異世界90日目 6月29日(土) スライム製品、委託販売!
雲一つ無い真っ青な青空、じりじりと照りつける太陽。気温は右肩上がりで上昇しており、まさに絶好のスライムアイス販売日和である。
「お待たせしました~! スライムアイス二個とスライムクッキー二個ですね、300Gになりま~す♪」
ルーミィも販売業に随分慣れたものである。スライムアイスの売れ行きは大変好調、しかもクッキーとの相性も良い事からセットで購入される方も多い。
アイスや飲み物の販売には冷凍、冷蔵機能が必要となるのだがそれらはナーシャさんに魔法をかけてもらった保冷バッグで対応している。ナーシャさんは特に冷気の魔法が得意のようだもんな。最近杖の能力も向上した事だし本気夫婦喧嘩だけはしないで欲しい。
世界が滅んじゃうから。
ただ、便利グッズを作ってもらったのはいいのだが、どうしても持って来れる量に限りがあるのでいつも在庫売り切りで早めの閉店となってしまうのである。
「今日も全部売れたね~♪」
ルーミィはご機嫌に残しておいたスライムタピオカミルクティーを飲みながら休憩している。その横で俺は露店ブースを眺めながら腕を組み物思いに更けている。いや、別に格好つけている訳では無く、悩んでいるのだ。
「やはり、そろそろ限界ですね……このスタイルは」
スライムを使った料理のレパートリーは増えてきており、今後も増やしていくつもりである。その為には今までのような露店ブースでの販売では対応しきれなくなるのが目に見えている。
露店ブースでの販売では様々なロスが重なり生産にかける時間を圧迫し出している。後何製品か新商品を出したら完全に手が回らなくなるだろう。
「えっ……お店やめちゃうの? 楽しいのに……」
ちょっと泣きそうな顔をしながら続けたい意思を懇願してくる……そんな悲しい顔を向けないでくれないかな? 心が切なくなりますから。
今は多少の蓄えはあり、園児も三人に増えたとはいえ、流石に残りの日数をスライム料理の収益無しで過ごせる程では無い。スライム製品の販売をやめてしまえば保育園の運営はもちろん、何より生きていけなくなる。
「いえ、やめませんよ。ただ、営業スタイルを変えようかと。その為には……イリアさんの協力が必要です」
≪≪≪
「――なるほどねえ。それは面白い」
雑貨店のイートインスペースにイリアさんと向かい合って腰掛け、提案を検討して頂いている。最近はホットパンツの着用が定番化しており、組む足が非常に色っぽい。
ほんとギリギリの服装である……ただ、うら若き乙女のこんな行き過ぎたと言っても良いファッションをどうして村の人は注意しないのだろうか。
まあ、出来ないわな。イリアさんの実力を知っている人は……叩き潰される可能性もあるし、男性陣にとっては眼福をわざわざ排除する必要など無いもんな。
「いかがでしょうか? 双方にメリットがあるかと思うのですが」
それにしても久しぶりの営業活動である。イリアさんの目も普段とは違い鋭く感じる。最近のお茶らけた感じは一切無く、むしろ怖いぐらいだ。やはりこの人は商人さんであったか。いろいろ疑わしい所もあるけど……。
鬼気迫る交渉を目の当たりにしているせいか、ルーミィも今回ばかりはいつものイリアさん見過ぎ系のツッコミを入れて来ない。実際の所、いつも以上にイリアさんを見ている事にルーミィは気付いてる筈だが、ビジネスの独特の空気に飲まれ、言い出せ無いのだろう。
相手の顔を見る、挙動を見る、思惑を予測する……この商談、どうしても成功させなければならない。いつもの過激ファッションに目を奪われている場合では無い。
でもちょっと目のやり場に困るから出来るだけ顔を見るようにしよう……。
「あたしはカズヤの頼みなら無条件で聞いてあげてもいいんだが、そういうのはイヤなんだろ?」
にやりと口角を上げながら俺の顔を覗いてきた。甘えは怠慢を生みますからね。正々堂々とプレゼンして商談を勝ち取りたい。
ぶっちゃけ、無条件と聞いて少し心が揺らぎましたけど、タダほど高い物は無いですもんね。後でどんな要求されるか分かったものじゃ無いので辞退いたします。
「ええ、私はあくまでイリアさんに対して商談を持ちかけているただの依頼者です」
同じく口角を上げながらイリアさんの顔を見つめた……ここで弱気な態度見せてはいけない。それにしても本当に美人だな……おっと、余計な事を考えてはいけない。集中、集中と。
商談交渉の結果としては無事、俺からの提案を受け入れてくれる形となった。これで雑貨店での『スライム製品の委託販売権』を取得する事が出来た。
露店ブースでの販売において致命的な弱点はやはり荷物の運搬である。これは製品が増えていけば増えていく程、不利となる。
ただ、露店ブースでの販売最大のメリットはアピール力である。この点は失いたく無いので今後は新製品発売時には、新製品の一品限定で露店ブースを利用して宣伝を行う形にしていきたく思っている。
イリアさんのメリットとしては委託販売におけるマージンと集客効果である。つまり、雑貨店に行けばスライム製品を買いに行くついでに今晩のおかずも買えちゃうという仕組みである。
「カズヤ、あんたも中々やり手だねえ。あたし相手にそのまま押し切るなんて」
「いえいえ、なんだかんだ言いながら手心加えて頂きましたから」
「いや、そんな事は商人のプライドにかけてしてないぜ? カズヤは商人のセンスがある、どうだ? よ、よかったらあたしと一緒に……ふ、二人で――」
「はい、そこまでです! 和也は保育園の先生です! 一体何を誘ってるんですか!?」
あ、いつものイリアさんに戻ってしまった。それとルーミィも解禁されたようだ。的確なツッコミだと思います。そんな事してたら俺、消滅しちゃいますからね。
まあ、売上げを得る事も大事ではあるが、何より俺の作ったスライム料理を皆に食べて欲しい所も大きい。料理人なら誰もが思う事だと思う。ちなみに俺は保育園の先生でその前はサラリーマンであって飲食業関係の仕事はしていないんだけどね。
「ところでルーミィ、水着を選んで来て頂けますか?」
「ふぇ? み、み、みずぎぃ~!?」
何故そんなに取り乱すのだろうか……そんな変な事を言ったつもりはないが。そういえばルーミィに伝えてなかったけども雑貨店に来た理由は委託販売願と水着の購入なんだよなあ。
「カ、カズヤ! あ、あたしも選んだ方がいいよな!? どんな水着が好みだ!? やっぱり露出高めが……」
「あ、あの。保育園で使用するものなのでイリアさんは別に必要無いかと……」
「そ、そうなのか……。そ、そうだ! じゃあ今度、川か海に行こう! それなら水着を選ぶ必要が出来るな! よし、来週行こう! 断れば委託は取り消す!」
うわあ……商人のプライドどこ行ったんですか? 完全に自分の欲望を押し込んできましたね?
「み、みず、みず……」
あ、こっちはまだフリーズしてたんですね。今イリアさんがさらっと予定開けておくように指示が出てたんですが。後になって聞いていないとか言わないで下さいね。マジでお願いしますよ?
「よし! 水着は入荷したてでラインナップは充実してるぞ!」
ほんと何でも揃ってますよねえ、このお店は。仕入れ業者の人脈に脱帽です。
「はっ!? あ、あの。イリアさん、ちょっといいですか……」
「うん? どうしたんだい?」
なんか二人でごにょごにょ話してるようだけど。とりあえず俺の水着は……これでいいや。さて、おっさんが女性水着コーナに居るのも恥ずかしいし、食材コーナーにでも行くか……。
「ム、ムリですぅ!! そんなの! ほとんど何も無いじゃないですか!? 裸同然じゃないですか!?」
「そうか? 一応ギリ隠れるとは思うんだが」
ルーミィの叫び声が聞こえた……どんな水着を勧められたのだろう。こっちの世界に来て間も無い時に言われた『今夜はお楽しみ』のアレと同じぐらい気になるのだが……。




