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異世界1日目 4月1日(月) ⑤大事な事は先に言って

 

「おお~、広いですね」


 一面ピカピカのフローリング、保育園の遊戯室を見て感想を漏らした。

 どうやらここは園児達が遊ぶメインの部屋のようだ。十分過ぎる程の広さがあり、脇にはテーブルやイスなどの備品が置いてあるのが見える。


 三度の絶望からなんとか立ち上がり、今は女神様と保育園の中を散策している。

 ちなみに桜の大樹付近で絶望していたけどモンスターが来る可能性を考えた途端、すっと立ち上がれた。どうやら俺はまだ生にしがみ付いているようだ。


 まだ生きたいの……モンスターに食べられるのは嫌なの……。


「ここは……園長室ですかね」


 真新しいデスク、テーブルにソファ。どうやら全て新品のようであり部屋には埃一つ落ちていない。


「ふっかふか~」


 来客用であろうソファに座っておくつろぎなさっている女神様……気楽なもんでございますね! ほんと!

 はっ!? いかん! 心の声は筒抜けになるんだった。押さえろぉ……俺ぇ。


 ――精神持つかな……。


「女神様、他の部屋に参りましょう……」


「おっけ~!」


 にしても口調が軽いですね。いや、いいんですけどもね。最初に出会った時との印象が違い過ぎて少々戸惑ってしまっているだけですから。


 二階への階段を発見したので登ってみると、広いテラスが目の前に覗いた。おそらくここで洗濯物などを干すのだろう。

 また、部屋がいくつかある事が分かった。何の部屋か分からないけど、神様が用意してくれた物なので、罠が仕掛けられてるなんてオチは無いだろう。


「寝室、のようですね」


 部屋に入り室内を見渡した。当然の事ながら罠は仕掛けられてなかった。仮に何かあったら速攻上司さんにクレームを入れてやるつもりだったが。

 室内は意外と広く約十畳程の空間にベッドが置かれ、その脇にはシーツや毛布なども綺麗に添えられていた。


 他にはクローゼットとデスクが設置されており、イメージとしてはビジネスホテルに近い。お風呂やトイレは付いていないみたいだけど、寝室としては広くてなかなか良い部屋だった。


 この間取りの部屋は何部屋かあり、とりあえず俺と女神様の寝床は問題無いようだ。


 再び一階に下りるとリビングと呼ぶべき、共同で使うであろう居住空間も存在していた。そこにはテーブルにイス、ソファー、床にはラグなども敷いてあり、大変くつろげそうである……今はそれどころではないけど。


 そのまま散策を続けていると、ある空間を見て足が止まった。そしてこの世界に来て一番最初に心が躍った瞬間だった。見つけてしまったのだ。


『キッチン』を。


「うおおおおっ!? レンジやオーブンがある! しかも大容量業務用タイプ! 調理器具も一通り揃ってるし何より物もいいじゃないか! 鍋もいろんな種類が……中華鍋まで! 包丁も種類豊富じゃないか!」


 ありがとう! 上司さん! この設備があれば調理に困る事は無いです!


「え、あ……そ、そうなんだ。よ、良かったね」


 女神様、ちょっと引いてますね。でも大切な事なんです。生きる為に必要な設備ですから。


「にしても電気やガス、水は一体どんな仕組みで成り立っているんでしょうか……」


 赤色の目印が付いた蛇口を開け、お湯が出てきた所で当然の疑問が声に出てしまった。だってこのレンジとか日本製だよ?

 住んでた所のスペース上の問題で設置は不可能だったけど俺も元の世界で欲しかった最新のやつだし……。


「私もよく分からないけど、魔法じゃないかな? でも使いたい放題とは聞いてるよ」


 流石は異世界ですね。魔法の一言で片付いちゃうんだ。でも電気代やガス代がかからないのは素晴らしい!

 あ……そういえばお金、一切持って無いぞ。いや、持ってた所でこの世界では使えないか。




 一通り散策を終え、今後のするべき事を確認する為に園長室に戻ってきた。


「さて、女神様。いくつかご質問があるのですが」


 まずは神ブックそして神力の使い方を把握しておく必要がある。その為に女神様の再研修を引き受けた訳だし――


 あ、やばい! 失礼な事を考えてはいけないんだった! 邪悪な心よ去るのだ! 


「うん、いいよ! でもその前に……」


 怪訝な表情を浮かべたまま俺の方に向かって歩いてきた。どんな表情をしても可愛いですね……じゃない! やっぱり失礼な事を考えていたのバレてました!?


 すみません! すみませんっ! どうかご慈悲を! 土下座ならいくらでもしますから! 以後気を付けますから!


「さっきから女神様、女神様って私の事を呼んでるけど、上司も言ってたよね? 私の名前はルーミィ。それに私も寿さんって呼ぶのも他人行儀で肩が凝るからこれからは和也、って呼ばせて貰うね!」


 そっち!? 全然構いませんが……。


「お仕事口調は疲れるんだよ。やっぱ自然体が一番だね!」


 なるほど、こっちが地なのか。呼び捨てで名前を呼ぶなんて神様に対して失礼な気もするが、女神様本人がそう言うなら従うしかない。


「分かりました、それではルーミィさん。と呼ばせて貰いますね。まずは神力についてですが……」


「うーん、固い口調のままだね。もっとフランクに気軽にいこうよ!」


 少々気に食わない口調で訴えられたがこれで精一杯ですから。女性とフランクなトークなんて俺には出来ません。それが出来てたらちょっとアレな世界なんて望まずリア充してますから。


 なにより、この危機的状況で気軽になんて出来る訳が無いでしょ!



 ≪≪≪



 女神様改め、ルーミィさんから神力と神ブックについてお話を聞かせて頂いた。

 神力については上司さんから聞いた基本条件と変わりなかったが、どうやら神ブックが神力を使う際の媒体になるらしい。つまり触れている事が発動の条件となるそうだ。


 そして一番気になったのはポイントの消費だ。仮に火の魔法を使うとした場合、マッチクラスの魔法と火炎放射クラスの魔法では大きくポイントが違ってくるらしい。

 しかも消費されるポイントはやはり事前には分からず、消費した後に請求が来る仕組みときたもんだ。


 ほんと怖くて使えない……何も考えずに使用してしまうと一発で詰む可能性がある。小さい事から試していき相場を確かめなければ……。


 使えない万能の力とはいかがなものか……もう涙が出そうだ。


 神ポイントを増やす方法については保育園に関する事象を達成、または行う事で増えるらしい。つまり園児を迎え入れ、保育を行う必要がある。


 他に神ブックには素晴らしい能力があるようで、ペンが無くてもイメージするだけで書き込めたり、また過去に書き込んだ内容もイメージしながらページをめくれば再生出来るという優れ物だ。


「ありがとうございます。大まかな所は理解出来ました。お疲れのところ、ご説明ありがとうございました」


 丁寧、無礼の無いように言葉を選び、心を無にする。なんか悟りを開けそうだ。


「なんか、さっきから妙に気を使ってると言うか、何と言うか……。あ、ちなみに私の神力は和也が持ってるから私は一切神力はもちろん、読心術なんかの特殊な技能も使え無いからね。普通の人と一緒で見ての通り、ただのか弱い女の子だから」


 ほうほう、そうなんですね。となると……心の中読めないんかーいっ!!  


 そういう事は先に言っててば! 今までずっと精神擦り減らしてたんですよ? 無駄に精神的苦痛を味わってたじゃないですかぁ……。


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