表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/108

第88話



 ――お願い。私はもう立ち上がれない。だけど、あの子だけは助けてあげてほしい。

 ――あの子に、私のためだけに生きないでと伝えてほしい。


 暗闇の中で声が聞こえて、私は目を覚ました。

 ここ、どこかしら。ゆっくりと顔を動かすと、つい最近見た景色が広がっていた。


「……私の、部屋」


 ハドレー城の私の部屋だ。うわ言のようにそう呟くと、周りにいたみんなが反応した。


「お姉様! ご無事ですか!?」

「ベル。良かった、目を覚まして……」


 心配そうに声を掛けてくれたレベッカとツヴェル。その後ろにナイトとグランも顔を覗かせていた。


「ベル。また、無茶した」

「ゴメン、ノヴァ」


 ベッドの上に腰を下ろしていたノヴァが呆れた顔で言った。

 しょうがないじゃない。あの状況で魔術師の存在に気付けたのは私だけだったんだもん。

 そうだ。あの子。魔術師、いいえ、あの少年はどうなったの。


「あの子は?」

「魔術師……のことですか? 彼なら医務室です。本来なら独房に入れるのですが、物凄く衰弱していて、今は意識を失っています」

「……そう」

「ベル。アイツの名前、呼んでた。なんで」

「名前?」

「ルシエル、言ってた」


 ルシエル。確かにそんなことを言ったような気もするけど、私には全く記憶にない名前だ。それにあの子の顔も、何となく知っているような知らないような。どうにも記憶があいまいなのよね。


 それに、さっきの夢。聞き覚えのある声だったような気がする。

 私のために生きないで。それをあの子に伝えろってことなのかしら。あの子、ルシエルに。


「そうだ。シャルは?」

「シャル姫は国王と共に国民に現状の説明していますよ。貴女のことは、まだヴァネッサベルだとは気付かれていません。すぐにこの部屋に運んだので」

「じゃあ、怪我の治療はノヴァが?」


 ノヴァを見ると、黙ったまま頷いた。

 でも、時間の問題かしらね。このまま私を帰す訳にもいかないだろうし、私もあの少年に話が聞きたい。

 魔術師の正体があの子だって言うなら、とりあえずシャルの命が狙われる心配もない。私はもう仮面の男に変装する理由もなくなるんだ。私がベルだってバレるのは面倒だけど良いか。


「その少年に話は聞ける?」

「どうでしょう。目を覚ませば、あるいは……」

「そう。じゃあ、顔を見るだけでもいいから案内してもらえないかしら」

「……わかりました」


 ツヴェルは少し悩んだ後に、頷いてくれた。

 ちゃんと顔を見れば思い出すかもしれない。あの子が言った言葉もそうだけど、夢で聞いた声のことも気になる。


 シャルのせいで私が死んだ。

 あの子はゲームでのヴァネッサベルのこと、君100のハッピーエンドのことを知っているのかしら。

 それとも、私と同じ転生者?

 それとも、未来を予知する力を持っているとか?

 じゃなかったら、この世界でベルが死んだなんて言葉が出てくるはずがない。


 一体、何者なの?




読んでくださってありがとうございます。

感想・レビューなどありましたら励みになるのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 百合というよりは姉妹愛って感じで、新鮮味と尊さを感じました。 両者共に幸せになって欲しいと願ってしまいますね! 書くのは大変だと思いますが、頑張ってください!
2021/12/12 00:00 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ