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さぁ、百鬼夜行を始めよう  作者: 一等ダスト
サブルバーナ平野の戦い&神器『生くるダンジョン』編
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0-4.開戦前―シェグルダール王国サイド―

「一体何が目的なのだ、ジェイバム伯は!?何故、サロイザースと事を構えようとするのだ!?サロイザースがシェグルダール王国にとってどれだけ戦略的に重要なのか、分かっているのか!?」

 王城に、シェダリス三世の怒声が響き渡った。

 だが、その怒声を聴きとめた者は僅か三名だ。スシャイナル辺境伯とサジバール公爵、そしてエイラメイン親衛隊長。この三名だけ。

 彼らはシェダリス三世の腹心だった。普段、王国東側の代表であるスシャイナル辺境伯と王国南側の代表であるサジバール公爵は激しい舌戦を繰り広げている。だが、派閥の者たちの目がないこの場においては、彼らはシェグルダール王国の国益を第一に考えることが出来る貴重な人材としてシェダリス三世からの信頼を得ていた。

「面目の次第もございません。何度も戦争に踏み切ることが無いよう要請したのですが、ジェイバム伯爵は聞き入れようとしませんでした。南側の代表として、ここに深く謝罪致します」

 サジバール公爵はそう謝罪し、深々と頭を下げた。南側で最大の派閥を持つ彼の言葉すら届かないのは、それほどまでにジェイバム伯爵がサロイザースに対して持つ感情が大きいからなのだろうか。それとも、別の何かがあるのだろうか。

 シェダリス三世は大声を上げることに疲れたのか、じっとりとした汗が染み出た額を撫で力なく言う。

「良い。サジバール公の言葉すら届かないのなら、私であっても同じだろう。しかし、ほとほと困ったものだ。ドワーフ防具の供給元が無くなれば、エルフとの戦争において苦戦は必至だろう。いや、スシャイナル辺境伯の前でこのような言葉は失礼にあたるな。許せ」

「いえ。例えドワーフ防具がなくとも、エンゲルボーム城塞を抜かせはしません。しかし、被害が増えることは必定でしょう。陛下のお怒りももっともでございます」

 スシャイナル辺境伯は淡々とそう答えた。引き締まった体に、少し線が太いが端正な面立ちの男は、それから続ける。

「やはり、ドワーフとの国交の回復は難しいのでしょうか。直接取引が出来ればそれに越したことはないのですが……」

「彼らは、ラズリット王国時代に"不死の神珠"が起こした死者の大行進事件に対して援軍を送ってくれました。ですが、およそ30年前にドワーフ領で起きた"不死の神珠"騒動の際に、我々シェグルダール王国は援軍が出せなかったのです。人間にとっては違う王国だといっても、彼らにとっては同じようなものだったのでしょう。不義理だと言って激怒し、不踏山脈に唯一あった坑道交易路が爆破されました」

 サジバール公爵の説明に、シェダリス三世は頷く。

「中央集権化がほぼ成せぬ状況と言い、ドワーフとの国交関係と言い、ラズリット王国時代の負の遺産が我らをまだ締め付けておるのだ。今回のジェイバム伯爵の目的も、かつて分家が治めていたサロイザースを取り戻さんがためなのかもしれぬな」

 重々しい空気が漂う。どうにも明るい話題がなく、シェダリス三世は椅子に掛けていた腰を浮かし、その位置を軽く直した。

 沈黙を破る様に、サジバール公爵が言う。

「そう言えば陛下。私がジェイバム伯爵と会談を行った際に、彼はこんなことを言っておりました。"エルフに対抗するための防具についてなら、陛下に心当たりがあるではないですか"と。今回のジェイバム伯爵の行動に、関係があるのでしょうか?」

「……なに?」

 マジで?シェダリス三世は眉を顰めた。心当たり。彼には勿論、それがあった。異世界転移者たちの中に『魔具製造』のスキルを持つ者が居る。そのスキルによって強化された武器や防具の性能は、元の物とは比べ物にならないほど向上するのだ。その防具なら、エルフにも対抗できる可能は十分にある。

 しかしそれは。その情報は信頼しているスシャイナル辺境伯にも、サジバール公爵にも秘密にしていることであった。

 その情報を知る異世界転移者たちにある程度の自由は与えている。しかし、監視はつけているのだ。それは、一人の転移者に対して行動を共にしている二名の随伴者だけではない。転移者たちに知らせていない複数の密偵が、彼らを監視している。そして報告に、ジェイバム伯爵と接触した転移者はいなかった。

 だとすると、監視員や密偵が情報を流した?いや、報告が偽造された?幾つもの予想が浮かび上がるが、答えは脳内では出ない。

「……心当たりがお有りなのですか、陛下?」

 黙り込んだシェダリス三世に、スシャイナル辺境伯が問う。シェダリス三世は薄茶色の長く伸びた髭を二、三度と触り、深く深く頭を抱えた。

「ある。辺境伯と公爵に内密にしていたことは詫びよう。しかしこれは、国家機密なのだ。さらに言えば、だからと言ってドワーフ防具の価値が下がるわけではない。私の心当たりは、ドワーフ防具さえも更に強固なものにすることが出来るのだ」

「それは……何と。分かりました。しかし、それを何故ジェイバム伯が知っていたのでしょう?」

「サジバール公の疑問は、私の疑問でもある。私はジェイバム伯にこの件を打ち明けたことはない。誰かが情報を流したのか、それとも……今は考えても無駄であろう」

 どうにも自分は王に向いていない。シェダリス三世は右手と左手が握る玉座の腕かけを一層強く握りしめ、こう思う。

 王様ってめんどくさいなぁ。もう逃げだしてしまいたいんだけど、どうにかならないもんかね。君主が王冠を被るのではなく、王冠が君主を決めてくれればいいのに。

「情報が漏れていた件は、こちらで調査させる。今はジェイバム伯爵が宣戦布告を行う前に、どう行動するかを決めねばなるまい」

「……いっそのこと、私が対処致しましょうか?」

 そこでこれまで沈黙を選び続けていた親衛隊長が口を挟んで来た。堅固な銀の重鎧に、長い刃渡りの刀を背中に背負うその人物の対処方法は、どう見ても穏便なものではなさそうだ。

「エイラメイン、止めておくが良い。お前の一振りが証拠を残さぬはずがなかろう?王の威光が凶刃の鋭さによって保たれてはならぬ」

 威光なんてそもそも微塵もないけどな。シェダリス三世はふるふると首を振った。

「はっ!申し訳ありませんでした!」

 風雲急を告げる予兆、と言うのだろう。謁見の間の扉が四回叩かれ、次に間をおいて三回叩かれた。

「密偵長か。重要な会議の場を乱さねばならないような重要事項か?」

 エイラメインが大きな声でそう聞いた。シェダリス三世やスシャイナル辺境伯、そしてサジバール公爵に密偵長の返事は聞こえなかったが、エイラメインはそれを聞き取った様だ。

「陛下!密偵長がどうしてもお耳に入れなければならないことがあるそうです。どう致しますか?」

「勿論。報告するが良い。ここに居る者に、全て聞かせよ」

 重々しい扉が開けられる。入って来た中肉中背の男性は、一瞬でシェダリス三世の前に移動すると、跪いた。

 急に近づかないでくれよ、怖いよ。シェダリス三世は心の中で泣き言を言いながら密偵長に報告するよう求めた。

 だがやはり、何も聞こえない。いつも通りエイラメインが彼の拡声器となる。

「緊急報告!ガルドオズムが突如現れた魔物に襲撃されました。ジェイバム伯爵はこの魔物の襲撃を、龍瘴の森の集団によるものと断定。龍瘴の森の集団及びそれと繋がるサロイザースに宣戦布告しました!今より二日前の事です!」

「なっ……!なにぃ……?まさか、龍瘴の森の集団と事を構えるつもりだと!?」

 シェダリス三世は立ち上がった。その集団の長が、異世界召喚を終えたそのすぐ後に王城から飛び出した男であることはほぼ間違いがない情報だ。そしてその男が、伝説の死龍を倒したことも。

 何故藪をつついて蛇を出すようなことをするんだ。理解が出来ず、だがシェダリス三世は決意していた。

 もうどうしようもないから逃げたい。そう思いつつ、自分が進まなければならないと。

「陛下、続きがございます。尚、ガルドオズム近辺にて日向(ひゅうが)コガネと樫田新羅(かしだしんら)の姿を確認したとのこと。また現在、空河内出水の行方が分からなくなっています」

 フルコースかよ。もう泣きたくなってシェダリス三世は天を仰いだ。

「……行かねばなるまい」

「陛下みずからですか!?お止め下さい。陛下の身に何かあっては……!」

「サジバール公。私は胸騒ぎがしているのだ。此度の件は、私自ら行かねば収取が付かないと。いや、それでつくかどうか……」

 もう嫌だ、退位したい。そんなシェダリス三世の心の内は誰にも聞こえることがなく、彼は出征の準備をし始めるのだった。

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