異世界83日目 6月22日(土) ⑦サマーフェス ~おっさんはくどい~
「あ~、あ~。テステス……。みんな~! サマーフェス楽しんでるか~!? いよいよ夜の部が開幕だ! 十歳になっていない子はお酒は禁止だぞ? それと良い子が遊んでいいのは夜九時までだ。それ以降は悪い大人だけになるからな! ちゃんと家に帰るんだぞ~」
ルーミィさんとの『髪留めはお仕事で使ってもらうつもりだったんですぅ』事件の余波で情緒不安定になっているところ、中央特設ステージからノリノリのクレイドの声が響き渡ってきた。
よし! ナイスタイミングだ! この隙に一度心を落ち着かせておきたい。
「それでは今年もナーシャさんによる花火が開幕の合図だ! みんな! 空を見上げるんだ~!」
くるりと身を翻し、観客に背を向けながら右腕を挙げて空に人差し指を差していた。……クレイド、いつもそんな感じでパフォーマしてるの? そりゃあイベント大好き村長って名が付くわ。
クレイドの言葉通り空を見上げると闇に染まった空に大輪の花火が浮かび上がった。歓声が沸き上がり、その後も継続して色とりどりの花火が打ち上げられ、夜空が艶やかに染められた。
花火があがる独特の上昇音や火薬の爆発音こそ無いものの、まさか異世界で花火が見れようとは。おかげで少しは心も落ち着――
「綺麗だね……」
こぼれ落ちた髪を拾い上げ、耳にかける仕草を取りながら空を見上げるルーミィさんの横顔に思わず見惚れてしまい、花火そっちのけで目が行ってしまった。
美しい。花火と合わさってこれでもかって言う程絵になってる。画家の皆さんに伝えたい、この構図なら世界を狙えると。
「もう少し……一緒に見ていたいな……」
花火から俺に視線を変えてリクエストされました。ええ、構いませんとも。お酒はいつでも飲めますからね。でもあまり見つめないで、照れてるのバレちゃうから。
「は、はい。構いませんよ。それにしても綺麗ですね……」
花火のせいで余計に心が乱れた……。なんかおっさんなのに青春の甘酸っぱさを感じる。まあ、感じた事無いから推測だけどもさ。
ナーシャさんの魔法花火も終わり、改めてギルドのブースに向かうと既に人が集まり賑やかにお酒を楽しんでいる様子が伺えた。
その風景を見て納得出来た。これが人気の秘密か。
昼間覗いた時にあった樽をテーブルにして愉快にお酒を飲む方の姿がある。そのテーブルにはキャンドルライトが添えられ、雰囲気も作り出している。そして日中には無かったのだが、更に奥のエリアはソファーのようなものと小さなテーブルが置かれているのが見える。
ギルドブースはこの異なる二種のスタイルが共存しているのが売りのようだ。
楽しくはしゃぎながら飲むエリア、静かに飲むエリア。素晴らしいアイデアだ。
そんなギルドのブースを眺めていると、普段より布面積が少ない夏仕様のメイド服に身を包んだフラムさんが走って来た。
「ギルドフェス限定店へようこそ! あっ! ルーミィちゃん可愛らしい髪留めしちゃって! もしかしてカズヤさんからのプレゼントぉ?」
会うなり攻めてくる……今日も絶好調のようだ。このムフフメイドさんは。
「う、うん……」
頬を染めながら返事をするルーミィさんなのだが、これがガールズトークってやつですか。出来れば俺が居る時はしないで下さい。おっさんはガールじゃないので。ちなみにボーイでもありませんが。
「そうなんだぁ~! 良かったね! ちゃんとルーミィちゃんの為にとっておきの席、開けといたからね! イチャイチャしてもいいよ~!」
両手を口に添え、にやけた顔で俺とルーミィさんに話かけてくる。しかし、もはや定番だな。さあ、ルーミィさん、ガツンといつものように否定してやって下さい。
「あ、ありがとう……フラム……」
そうそう、これでいつものワンセットが終了と。さあ、樽ゾーンでみんなとお酒を……ってルーミィさん!? そこはツッコミ所だよ!? なんで顔を赤らめて下向いちゃってんの!?
フラムさんもルーミィさんの反応に少し驚いた様子を見せたが、すぐさまルーミィさんを拉致し、今は奥の方でこそこそと話をしている。
やめて、一体何を企んでいるですか? おっさん怖い、お家に帰りたい……。
フラムさんはまだルーミィさんと話をしたい事があるらしく、俺一人だけ先に案内された。もちろん、案内された先は静かに飲むエリアである。
樽のエリアを通り過ぎ、天幕の張られたソファーのエリアに入った途端、先ほどの喧噪が全く聞こえなくなり、代わりに優雅なクラシック調の曲が耳に入ってきた。
おそらくこれも魔法であろう。相当な手の込みようである。更にフラムさんは奥に進み、やがて屋外に出てしまった。
遠くからは見えなかったがそこにはラグが敷かれており、ゆったりとした大きなクッションにローテブルが据えられ、屋外にもかかわらず喧噪は聞こえず、先ほどのクラシックがBGMとなっている。
二種類のエリアと思っていたがどうやら第三のエリアがあったようだ……どうやらここはカップル限定シートらしい。恐るべしサマーフェス! そしてギルド! 一夜のお祭りなのに手の込みようが半端じゃない。
そして願わくば俺を樽のエリアに行かせて下さい。こんな所でルーミィさんと二人きりなんて恥ずかしく死んでしまいます。俺は村の方と混じってワイワイがやがやしたいんですぅ……。
「ちょっとだけ待ってて下さいね! すぐルーミィちゃん返しますから!」
ムフフメイドよ、マジで何を隠しているか教えて下さい。不安で仕方ありませんから。
もちろん、何も教えてくれず、そのまま足早にフラムさんは来た道を戻って行ってしまった。こうなってはしまっては仕方無い、観念するか……。
「おお……」
もし誰かが一部始終を見ていたならば『あいつ、遂に壊れたか……』などと後ろ指を指されそうだが決してそうでは無い。声が漏れた理由は見上げた星空の壮大さにである。
花火の時にも見えてはいたのだが、明るい会場とこの場所で見るのとでは全く違うものとなっている。
星について詳しい訳でも無いし、そもそも元の世界の星座があるのかも分からないが、この美しさはそんな知識に関係無く心を奪われる。
思えばこちらの世界に来てから夜空を見上げるなんて無かったな……。
生きていく為、元の世界に帰る為と必死になってやってきたが、少し肩の力を抜くのもいいかも知れない。折角の異世界だ、楽しんでもいいんじゃないか? 神ポイントは絶対貯めるが、どうせ貯めるのなら楽しく貯めていきたい。
そう、園児達やルーミィさん、村の皆と面白おかしく――
「待たせてごめんね! ちょっと話込んじゃって。うわあ、ここ凄いね! 星も沢山あって綺麗! じゃあ飲み物頼むね~!」
うん。俺の感動を一呼吸で言った上にさらっと次に進んじゃったね。そうそう、おっさんってくどく考えちゃうから。換気しないとね、新しい風をどんどん送っちゃって!
あはは、何だろう、目から汗が出てくるよ……。




