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異世界83日目 6月22日(土) ②サマーフェス ~露店の甘い誘惑~

 

 園を出てふと空を見上げると日差しを遮る雲は一切見当たらない。俗に言う直射日光である。しかしながら麦わら帽子のおかげで降り注ぐ日差しもしっかりとカバー出来ている。おかげで快適に村へと足を運べており、園児達やルーミィさんの足取りも非常に軽い。


 暑さなんかお構い無しのハイテンション振りで、先程『走って行かない!?』と提案されたのだが、すぐさま却下しておいた。おっさん、この暑さで走ろうものなら村に着いた瞬間ぶっ倒れる自信がある。


 ちゃんと先生として園児達を引率して欲しいんですけど? 完全に自分が楽しむ気満々ですよね?


 そんな浮足立った女神様も園児と共に引率し、村に入ったのだが、会場であるイベント広場付近は既に多くの人で賑わっている様子が伺え、村中がお祭りムードで染められていた。


 そのままメイン会場であるイベント広場の入口に近づくと『サマーフェス』と書かれた垂れ幕がかかり、あちらこちらから食欲をくすぐる香ばしい匂いが漂い、笑声がどこからともなく聞こえてくる。


 イベント広場は村の中央に位置し、普段は村の方の憩いの場とされているのだが、今日ばかりは360度何処を見ても活気に満ち溢れたものとなっている。

 かなり広い敷地面積を誇るのだが、周囲に隙間無くびっしりと露店が並ぶ様は圧巻である。


 そんなせわしなくも和やかな雰囲気に思わず笑みがこぼれた。ちなみにルーミィさんはよだれがこぼれそうである。その虚ろな瞳に移るのは露店ブースである。

 別に構わないのだけどちょっとはしたなくありませんか? 女神様なんでしょ?


 とはいえおっさんも心が躍る。アメリアちゃんは尻尾が絶え間無く振られており、ソフィちゃんも呆気に取られた顔をしながら周りをキョロキョロと見回していた。

 この胸の高揚感、今すぐ『ヒャッハー』と叫びながら遊びたい衝動にかられるが、ここはぐっと堪えなければならない。

 今日は園児達が居る以上、先生として立ち振る舞わなくてはならない。


 まあ、いい年したおっさんがそんな奇声を出して叫んでいたら、事情無視で摘まみ出されるだけだけどね。


 そんな誘惑を押し切りつつ、まずはさくら保育園のブースを目指し歩くと、既にクレイドが待ってくれていた。


「よっ、さくら保育園のみんな! 今日は宜しく頼むぜ。って今日の天使達と女神様は夏仕様じゃないか。太陽よりも眩しいな!」


 中々上手い褒め言葉である。おかげでルーミィさんが照れちゃったじゃないか。おかげで軟体動物と化したルーミィさんだがそんな先生をさし置いて園児達は元気な挨拶をしている。

 いつまでもくねくねしてないでちゃんと挨拶しようね? 園児達の方がしっかりしてるよ?


「それにしても壮観だな、流しそうめんってのは。竹をこんな風に使うと恐れ入ったぜ!」


 はて? 今さっき来たばかりでブースにはまだ何も無かったの何故見た感想が言えるんだ?


 振り返ると流しそうめんのセッティングが完了していた。クレイドと喋っていた僅か二~三分の間に……ミステリーである。


「こんな感じで良かったかな? カズヤ」


 キラリと額に輝く汗が光に反射し、眩しい笑顔に拍車をかけている。今日も素敵ですね、勇者様!


 えっと、ミステリーでも何でも無いな。種も仕掛けも無く、純粋にアレクが一瞬で組み立てたみたいだ。確かに手伝ってくれると言っていたので、竹の組み方やイメージは伝えてはいたんだけどまさか一人で全て終わらせてしまうなんて……本当に規格外な人だ。

 勇者の名と高速羊回収技術は伊達じゃないな。


「は、はい。ありがとうございます、アレク」


 ルーミィさんも園児達も目を丸くしている。さっきまで何も無かった場所に急に湧いて出てきたようなものだしね……。


「今日は暑いからね、脇には日除けのテントも用意してあるからこまめに休憩しながらフェスを楽しんで下さいね」


 そう言い残して自分のブースに戻って行った。なんて気の利くイケメンさんなんだ……。


「おっと、俺も開会式の打ち合わせがあるんだった。後で俺も流しそうめんってやつに参加させて貰うぜ。ちゃんと残しておいてくれよな」


 う~ん、残しておいてくれと言われてもこれは自分の力で掴み取るものなんだよ? クレイド君?


 まあ、後でじっくり味わって頂こうではないか。それじゃあもろもろと準備を始めますかね。おっと、その前に園児達にもしっかり水分補給させておかないとな。

 女神様はさっきから口を半開きにして露店を眺めていらっしゃるけど……ねえ、ちゃんと先生して下さいね?



≪≪≪



 テントの陰で水分補給をしている園児達とルーミィさんを見ながら準備を進めていると、イベント広場の中央に作られた特設ステージからクレイドの声が届いた。

 マイクや音響設備が無いのに離れた場所にクリアに届く音声……おそらくこれも魔法だろう。この村には賢者様が二人も居るからね。


 しかしクレイドのマイクパフォーマンスは元の世界の名司会者に引けを取らないものであり、会場を大いに沸かせていた。あれはある意味特技だな……。あんなに喋るの上手かったんだ。


 尚、さくら保育園のブースはお昼から行われるイベントであり、商売をする露店では無い為、当然今はお客さんは居ない。

 また、アレクが一瞬で土台を組上げてくれたので時間もかなり余っている。となればやる事はただ一つ。サマーフェスを堪能させて貰うしかない。

 早速ルーミィさんと園児達にそれを伝えるともう大はしゃぎであった。


 それではさくら保育園一行、サマーフェス堪能の旅に出発するとしましょうかね!




 サマーフェスの露店ブースは村の皆だけでは無く、近隣の村の方もブースを出店している為、かなりの店舗数がある。流石に流しそうめんの準備もあるので全てを回り切るのは不可能なので、まずは知り合いのブースを優先的に回りたいと思っている。


 のだが……いきなり脱線して串焼きの露店にふらふらと誘引されている女神様が居た。その姿は外灯に誘われる蛾のごとしだ……とりあえず何か食べさせてあげないといけないらしい。


「すみません、串焼き四本頂けますか?」


「あいよ! あんちゃん、綺麗な嫁さんに可愛らしいお嬢ちゃん達だな! 家族でフェスをたっぷり楽しんで行ってくれよ!」


 中々威勢の良いおっちゃんである。俺達の事を知らないみたいなので近隣の村の方のようだ。いや、少し盛ってしまったな。ここはルーミィさんの事を知らないみたいと表現すべきだったな。おっさんよりルーミィさんの方が知名度は完全に高――

 

「よ、よ、よめぇぇ!? か、か、家族ぅ!?」


 動揺し過ぎじゃないですかね? さっき渡したばかりの串焼き落としましたよ? そしてアメリアちゃん、ありがと、ナイスキャッチです。


「はは、私達は家族では無いんですよ、この村で保育園と言うお仕事をしていまして。宜しければお昼にさくら保育園というブースで無料イベントを行いますのでぜひご参加してみて下さい」


「はい、ルーミィせんせ~。おとしちゃダメだよ?」


「……はむはむ……ジューシー」


 まあ、この人員構成なら家族に見えなくもないか。ただその場合、嫁役のルーミィさんが若過ぎるが。後、アメリアちゃんの耳は麦わら帽子で隠れているけど尻尾が出ているのに誰もツッコんでこない。きっとクレイドが根回ししてくれたのだろう、もしくはおばちゃんの口コミかも知れないけど……。


 ルーミィさんは顔を真っ赤にしながらアメリアちゃんから串焼きを受取り照れ隠しも兼ねてか、怒涛の勢いで食べている。

 さあ、今度こそ知り合いのブースに行きますよ? 


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