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異世界98日目 7月7日(日) ②ルーミィ溺れる!


 手に持っていたトングを放り投げ一目散に川に向かって走った。自然の川は一定の個所から急激に深くなる。さっきルーミィらしき人影が見えたのは緑色の濃い深い個所だ。川の流れ自体はそれほど速い訳では無いが下流の方まで緑色が続いている。


 川に足を踏み入れ、スピードを落とす事無く下流に沿って水しぶきを上げながら川の中を走った。先程ラッシュガードを目撃した場所付近を目指して川の中腹辺りに足を踏み出した途端、足元の砂利的な物が崩れ、視界が水中へと変わった。


 この川……思ったより深いぞ!? 足は付かない上に体が重い! しまった……シャツぐらい脱いでおくべきだった。しかし一刻を争う、急がなければ!


 水中の様子を伺うと先にルーミィを捉えた。少し流されているようであり、手足に意志を感じ取れず、水中に漂っていた。


 川の流れに乗って一気にルーミィの方に向かい、なんとか追いつき捕まえる事は出来た。急いで抱えて水面から顔を出すもののルーミィの目は開く事は無く、ぐったりしている。


 俺もルーミィも服を着ていて泳ぐには適した状態で無いが、それを差し引いたとしても想像以上に人を抱えながら泳ぐのは体力を消耗するようだ。正直、ルーミィを担いだまま泳いで岸まで辿り着く事は俺には難しいだろう。


 浮き沈みを繰り返しながら徐々に流され、体力がどんどん奪われていく。このままでは二人とも溺れ死んでしまう。何処か避難出来る場所は……目の前に迫る岩……あれだ! 


 力を振り絞り目の前に迫った岩に向かって手を伸ばして掴んだ。流れの勢いとルーミィの重量が一気に右手にのしかかるのと同時に、激痛が手の平に走り、水面に赤いものが流れていった。


 その直後、握力が急激に無くなっていった。どうやら岩で手を切ってしまったようだ。しかしここを逃したら二度とチャンスは無い。幸いこの場所はかろうじて俺の身長なら足が届くようだ。


 渾身の力を左手に込め、ルーミィを引き寄せて岩の上へと押し上げた。右手の握力はすでに無くなってしまったが腕の力はまだ少し残っている。

 両足を踏ん張り、流れに逆らいながら血が流れる右手で強引にルーミィの上半身を岩に乗せ、最後の力を振りしぼって更に奥にルーミィの体を押し込んだ。下半身はまだ川の中だが、これで流れる事はないだろう。


 火事場のクソ力というやつだ。俺ってこんな力があったんだ……最後押し上げる時にお尻触ってごめんね、ルーミィ。


 ルーミィを押し上げた次の瞬間、遂に足の踏ん張りだけでは耐え切れず押し寄せる水圧に負けて体が流されてしまった。

 だが、もう力も体力も残っていない……再び視界は水中へと変わった。体はなされるがままに川に蹂躙されて方向感覚が無くなった。


 苦しい……息が、力が入らない……意識が……薄れ……る……。



≪≪≪



 何か音が聞こえる……ああ、名前を呼ばれているのか……。


 ゆっくりと目を開けるとぼやけてはいるがイリアさんの顔が見えた。あれ、確かルーミィを助けに川に入って……。


「き、気が付いたか!」


「え……っつぅ!!」


 右手に激痛が走った。そうだった、岩で手を切ってたんだっけ……。でもこの痛みで意識がはっきりとした。視界も戻ったようだ。


 痛みの元である右手を見ると赤く染まったタオルが巻きつけられていた。おそらく圧迫止血と言うやつだ。イリアさんが応急処置してくれたのだろう。


「よ、よかった……よかったよぉ……カズヤぁぁ……」


 イリアさんの涙が絶え間なく顔にこぼれてくる。どうやらルーミィを助けに行くつもりが俺がイリアさんに助けられたらしい。


「すみません……ご迷惑をおかけしてしまって……そうだ! ルーミィは!?」


 半身を起こすとすぐ傍で泣きじゃくっているルーミィが居た。良かった……無事だったようだ。白いラッシュガードは透けていて下の水着が丸見えとなっており、おへそも見えてとっても可愛らしい。

 だが、ラッシュガードと水着は所々赤く染まっていた。


「ルーミィ! 怪我をしたのか!? 血が!」


「ごめんね、ごめんね……かずやぁ……私のせいで……」


 質問の答えにはなっていない。ただただ謝りながらこちらを見てぽろぽろと涙をこぼしている。


「ルーミィに怪我は無いよ、あれはあんたの血だよ……」


 代わりに涙を拭っているイリアさんが答えてくれた。そうか……無我夢中で岩の上に押し上げた時に付いたんだな。


 でも良かった、女神様を傷だらけにしようものなら上司さんから天罰を食らう事間違い無しである。お尻を触った事は非常事態と言う事でご容赦願いたいです。


「そうですか、無事でよか……」


 足に力を入れて立ち上がろうとした途端、一気に世界が真っ白になり、そのまま前にのめり込んで倒れてしまった。




 柔らかい……なんだろうこの感触は……。


「カズヤ! おい! しっかりしろ!」


 イリアさんのお胸、柔らかい……って! うわあ! な、な、なんて事を! 俺の顔を受け止めたお胸ちゃんがむにゅってなってる! むにゅって!

 ま、まさか倒れた俺をイリアさんがお胸で受け止めてくれたの!?


「すす、すみません! すぐどきま――」


「いいから、じっとしてろ!」


 急いで離れようとした途端、イリアさんの怒声が響き、体が強張って動きが止まった。い、今の軽く殺気入ってませんでしたか? 


「す、すまない、いきなり怒鳴って。あんたはちょっと血を流し過ぎている状態だ。いきなり動いちゃダメだ。少し安静にしていろ」


 なるほど、さっきのは貧血だったのか。イリアさんに抱きかかえらながら目に入ったのだが、イリアさんの足や手にあちこちに俺の血の跡が付いているのが見えた。


 結構深く切ってしまったんだな……年頃の女性に血を付けてしまってなんか申し訳無い。しかし、この柔らかいお胸にうずくまれるのは嬉しい悲鳴ではあるが、そんな事をしていたらルーミィに怒られちゃいますよ?


 ……あれ? 何も言ってこない。いつもなら『かずやあ!!』とか『イリアさん! 近いです!』とか瞬時に反応するのに。


 むしろこの状況なら首を絞められてもおかしくないと言うか……でも貧血のせいか、あまり興奮はしないな……恥ずかしさはあるけど。


 再びルーミィの方に目をやると嗚咽を漏らし、目を真っ赤に腫らしながらこちらを見ていた。かなり酷い顔にはなっているが、怒ってはいないようだ。

 ただ負い目を感じているのだろう、ひどく震え、怯えている様子だ。


 ……ふう、痛みはあるがなんとか落ち着いてきた。いつまでもこのままでいる訳にもいかない。名残り惜しいがここまでだ。ほんと名残り惜しいですが……。


「イリアさん、ありがとうございます。もう大丈夫ですので」


「そ、そうか。無理するなよ、ゆっくり起き上がるんだぞ」


 そう言ってイリアさんの手が緩んだ。言われた通りゆっくりと起き上がった。お世話になりましたお胸ちゃん……。


 そのまま静かにルーミィの方に向かって歩き、腰を下ろして怪我をしていない左手を頭の上に乗せて笑顔を作った。


「良かったです。なんとか無事で」


「うぅぅう……かずやぁぁぁ!!」


 思いきり飛びつかれてそのまま押し倒された。急激なスライド&頭打った。ああ、また白い世界が見え……。




「ルーミィ! ダメだって言ってるだろう! 急に動かしちゃ!」


「うぅ、ごめんなさいっ! かずやぁ、ねえ、かずやぁ! 目を開けてよぉ!!」


 ……声が。ああ、また意識を失っていたのか。


「あ、は、はい。だいじょう――」


 状況を把握した。これはあれだ、ルーミィが馬乗りになって呼び掛けられている。さっきは美女の胸の中でうずくまっていたり、今度は女神様が馬乗りになってたりと目を開く度に物凄い状況になってるんですが?


 何度も言いますがおっさんは女性に対しての抗体は持っていないんですよ? 水着の女性の胸にうずくまったり、お腹の上にお尻を当てられるなんて行為は致死量に値しますからね?


「と、とりあえず降りて貰えると助かるのですが……」


「ご、ごめんなさい!」


 ……さよなら、小尻ちゃん。二人共、不謹慎だけど素敵な思い出をありがとう!


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