異世界83日目 6月22日(土) ⑤サマーフェス ~園児達、電池切れる~
さくら保育園ブースに設置された流しそうめんのコースは、この異世界に住む方には相当奇怪に映ったのだろう。小首を傾げながら雑談する人達で溢れていた。
見た目のインパクトは群を抜いていると思うし、相当な期待を感じる。
さて、食材としての麺も茹で上がっているし、ルールの説明や配膳はルーミィさんと園児達にお任せしてある。おっさんはこれより肉体労働にシフトする予定である。
園での流しそうめんは水道があったので問題無かったのだが、ここはイベント広場、つまり屋外である。水の段取りは出来てるのだが、そうめんのコースに流すのは手動である。
そこでコースのスタート地点に大きな樽を用意し、取りつけられた栓を外す事で水の流れを再現する作戦としている。
流しそうめんの仕組みはお得意のPOPを作ってあるので、参加する方は一読してもらっており、内容は理解してもらっている。だがこのイベントはさくら保育園の校外学習という一面もある。なのでさくら保育園の夏天使にはレクチャーをお願いしている。
しっかりと説明する為には内容を理解、熟知していないと出来ない。そして教える側も成長出来るのは実体験済みである。
今は第一陣のお客さんが説明を受けているのだが、園児達は練習通り拙いながらもお客さんに説明してくれている。小さな店員さんに黄色い声も上がっており、皆暖かくお付き合いしてくれているのだが……。
「お箸はこうやって持って掴むんだよ。大丈夫、簡単だから!」
園児達に混ざり意気揚揚とまあ……女神様、まだお箸使えないじゃん……説明する以上は頑張って使えるようになってね?
さあ、お客さんが待っている。早速イベントを開始するとしよう!
≪≪≪
「和也先生……大丈夫? 顔が死んでるけど……」
労いの言葉をかけらつつ、ルーミィさんから冷たいお茶を渡されたので一気に喉に流し込んだ。
流しそうめんは大好評であり、イベント自体は大成功で幕を閉じる事が出来た。近隣の村の方も顔見知りも皆堪能してくれたようである。
アレクなんかは箸を使って見事に麺をすくっていたし、魔王様と賢者様達は魔法を使ってズルしてたもんなぁ。クレイドに至っては箸をまったく使えず下流のザルから麺を取っていたし、尚、手で。
もうルーミィさんと瓜二つの姿に思わず吹き出しそうになった。
村の皆はもちろん、近隣の村の方も来てくれて子供も大人もお年寄りも楽しんでくれていた。
だが……完全に舐めてた。水の補充に麺流しと休む間も無く動き続け、汗だくのおっさんが誕生してしまった。捻れば水が出てくる水道のありがたさをこれほど感じた事は無い。
そんな真っ白な灰になってしまったおっさんの横のテーブルには山のような荷物が置かれている。これは全て露店の商品であり、天使達と女神様へのプレゼントである。流しそうめんのイベント自体は無料で行っているのでお礼の品という訳なのだが、必然的に俺の分は一つも無い。
まあ、裏方してたしさ。表に立ってても貰え無いだろうけど。
「はは、すごい量のお土産だね。後、お疲れの所申し訳無いけどのコースはどうするんだい? 解体するかい?」
少し休憩し、汗も引き初めて来た所、アレクが燃え尽きたおっさんに気を使って声をかけてきれくれた。
「や、やあ、アレク……はい、解体していただいて夜のキャンプファイヤーの燃料にして下さい」
この竹のコースのはまだ使い道がある。夜にはキャンプファイヤーにイベントもあると聞いていたので、全部燃やしちゃう予定である。器も箸も自然の物を使っているので、使い終わった資源は燃料となってもらうのだ。
「じゃあ僕が片付けておくよ。それより……」
アレクの声が小さくなり奥の方を指差した。そのまま指先に視線を向けると、椅子に腰掛けていた園児二人が寄り添いながら寝ていた。
そっか、疲れて寝ちゃったか。普段の保育園での遊びではこんな事無かったのだが……頑張ってお客さんに説明してたもんな。
この子達が疲れて寝ちゃうんなんて初めて見る光景だ。可愛らし過ぎるぞ!
神をも凌駕するモンスターであるが、やっぱり子供か。確か会社の所帯持ちの奴から聞いた事がある。子供はさっきまではしゃぎ回っていたと思ったら急に寝る事があると。
エネルギー残量ゼロになるまではしゃぐってこれの事かぁ。
「私がこのテーブルのお土産を転移魔法で先に保育園の方に運んであげるからカズヤさんとルーミィちゃんは二人を運んであげて。起こすのは可哀そうですからね」
アレクの隣にいるナーシャさんからとても魅力的な提案を受けた。ありがたいです。そろそろ保育終了時間ですし、おっさんちょっと体力使い過ぎたものでして。
≪≪≪
「この子達、とっても楽しんでたね」
ルーミィさんの背中にはアメリアちゃんが尻尾を丸くさせてくっついていて眠っている。とても可愛らしい寝顔であり、夢の中でもフェスを堪能しているかのようだ。
「そうですね。疲れて寝ちゃうなんて初めてですものね」
俺の背中におぶさるソフィちゃんの寝顔は見えないが、きっと幸せそうな顔をしているに違いない。ちなみにおっさんは汗だくだったので水をかぶり、汗は拭き取って着替えておいた。
いくら寝ているとはいえ、汗臭いおっさんの背中に愛らしい天使を乗せる訳にはいかない。
二人とも可愛い寝息を立てており、熟睡中である。明日は園はお休みだし、お土産もたっぷりある。親御さんにも伝えたい事がいっぱいあるだろうし、何よりフェスの参加は園児達にとって良い経験となったであろう。
「あ、あのね、な、なんか園児達を背負ってる歩いてる私達って……か、家族みたいじゃない?」
そういえば串焼き屋のおっちゃんもそんな事を言っていたな。まあ、俺は年相応だけどルーミィさんが若過ぎる。どちらかと言えばお姉ちゃんかな? でもそう見える人も居る訳だし、否定するのも野暮だろう。
「そうですね、私もこんな家族が欲しいですよ」
その為にはまず彼女を作らなければ話にもならない。いや、それ以前に早く元の世界に帰らなければ。出来ないと消滅だし……。
「そ、そうだよね! ほら! もうすぐ園だよ! は、早く行こうっ!」
なんかまたルーミィさんの機嫌が良くなったような気がする。まあ、機嫌が良いに越した事は無い。平和が一番だ。
園の入口に到着すると既にお土産の入った箱が置かれていた。うん、魔法ってとっても便利ですね。後、非常に心苦しいが園児達を起こさねばならない。これほど心が痛むことは中々無いぞ? ごめんね……。
背中のソフィちゃんに声をかけ、ゆっくりと地面に降ろしてあげると眠そうに目をこすっていた。ああ……心が痛い……。
「せんせ~、またね~、きょうはたのしかった~」
「……お土産たくさん……うれしい」
寝起きなので言葉がいつもより少々拙い感じになっているが、満足している顔が伺える。手には先程のお土産を分けて持たせており、おうちに帰ったらゆっくり食べて欲しい。
「二人共、気を付けて帰るんだよ~」
二人に声をかけると頷いてゲートの方にふらふらと歩いて行き、光に包まれた。まあ、気を付けてと言ってもゲートの先は家なんだろうけど。
無事見送りも完了したので次は夜の部を楽しませて頂こう。ギルドは夕方から開店するようだしサマーフェスの夜のイベントも楽しみである。
しかし遊ぶ事を優先してばかりはいられない。何はともあれまずはイベントのお片付けをしなければ。早く保育園ブースに戻って片付けないと日が暮れてしまう。
でも……シャワーだけさせて。おっさん、一度リフレッシュしたいの。
≪≪≪
おっさんがシャワーを浴びた後にルーミィさんも同じく汗を流し、従来の輝きを取り戻す事が出来た。いや、おっさんに関しては輝いてなんかいないけどね。
少々遅れたがさくら保育園のブースに戻ってきた。しかしブースに着くと既に何も無く、日よけテントの中でアレクとナーシャさんがお茶をしながら待っていてくれていた。
「コースは分解しておいたよ。言っていた通り、キャンプファイヤーの燃料に回しておいたからね」
相変わらず仕事が早い。って言うか組立も僅か2~3分でやってくれたしきっと片付けも一瞬だったんだろうな……。
「ところでアレクさん達のブースは大丈夫なんですか? お世話をかけっぱなしでなんか申し訳なくて」
おお、ルーミィさんが気を使ってる……だが言う事はごもっともだ。自分達のブースがある筈なのにこちらばかり手をかけてくれているような気がする。店番はおじいさんとおばあさんがやってくれているのかな?
ちなみにルーミィさん、馬鹿にはしてないですよ? 食べ物に関してはちょっとアレですが。
「うん、大丈夫だよ。うちもそろそろ店じまいだけど、物も動物も転移魔法で片付いちゃうしね」
うん? 動物も転移出来ちゃうって事は人も転移可能って事じゃないの? じゃあ、俺達まとめて転移してくれても良かったんですけども。その方が時間短縮にもなって――
「ルーミィちゃん、帰り道、楽しかったかしら?」
「ナ、ナーシャさん!? そ、その! あ、はい……」
なるほど、そっちにも気を使ってくれたのか……。まあ確かに家族の話が出来たり、園児の幸せな寝顔を見る事も出来たしとっても良い時間だった。なにより、ルーミィさんの機嫌のギア一つ上げれたのは大きい。おかげで夜の部も楽しめそうだ。
ありがとうございます! 賢者様! やっぱり賢き者の名は伊達じゃないですね!




