不思議と結果が何であろうと受け入れる心の余裕があった。

 咆哮。頭を下げたヴァリスの耳にまず最初に届いたのは、コボルトリーダーの一咆えだ。彼は己の主に近づき、その両肩を掴んで軽く揺さぶった。

 ヴァリスが顔を上げる。それを待っていたとばかりに、音の波が襲う。歓声、嘶き、武器がぶつかる金属音。全員、と言うわけではない。だが、大多数がヴァリスに同意を示した。



「大将、それでは拠点は儂が預かります。ここに残ることにしたものの面倒も、任せて下さい」

 太三郎狸はそう言ってポン、と腹を打った。

 戦力的に言えばヴァリスの次である太三郎が戦に居ないことは痛手だが、拠点が襲われる可能性があることを考えると仕方がなかった。さらに言えば、拠点に残ると決めた者への重しとなる必要もある。太三郎意外に適任はいないだろう。

「それでも『百鬼夜行』には備えておきます。大将が不覚を取ることなどないでしょうが、何かあったら呼んで下さい」

「ああ、太三郎。頼んだ」

 そう言ってヴァリスはスキル『百鬼夜行Lv2』を使い、『百鬼夜行』に太三郎を登録する。登録した者を自身の周りに呼び寄せる『百鬼夜行』は、非常に強力な能力だ。

 ただ、対象がヴァリスから一定以上離れていると呼び出せなかったり、使うために大量のポイントが必要だったり、一度使うと再度使えるようになるまでに一週間程度かかるなど制限も多い。

 もし、龍瘴の森からガルドオズムまでの距離がこの能力の使用可能範囲内であれば、戦争の決着はあっという間だったかもしれない。残念なことにその二か所の直線距離は、能力の使用可能範囲と比べるとかなり長い。

「えー……こんな時どう言うんだろうな。分からん。えっと……それじゃあみんな、行くぞー!」

 遠足に出かけるかのような気軽さでそう言うと、ヴァリスは魔物、妖怪たちを引き連れて龍瘴の森を進み始めた。

「オクトたちとの合流地点はサブルバーナ平野近くの街道だったな?」

「はい。明日には合流出来ると思われます。ガルドオズムの動員兵力と比べると、スズメの涙程度の数だと予想されますが、いないよりはマシでしょう」

 ヴァリスに付き従うユキヒメが答えた。当初はサロイザースで籠城を行う計画を立てていたのだが、サロイザースには敵の攻撃に耐えうる堅固な城壁もなければ、防衛装備もない。ちょっとした城門はあるが、はっきりいって籠城に適した場所とは言えない。また、妖怪や魔物が街に入ることをよしとしない人間が多いと思われたため、結局野戦で決着をつけることにしたのだ。

 そのヴァリスは、この戦争において自分自身がどうするべきなのかを考えていた。大嶽丸としての力を見せることは、敵に、そして味方側にも恐怖を与えることになるだろう。

 それは、自分たちの印象をさらに悪くしかねない。しかし、忍狸たちから送られてくる情報から、そんなことを気にしていられない人数差があることが分かっている。

「はぁ……そう言えば、こんなこと考えるの久々だな。まぁ、あの時と違って今回はもう、覚悟してるんだがな」

「……?主様、何か仰いましたか?」

「いや、なんでもない。ちょっと考えてただけだ」

 曲がりなりにも自分はもう、一勢力の主だ。なら、賢いやり方でなくとも範を示さなければならない。

 妖怪、魔物の行軍は続く。その人の想像だにしない異様な行列は、夜に眠らず、朝に休まず、そして合流地点へと向かうのだった。



 サロイザースの代理領主、オクト・ラズームは懐かしい得物を手にしていた。もはやそのフレイルを満足に振り回すことは出来ない。だが、フレイルを握る力に籠められた決意だけは揺らぐことはない。全てはサロイザースの、いや、傭兵団"血潮の盾"のリーダーたちのため。もはや崇拝にも近い感情を、初老になっても手放せずにいた。

 だが、それももう潮時なのだろう。オクトは崇拝の対象であるリーダーとその妻の息子、リーダス・ラドップの背中が少し逞しくなったように感じ、頭を振る。

 二十五年。そう二十五年だ。彼らの息子はもう、ここまで大きくなったのだ。だがその間自分は、リーダーたちに任されたサロイザースを維持することばかり考えてきた。

 老人はもう、引退するべきだろう。

 オクトがそう考える一因であるリーダスが背負っている剣は、いつもの物だ。古強者の雰囲気だけはもつ彼が抱える不安は、オクトの召集に応えて集まった者たちのそれとは少し違っている。

「間もなく合流地点っすね……脱走する奴がでないといいなぁ……」

 あの魔物と妖怪の集団を見て怯えない人間がいるだろうか。数か月間龍瘴の森で彼らと関わって来たリーダスでさえ、時々ふと、空恐ろしくなる時がある。理の違いと言うか、思考の違いと言うか、その差異に心臓を貫かれたような心地になる時があるのだ。

「事前に説明はしていますが、出ないわけがないでしょうね。むしろ、説明してもよくこれだけ残ってくれたものです」

 オクト達が連れているのは、五百の歩兵だ。募兵に応じて集まった者と傭兵で混成されたこの五百は、自分たちが龍瘴の森の危険集団と組むことを知っている。

 危険集団の主であるヴァリスが、龍を倒した、と言う情報は広く出回っているが、その受け取り方は人によってまちまちだろう。そもそも、龍の強大を実際に味わったことのある人間など、大陸を見渡しても一人もいないかもしれない。長寿のエルフたちなら何とか、と言ったところだ。

 この五百の中には、その強さを実際に目にしようと言うものも居るかもしれない。ともかくヴァリスの評価は、"龍瘴の森に拠点を構えられるくらいには強いのだろう"と言う点に異論は出ないが、それがどのくらいかと言うことになると、意見が一致していない。

 死にかけの龍を倒しただけだろう、と言うもの。仲間と一緒に倒したんだろう、と言うもの。勇者レクカインを越える力を持っているんじゃないか、と言うもの。

 彼ら一人一人が抱えているイメージと、実際のヴァリスを見た際のギャップ。リーダスはそれを危惧していた。

「あ、オクトさん。見えてきましたよ。向こうが先に着いてますね」

 ざわめきが大きくなる。当然だ。本当にコボルトやゴブリン、オーク、そして見たこともない怪異たちがそこで何をすることもなく待機しているのだ。いっそのこと彼らが、暴れ狂っている姿で居てくれた方が正気を保てると言うものだ。

「皆さん、落ち着いてください。オクト・ラズームの名に懸けて、彼らが我々に危害を加えることはないと保証致します。ですが、それでも彼らを敵だと感じる方は、今すぐに隊列から離れて下さい。それを咎めたりはしません」

 その言葉を聞いて、脱走をする者がで始める。十や二十ではない。百近くの者たちが、来た道を引き返し始めた。

 だが、予想よりはかなり少ない。リーダスは少し意外そうに残った者達を見た。サロイザースを守ろうと言う気概のある者は、意外と多いようだ。

 ヴァリスが、自分たちに手を上げている。それに気づいたリーダスは、少しでも残った者達を安堵させようと、一人先に走ってヴァリスに駆け寄った。

「リーダス、久しぶりだな!シェザーシャの出店の件では世話になった。ありがとうな」

「いえいえ。少しでも役に立ったのなら、幸いですよ。そしてお久しぶりです、旦那。そのシェザーシャさんは、流石にいないようですね」

「ああ。拠点で食料の計算や怪我をしている人間の世話なんかをやってくれている。そういや妖怪は食事が必要ないから、その点はありがたいな……何か用件があるなら、戻ってから伝えるぞ?」

 戻ってから、か。

 リーダスは、ヴァリスが当たり前のように発した言葉を頼もしく感じる。

「いえ。ちょっと気になっただけでして。あ、姐さんもお久しぶりです」

「おや、私は幻術にでも嵌められたのでしょうかね?あのリーダス様が戦場に出る決意をなされるなぞ、露とも思いもしませんでした」

「……変わらずお元気そうでなによりっす」

 そうこう話していると、オクト率いる四百の兵が到着する。彼らのほとんどはこれは夢ではないのだろうかと困惑しているようだが、根性は座っているようだ。実際に魔物や妖怪ともう少しで武器が届かんと言う距離まで来ても、隊列を乱すことはなかった。

 そうしてヴァリス・サロイザースの異種連合軍は、作戦を話し合い始める。なお、結局詳細な作戦が立てられることはなかった。

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