異世界86日目 6月25日(火) ③世界記憶様とエロフ様
「子供や若い女性を怯えさせてどうするんですか!?」
「悪ふざけにも程がありますよ! おじいさん!」
おばあさんと女性のエルフさんに正座させられてお説教されているのは暗黒魔王様と世界記憶様だ。どうやら女性のエルフは世界記憶様の奥さんらしい。
どこの偉いさんも奥さんには頭が上がらないのは共通事項ですな。
「つ、つい。ギャラリーも多かったし、『魔王VSエルフ 最後の聖戦』ごっこに熱が入っちゃって……」
「わしも久し振りじゃったからはりきってしまってのお」
その二人の回答の後、再びハリセンの快音が牧場に響き渡った。
尚、引き続きお説教は続いてるが、とりあえずお二人は仲の良い友達だそうだ。しかし、魔王とエルフがお友達ってのも中々聞かないな……。
「それにしても凄い人だよ、流石はおじいさんの友達だけあるなあ。僕、何も出来無かったよ」
「私も。仮に全魔力を引き換えにしてもさっきの光の球には敵わないでしょうね」
こちらの勇者様夫妻は一転して和やかに談笑していらっしゃる。っていうか気持ちの切り替え、早! 俺なんてまだドキドキしてるのに。
と、ここまでいろいろと人ごとの様に周りを観察しているが、実は俺も何故か正座させられている……。
「和也! 自分の命を何だと思ってるの!? 今度あんな事したら許さないからね!?」
「かずやせんせ~! アメリアお腹空いちゃった~!」
「……」
ルーミィは目に涙を貯めながら怒ってるし、アメリアちゃんはお腹空いたって言って来るし、ソフィちゃんは黙ってこっちを見つめてるし……。
どう対応すればいいんだろう、みんなバラバラ過ぎやしないか? それよりも俺も正座する必要ある? 俺って被害者だよね?
「いやあ、ごめんね勇者君! 聖剣すぐに修復するからね! さ、手を出して。灰の一粒でも残ってたら大丈夫だから」
どうやらあちらの方はお説教から解放されたようだ。あ、なんか光って……アレクの手から聖剣が生えて来たぁ!?
「こ、これは凄い……まるで別物だ……」
「驚かせてしまったお詫びにバージョンアップしといたよ! さ、奥さんも杖出して、魔法の威力が二十倍ぐらいになるようにしておくから」
なんかとんでもない事をさらっと……絶対零度が二十倍になるんですね。この異世界で生きとし生けるものの生殺与奪の権理を握る人がまた増えた訳か。氷河期が生ぬるく感じる程の力を得た訳ですね。
「ちょっと! 余所見しないの! だいたい和也はね――」
「……」
あ、まだ続くんですね。後、ソフィちゃんお願いだから何か喋って……。アメリアちゃんはすでに居ない、俺のお説教されてる姿に飽きたんだろうか。
「かずやせんせ~、おにぎり食べていい~?」
背中に声が投げられた。この声はアメリアちゃんだな。そういえば、お腹空いてたんだったね……。
「え、ええ。先に食べてて下さい。もう少しかかりそうなので……」
上体をそちらに向けてアメリアちゃんに返事をしてあげたのだが、途中で言葉が止まった。
「わ~い、よかったね、サラ! 一緒にたべよ~」
「うん、アメリアと一緒~!」
アメリアちゃんは相変わらず元気だなあ、仲良く食べてね……ところでその隣にいる子って誰? そこの小さなエルフさんは?
≪≪≪
何故か当時者のお説教よりも被害者の俺の方が長いという異例の事態があったが、今はみんなで昼食を取ろうという事になった。
牧場は先程の修羅場から一変して超が付くほど和やかムードに包まれている。
流石に人数が増えたので用意していたおにぎりだけでは足りず、急遽料理を追加で作らせてもらっている。牧場の皆様、食材提供感謝でございます。その分、腕によりを掛けて調理させて頂きますね。
いやあ、それにしても開放感のある所での料理は格別だな。どんどん作っちゃうぞ~!
「カズヤさんはお料理が上手なんですねえ~」
調子に乗ってフライパンをブン回しているところに世界記憶様の奥様、マオさんから声がかかった。先程簡単な自己紹介を済ませており、世界記憶というのは二つ名だそうで旦那さんはレイバーさんと言う名だと紹介されている。
しかし、美しい人である。レイバーさんの容姿に更に磨きがかかったような白い肌に金色の髪、瞳も鮮やかな碧色である。やっぱエルフは容姿端麗が鉄板なんだな。
ただ……今俺は非常に困っている。ここでイリアさんを引き合いに出してしまうのだが、いや、それは失礼な事と承知の上での狼藉であるが、マオさんの持つそれはイリアさんを完全に凌駕しているのだ。
服装の過激さは無いのだが、夏場なので当然薄手の生地であり、より誇張されてしまっている……。こんな、こんな胸が存在していいのだろうか……神よ!
「和也、まだお説教が足りないようだね? 奥に行こうか?」
ルーミィさんや、出来れば園児達の前では先生を付けて欲しいかなあ? さっきのような緊急事態の時は仕方無いけどさ。後ね、奥には行きたくありません。
「うふふ、仲がいいのですねえ。あら、ソースこぼしちゃいましたぁ~」
あまり焦っていない様子で焦っているよだ。だが、幸い服は汚れていない。だって、お胸にソースが着地したんだから。これはあれだ、天然系エロフだ。もう間違いない。指で胸の上のソースをすくって舐める姿がもう艶やか過ぎて卒倒しそうである。
「お母様ぁ~」
まったりとした呼び声を上げているのは、先程アメリアちゃんと一緒におにぎりを食べていたちっちゃなエルフのサラちゃんである。世界記憶様とエロフ様のご息女だけあってパーフェクトな容姿である。年はソフィちゃんと同じぐらいと思うのだが、性格や仕草は何となくアメリアちゃん寄りかも知れない。
しかし、マオさん、なんという胸の大き――
「どこを見てるのかな? また胸かな? 園に戻ったら話があります。覚悟して下さい」
「は、はい。承りました……」
うう、無理だよぉ。目の前に超巨乳エルフ、しかも人妻さんを目で追うなと言う方が間違ってるよぉ。男の子だもん、どうしても見ちゃうよ……。
「ところでアカちゃん、何しに来たのじゃ? 牧場で『魔王VSエルフ 最後の聖戦』ごっこがしたかったのかの?」
「いやあ、実はカズヤさんを探していたらメアちゃんの牧場に居るみたいだったから。そっちのけで楽しんじゃったけどね。凝った登場の仕方もしちゃったし」
世界記憶様って……軽めだ。しかもそんなあだ名で呼び合ってるんだ。仲が良いと言うか、もはや幼馴染みぐらいの関係だな。
「じゃあ本題なんだけど、カズヤさん、うちのサラを保育園に入れて貰えませんか? 白銀狼のカリムさんや古龍のバストラさんから話を伺ってまして」
あ、そっちはパパ友繋がりですか。というか神超えモンスーと交友がある時点で貴方も神越えのエルフさんですね。
「お父様~、アイスって食べ物貰ったの~、あうっ!」
サラちゃんがお父様に向かって走ってきたのだが、その途中で豪快にこけてアイスをひっくり返した……この子、もしかしてドジっ子か!?
「サラはのんびり屋さんでして、まだ魔法もロクに使えないんです~。全く誰に似たんでしょうかねえ~」
うん、貴女だと思いますよ? 確実に。
「大丈夫? サラちゃん。ほら、先生のアイスをどうぞ。走っちゃダメだよ?」
サラちゃんを起こして新しいアイスを手渡してあげた。ちなみにこのスライムアイスは大好評であり、ルーミィも今はアイスに夢中になっている。あ、二個目をスキップで取りに行ってる……。このまま園に帰ってからのお説教の事を忘れてくれないだろうか。
「カリムさんとバストラさんからも伺っていましたが、カズヤさんとルーミィさんの取った行動は称賛に値します。そのような方達になら安心してサラを預けられますので」
さっき命を張ったアレですね。お願いですから二度としないで下さい。どうしてうちの保育園には普通に門を叩いて入園申請に来てくれないのだろうか……。
「分かりました。こちらこそ、宜しくお願い致します!」
「あうっ! ああ、アイスがぁ……」
サラちゃん、またこけてるし……。ちょっとこの子、預かるの不安なんですけど?
とんでもない事件に巻き込まれたせいで、もはやスライムアイスの試食会が薄れてしまったが、やはり搾りたての新鮮な牛乳を使ったアイスは格別の味であった。
練り込まれたスライムは凍る事により、滑らかなミルクの中にシャーベットのようなアクセントが入っていて食感も楽しめる。
アイスクリームの中につぶつぶ冷凍スライム。無味無臭のおかげで味の干渉は無い上、食感を与えてくれている。無味無臭の食材でも用は使いようである。
これは売れる! もう自信しか無い。今度の土曜日までに大量生産して新製品としてデビューさせよう!
≪≪≪
親睦会も兼ねた昼食を終え、サラちゃんの登園は明日からとして今日はエルフ親子にはお帰りになって頂き、俺達も牧場の方々にお礼を伝え園に戻って来た。そろそろ保育時間の終了なのであるが、ソフィちゃんがあの事件以降一切喋ってくれない。
厳密に言えば俺にだけ。ちゃんと牧場の方には挨拶していたし、サラちゃんにも自己紹介していた。もしかしてルーミィと同じく怒っているのかも知れない。
「ソフィちゃん、どうしたの? 元気無いよ? もしかしてルーミィ先生みたいに怒ちゃってるのかな?」
ソフィちゃんの目線に合わせてしゃがみ込み、お話してみた。そう言えばあの時ばかりはソフィちゃんも感情的になっていたな。
あ、ルーミィがこちらをジト目で見てる……なんかぶり返しちゃったかな。
失策に後悔していると不意に首の横辺りに暖かい何かを感じた。赤く長い髪が目に映った。俺の首に……口づけ? なんで?
目線を少しずらすとジト目をしたままルーミィは硬直しており、アメリアちゃんは別段表情も変わっていないがこちらの様子を見ていた。
しばらくするとソフィちゃんは首から離れ、顔を赤くして下を向きもじもじしながら喋ってくれた。
「……カズヤ先生、命がけでソフィ守ってくれた」
「カズヤせんせ~、ソフィと番になるの?」
次の瞬間、ルーミィの後ろ背景に落雷が落ちるのが見えたような気がした。もちろん、錯覚であろうが。
「でもソフィだけずるい~! アメリアも!」
アメリアちゃんまで首に飛び込んできて思いっきり首を吸ってきた。
君達、狼とドラゴンだよね? バンパイアとかじゃないよね? 俺の血を吸って無いよね!?
「カズヤ先生、自分の事犠牲にしてまでソフィ、守ってくれた。だからソフィの番に決めた。首への口づけは番の約束」
流暢に喋りましたね、ソフィちゃん。そしてとりあえずアメリアちゃん、離れなさい。いつまで吸ってるの? そしてルーミィ、震えないで。
アメリアちゃんをなんとか引き剥がすと尻尾を振り、満面の笑顔だった。ソフィちゃんはまた顔を赤らめて下を向いてしまっている。ルーミィは……俺には見れない、いや、見たくない。
「じゃあね~! またあしたね~!」
「……約束……した」
二人はゲートに入りお家に帰って行ったのだが……。
「寿さん、園長室に来て下さい。今すぐに!」
……俺に明日は訪れるのだろうか。




