異世界84日目 6月23日(日) ①ゾンビ集団現る!
サマーフェスの夜はすっかりと明け、朝日ではあるが汗ばむ日差しを感じる。そんな中、酔い潰れて寝てしまったルーミィを再び背負って園へと戻ってきた。
もうクタクタである……おっさんの身でオールは堪える……。
ちなみに会場を後にする際に何故かイリアさんも園に来ると駄々をこねられたが、自分の家である雑貨店が目と鼻の先なのにわざわざ園に来る必要も無い為、ご辞退頂いた。
イリアさんの真意が読めない……というか今は頭が回らなかっただけとも言うが。
ただ、半ば捨て台詞のように低い声で『ルーミィにサービスし過ぎだ。それ以上は……分かってるな?』と告げられた。身の毛もよだつという現象を初めて感じた瞬間であった。
とりあえずイリアさんを背負えばいいのだろうか? いや、ムリだ。あの胸が背中に張り付く事など想像ならばいいのだが、いざ現実に直面すると出来る訳無い。
幸せ過ぎて死んでしまうかも知れない。胸の感触か……きっと柔らかいんだろうな……。
それにしても疲れた……一刻も早くベッドにダイブしたい。だが、そんな事をしたら確実に安らかな眠りについてしまって二度と起き上がる事など出来無いだろう。
残念ではあるが、俺はまだ眠る事は許されていない。これから地獄へ行かなければならないのだから……。
≪≪≪
二度目のおんぶの試練を見事達成し、無事、園に戻ってきた。そのまま二階へと上がったのだがここに来てルーミィの自室前で少々葛藤して立ち止まっている。
女の子の部屋に無断で入って良いものだろうか……食欲旺盛な事を除けばルーミィは女神様であり今は可憐な美少女である。脱ぎっぱなしの下着とかは無い事を祈りたい。
ドアの前で入るのを躊躇していたが、意を決して部屋に入った。間取り的には当然ながら俺の部屋と一緒である。だけど……なんかいい匂いがするような気がする。シャンプーとかも同じ物を使っているのに何故だろうか。これが噂に聞く『女の子の部屋』効果か……。
なにはともあれ、背中で寝息を立てているルーミィをベッドに寝かせる為に部屋の奥に入って行ったのだが……死角になっていた場所に服が山のように積まれてるのを発見した。
下着もチラホラ……いかん! これじゃあただの変態じゃないか! 見ては、見てはいけない! というかちゃんと直そうよ、畳んで直そうよ、女神様!
お片付け出来ない女神様をベッドに寝かせてタオルケットをかけてあげると、息を潜めて出口に向かい、出来る限り静かに扉を閉めた。もう完全に犯罪者の気分だ……。
とんでもない現場に目の当たりにしてしまったが、取りあえずはミッション完了だ。さて、眠気を覚ますのとおっさん臭を消す為にシャワーでも浴びますかね……。
≪≪≪
「ふう……とりあえずさっぱりはしたな……さて、そろそろ行くか」
一汗流し、新し服に着替えて再び玄関に向かった。実はサマーフェスに出店する店舗には漏れなく一つの条件が課せられる。その内容はお掃除である。
尚、これに参加しないと次回から出店禁止処分を食らうらしい。それだけは避けなければならない。来年も園児達とサマーフェスに参加したいのだ。酒飲みのおっさんせいでイベントが出来ないとなれば、園児達に申し訳が無さ過ぎる。
リビングのテーブルにルーミィに宛てた書き置きを残し、園の外へと出たのだが、太陽は先程より高く昇り、日差しはかなり強くなっていた。
太陽までが俺を殺しにかかってきているような気がする……自業自得なんだけどさ。
「さあ、出陣だ……」
降り注ぐ日差しに完全に負け、気の入って無い号令を自分にかけてとぼとぼと村へ歩いて行った。今日はまた一段と暑くなりそうだ……。
≪≪≪
息も絶え絶えでなんとかイベント広場に到着すると、イベント広場は未だかつてない混沌とした空気に包まれていた。皆、生気を失った目をしており、時折唸り声を上げながらゴミ拾いやブースの片付けを行っている。その光景はゾンビの群れと言っても過言では無い。
尚、人ごとではなくおっさんも例に漏れず同じ状況である。
「よお、カズヤ! お前朝まで居たんだってな? その状態での掃除はきっついだろう!?」
同じ惨状の仲間を目の当たりにし、引きつり笑いを浮かべていると不意に背後から声がかかり、一瞬意識が飛びそうになった。
やめて……大きな声出すの。ほら、クレイドの近くに居た人倒れたじゃん。大丈夫ですか? あ、なんとか立ち上がった。まさにゾンビだな……。
「これこそサマーフェスの風物詩『炎天地獄片付絵図』だ!」
降り注ぐ太陽光がそんなクレイドの語り中もゴリゴリ体力を奪い去っていく……しかも何その国宝とかにありそうな地獄タイトル。要らない、今はそんなの要らないから。
「そうそう、カズヤ。これをお前に渡しておこうと思ってな」
クレイドが投げ渡してきた小袋を受け取ると、同時に手元で硬貨の音が鳴った。しかも複数の接触音が。
「今年はカズヤのイベントお前もって宣伝しておいたおかげでなんと村の収益が1.5倍になったんだ。その上、ベストイベント賞にも選ばれたからな。それは村からのお礼ってやつだ」
この袋、結構重いぞ? ちょっと覗いてみたが明らかにかかった経費の数倍、いや十倍ぐらいのお金が入ってるんですけど。しかもベストイベント賞なんてあったのね……。確かに音楽や手品なんかのイベントもしてたもんな……。
「ですがクレイド、このお金は受け取る訳には……保育園の行事の一環でしたし」
「まあそう言うなって! イベントは夏だけじゃないからな、今度も頼むぜ!」
ああ、手を振って行ってしまった……。同年齢とは思えないタフさだな、まあオールで飲んでは無いだろうけど。
「ゾンビの皆! ちゃんと水分補給はしろよ~! ぶっ倒れられても困るからよ~!」
やっぱゾンビって呼ぶんだ。それよりもさっきクレイドが一人ぶっ倒してたの見ましたけど? しかし水分補給所もあるみたいだしアフターもしっかりしている。さすが実行委員会会長だ。
それにしてもこのお金どうしよう……まあ、折角のご厚意だしきっと返しても受け取らないだろうから素直に貰っておこう。それじゃあ、俺も水分補給してゴミ拾いと行きますか。
「よう、カズヤ! 体調はどうだ?」
続け様に声をかけてきたのは、太もも全開の超ショートパンツにおへそも全開、更にタイトなTシャツのせいでお胸が非常に苦しそうな感じになっている過激なファッションリーダー、イリアさんであった。
くっ……今日の服も眼福です! でもお胸ちゃんが苦しそうですよ?
「全く寝ていませんから、正直ふらふらです。イリアさんはお元気そうで……」
俺以上に飲んでいたにも関わらず、なんで元気ハツラツなんだ? 俺はその辺りでうろついているゾンビさんと何ら変わりないぐらい調子悪いんですけど。
「ああ、一晩程度の徹夜でへこたれる程やわじゃないからな!」
只の徹夜では無くお酒飲んでましたけどね。しかし頼もしい限りです。多分アレクとかも同じ部類なんだろうな……体の作りが根本から違うようだ。
「うん? 今日はルーミィは居ないのか。さては一人であたしに会いに来たのか!?」
イリアさん、昨日の一件から態度変わりましたね? かなり積極性が増しているように伺えますが?
「ルーミィは園で寝ていますよ。それに違います。フェスのお掃除に来ないと来年のさくら保育園のイベントが出来無くなってしまいますからね、代表として私が来たんです」
「なんかルーミィの呼び方も流暢になったものだな。あたしと大分と差が付いているんじゃないか? 不公平だな、そういうのは?」
腕を組み、見上げられながら歩み寄ってきた。イリアさんの身長は高い方ではあるが、それでも俺の背には届かない。おっさんはもやしっ子だがその分背は高めなのだ。
だけど、その様子……もはやヤンキーですよ?
「わ、分りました。では、ゴミ拾いが終わったら一緒にお茶でもいかがでしょうか?」
もう一段階機嫌を損ねようものならきっと殺気が放たれる。俺には分かる。そして今の状態で殺気なんぞ当てられようものなら間違いなく死ぬ。いや、被害が俺だけ済むならまだいい。だが今、この広場には無数のゾンビが居るのだ。彼らを巻き込む訳にはいかない!
みんなまとめて天に召されてしまう。
「まあ、それで手を打ってやるか。じゃあ早く終わらせてきな! 時間が勿体無い!」
いや、あの。水分補給してからじゃダメですかね? あ、なんかもう戻れない雰囲気出てますね、はい、頑張ります……。
こうなったら一刻も早く作業を終わらせて休憩しよう。しかし、この炎天下……なんか、ぼ~っとしてきたぞ。思ったよりも体力の消耗が激しい。寝不足と二日酔いの体には堪えるな。
あ、精神的疲労もあったな……。
≪≪≪
「ゾンビ諸君、ご苦労様! しっかり水分補給して帰るように! そしてしっかり寝ろよ!」
クレイドの終了の合図が響き渡った……ああ、やっと終わった……さっきから頭が痛くなってきている。脱水症状になりかけてるのかも知れない。早く水分補給しないと……。
「よ~し、終わったな! じゃあ行くぞ!」
なんとか辿り着いた水分補給所で即イリアさんにロックオンされるや否や、腕を捕まれてしまい水分補給所から遠ざけられてしまった。
「あ、あのちょっと休憩させて頂けませんか……せ、せめてお水を――」
次の瞬間、急激な脱力感が体を襲ってきた。足から力が抜け、視界が狭くなりイリアさんに引かれる腕を預けたまま地面に倒れ込んでしまった。
「おい!? カズヤどうし……カズ……」
イリアさんに呼ばれてる……でも体の感覚も聴覚も失われて返事が出来ない。体が痺れて、視界が完全に閉じてしまった。
これって完全に熱中症だよね……なるべくしてなってしまったじゃないですか……。




