ファイヤーラブコール
ブックマーク……┌(._.♡)┐アリガタヤー
俺の家は今でこそ農家だが、昔はそれはそれは名のある陰陽師の一族だったらしい(知らんけど)。
俺が子供の頃はまだピンピンしてたじいちゃんがいつも俺にそう聞かせてくれたし、ご先祖様がいかに凄かったかという話もしてくれた。
例えば他の陰陽師が全く適わなかった鬼を退治したり。百鬼夜行を追い払ったり。色々な伝説とも言える話をしてくれた。
その中で俺が好きだった話がある。とある邪神を封印したという話で、その邪神は土着神というそこそこ力のある神だったらしく三日三晩戦った末に封印したという。
その神の名前が”シデナ”、黒い妖狐のような姿で巧みに妖術を操った、と言う話だ。
目の前にいる俺の初恋の人、黒ねぇちゃん。名前が黒だから黒と呼んでと言われていた。
あまり笑わないけど優しい人で、世間一般で言う普通とは違う人だった。おかげで性癖が歪んだ……。
だけども、今目の前にいる人は……いや、妖狐は黒ねぇちゃんに似ているだけの別人に見えた。俺には優しい笑顔を向けてくれたが、顔を上げオオカミトカゲを見る目には一切の光がなかった。
黒色無双より黒いとかこれ黒いってレベルじゃないな。
「さてと、精々苦しめ畜生共」
妖狐が両手を目いっぱい開く、すると指の先に青い炎が揺らめく。
ゴオゥっと独特な音が聞こえたかと思えば、俺らを囲むように濃い青か、紫の炎が燃え盛っていた。それで数匹のオオカミトカゲは逃げ出すが、それでも10体以上は炎が消えるのを待っているようだ。
「時間は無い……さっさと片付けるかのッ!」
俺らを囲む炎が消えた、しかしその瞬間10体のオオカミトカゲから炎が勢いよく吹き出し、そして瞬く間にオオカミトカゲは消え去った。肉のやける音と匂いに胃の中のパンを吐き出しそうになる。
それでも、今ので焼かれなかったオオカミトカゲが俺らに飛びかかってくる。俺が咄嗟に構えると、俺を守るかのように妖狐の尾が俺を包み込み。
ドスッ
残りの尾が全てのオオカミトカゲを貫き、そして燃やした。
断末魔すら聞こえない殺戮ショウに再び胃の中のものが逆流しそうになる感覚。幸いにも、俺が嘔吐する直前に俺は妖狐に抱き止められ、意識を失った。
意識が浮上する感覚。頭になにか柔らかい感触がする。そして優しく俺を撫でている誰かがいる。誰だ?
瞬間、記憶が爆発したかのようにフラッシュバックする。勢いよく立ち上がり、妖狐に対して構える。妖狐はどこか驚いたような顔で俺を撫でていた腕が空中でピタリと止まっている。
「誰だ、お前は!!」
質問ではなく詰問。自分ができる範囲でドスを効かせた声を出す。何が嫌かって、この妖狐性癖にドストライクなんだよ。初恋の人に化けているのが理由だけどさぁ。
「誰って……さっきも言ったが、黒ねぇちゃんじゃぞ?」
「少なくとも俺が知っている黒ねぇちゃんは狐耳も尻尾も生えてないっての!」
いや、そんな「何を言ってるんだ?」ってな顔で言われても。それかっちのセリフだしさ。誰だよお前マジで。
「うむむ……そうじゃそうじゃ。タロウは確か12歳の頃に私に求婚してたのぉ。確か「大きくな」」
「なんでここに居るんだ黒ねぇちゃん!?」
認めざるを得ない。その言葉を知ってるのは俺と黒ねぇちゃんだけだし。あと人の黒歴史をそんな鼻かむみたいにサラッとえぐり出さないで欲しい(懇願)。
「え、何その姿? それじゃまるで――」
「お主の先祖が封印したはずの”シデナ”のようだ、じゃろ?」
Exactly……って言っとる場合かァ!?
「ああ、白状しよう……私の名前はシデナ。かつてお主の先祖に封印された土着神にして邪神とされておる妖狐じゃ」
いきなり判明した事実に思わず目眩がする。初恋の人が邪神とかTRPGかよ、初恋の人が邪神だったと気付いたあなたにはSAN値チェックのお時間ですってか?。
「はァァァァァァァァァァッ!?」(一時的狂気)
「うおっ!? いきなり大きな声を出すでない! 狐の耳は繊細なんじゃぞ!?」
知らねぇよ、俺の心の方が繊細だわ! 圧倒的に繊細だし脆いしガラスだし! …………初恋が邪神ってラノベみたいだな。いつもニコニコ這い寄る混沌! ナイアルラトホテップゥッ!
「いあいあ?」
「邪神もクトゥルーの呼び声見るんだな……」
「お主の思考を読んだだけじゃぞ? 一応神じゃからな……まぁ、もうただの妖狐じゃが」
シデナが顔を伏せて悲しげに呟く。何となくあたりの気温が2度くらい下がった気がする。寒くない?
「そもそも、私はお主を、タロウを殺そうと思っておった。憎き者の子孫が私が封印された空間に迷い込むなど、運命が私に味方してくれていると思った」
「マジか…………マジかぁ……」
どうしよう、明かされる衝撃の事実2個目来たんだけど。マジで泣きそう…………。初恋の人に殺されるなら本望かもしれんな。
「じゃが、数百年の孤独にあっても私の良心はしっかり残っておった。殺せなかった……それどころか数百年振りに人の優しさを感じたせいで惚れてしまった」
「えっ……ちょっ……マ?」
語彙力が著しく低下する。明かされる以下略3個目に今までの2つとは比べ物にならない衝撃が心を襲う。まるで全力疾走している時に頭をぶつけたかのような衝撃。両思いだったってマジすか?
「だけども、ある日お主のお陰で私の封印は解かれた。解かれてしまったと言っても良い。私は知らぬ世界に投げ出された、今いる、この世界に」
「うっそォ……えぇ……」
意外! それは異世界転移! だから俺がいくらあの神社に行こうとしても行けなかったのね。マジかぁ……あれは子供の頃の記憶の錯綜でもなく、ましてや幻覚でもなく。
全てが現実だったのか……うわぁ、さっきとは違う方向で泣きそう。
「もう泣いておるよ。ああ、そうじゃ……私はお主が好きじゃ、愛しておる」
「ウヴェ…………いや、ちょ……急にんな事言われたってッ!?」
刹那、俺はシデナに押し倒される。尻尾を使い傷つかないようにしてくれてるの優しい。好き。
恋は盲目という言葉がある。恋している相手の悪い所がいい所に見えるみたいな意味だ。ほんそれ。
「タロウ、私の番になれ」
「…………恋人からお願いしますぅ」
イケメンや、惚れちゃう、キャー抱いてー!
キスでもしそうな距離にある初恋の人の……てか恋人の顔に思わず目を逸らす。俺がヒロインかな?
「…………今はそれで満足してやろう。んむっ」
あっ…………スゥ…………………………
「童貞にこんなことしちゃいかんて…………」
「うぇ!? タ、タロウ!?」
タロウは目の前が真っ暗になった…………コフッ……
まさか口付けで倒れるとは思わんかった。私もタロウのお陰で(?)人間に感性が近づいたから恥ずかしかったが……まさか気絶するとはのぉ。
久しぶりに嗅ぐ想い人の匂いと、久しぶりに見る顔。その両方が私の心を締め付けてくる。んんッ、落ち着かなければ……。
それにしても、タロウほどの才ある者が最弱スキルとは……たしか私のスキルは”妖術”だったはず……スキルとはどういう意味なんじゃろ? 横文字は分からんなぁ。
タロウのスキルは…………ほぉ、確かに最弱スキルと言えような、使い手がタロウでなければ。スキル”陰陽術”……きっと、タロウはあの者を超える陰陽師になるじゃろう。肉体派な陰陽師になりそうじゃがの。
と、私は一人恋人を抱きながらコロコロと笑うのじゃった。
遠藤タロウ 23歳 男
スキル:陰陽術
筋力:150
脚力:100
体力:120
魔力:80
技能:内部破壊・衝撃伝導・見切り・回避・空手
シデナ 435歳 女
スキル:妖術
筋力:620
脚力:750
体力:590
魔力:620
技能:狐火・変化の術・嗅覚強化・聴覚強化・式神・剣術
タロウのステータスは、この世界の猛者以下強者以上です。
オマケ
(今、タロウは気絶中…………つまり何してもバレない?)
シデナがウズッっとするが深呼吸して自身の心を落ち着かせる。これをあと百単位で繰り返すのだが、けっきょく欲望に負けるのはまた別のお話……。