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第104話



 翌朝。

 いつものように朝日と共に目を覚ました私は、目を擦りながら隣に眠るルシエルの顔を見た。

 顔色は大分良くなった気がする。少しずつ体力も回復していってるみたいで安心した。ルシエルと、彼の頭上で体を丸くして寝ているノヴァの頭をそっと撫でて、私は朝食の準備をするためにベッドから降りた。


 こんなゆっくりした気分で朝起きるのも久しぶりだわ。

 昨日の夜、レベッカの元に送った魔法鳩が戻ってきてシャルやみんなは今後のことを色々と話したそうだ。

 各国の王子様たちも今日中に帰るらしい。そりゃそうよね。大事な自国を何日も留守にして他所のお姫様に掛かりきりなんて、体裁悪くなるだけだもん。

 シャルにとってはこれからが大事なんだから、今は攻略がどうとか言ってられないわね。でもいずれは良い相手を見つけて結婚しないと。

 さすがにもう私、というか仮面の男がどうこうなんて言わないだろうし。あの子の初恋をこんな形で終わらせてしまうのは心苦しいところだけど、仕方ないわね。

 レベッカとは個人的に仲良くなってるみたいだし、国とか関係なくガールズトークでもして普通に恋愛を楽しむようになってほしいわ。


「……がう」

「ん……ここ、は?」


 ノヴァの呼ぶ声と共にルシエルの声がして、私は軽く手を洗ってから寝室へ向かった。

 ルシエルは急に場所が変わって驚いているのか、上半身を起こして周りをキョロキョロ見渡している。


「おはよう、ルシエル」

「え……あ、あの、ベ、ベル、様……」

「ああ、そっか。私のことをベルって呼ぶのはちょっとツラいかな?」

「い、いえ……そんな。貴女もベル様ですから」

「でも、ルシエルがずっと一緒にいたベルとは違うもんね。何か違う呼び名があった方が良いかしら……」

「……いえ、大丈夫です。大事なのは名前ではありませんから……」

「そう。そうだ、この服着てみてくれない? もしキツイとかあったら教えて」


 昨日の夜作っていたルシエルの服を手渡すと、物凄くビックリした顔をされてしまった。私、何か変なことしたのかな。


「……ベ、ベル様、お裁縫をされるのですか?」

「え、ええ。服作るのは趣味だし……ご飯ももう出来るから、起きられそうならリビングにおいで」

「ご、ごはん!? そ、そういうことは僕が……」


 慌ててベッドから降りようとしたルシエルは足に力が入らないのか、そのまま落ちそうになった。すぐにノヴァが下に滑り込んでくれたおかげで床に衝突しないで済んだけど、さすがにまだベッドから出られそうにはないか。ゆっくりリハビリしていかないとね。


「無理に起きなくていいわよ。それに、貴方はもう私の世話役でも何でもないの。私はもう自分のことは自分で出来るし、家事も裁縫も、何だったら畑仕事だってやってるわ。だから何も心配しなくていいの」

「そ、そうなのですか……僕、ベル様のお役に立てること……ないんですね」

「もう。そんな風に落ち込まないの! これからは、一緒に生きていくのよ。何でも一緒にやればいいの。君一人に何でも押し付ける気はないわ」

「……一緒に?」

「そう。朝起きてご飯食べて、野菜や果物なんかを一緒に育てましょう。歩けるようになったらお散歩もしよう。あとは、そうね。今度レベッカにいつものお礼にお菓子を焼きたいから、それも一緒にやりましょ」


 私は彼の手を取って、これからの話をした。

 私は彼のベルにはなれないけど、なる必要もないと思ってる。そんなことルシエルだって望まないだろうし。

 ベルはベル。私は私。私なりのやり方で、彼と過ごしていきたい。


「それと、ルシエルの話も聞きたいわ」

「僕の、ですか?」

「ええ。貴方とベルの過去は夢を通して見たけど……貴方の気持ちを、私は何も知らないもの」

「……僕の、気持ち」

「これからゆっくり、色んなことを話しましょう。時間は、たくさんあるんだから」

「……ありがとう、ございます……ベル様……」

「ねぇ、そのベル様ってやめない? 今の私は貴方と主従関係があるわけじゃないんだし」

「で、でも……」


 そんなこと言われても急には対応できないわよね。それは分かってる。

 でも主従関係にあったのは私じゃない。私は、ルシエルと対等な仲でいたい。


「いつか、ベルって呼んでほしいわ」

「……わかりました。いつかきっと、貴女に感謝を込めて、そうお呼びします」


 ルシエルがそっと微笑み、私も笑顔を返した。

 私たちはこれからがスタートラインだもの。一緒にゆっくり歩いていきましょう。


 お互いのペースで、一歩ずつ。




読んでくださってありがとうございます。

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