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第96話



 自室に入れられ、ベルは倒れるように床に座り込んでベッドに顔を伏せた。

 もう終わりだ。そう思っていると、急いで駆け付けたルシエルがドアを壊す勢いで入ってきた。


「ベル様!」

「……ルシエル」

「申し訳ありません。僕、会場の外にいたのでベル様をすぐに止めることが出来なくて……」

「いいのよ……いいの、もう……もう、全て終わりよ……」


 ベルはボロボロと涙を零し、壊れたように笑った。

 その痛々しい様子にルシエルも顔を歪ませる。ベルの悲鳴のような怒声は外まで聞こえていただろう。ずっと不満を抱えていたことはルシエルも知っていた。それでもずっと耐えていたベルだったが、心に入った亀裂は些細なキッカケで壊れてしまった。


「……あんなこと、言いたくなかった……シャルロットが悪くないことくらい、私にだって分かっているのに……最低、最低よね、私……」

「ベル様……」


 ベルは心の中で何度もシャルにゴメンと繰り返していた。

 シャルがあんな風に言ったのは、周りの人達が彼女の純粋な心を守ろうとして悪い噂話などを聞かせなかっただけだ。

 シャルからの印象を良くするために、彼女が慕う姉の話もした。良い姉だと持ち上げていた。だからシャルは自分よりもベルの方がみんなから支持されていると思い込んでしまった。

 冷静になれば分かること。ベルだってそんなことくらい初めから分かっていた。いつも甘えてきてくれるシャルのことが好きだった。

 それでも、比べられることが苦痛で辛かった。シャルがいるから、いつも自分が追い詰められる。そう思う気持ちを止められなかった。

 醜い嫉妬で気が狂いそうだった。


「……もう、私は……生きていけないわ……シャルロットを殺そうとしてしまったのよ。縁談の話もなくなったわ。もう、駄目よ……」

「……ベル様?」


 ベルはフラフラと立ち上がり、鏡台の引き出しを開けた。

 そこに入っていたのは、綺麗な装飾のされたナイフ。それを手に取り、鞘を投げ捨てた。

 待って。私の制止は聞こえない。それでも、待ってほしい。私がどんなに叫んでも意味がない。

 ベルはナイフの持った手を、首筋に当てた。


「ベル様! やめてください!」

「止めないで。こんな世界に生きていたくないの。もう私には生きていく価値なんかないのよ」

「そんな……そんなことありません! きっとやり直せます! シャル様だって、ベル様を恨んだりしません!」

「それでも私は自分を許せない! 何の罪もないあの子を手に掛けようとしたのよ!? こんな私なんか、誰も許してくれないわ……」

「嫌です……僕は貴女のいない世界になんて生きていたくない!」


 ルシエルが止めようと手を伸ばした瞬間、ベルは一線を引くようにナイフで自身の首を切った。

 溢れ出る鮮血。遠のく意識。

 霞む視界に映るのは、涙を浮かべてベルを呼ぶルシエル。


「嫌だ……嫌だ! ベル様、ベル様! ベル様!」

「…………ごめ、んね……あなたを、置いて、いって……」

「駄目だ……こんなの、絶対に駄目だ!」


 ルシエルが叫ぶと、その声に応えるように二人の体が光り出した。

 何が起きているの。ベルの意識はもうない。ルシエルはただただ泣き叫んでいる。


 すると、視界が急にぐにゃりと歪んだ。ルシエルの泣き声も聞こえなくなった。

 一瞬ピタリと動きが止まったかと思うと、目の前の景色が倍速で巻き戻しされていく。瞬く間に時間は戻されていき、もう一度瞬きをしたときには私が夢の中に入ったときと同じ景色がそこにあった。

 つまりここは、ベルが五歳になった日。

 ベルが死んだショックでルシエルの魔法特性、時間跳躍タイムリープが発動したんだ。


「…………ここは、一体? 私、死んだんじゃ……」


 起き上がったベルが、ベッドの上で小さくなった自分の体を見て戸惑っている。

 嘘。もしかしてベルは記憶を持ったまま過去に戻ってきたの?

 自分がシャルを殺そうとしてしまったこと、自害しようとしたことも全て覚えている。

 私は術者本人であるルシエルだけが記憶を引き継いでいるんだと思っていたけど、まさかベルまで。


「…………誕生日? 五歳の……? 私、過去に、戻ったの?」


 困惑するベル。まだ自分に何が起きたのか理解できていない。

 当然だ。この時のベルはルシエルの魔法特性を知らない。五歳のときに戻ってきたせいでルシエルともまだ出逢えていないのだから。


 過去の通り、ベルは父の部屋で魔法特性の誘導ミスディレクションを覚醒させた。

 過去に起きたことと全く同じ光景。シャルが癒しの力を得て、喜ぶ両親。最初は心を痛めていたが、今のベルはそれどころじゃなかった。

 ルシエル。ルシエルはどこにいるの。今は彼に会いたい気持ちでいっぱいだった。




読んでくださってありがとうございます。

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