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異世界98日目 7月7日(日) ⑤意識が無い間に……


 イリアさんも帰宅し、明日から保育園に備え少々早いが休ませて貰うことにして今は自室のベッドで横になっている。この季節にしては涼しげな風が窓から入ってきており寝苦しさは感じない。

 立地的に良い場所に建ててくれた物だ。上司さんに感謝しないとな。


「そうだ、今日、神力使ったな……」


 ルーミィのラッシュガードと水着をクリーニングした分である。今日は保育もしていないし、消費した分だけだろう。消費神力だけ確かめておくか……。



 ――今日の消費神力。


 ・神力使用 -10ポイント



 単価が100Gだから日本円換算で1000円か。まあ、クリーニング代としては少々高い気もしなくはないが、取れない汚れは無いし超即日仕上げな分を考えると妥当かも知れない。


「しかし、良く効く薬だな。まったく痛く無いと言えば嘘になるけど、少々動かしても――いだだだっ!」


 少し手に力を込めて動かしてみたのだが想像以上の痛みが襲ってきた。うん、やっぱり無理すると痛い。ちょっと大きな声出してしまった、おっさんなのにちょっと恥ずかしいじゃないか。


「大丈夫!? 和也!」


「うわあっ!? び、びっくりしたぁ……」


 いきなりドアが開きルーミィが飛び込んで来た……いつからそこで待機していたの? 後、入る時にはノックぐらいしてね……。




「傷……痛むよね」


 イスに腰掛けたルーミィは包帯の巻かれた右手を見て心配してくれる。寝ているのも何なので、俺も体を体を起こし、ルーミィの方に向けて座っているのだがその表情は相変わらず暗い。


「痛みの方は大丈夫ですよ、薬も効いていますしそれほどでも」


「でもさっき、大きな声出してたから……」


 恥ずっ! そうですよね、さっきおっさん叫んでましたよね。もう矛盾だらけですみません。でも大分マシのなのは事実ですから。


「お恥ずかしい限りで。でも大丈夫ですから」


「……」


 あれ? 急に無言? 痩せ我慢じゃないですからね、本当に薬が効いてますから。


「……私ね、何も出来なかったの。イリアさんが私と和也を担がれて岸に上がった時に意識が戻って、私の横で意識の無い和也を見て、自分の服が血だらけになってて、イリアさんも血まみれで……」


 ゆっくりと語り出したルーミィの表情は硬く、そこまでで言葉が止まった。少し間を置き、意を決したかのような瞳を向けてくると口を再び開いた。


「そんな姿を見て私はただ泣く事しか出来なかったの。でもイリアさんはすぐに傷口の止血をして……躊躇無く、人工呼吸……したの……」


 えっ!? そんな事があったの!? 俺、聞いてないんですけど……。


「その瞬間何が何だか分からなくなって……和也とイリアさんが私の目の前で……何でって、どうしてって……でもイリアさんは『すまない、ルーミィ! 今は許してくれ!』って叫んで必死に処置し続けたの」


 言葉は明確だがその瞳は潤み、頬を伝い涙がこぼれ、綺麗な手の甲に流れ落ちている。


「一瞬でも嫉妬した私が恥ずかしかった。イリアさんは和也の為に必死なのに。でも何度人工呼吸しても、心臓マッサージしても、和也は目を開けてくれなくて。手に巻かれたタオルはどんどん赤く染まっていって……」


 大きく息を吸い込み静かに俺との視線を合せてきた。今までにも増して真剣な眼差しである。ここがきっとポイントになる場所なのだろう事が察せられる。


「必死に和也の蘇生を試みているイリアさんに向かって『私が和也を殺しちゃった……』って口に出しちゃったの。そしたらイリアさんに思いっ切り睨まれて……物凄く怖かった。でも何をされても文句なんて言えない。そう思ってたら『そんな事言う暇あったら傍に来い! 声をかけてやれって!』って……」


 震え、嗚咽を混ぜながらそれでも言葉を続けてくれる。相当辛い筈だ……それでも全てを俺に伝えてくれるようだ。


「泣きながらだけど、私も必死に声をかけたの。でもイリアさんは一度も涙を見せなかった、和也が目を……開ける……瞬間まで……」


 限界に達しているのだろう、最後の方は言葉は途切れ途切れだ。しかし、本当にイリアさんには頭が上がらないな……。今度改めてイリアさんにはお礼を伝えないと。

 しかし人工呼吸に心臓マッサージまで習得している商人さんって。いろいろな特技を持っていますね。


 それにもう話は充分伝わった。今はルーミィをなんとかしてあげなければ。


「ありがとうございます。ルーミィ、もういいんですよ。ほら、私はこの通り元気ですから。明日からも保育園、一緒に頑張りましょうね!」


「うぅぅぅ……かずやぁ!!」


「おうふっ!?」


 またいきなり突っ込んできたぁ! 本日何度目のタックルになるのだろう。そのままベッドに押し倒されてしまった。ベッドのクッション性に助けられて今回は意識は失わなかったが。


「怖かった……怖かったよぉぉぉ!」


 俺の胸に顔をうずめて泣きじゃくっている……ルーミィは女神様であり、身近の死と言うものを経験した事が無いのかも知れない。今回の事は心に傷を作ってしまったみたいだ。


「もう泣かなくて大丈夫です。いつもの笑顔を見せて下さい」


「ぅう、ううん……無理だよぉぉ……」


 笑顔では無く、泣き顔であるがこちらを見つめてきた。ベッドの上で重なるおっさんと、涙を流す美少女。女神様とただの一般ピーポのおっさんのコラボなんて聞いた事が無いぞ?


 暫くの間そのままの体勢であったが、二人の目と目が合うと時間はゆっくりと流れ出した。潤んだ瞳に自分自身の顔が映るのが見える。どうやらこれがルーミィの見えている風景らしい。

 その瞳も徐々に閉じられていき、距離が詰まり、そのまま二人は――

 

「そこの二人は何をしているんだい!?」


 正座する事になった……。




「わざわざ明日の分の薬を届けに戻って来たらリビングには居ないし、気配を探れば二つ重なってる! 一体あの後、何をするつもりだったんだい? カズヤ、ルーミィ、説明して貰おうか? じっくりとねえ?」


 引きつり笑いを浮かべて何故か拳をバッキバキに鳴らし出した。その姿に冷や汗が背筋を伝った。恐らくルーミィも同じ状況なのだろう。口をパクパクさせて震えている。


 早く休むつもりが説教される羽目になってしまった……。尚、俺の服を献上すると言う所で折り合いが付いたのは、夜も更けた頃であった……。


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