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【第弐話】その前は…… その前は…… ?

 夜の街を行き交う人々は皆、頭が変になっている。別に狂人がいるわけでも無く、頭から触手が生えていたり、牛みたいな顔だったりしてまるで、渋谷のハロウィンパーティーかな?と思うくらい、混沌としていた。あまりの人の多さに少しクラクラしてしまいそうだ。


「ここの辺りでは、拉麺(らーめん)屋の『鯨飲馬食(げいいんばしょく)』がオススメだ!」

駆け足で俺の前に立ち、くるりと俺の方に振り返り言う。


「……っあ、その『鯨飲馬食』って店では何が一番美味しいんだ?」


「うーん、私は塩ラーメンが一番美味いと思うぞ!」


「じゃあそこにしよう、案内してくれ。」


「東にまっすぐ行けば着くぞ。」


 横に並び歩き、俺はこの『ハギノ』と言う街を店につくまでの間、キョロキョロと見て回った。時々、動物の耳の生えたお姉さん達が、いかがわしそうなお店の前に立ち、客を呼んでいる。兎に角、でかければいいとゆうわけじゃないと時折思いながらも、先程いた路地裏にそっくりな場所を見つけてはチラチラと見ていた。


「何でここにいる人達は皆、頭が変なのになってるんだ?」


「ならない人もいるよ。さっき私が呪術で殺したでしょ、あれ、魔法とかじゃなくて科学なんだよ。」


「そしてその顔は魔法を使えるようになった代償ってところだ。」


「因みに私は顔がお面のように取れます。」

 そう言って夜久は顔を掴んでメリっと剥がした。剥がしたお面。ーー否。

硬化した顔の皮と、露出した頭蓋骨との間で、赤黒い糸がニチャアと音をたてひいていた。ボタボタと血液が、顔から流れ落ちている。

 その後何事も無かったかのように、毅然とした態度で顔を元に戻した。


「なかなか気持ち悪いな。」


「イヤイヤ!さっきの男達の方が気持ち悪いって!特に目とかがウヨウヨって!」


ーーお前が言うなよ。


「っで、魔法じゃない?いったいどんな技術を使ったんだ?」


「まあ詳しくはわからんが、まず人間の脳は本来4%しか使われてないんだ。」


「そうゆう話は聞いたことあるぞ。てか映画を見た。」


「映画!?貴族達が見るってゆうフィルムがブワアアアって回っ」


「ストップ!話が脱線してきたぞ。」


「いやぁごめんね、君の世界では映画を一般人でも見れるんだな!」


「なぜ俺が貴族ってゆう可能性を捨てた!」


「だって貴族がズボンのジャージに変な文字の書かれたTシャツなわけ無いだろう。」


「まあそのとおりだな。」


 今更だが俺の格好は、さっきも夜久が言った様にズボンのジャージに、別にビーガンでもないのに、『Vegan』と書かれたTシャツに、買ってから約1半年たった白色のランニングシューズ、そして薄汚れた白の靴下という、ランウェイで歩こうとしたら、速攻射殺ぐらいの、って、服が変わってる?いつの間に?Tシャツには何も描かれておらず、靴下は灰色だった。一体全体どうなっているのやら。でも異世界に来るくらいなのだから、服くらい変わっても、何らおかしくない。

 ちなみに夜久の格好は、猫のシルエットが描かれた灰色のパーカーと、黒のミニスカートに、所々破れた60デニールと思われるタイツ、そして黒のスニーカーといったところだ。そこに緑の電話ボックスを背負っている。


「お前も映画を見たことあるのか?貴族じゃないのに。」


「わからないな。でも見た記憶はあるんだよなぁ〜。」

眉間に少し皺を寄せて言った。


「どうゆうことだ?見てないのに見たって。」


「それがわかんないんだって!」


「まあデジャヴみたいなものか。」


 そんな話をしているともう『鯨飲馬食』に着いていた。扉には『来い』と、書いてある掛札があり、窓はヒビがはいっていて、テープでそれをとめている。扉を開けて入ると、左には食券機があり、食券機の上にはこけしやら招き猫やらが、所狭しと置いてあった。俺達は塩ラーメンの食券を買い、食券置き場と書かれた底の浅いプラスチックの皿に置いて、適当な席についた。

 店の天井には、所々にハエトリテープが吊り下げてあり、厨房は少し汚くて、特にコンロ付近は油汚れや、焦げが目立っていた。客足はそこそこで、皆、ワイワイと酒を飲み交わしていた。俺達はカウンター席に座り、とりあえず話の続きを聞くことにした。


「で、何処から話が途切れたっけ?」


「確か脳は4%しか使ってないってゆうところからだな。」


「大昔、とある技術で脳の使用量を10%にまで引き上げる手術が成功したんだ。」


「へぇ〜。それで。」


「その手術をした人は、魔法みたいなのが使える様になったんだ。」


「もちろん皆は力が欲しいが故に、こぞって裏ルートで手術をしたんだ。」


「そしたらどうなったんだ?」


「勢員死んだ。まだ的確に手術が出来なかったからね。」


「そして成功者の奪い合いが始まった。最初は研究者同士の揉め事で済んだが、徐々に国家絡みになり、戦争が始まったそうだ。」


「その成功者はどうなったんだ?」


「死んだよ。自殺だ。」


「そのことがあってから皆我に返ったよ。いや我に返ったふりをしているだけだったのかもしれない。あまりにも傷が大き過ぎたからね。」


「この寂れた街は戦争の名残さ。」


「そうか……で、話を戻そう。つまり僕もやった方が良いと?」


「まあ生きるのには便利だからな。っあ!でも時々失敗するぞ。」


「ごく稀に脳の使用量が15%以上になるんだ。」


「そうなると《《ほとんどの人》》が、脳の負担に耐えられなくなって脳死するんだ。」


「でもさっき『ほとんどの人が』って言ったよな。つまり耐える事の出来る人もいるんだな。」


「ああ、でも耐えた人は皆奴らに目をつけられるんだ。」


「奴らってなんだよ。」

 すると夜久はぐいっと顔を近づけ、手で声が漏れない様な仕草をしてきた。俺はそれに合わせて耳を近づける。

「『脳愚(ノーグ)』って奴らだ。」


 その時だ。入り口から入ってすぐ左の窓から、妙に鋭い視線が首筋に刺さった。そこからジワリと蛞蝓ナメクジが這うように、憎悪と悪寒が流れてきた。

 急いで窓の方に身体ごと首を回した。今度はピキッした電撃の様なものが滔々とうとうと流れてきた。


「痛!イタタタタ!」

ーーあ、これ時々来るやつだ。めっちゃ痛い。


「うわぁ!……急にどうしたんだ!?」


「多分つった!」


「急に振り返るから!……何かあったのか?」


「…………。なるほど、視線か。」


「心が読めるって便利デスネ。」


「…… 、お前、魔法で脳の中いじられたぞ、それ。」


「は!?どゆこと?」


「魔法の使い方、とゆうか発動方法が魔法のタイプによって違うんだよ。」

 右手の人差し指をピンと立て、くるくる回しながら夜久は言う。

「一つは空間をいじる魔法。手から出したりするんだ。例えば指先から火を出したり、水を出したりする魔法だとしても、それは自分の体から出しているのではなくて、指先に火や水を発生させているわけ。ちなみに通称空間魔法。解る?」

 今度はその人差し指を自分の頭にツンツンと突きながら言う。


「大体解った。」


 そしてまた人差し指をピンと立て、くるくる回しながら夜久は言う。


ーーいちいち手の動きがウザい。


「じゃあ次。二つは自分の体や他人の体をいじる魔法。自分に魔法をかけるときは、念じるだけで良いけど、他人には肉体を触れなければいけないの。通称物理魔法。」

「次、三つは自分や他人の精神をいじる魔法。物理魔法同様自分には念じるだけで良いけど、他人には相手の目を見ながら念じないといけないの。通称精神魔法」

 やっと夜久の手の動きが止まる。ここで一つの疑問が出来る。何故、俺の背を見てその精神魔法とやらを掛けたのか。夜久が口を開く。


「それは多分、カウンターの前に壁、鉄板だろ?多分それだ。」


「なるほどな。」


 そんな事をしていると間に、俺達が注文した塩ラーメンを、ウェイトレスが厨房から運んで来た。ウェイトレスは、恐らく夜久と同い年位の少女だ。頭には狐の耳がはえている。時折ピクピクと耳を動かしていて、とても可愛らしい。少し恥ずかしそうにしながら、テーブルに塩ラーメンを置いた。


「しっ!塩ラーメンふ、ふ2つです。」


 その後、おぼんで顔の半分を隠し、そそくさと厨房に帰っていく。


「とりま食べるか。」


 左側に置いてあった箸入れから二本割り箸を取り、方っぽを夜久に渡し、自分はもう一方の箸の中央を掴み、パキッと軽快な音をたてて割り箸を割る。まずは、ズズッと勢いよく麺をすすり口の中で、麺の歯ごたえと絡み合ったスープの味を噛みしめる。控えめに言って美味い。美味すぎてつい神妙な趣きになってしまう。




 二人とも夢中になりながらラーメンを食べ、いつもの如く、スープを飲み干した。ーーいつものって…… なんだ?急な疑問に背筋が凍った。とりあえず、何処まで憶えているか、確かめる。夜久も俺の思考を読み、かなり驚いた顔をする。…… 解った。


「俺は…… 、何処から、路地裏に来た!?」

 すると、夜久はハッとした顔で、質問に質問を返す。


「君は…… 、何処から、路地裏に現れた!?」

 台パンをしながら、勢いよく立つ。


「俺は…… 、記憶を、消されたのか。」


 どうやら俺は、路地裏を走って男達にぶつかる前の記憶が何者かによって、消されたようだった。思い出そうとすると、黒霧に脳が侵食されそうになる。何度も試みるが、息切れが激しくなってゆく。周りの客が、驚いた顔や不思議そうに見ていても、気にならなかった。傍らに座っていた夜久が、肩に手を置いて正気に戻った。


「私も君から何かの話をされていた部分を、すっかり抜き取られているよ。」

 どうやら記憶を消した何かは、つめが甘くなかったようだ。悔しいがどうにもならなそうだった。


 会計を済ませ外に出ると、夜久の背負っている電話がプルルルルと無機質な音が流れてきた。それにすぐ気づいいた夜久は、受話器を取り、喋りだしたかと思うと、声のトーンが彼氏から来た電話くらい、上がっていた。これがプロの切り替えというものなのだろうか。暫く(しばらく)会話したあと、ガチャンと受話器を置いた。


「悪いな!ちょっと、とゆうかかなり離れた街で急用が出来たんだ。面白い話を聞かせてもらった!」


ーー多分こっちがずっと聞いてました。


「達者でな!」

「私に依頼される様な事すんなよ!」

小走りで此方を向き、手を降ってきた。


「気をつける!」

 俺も合わせて手を振返す。本当に感謝しかないな、と思いながら、店を離れる。今から何をすれば、記憶を忘れてた俺はこの街に、適応できるのだろうか。そして、何故消されたのかわからない記憶を思い出す。そんな日が来るのだろうか。そんな事を思いながら、もうすっかり空は暗くなり、より一層ネオンや看板の灯りが強調された繁華街に一歩、足を踏みだした。

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