異世界104日目 7月13日(土) ①ビーチフェス ~命の恩人に命を狙われる~
山道を走る馬車の客車から外の景色を覗くと、照りつける太陽に反射する青い海、白い砂浜が広がるビーチが覗いた。ちょうど山の頂上付近の景色である。
ビーチの中央には特設会場が設けられているようであり、周りには露店ブースが立ち並び大勢の人影が見える。海鳥も潮風を受け、翼をめい一杯広げて滑空している。カッコいいな……鳥!
「わ~い! 海だぁ!」
俺の横では馬車に揺られながら身を乗り出し興奮している女神様がおり、こちらも大変絵になる。でもイリアさんのお馬さんじゃないから結構揺れるので落ちないように気を付けてね?
「……カズヤ、ルーミィがやたらと上機嫌のようだが……何があった?」
静かに、それは静かに俺の心をえぐるかのように問いかけてきた。やめて下さい、ピンポイントで殺気を送り込むのは……泣きそうです。
「い、いへ。な、何も……」
「言うんだ」
殺される。言わないと殺される。つい先日命を助けて貰った人に……。
その殺伐とした空気を感じ取ったのだろう、ルーミィが慌てて照れながら割って入って来てくれた。良かった……これでなんとか……。
「な、何でも無いですよ。ただ、その、だ、抱かれて……綺麗、可愛いって言われただけですぅ……」
いいですかルーミィ? 報告は的確にそして真実を述べないといけません。単語をただ並べればいいと言うものではありません。
神界でOLしてたんでしょ? 報連相分かりますよね? 報です、報! だから再研修する羽目になるんですよ?
「……カズヤ、ちょっと降りろ」
あ、終わった……。今馬車は快調に走ってるんですが。俺、放り出されるのかな? それに俺を見るその眼はまるで獲物を見据える獣のようだ。そうか、これが食物連鎖、自然のルールってこんなに厳しいのか……思えば短い人生だったな……。
≪≪≪
「ったく! あたしも言っただろ? 太ってなんかいないって」
やはり生きる事にこだわって必死の弁論を行い、なんとか命は取られずに済んだ。大変喜ばしい事だ。生きてるって素晴らしい!
「で、でもぉ……」
もじもじと恥じらっていますがルーミィ、分かってますか? 俺、殺されかけたんですよ? 発言には十分注意して下さい……。
「しかしカズヤもカズヤだ。ルーミィの事ばかり心配して、あたしは綺麗じゃないのかい? 可愛く無いのかい? 少々扱いに差が付いてるように思うんだが?」
そう言うと剥き出しの腕を俺の腕に巻きつけて密着させてきた。それだけなら他の人が見ても羨む光景なのだが、目がね……目が怖いんですよぉ……。それって睨みつけるって呼ばれる行為ですよね? 私の居た元の世界では『ガンをくれる』とも言うんです。
やめましょう、ヤンキーじゃないんですから。他のお客様も乗っておられるんです。ほら、あそこの二人組の男性なんて震えてますし……。
おっさんの両脇で両頬に手を当てて恥じらう美少女と迫るダイナマイトボディの美女。ただ、なんだろう、この心臓の高鳴りは……もちろん、恐怖が原因である。
俺が殺されない内に早く海に着いてくれぇ!
≪≪≪
砂浜に立つと気持ちの良い潮風を感じ、思いっきり背伸びをしながら潮風を体全体で受け止めた。ああ、生きてるって素晴らしい……。
海岸に到着するや否やイリアさんが『まずは水着に着替えるぞ!』と半ば強制的に提案され、早速着替えて砂浜に立っている訳なのだが、男の着替えは早いのでお先に海を満喫させて頂いている。
しかし海かぁ、何年振りだろうか。学生の時に行った記憶はあるが、あれは海の家でバイトしてただけだもんなぁ……尚、焼きそば屋さんで。
味付けが良かったのかやたらと繁盛してしまって臨時ボーナスも貰ったのは嬉しかったけど。
「それにしても結構賑わってるなあ。良い匂いもあちらこちらからするし、これはルーミィは全店制覇するんじゃないかな」
クレイドが言っていた通り露店ブースも多く出店してるし、その雰囲気を眺めるだけでも夏を満喫出来る。イートインコーナーも充実してるみたいだし海の家っぽくてテンションが上がるな。
「待たせたな~!」
「ううぅ……ひ、人がいっぱいいるよぉ……」
赤いビキニに身を包み、ダイナマイトボディを惜しげも無く晒しながら歩いてくる女性、一方、真っ白なラッシュガードを着込み、懸命に体を隠して恥じらいながら歩く女性。
ロケーションは青い海、白い砂、照りつける太陽。もう言葉は要らない。だがあえて感情を表現するならばこの一言だろう。
――最高だ。
「やっぱり海はいいな! どこまでも広がる景色というのは開放感に満ち溢れるもんな!」
好きですねえ、開放感……何度もお伝えしておりますが、それ以上解放したら重大な事故になりますので是非ともお控え下さい。
「こ、こんなに大勢の人が……な、なんでこんなに居るの……は、恥ずかしいよ……」
うん、海ですからね。しかも今日はビーチフェスと言うお祭りですから当然多いですよ?
「二人とも大変お似合いですよ」
社交辞令では無い、下心込みの本心である。遠くからずっと眺めていたい……近づかれるとこっちも恥ずかしくなるから。
「水着を新調しようかと思ったんだが、そ、そのカズヤも気に入ってくれた水着だからな。今日はこれで行く事にしたんだ……」
ちょっと照れてるイリアさんである。ギャップ萌えだな。その節は大変お世話になりました。
「わ、私だってこの水着は和也に……こ、この匂いは!?」
あ、そっちに反応しちゃいましたか。やはり食べ物の誘惑には勝てないようですね。
「か、和也! あれ、全部食べたい!」
露店ブースを指差し、目を輝かせながら飛び跳ねている。先ほどの恥ずかしさは消し飛んだようだ。想像通りの反応ありがとうございます。本当にコンプリ―トする気なのかな? でも体重を気にしてませんでしたか?
「なんだ、ルーミィは食べ物が目当てなのかい……そうだ! ルーミィ、ここの露店ブースの商品を食べ放題にする方法があるんだが?」
「なんですかそれは!? 教えて下さい! どうすればいいんですか!?」
ルーミィの喰い付きが半端無い。食べ放題という言葉を聞いた瞬間にイリアさんに取っ付き、思いっきり揺すぶってる……小さなお尻さん、またお会い出来ましたね。そしてお胸ちゃんが大変な事になってますね。波打ってますよ? ここにも大海原があったのか……。
「お、落ち着け! 揺さぶるんじゃない! 教えてやるから一旦手を離せ! その方法ってのは水着コンテストの参加だよ!」
「えっ……」
一気に地獄に突き落とされたのだろう。後ろ姿ではあるが生気が抜けて行くのが絵に描いたように分かるな。
「水着コンテストに参加すれば副賞として参加者全員に露店ブースの食べ放題チケットが貰えるんだ。もちろん、優勝者には賞品もあるぞ。ちなみにあたしは過去三回優勝してレジェンドになったから参加は出来ない。今年からは審査員として迎えられているんだ」
当然ながら優勝してますよね。それに殿堂入りは良心設定だと思います。ずっと出場されてたら他の参加者さんが可哀そうですもん。
「まあ、ムリにとは言わないが、参加賞だけでも結構魅力があると思うぞ?」
「食べ放題……でも恥ずかしい……けど食べ放題……食べ放題……」
なんか独り言を言いながら物凄い葛藤しているが、食べ放題の回数の方が多いような気がする。とことん食い意地張ってますねぇ……。




