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第92話



 魔法特性が国民に発表されてから、周囲の目は大きく変わった。

 ノーマルスキルの姉とレアスキルの妹。どんなにベルが勉強や稽古を頑張っても、そんな影の努力を国民は見ない。

 時間が流れ、年を重ねていくうちに、ベルの心はもう自身で支えきれないほど重くなっていった。


 ベルの心の中は重たくて悲しくて、ずっと痛い。

 それでもベルはその感情をずっと押し殺していた。せめて良い子でいようと。期待されないなら、せめて嫌われないように。せめて、見放されないように。愛想を尽かされないように。

 そんな風に、自分を殺して生きてきた。


 そこで記憶が一気に加速した。まるで早送りをするように時間が流れ、一年が過ぎた。

 寒い冬の日。街を歩いていたベルは、道の隅っこで倒れている少年を見つけた。一緒にいたメイドが見ないように道を変えようとしたが、ベルは少年の元へと走り出してしまった。


「…………生きてるの?」

「……っ」

「……あなた、親は?」


 少年は首を振った。すぐに捨てられたのだと察したベルは、メイドに彼を連れて帰るように言った。メイドも主人の命令を無視することは出来ない。仕方なくその少年を連れて城へと戻った。

 この子をどうするのかとベルに問うと、彼女は二つ返事で自分の世話役にすると言った。一国の姫が捨てられた子供を引き取るだけでなく世話役にするなどあり得ない。それでもベルは自分の意志を貫いた。

 今まで我儘の一つも言わなかったベルの頼みとだけあって、国王も最後は首を縦に振った。その代わり、しっかりと教養を身に付けさせることを条件にして。


「……なんで僕を拾ったんですか?」


 少年を拾って数日。衰弱していた彼がようやく歩けるようになった頃、中庭を散歩しながらそう聞いてきた。


「……何となく、貴方と自分を重ねてしまったのよ」

「僕と?」

「私も貴方も、誰にも期待されない、必要とされない子。そんな気がして、放っておけなかった……」

「お姫様が、どうしてそんなこと……」

「貴方だって知ってるでしょ。私はシャルロットと違って誰にも期待されてないの。王位もきっとシャルが継ぐ。私は……お飾りの姫。適当にどこかの国に嫁がされるだけよ」


 本音を隠す必要がないからか、ベルは少年の前では素直だった。心の中も、ほんの少しだけ柔らかな部分が生まれた気がする。


「……そういえば、貴方の名前は?」

「……ルシエル、です」

「そう。じゃあルシエル……貴方は、私の味方でいてね」

「はい。ベル様」


 頷くルシエルに、ベルは嬉しそうに微笑んだ。

 こんな風に笑うベルは初めてかもしれない。人前で愛想笑いすることはあっても、心から笑顔になることなんかなかった。

 自分にとって唯一の味方。そう思える相手だから、彼にだけ優しくなれるのね。




読んでくださってありがとうございます。

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