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異世界83日目 6月22日(土) ④サマーフェス ~お酒は二十歳になってから?~

 

 先程とは違い、軽い足取りでご機嫌に歩くルーミィさんが歩みを止めたのはまだ開店していないブースの前であった。立ち止まった理由はどうやらその奥には顔見知りが居たからのようである。


 俺も同じ方向を覗くと二人の人影が見えた。あの姿はマスターとママだ。という事はここはギルドのブースか。とは言ってもBARの方だけどね。


「こんにちわ~!」


 ブース内にはバーカウンターがあり、その横に調理場が据えられている。店は樽を並べた立食スタイルであり、夜になれば星を見ながらお酒を飲めるというアイデア満載のブースのようである。

 なかなかシャレオツなコンセプトが伺える。やりますね、マスター!


「やあ、カズヤさん。それにルーミィちゃんと園児ちゃん達。こんにちわ、お昼のイベント楽しみにしてるよ」


 ところでマスターってギルドのマスターなのか、BARのマスターなのかどちらなんだろう……。まあ、ギルドの方はフラムさんが半ば趣味でやってるみたいなものなので、おそらくBARだとは思うけど。 

 だがこの村の方はいろいろ隠している素性があるので侮れない。


 異世界人の俺が言うのもなんですけどね。


「このブースは夕方からオープンで、日中はお酒の販売はしていないのよ。家族連れも多いしね」


 奥から現われたママが開店していない理由を教えてくれた。成程、その辺りはクレイドお祭り会長の考えのようだ。

 確かに酔っぱらいがこんな時間から量産されては面倒である。良く考えられているなぁ。ただ、職権は乱用しているようですが。


「後ね、子供はお酒は飲んじゃダメなの。十歳過ぎたらまた来てね、可愛い子猫の園児ちゃん達♪」


「そっかぁ~、アメリアまだよんさい!」


「……お酒は飲むと楽しくなる……父上が言っていた……後、五年」


 そうそう、お酒は二十歳になって……って十歳から飲んでいいのか!? 流石は異世界だな。そういえば自称十七歳のルーミィさんも飲んでたし、何より十六歳のフラムさんも普通に飲んでたな……。この世界では合法であったか。


「夜になったら是非お二人で来て下さいね。ここのブースは毎年人気なんですよ?」


 この抜群のロケーションで飲むお酒はさそかし格別だろう。いつにも増して賑やかになるだろうし、普段離す機会の少ない村の方達とも会話する機会が出来そうだ。

 園児達には申し訳無いが夜は寄らしてもらおうかな。その分、園児達には日中思いっきりフェスを堪能させてあげよう。




「かずやせんせ~! すごくいいにおい! あっち!」


 ギルドブースを後にしてしばらく歩いていると、アメリアちゃんの尻尾が急に跳ね上がったかと思うと小走りで走って行ってしまった。慌てて追いかけてたのだが、最初の内は別段感じなかったが、徐々に鼻こうをくすぐる香ばしい匂いを感じ出した……この匂いは唐揚げか!?


「おねえちゃん~! こんちわ!」


 露店の前に立ち、尻尾を左右に振りまくっている。アメリアちゃんは特に嗅覚が優れているので、この唐揚げの香ばしい匂いは堪らないだろうな。


「……おねえさん……こんちわ」


 一足遅れて追い付いてきたルーミィさんとソフィちゃんとも合流し、ソフィちゃんはアメリアちゃんの方を一度見た後、お行儀良く頭を下げてご挨拶をした。あの……今、合わせに行ったよね?


「もう、二人揃ってお姉さんだなんて! はい、これはお姉さんからのサービスだよ!」


 おばちゃんはウインクして二人に山盛りの唐揚げが入った入れ物を渡してくれた。


 君達、おばちゃんの扱い方を心得てる? それとルーミィさん、その引きつったお顔はやめなさい。例えウインクがきつかったとしてもだ。


「そいつは美味いぞ? 特製ダレにしっかり漬け込んだうちのフェス限定の唐揚げだからな」


 カウンターから顔を覗かしたおっちゃんがニヤリと笑いながら教えてくれた。


 俺は料理人としておっちゃんの腕を認めている。いや、あがめていると言っても良い存在だ。その人が言う特製……何が何でも頂きたい! 三人は既に唐揚げを味わっており、幸せそうな顔で租借している。どれどれ、俺も食べさせてもらいますよ。


 唐揚げを一つ口の中に入れると、表面の皮の香ばしさと心地の良い歯ごたえを感じた。そのまま咀嚼すると思っていたより遙かに小さな力で噛みきれ、途端に溢れ出る肉汁に衝撃を受けた。そして次の瞬間、肉を食べているのも関わらず、フルーティさを感じた。


 こ、この唐揚げ、なんてクオリティーなんだ。だがこのフルーティ―さと桁外れの柔らかさは……。


「おっちゃん、この柔らかさ……ドレッシングで漬け込みましたか?」


 俺の答えにおっちゃんの目の色が変わったのを見逃さなかった。どうやら正解のようだ。実は鶏肉を柔らかくする裏ワザとしてドレッシングに漬け込む方法がある。使用するドレッシングは中華でもシーザーでも構わない。酵素が鶏肉を柔らかくしてくれ、漬け込んだ後、洗い流せば最上の下ごしらえが完了しているという訳だ。


「ほう、カズヤ。それを見抜くとは……中々やるじゃねえか」


 ただ俺にもドレッシングで漬け込んだ事しか分からない。大層な事を言っているが、俺はあくまでもスーパーに売っている市販品を使用していたにしか過ぎない。

 だがおっちゃんは違う。恐らく数種類の果物や野菜の秘伝の配合で自作で作り出しているのだ。やはり俺よりも遙かに高い調理技術を持っているな。

 そんな料理人同士ならではの話をしている最中、衝撃の一言が飛び込んで来た。


「和也先生~、食べないの? もう無くなっちゃったよ?」


 最後の唐揚げを手に持つルーミィさんから声をかけられた。


 残しておいてよ……ていうか言葉おかしくない? 食べないのって聞くなら無くなる前でしょ? 普通は。しかもそれにかなりの量があった筈だよ、君達全部食べたの? ねえ? 


 それともう一つ、ルーミィさんが手に持ってる唐揚げはくれないんですね……。




 その後もいろいろなブースに立ち寄りフェスを堪能し、そろそろお昼前なので保育園のブースに戻る事にした。尚、園児達の手にはチョコバナナやらドーナツやら食べ物が盛り沢山である。もちろん、ルーミィさんも同じ様子である。食べ歩きすると買い漁っていたのだが……本当に良く食べますねえ、成長期って怖い。


 そんな中、保育園の流しそうめんの竹が見えてきた少し先にクレイドとフラムさんが並んで歩いている所を見つけた。

 声をかけようとしたのだがルーミィさんに止められた。二人きりの所を邪魔してはダメとの事だ。


 すみません、危うくお邪魔虫になるところでした。もう少し気を利かすべきなど云々言われたのだが、ルーミィさん、そう言った事はお口の周りに付いたチョコを拭き取ってからにして貰えませんか? 全く説得力がございません。


 フェスを堪能し、保育園のブースに戻ってきたのだが、園児達もルーミィさんと同じくチョコお化けになっていたのでお口周りを拭いてあげた。その際にルーミィさんにも同様の事が起こっていると伝えた所、顔を真っ赤にしながらお口周りを拭いていた。

 園児と同じレベルである……まあ、そんな女神様も可愛いのですが。


 さて、文字通りお口直しも終わったので俺はイベント開始前の最後の準備を整えるとしよう。と言っても麺を茹でるだけだけどね。


「か、和也先生、もう付いてない?」


「はい、大丈夫ですよ。アメリアちゃんもソフィちゃんもいっぱい楽しめた?」


「うん! いっぱいいろんなお店楽しかった~!」


「……唐揚げ……美味しかった」


 はは、ソフィちゃんは唐揚げ推しか。俺ももう少し食べたかったな……でも俺って良く考えたら串焼きと唐揚げ一個しか食べてないじゃん……。

 まあ、皆が楽しんでくれればそれでいいんですけどね。さて、麺も茹で上がったぞ。


 麺良し! つゆ良し! 箸良し! 器良し! 水も流してコースも良し! 


 さあ、さくら保育園『流しそうめん』イベント開始だ!


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