代り映えのない日常
これもまた本編前のようなものです。
「おわっ……たぁ……」
「お、やっと終わった。お疲れ様」
「はい……あっ、コーヒーありがとうございます」
先輩からもらったコーヒーを一口。
いつもだったらコーヒー豆のいい香りと心地よい苦味を楽しめるのだが……
「あれ?味しないのですけど。砂糖入れました?」
「何も入れてないよ。君、三日間も会社に残って残業してるから疲れが溜まってるんじゃない?」
「三日って……もうそんなに経ってるのですか?体感まだ一日だったんですけど……」
そう言うと先輩はやれやれといった様子で電子時計を指さした。
なるほど確かに三日経過している。
というか、まわりの空き缶の量がヤバい。軽く十個は超えてるな。
「ほぉら!仕事終わったのなら早く帰る帰る!」
「わ!ちょっと先輩推さないでくださいよ!」
荷物をまとめようとすると先輩が押してくる。もちろん嫌がらせとかではないのは分かっているが……
疲れと眠さでちょっとイライラする。
「あ、部長に一言言って帰らなきゃ……」
「それならヘーキ。私がもう話しておいたよー。部長も純君のこと、心配してたみたい」
ちらりと部長の方に目を向けると部長と目が合った。
部長は僕と目が合うとすぐに近くにあった新聞を取って読み始めた。
「恥ずかしがっちゃって……正直になればいいのに。ね、純君。」
「は、はぁ……」
そんな雑談をしているうちに荷物もまとまったので帰ることに。
帰る間際に部長から
「お前は明日休め。働き過ぎだ。もっと体を大事にしなさい。」
と言われてしまった。
「休め……か。俺が休んでもほんとに大丈夫なのかな?」
うちの会社は俺を含めても十人程度しかいない。
そのせいもあって残業はあるのだが……
「三日も残業したのは……俺の手際が悪いから……だよな。」
あんなに人柄もいい人たちに迷惑をかけるのが正直辛かった。
もっと罵倒とかしてくれてもいいのに先輩も部長も他の人達も嫌な顔一つせず教えてくれたり……
「ホント、いい人たちに恵まれたなぁ。」
満員電車に乗りながらそう思った。
家に帰ると俺の嫁である菫が迎えてくれた。
「お帰りなさい、あなた。ご飯にする?お風呂にする?それとも……って思ったけど三日も働きづめだったのでしょう?まずお風呂に入ってさっぱりしてご飯にしましょう。」
「そうするよ。あと、ただいま」
そう言うと菫はクスリと笑って台所へ戻っていった。
風呂に入り、ご飯を食べると急に眠気が襲ってきた。
「ごめん、もう寝る。」
「うん。おやすみ、あなた」
「おやすみ、菫」
自分の部屋に戻ってベッドに入るといつの間にか眠ってしまったようだ。
これから長い長い旅が始まることも知らずに_____




