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異世界1日目 4月1日(月) ⑥女性に歳の話はしてはいけない

 

「ねえねえ、私、お腹空いてきちゃったぁ~」


 園長室で神ブックの機能をいろいろと試していたところ、ルーミィさんからお声がかかった。

 今、忙しいのですけどね……後にしてもらえませんかね?


 心が読まれない以上、心の中では何を思おうとも自由なのだ。素晴らしいなぁ~、心の内がバレないというものは。


 とはいえ、今現在この保育園にあるのは設備だけであり、食糧などは一切無い事は先ほどのキッチンの見学で分かっている。

 食糧確保は確かに優先する課題でもあるな。


 神ブックを閉じてルーミィさんを見ると、お腹が空いているせいか、随分と不機嫌そうな顔を向けていた。俗に言うふくれっ面というものだな、あれは。


 しかしながら、そんな顔も可愛く見えてしまうのが美少女の証拠なんだよな。


「分かりました、それではこの保育園のある丘を下った所に村がありましたので、そこに行って情報や食糧を調達しましょう。ただ、言語が通じるかも分かりませんし、何よりお金を持っていません」


「じゃあ、神力(かみりき)を使ってお金出そう! そしてご飯を食べよう!」


 神力を使ってお金を工面するのは止むを得ないと思っている。ただ、この世界の通貨が分からないのだ。

 今の状態で神力使っても日本円のイメージしか沸かないのでダメだ。一度この世界のお金を見る必要がある。


 それになにより、この保育園を運営するにあたり、俺とルーミィさんの存在を村に知ってもらう事が必要不可欠だろう。


 村に受け入れてもらう事が出来なければ保育園の運営なんて出来よう筈もない。第一関門は村に馴染めるかがポイントだ。


 俺が思いついた事を順にルーミィさんに説明してまずは同意を得る事にしよう。

 一人の判断で動けない共同生活って難しいよなぁ……。



≪≪≪



「なるほど~! その通りだね! 和也って結構考えるタイプなんだぁ!」


 ひとしきり今後の活動内容を説明したのだが、返ってきた言葉が少々引っかかる。

 若干馬鹿にしてませんかね? 年上を。


 うん? 年上なのか? 女神様だから見た目と違って年を食っていてもおかしくはない。


「ひとつ宜しいですか? ルーミィさんのお歳はおいくつでしょうか? 女神様であれば――」


「私は永遠の十七歳です。なにか?」


 喰い気味に放り込まれた。


 笑顔を作ってはいるが、完全に目が笑っていない。この話題には今後触れないでおこう。ルーミィさんは十七歳の美少女、それ以上でもそれ以下でも無い。うん。


 謝罪の後、園を出たのだが、いいおっさんが十七歳にちょっとビビったのは俺の心の内にしまっておくとしよう……。



≪≪≪



 園から出て村へ行く道中には、スライムこそ見かけたものの、それ以外のモンスターには出会わず、無事に村へと辿り着く事が出来た。


 エンカウント率に感謝するしかない。今は走って逃げるの一択しか無いもんな。それに保育園には武器の類は一切置いておらず、対抗手段も無いのだ。あの建物が聖なるバリアで守られていると信じたい。


 村に入ると丘から見た風景からは感じ取れなかったが、思っていた以上に活気があり、多くの人が行き交っていた。

 そんな賑やかな風景を彩る看板を見ると、ちゃんと日本語で表記されており、盗み聞きした村の方達の会話もしっかり日本語であった。


 幸運な事に、先だって危惧していた言語問題は簡単に解消されたな。


 これは今後を左右する大きなアドバンテージだ。言葉が通じないと試練の難易度が桁違いに跳ね上がるもんな……。


「この村はフォレスト村と言うらしいですね」


 村に入り、そのまま足を進めると公園のような広場の入り口に着いた。

 その脇には村の全体マップを掲示しているスポットがあり、でかでかと村の名前が表示されていた。


 マップ上にも村長宅の所在が記載されていたので、なんとか辿り着く事が出来そうだ。

 まずはここの村の長に挨拶をするのが、最初のミッションである。


 しかし、言語の類は辛うじてねじ曲がっていなかったようで幸いである。他は散々だけどさ。


「まずは村長さんの所に行きましょう。この世界のルールや特殊な宗教制度なんかもあるかも知れません。そこを押さえておかないと、いきなり村八分とかになってしまいかねませんからね」


「え~、そんなの後でよくない? お腹空いたよぉ……」


 とても悲し気な表情を見せてお腹をさすっていますが、そこは我慢しましょ? 子供じゃないだからさ? 


 ブー垂れるルーミィさんをあやしながら村長さん宅へと向けて足を進めた。

 なんかルーミィさんの相手するのが既に保育園の先生みたいになってるんですけど? これってポイントにならないのかな……。



≪≪≪



「へえ~驚きだ! 異世界からの来客ってのも。ま、広い世の中だそんな事もあるかもな!」


 今、俺達の前に腰を据えるのはこの村の村長、クレイドさんである。歳は俺と同じか少し若いぐらいに見える。


 村長さん宅に到着し、緊張しながら事情を話したところ、拍子抜けするぐらい気さくに対応してくれている。


 もちろん、女神様が居ることや俺が神力を使える事は伏せてある。あくまで異世界からの来訪者として紹介させてもらった。


 それだけでも十分衝撃の内容だけどね。


 そんな村長のクレイドさんはかなりの男前であり、人情味溢れる独特の雰囲気と、カリスマ性を感じる。


 ただ、村長と言えばおじいさんとかが出てくると先入観を持っていたので、彼が村長と名乗った時には失礼ながら冗談と思ってしまったもんな。


「急な訪問で驚かせてしまってすみません。でもおかげでこの世界の事が少し分かりました」


 クレイドさんの話によると、やはりこの世界は剣と魔法の世界のようだ。

 そして不思議な事に、この辺り一帯にはモンスターは存在しないらしい。村長さんも含め、村の人からも一度でも見たと言う情報は無いとおっしゃっていた。


 尚、道中でスライムを見たと話したところ、あれは精霊と呼ばれる存在であり、モンスターでは無く、食べる事も可能だそうだ。ただあまり一般的では無いらしい。


 なにはともあれ、モンスターが出ないのは良い事だ。上司さんもその辺りも気遣ってくれたのだろうか。さもなければ初日でゲームオーバーの可能性もあるもんな。


「本日はどうもありがとうございました。私達は桜の大樹がある丘に住んでおります。今後はこの村に行き来したいのですが宜しいでしょうか?」


「おう、全然構わねえんだが……ってかあの丘に建物なんて無かったぞ?」


「じ、実は建物だけは異世界の物を持ってくる事が出来まして……」


 嘘では無い。まあ、用意してくれたのは上司さんなんだけど。


「へえ、凄いな! 異世界の技術ってのは!」


 あ、それで済んじゃうんですね。疑ったりはしないんですね、別にこっちもやましい事は無いんですが。


「後、今すぐと言う訳では無いのですが、保育園と呼ばれる仕事を開業しようと思ってまして……」


「ん? なんだそのホイクエンってのは?」


 クレイドさんが片言で言葉を繰り返し、首をかしげている。

 やはりこの世界には保育園というシステム自体が無いようである。改めて保育園の仕組みを話したところ、クレイドさんも真剣に聞いてくれた。まあ、近代的な取り組みではあるもんな……。




「あんたらそんな事を考えてたのか。いいぜ! 気に入った! 好きなだけあの丘でその保育園ってやつをやってくれ。いや、むしろこっちからお願いしたいくらいだ!」


 無事、保育園開業の認可を頂けた、ありがとうクレイドさん! マジで助かります!


 ていうかルーミィさんが笑顔のまま一切動かず、完全に置物みたいになってるんですけど。いや、置物というのは失礼か、純粋に美少女フィギアだな。うん。


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