異世界85日目 6月24日(月) ②お手て繋いで
無事花壇にも朝顔の種を植え終わり、園を彩るお花プロジェクトも開始した所であるが、園児達には実はもう一つお楽しみを用意してある。
昼食後に再び園の外に出て本日二度目の神力を使った。花壇の時と同じく大量の土と煉瓦の囲いを具現化させてみた。ちなみに手に持っているこの神ブック、イリアさんからは汚れが付かない特殊な魔法がかかってると言われた。土いじりをした手で触っても一切汚れが付かないという謎仕様だ。
あまりおおぴっらに出来ない話であるが、この前、誤ってコーヒーをぶちまけてしまった時も無傷であったぐらいであり、その効果には舌を巻くものがある。
ちょっと意地になって何とか汚す方法は無い物かと無駄な思案をしばらく行ったのだが、その途中で我に返った。俺は神ブックに恨みは無いし、何より万一使えなくなって困るのは俺自身なのだ。
これから出来る限り大事に扱っていきたく思う……馬鹿だな俺……。
ちなみに神力で具現化させた大量に土は『畑』にするつもりだ。花壇と同じく栄養豊富な土をイメージしておいた。園児達には花と一緒に食物も育ててもらおうかと思っている。
そこで今回植えようと思っているのは『さつまいも』さんだ。
イモ類は比較的育てやすいと言われているし、収穫も楽しい。もちろん食べても美味しいのは周知の通りの優れものだしね。
特に収穫の時は、連なるさつまいもを掘り起こし、興奮したのを幼心に鮮明に覚えている。ぜひあの体験を園児達にも味わって欲しい。
畑に続いて神力を使用して種イモを具現化させた。それにしても今日は過去一で神力を使っているな。まあ、それほど単価が高い物ではないとは思うんだけど、少しばかり不安だったりする。
もちろん、この世界にもさつまいも自体はあるのだが、ここは少しこだわって日本の品種にした。だけどいくら育てやすいとは言っても農作業は難しい。素人では発芽させる事すら出来ないかも知れない。
そこで、神力のイメージで成長しやすいようにと補正しておいた。何度も神力を使っている内にコツみたいなものを掴めるようになってきた。要はイメージ次第なのである、改めて考えるとほんとチートな能力だ。
「……これは何?」
ソフィちゃんはなにか育てるという行為に興味を持ち出したのだろうか。アメリアちゃんよりも積極的に質問してくる。ちなみにアメリアちゃんは畑に入って走り回っている。やっぱり狼だし土が好きなのかな……。
「これは種イモと呼ばれるものだよ。これを植えると沢山のお芋さんが出来るんだよ」
「……お芋さんからお芋さんが出来る……不思議」
ひとしきり土とじゃれ合っていたアメリアちゃんもこちらに戻って来た。もう服はもちろん、顔も泥だらけだ……まあ元気な証拠だ。子供はそれくらい元気な方が宜しい。
「じゃあ今度はこのお芋さんを植えて育てるよ! 上手く育てば秋には美味しいお芋さんがいっぱい出来るからね」
「ねえねえ、カズヤせんせ~、ルーミィせんせ~と喧嘩しちゃったのぉ?」
よおし、じゃあ、種イモを植えていこう! って……アメリアちゃん? 今からする作業と全く関係の無い発言をしたよね?
「……先生達、今日一回も喋っていない……お顔もちゃんと見てない」
ソフィちゃんのその観察力は素晴らしいと思うよ、もうカズヤ先生はびっくりだよ? ソフィちゃんには観察日記を付けてもらおうかな?
しかし、園児達にバレてるとは……まあ喧嘩ではないんだけど。しかし子供とは敏感なものだな……。
ルーミィの方を見るとそれはもう大変な慌てっぷりで顔を真っ赤にしていた。どうやら俺と同じく園児達の取った行動に驚かされているようだ。
「……カズヤ先生、ルーミィ先生に謝って仲直りする」
そして俺が悪い体なんですね、ソフィちゃん……。どうしてそう決め付けちゃったのかな? 先生ちょっと悲しいよ?
「けんか良くない……ルーミィせんせ~かわいそう……」
え? なんか知らないけど園児達から悪者扱い、いや主犯扱いされてる!? あのカズヤ先生はね……いや、少々納得出来ない部分はあるが、これは良い機会だ。このままルーミィとぎくしゃくした関係を続ける訳にもいかない。
もうこうなったら俺が悪者でもいいや、先に謝っちゃえ!
「ルーミィ先生、先日は申し訳ありませんでした。その……変に意識してしまって」
「わ、私こそ。わがままばかりで……ごめんなさい……」
「……仲直り出来た」
「仲直り出来たらおててつなぐんだよ!」
どうやらアメリアちゃんの中では手を繋ぐ行為は仲良しの証拠となるらしい。まあ、間違いではないとは思う。正直かなり恥ずかしいが園児達の手前もあるしここは素直になっておこう。
ルーミィの手を取って握りしめた。今まで触れた事はあるが、こうやって女性の手を握るのは初めてだな……人生において。尚、園児達とは毎日手を繋いでいるが、こちらはノーカウントだ。後、昨日イリアさんにも繋がれていたがあれは医療行為の延長だ。患者の不安を取る為のものと思っている。
しかしなんて小さくて綺麗な手だ。そして女の子の手ってこんなに柔らかいんだな……緊張する、手汗が大変な事になりそうだ。
「さ、さあ! みんなでお芋さんを植えますよ!」
「手を握っ……意識して……私と……同じ……そ、それって……はわわぁ……」
ん? なにやらルーミィの様子がおかしい。何か魔法の詠唱を唱えているようですけど? それといつまで手を繋いでいればいいのだろうか。このままではおっさんの手汗でルーミィの手の平がびちゃびちゃになってしまう……気持ち悪がられてしまうじゃないか……。
「カズヤせんせ~とルーミィせんせ~は番になるの?」
衝撃的な一言がアメリアちゃんから放たれた。番ってつまり夫婦だよね?
「つ、つ、つが、つがっ!? はぁはぁはぁっ、うくぅ!? すぅ、すぅ、すぅぅぅ!!!?」
「なんか過呼吸になってる!? ルーミィ先生、深呼吸をして! それにしっかり息を吐いて!? 吸ってばかりじゃダメぇ!」
その後、ルーミィを正気に戻すまで種イモ植えは中断した尚、一息付いたルーミィが『こ、この手は洗わないでおく……』などと小声で言っていたが全力で洗うように伝えておいた。これから畑仕事をする上におっさんの手汗などさっさと洗い流して欲しい。
なにより保育園の先生が手を洗わないなんて衛生上、大問題になるからね?




