異世界83日目 6月22日(土) ③サマーフェス ~子供は正直です~
いつもの穏やかなイベント広場とは違い、今日は人が多い。園児達が迷子にならないよう、目を配りながら知り合いのブースを探し歩いていると雑貨店のブースを発見した。
店先の陳列台には氷が敷き詰められており、その上に様々な果実が乗っていた。ひんやりして美味しそうだ。
どうやらイリアさんはカットフルーツのお店を出店しているらしい。これは雑貨店が近くにあるからこそ出来る商品チョイスだな。
氷がすぐに取りに行けるのは大きなアドバンテージである。さすがセクシー商人さん、他の露店とは一味違いますね。
さっき串焼きを食べたし、口の中をさっぱりさせる為にもフルーツなんかもいいな。ベンチも置いてあるし、園児達も座って食べさせてあげれるな。
「イリアおね~ちゃん! こんちわ~! ねえねえ、この黄色いのなあに?」
「……イリアお姉さん、こんにちわ……ソフィも見た事無い」
どうやら園児二人はカットフルーツに興味があるようだ。ちなみに出来る限り直視しないように視線を避けていたのだが、俺は店先に立つイリアさんが気になって仕方が無い。
もちろん、予想はしていた。この暑さだし露出が高めである事は。
ただ、予想の斜め上を行くのがイリアさん。水辺では無いのに水着を着用しており、しかも種類は際どいビキニだった。
しかもその上からエプロンと来たもんだ。水着エプロンだ……ここは海じゃ無いですよ? 何か勘違いしてませんかね?
「おう、こんにちわ! 可愛い帽子じゃないか。これはだなパイナップルと言って南の方で採れる果物さ。はい、元気な挨拶が出来たからこれはあたしからのサービスだよ。そこで座って食べな」
しゃがみ込み、アメリアちゃんとソフィちゃんの目線に合わせ説明してくれた後、一本づつカットフルーツを手渡してくれた。
どうもすみません、お気を使って頂いてななんか申し訳――
「おっと、カズヤにもサービスしてしまったかな?」
にやりと笑いながら俺の方を見て来た。もちろん、俺はカットフルーツは貰っていない。ただ、イリアさんがしゃがみ込んだ際に見えてしまったのだ。その偉大なる双丘の挟間が柔らかく形を変える瞬間を。
桁違いの悩殺力だ。水着だから見えても問題無いし、もともとビキニは見える仕様である。しかし、普通の水着の状態とエプロンの隙間から見えるそれは訳が違う。
最強のチラリズム、そして最高のボディが合わさる時、それは至福とも言える光景を生み出したのだ。
そして俺は分かっている、この次に起こる出来事を。すぐさま天から地へ叩き落される事を……。
「せ・ん・せ・い?」
後ろから聞こえる冷たい声と共に首の後ろに小さな痛みを四度味わった。
推測しよう……この点の痛み。これはさっき食べていた串焼きの串を使ってますね? それで一文字発するごとに無防備な首筋を刺してますね?
そんな良い子にはとても見せられない光景を、ベンチに仲良く座りながらパイナップルを食べながら眺めている園児達。
やめませんか? こんな状況を見せるのはあまり良くないですよ? ね、ルーミィ先生? 教育上宜しくありませんから。俺達は立場上、教育者としてお手本を見せるべき存在で――
「カズヤせんせ~、イリアおね~ちゃんのおっぱい見てたけど、おっぱいすきなのぉ?」
「……じっと見てた……おっぱい」
「二人共ぉぉ!? なんて事言うのぉぉ!?」
思わず素で叫んでしまった。しかもイリアさんは便乗して恥ずかしそうに胸を押さえて『キャッ! も、もう……え、えっちなんだからぁ……』とか言っていた。
あれは絶対演技だ。失礼だがイリアさんはそんな乙女チックな言葉は使わない。いつものの姉御口調は何処に行ったのかな?
「ほぉう……和也先生、ちょっとこちらに。アメリアちゃんとソフィちゃんはそこで座って待っててね」
時に子供は残酷な事を笑顔で言う……この前の『綺麗なおね~ちゃん事件』の時に分かっていた。そして、もうひとつの特徴として……子供は正直だ。先程の言葉は二人が見た映像をそのまま言葉にしただけなのだ……。
ルーミィさんに呼び出された俺はイリアさんのブースの裏に連れて行かれ、めっちゃ怒られた……芝生の上で正座もした。
夏場のイリアさんは危険だ、そして園児達にも要注意だ。いや、人のせいにするのは良くない。分かっている、俺が悪いのだ……。
初っぱなから大事件が勃発してしまったが、イリアさんのブースを後にして再び次の知り合いのブースを探す事にした。おかげでルーミィさんの機嫌が相当斜めになってしまった。なんとかしないとこの後の流しそうめんイベントにも影響してしまう……。
どうにか機嫌を回復させるものは無いかと途方に暮れていると、目の前に牧場のブースを発見した。
「わ~! かわいい~!」
「……先生達のエプロンと同じ」
アレク達の牧場のブースは動物の触れ合いコーナーが設置されており、家族連れで大いに賑わっていた。その奥には牧場の特産品コーナーもあるようだ。そして園児の反応の通り、ひよこさんと触れ合える事が出来るようだ。
ちなみにアメリアちゃんならずソフィちゃんまでもが、いつも着ているエプロンのひよこがお気に入りなのである。
どうやらあのひよこエプロン、俺以外には大人気のようである。俺の感性の方がおかしいのか? 認めたく無い事実なんだけど。
「さくら保育園の皆さん、いらっしゃい。ルーミィちゃん、この前は牧場クッキーありがとうね。今日も持って来ているのよ」
ナーシャさんが声をかけてくれ、目を送ってくれた先を見ると特産品コーナーの並ぶ棚の脇に例のクッキーが額に入れられて飾られており、その周囲はお客さんで賑わっていた。
あのクッキー、商売繁盛の追加効果もあったのか……。あ、なんか拝んでる人も居ますけど? やっぱなんかご利益とかあるのかな?
そんな大盛況の特産品コーナーに近づいて商品を見てみると中々の商品ラインナップであった。どれも大変美味しそうだ。
その中でウインナーの袋詰めを手に取って見ていると不意に違和感を感じ取った。
自然な感じで陳列されてて気付かなかったけど、これって真空パックじゃん!? 近代技術が何故……あ、魔王様と賢者様が居ましたね。魔法を使えば袋の中の空気を抜くぐらい朝飯前でしたね。
これならかなりの期間保存もききますもんね。そしてお持ち帰り出来るものは買っておこう! 牧場の特産品は美味しいもんなぁ~!
「かずやせんせ~みてぇ~!」
触れ合いコーナーからアメリアちゃんの声が届いたので、ナーシャさんにお会計をしてもらい、そちらに戻ってみると、アメリアちゃんの小さな両手に二匹のひよこが体をすり合わせてじゃれ合っていた。なんとも可愛らしい仕草である。
「……カズヤ先生とルーミィ先生みたい」
「うん! せんせ~たちといっしょだね~!」
成程、今日はひよこエプロンは付けていないが、保育中は常に着ており、ルーミィさんとはいろいろと相談したり一緒に居る事が多い。
その際、エプロンのワッペンであるひよこがいつも隣同士に居るのと、今の手の平のひよこの光景をアメリアちゃんとソフィちゃんは例えたのだろう。子供の観察力と発想力は素晴らしいものだ。
「そ、そうだね! そのひよこさん達も先生達と同じで二人一緒で嬉しそうだよね!」
なんか急にルーミィさんの機嫌が少し良くなった気がするのだが。何故だ? 今のアメリアちゃんとソフィちゃんの会話で機嫌が良くなる要素なんてあったか?
ただ、ひとつだけ言わせてもらおうかな……アメリアちゃん、ソフィちゃん! マジで助かりました、ありがとう!!




