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異世界陰陽師  作者: 狐好き
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森の中で会いましょう

二話です。

 ふと、懐かしい夢を見た。夢と理解できているからこれは言われても信じられない、正直あると思わなかった明晰夢と言う奴だろう。もっと他人を信じよう、じゃないと嫌われそうだわ。


 俺の実家の後ろ。そこそこ古い石畳みの道を3分ほどまっすぐ進む。すると50段のこれまた石製の階段が見えてくる。俺はドローンで撮影しているかのような視点で子供の頃の俺を見ていた、ゲームで言う三人称視点ってやつだな。


 やがて俺は長い階段を登り終える。少々疲れたような顔をした俺は膝に手を当てて呼吸を整える。久しぶりに見るこの場所は昔と違って少々怖く見えた。

 竹が大量に生えていることによって薄暗い竹藪。崩れた灯篭には可能ようにも見える石の何か。竹で出来ているボロボロの柵にもつれている朽ちた布。


 怖いな、ここ。割と悪夢の部類では? 明晰夢なのに好き勝手出来ないし。クソッ、俺の夢だぞ!! 俺の好きにさせろよな!

 好き勝手出来たらウィニングライブでうまぴょいするんだ。どけ、俺はお兄様だぞ!


 なんて考えた瞬間。世界そのものが砕け散る。正しくは景色が、だが……は? ちょっと5W1H全て一からゼロまで……一から百まで説明してくれないか?

 マジで何もない。真っ黒。ブラックオブブラック、うちの会社と同じくらい黒いぜ。まぁ、そんな感じで悪夢ヤァってな感じで諦めてたら目の前に狐面を被り、黒い巫女服を着た女性がいきなり現れた。な、何を言っているのかわからねーと思うが俺だってわからねぇ、何かとんでもないモノの一端を味わったぜ……。


「……a……i……i……e……u」


 ”アイイエウ”口の動きから母音は分かったけどそれ以外解らなかったぜ……。アイイエウ……解らないなぁ。


「…………ハァ」


 おいちょっと待て、今この女溜息吐きやg――。




「知らない天井……というか空。超絶空だわ」


 超絶すぎて逆にSSRかもしれんな。RがレアでSRがスーパレアってのは分かるけどSSRってなんだ? |スーパーペーパーマリ〇《SSR》? おっとこれ以上は不味そうだ。なんというかこう、電波を感じだ。版権的にダメなのかなぁ。


「キャァアア!」

「くぁwせdrftgyふじこlp!? バッキャロー! ビックリしたじゃねぇかッ……ってなんだ、まだいたのかお前」


 昨晩のように人の悲鳴かと思ったら黒狐の鳴き声でした。う~ん、可愛いから許す。やっぱり狐大好きだわ。I love fox……個人的には白い狐が大好き。黒い狐は殿堂入り、神、マジゴッド。ウッ封印したはずの右腕と遥か昔の黒歴史が疼く……ちょっと本気で死にたくなってきたなこれ。


「キュラァァ」

「……パンをやろう。俺も腹減ってるから半分だけだけどな」


  ちょっと流石に全部あげたら今度こそ俺は死ぬかもしれないからな。遠藤タロウ、23歳童貞、飢餓により再起不能(リタイヤ)! になりかねない。ならないようにしなきゃ。俺ってば偉いねぇ~。


「キュムッ……キャルァア」

「もうその悲鳴っぽい声にも慣れた……ら良いなぁ」


 ビビりの俺には無理だろうな。ほのぼの映画でいきなり出てきた犬にビビり散らかした23歳社会人が通りますよ。オジサンになると動悸息切れが中々治まらなくなるんだよなぁ。静まれ我がハートォ!


 俺の分はさっさと食べ、少しの水を飲み黒狐が食べ終わるのを待つ。そういえばなんか夢見たんだよなぁ……確か小さい頃仲良かった神社の巫女さんとの夢。大きくなったら結婚するとかベタな約束だよなぁ……まぁ、そもそもその神社自体が存在していなかったんだけども。軽くホラーですわ、いやマジで。多分別の記憶と混じってるんだろうけど怖いものは怖い。


 そして初恋の巫女さん以外に恋したことが無いから童貞の彼女いない歴イコール年齢男なんだよなぁ。社会人として風俗なりなんなりで卒業しとくべきだったか。


「キュルゥ……」

「お、食い終わったか……。なんでそんなに睨んでるんだ? というかそれは睨んでんの?」


 よくわからんがとりあえず冷たい視線だったと書いておこう。あまりに冷たすぎて北極が倍くらいになりそうだぜ。……そろそろやめてください死んでしまいます。なんか心に、心にダイレクトアタックで来る! 俺のライフはもうマイナスまで天元突破だよ! 一周回って全回復してる間であるかもしれない。無いか。無いな。あるわけが無い。


 割とどうでもいいことを考えながらも旅の支度をする。今日中に森を抜けたい。というか抜けないとまずいと思う。魔物にしろ動物にしろ夜の暗さで来られると脅威になる。てか、日本に居た時と違って四六時中仕事について考えなくていいって言うのは楽だな


「キュアアアア!!」

「はいはい、出発だぞ」


 焚き火を消して外套羽織るだけで準備完了だ。圧倒的に楽だわ、これ。やっぱり異世界来て良かったかもしれない……競馬行けなくなったけど。俺の5万を宝塚で紙くずにしたアイツの血筋のレース見たかった。

 俺の夢はサイレンスズカだけどな。あの時はボロ泣きしたなぁ……。競馬をギャンブルだと一括りにするゴミクズ共は一回死んでくればいいのに。あれはドラマだよ! 一回ライスシャワーの史実見てきやがれってんだ!


「やっべぇ。思考がギャンブル中毒者一歩手前だわ」


 独り言を言っても誰にも変な目で見られないのもいいな。東京で言ってみろ、蔑まれた目で「キモッ」って言われるぞ。言ってて悲しいわ。資本主義なんか滅べばいいのに。資本があるからこうなるんだ! 人の幸福を求めるのが自由主義、ひいては資本主義の存在意義だろうが!


 因みに共産主義へ至る思想の事を社会主義というんだぜ☆。つまり自由主義と社会主義が対で、資本主義と共産主義が対になってるわけなんだ。経済や政治を学ぶ上で大事だぞ。




 森の中へ入るとその中は思っていたよりもさらに視界が悪かった。昼でも薄暗く、整備された道でさえ薄暗い。不安になってしばしば足元をトコトコ付いて来ている黒狐を確認してしまう。パッと見、狐面が地面をスライドしているように見える。これには草を禁じ得ない。草超えて森だわ森、今いる森よりも鬱蒼としてるぜ、俺が生やした森は。


 しばらく歩いていると、ついには霧すら出てきた。というか”ついには”の使い方あってるかしら? あってろ。というかなんで俺はこんなことを気にしてるんだ。まぁ、気にしたら負けか。


 霧と言っても地面近くだけなので足元に気を付けていれば全然進める。まぁ、黒狐が見えなくなった、なんとなく抱えて歩く、モッフモフ~、かるーい……軽すぎない? 滅茶苦茶軽いんだけど!? ちゃんと食べてるのかなぁ……。


「軽いなーお前」

「キュルゥア!」


 どこか嬉しそうに黒狐が鳴く。こいつさては雌だな? 俺は詳しいからわかるんだ。知らんけど(矛盾)。


 てか、だんだん霧が深くなってきたぞ? なんか嫌な予感がする。変に静かなのもさらに嫌な予感が増していく要因だわ。ちょっと日本語がイカレ始めたぞ~……ちょっと怖い。何か来そう、何かは解らねぇが、何かが来る!

 これは憶測じゃなく、予想でもない、予知だ。余地の一種だと言えるッ! お化け屋敷に入ればお化けが驚かしてくるくらい解る。数多のラノベやなろう系、ついでに二次創作を読み漁ってきた俺なら解る! これは、絶対に何かしらの敵が出る予兆だと。そしてそれはこの霧に乗じて……


「近付いていることも!!」

「キャルアアァァ!?」


 真後ろに向かって拳を突き出す。そして後ろに迫っていた何かに裏当てをぶちかます。裏当てってのは簡単に言うと二重の極みだ。まぁ、そこまで威力が出るモノでもないが。


「グギャァア――」

ゴシャァッ


 ……異世界って凄いのね。身体能力が上がったのか分からんが相手の脊髄か何かが砕けた感じの手ごたえがした。これは裏当てを人には使えないな。割と得意技だったのになぁ……ちくせう。手を見れば血がついていた、SANチェックは嫌だ! てか体を破壊したのか? つよ……。


「キシャァァアア!」

「まだいらっしゃるんですかい、なァッ!!」


 再び裏当て、今度は頭っぽい場所に当たった。再び何かが砕ける手ごたえ、強い、強すぎる、私イチオシの技ですから。これって昔出来なかったあの技もできるのかしら? さてと、後ろから忍び寄る黒い影ッ!


「なんぼのもんじゃぁぁぁあい!」

「グギャゴルァルァア……」


 鎧通しという打法がある。鎧を着ている相手の内臓へ攻撃できる打法で、割と色々と創作で出てきている。昔やろうと思ったが出来なかったんだが……流石異世界。なんというか凄い。ロマンを求める人間としてはとてもうれしいぜ。まぁ、腕が貫通して内臓を触った感覚があったんだが、キモイキモイキモイ…………真の破壊は無駄な破壊はうんぬんかんぬんみたいなセリフあったけどあれってマジなんですね。


 というかどうしよう。本当にどうしよう……最弱の俺でこれとか、高校生とか言う思春期の子供達がこんな力を、それ以上の力を得たら暴走するかもしれない。あの不安定な時期にこんな力を得たら本当にヤバいって、やばいてやばいて!


「キュルルゥゥゥ」


 急に霧が晴れた。足元に体の一部が破裂し血肉臓物を撒き散らした死んだオオカミとトカゲを混ぜ合わせたような醜悪な獣の死体。急に鼻を衝く嫌な臭いに思わず嘔吐しそうになる。いきなり手を離したことで黒狐が非難するような目で見てくる。すまん、それどころじゃない。


「うっぷ……」


 目に見えないだけで変わるものだ。命を奪ったという感覚が俺の良心を容赦なく攻撃する。虫を殺しても何も思わないのに、なぜか殺した相手が大きいとそれ二乗されるかのように罪悪感がわいてくる。ヤバイ。


「キュア! キャアア!」


 黒狐がしきりに叫び始める。それと同時に悪寒が背中を走る。顔を上げてみれば俺を取り囲んでいるオオカミトカゲ。オオカミのような体にトカゲのような足、骨が露出した顎。数えれば20は優に超すだろう。短剣を使おうにもあれは戦闘に使うには些かリーチが短すぎる。正直慣れた拳の方が楽まであるかもしれない。だが、俺の精神状態的に殺すことも撃退することすらできないかもしれない。


「それなら逃げッ……」

「キュルゥアッ!?」


 立ち上がろうとしたが体から力が抜けてしまい倒れる。意識が朦朧とし始め、視界がぼやける。毒か……だが気付いたところでもう遅い。俺は意識を失い体をオオカミトカゲに貪られて死ぬのだろう。だがせめて、黒狐には生きて欲しいものだ。まぁ、生きるだろ。状況的にこいつらの血に毒が含まれていた可能性が高いしな。


「あーあ……俺の冒険は終わってしまったってか……不思議と怖くねぇな……」


 5年の社会人生活で何か歪んだのか生への執着が無くなっていた。なにがなんでも死にたくないと思っていると()()()()()。なんか色々悲しくなってきたな。ハハ……。ロクでもない人生だったけどまぁ、楽しかったかねぇ。走馬灯とは違うかもしれないがいくつか思い出が浮かんでは消え、浮かんでは消える。目を開ける力すらなくなり、目を閉じてしまう。

 まぁ、心残りは初恋の人にもう一回、一目会いたかったなぁ……黒ねぇちゃん元気かなぁ。


「キャルァァ……はぁぁ。昔から変わらないのぉ」


 唐突に聞こえた初恋の人の声。最後の力を振り絞り目を開けると、狐面が被されていた。不思議と意識がハッキリしてくる。戻った力で狐面を取り払ってみれば、そこには。


「自覚あるじゃろう? のぉ、タロウよ」

「黒……ねぇ……ちゃん…………?」

「あたぼうよぉ。タロウが大好きな黒ねぇちゃんじゃぞ?」


 黒にナデシコがあしらわれた巫女服を着た、狐耳と4本の尻尾を持った俺の初恋の人が笑顔で俺を見ていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかタロウくんが出会った黒ギツネちゃんの正体がかつての恋人だったのが意外でしたね。キツネの姿ではキュート、キツネ耳少女の姿ではクールビューティーって感じですね。 [気になる点] 質問です…
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