異世界51日目 5月21日(火) ②サマーフェスとな?
村に着くと雨が降り注ぐ中ではあるものの、意外にも人通りが多く、行き交う人に二人は元気に挨拶を繰り返している。思えばソフィちゃんもアメリアちゃんの影響からか活発になってきたものだ。
そのままメイン通りを抜け、イベント広場へと足を運び散策を楽しんでいるのだが、流石に広場内は人通りは少ない。その分、雨の情景が鮮明に映った。
雨粒が地面に落ちる音に草木に弾かれる水滴……地面に貯まった水たまりに浮かぶ波紋。なんてことない雨の風景だが、意識してこんな景色を眺めるのはいつぶりだろうか。少なくとも大人になってからは見た覚えが無い。
日々慌ただしく生きていた元の世界ではこんなゆとりは無かったもんな……雨か、妙に心が落ち着く。
「雨の日の散歩も悪くないですね」
「うん! 洗濯物が乾かないのが残念だけど」
随分と所帯染みて来た女神様である。まさか洗濯物の心配をするようになってきたとは。もちろん俺も洗濯はするのだが、基本料理を作っている間にルーミィさんが終わらしてくれる事が多い。
下着類は自分で洗って部屋で干してるけどね。でもこの前間違えておっさんのパンツが通常の洗濯物に混ざってしまい、顔を真っ赤にした女神様がキッチンに怒鳴り込んできたのは記憶に新しい。
そんな静かな広場をぐるりと一周した後、掲示板に新しく掲示物を貼ろうとしていたクレイドさんに出くわした。雨の中、お疲れ様で~す。
「おっ、さくら保育園御一行様じゃないか――なんだその天使達は?」
「こんにちわ~! ニャー!」
「……こんにちわ……にゃあ」
ご挨拶をしてからのネコの手ポーズ。つまり、左ジャブから右ストレートが放たれた訳だ。あまりの鋭さにおっさん、KOしちゃいそうだよ。
「な、なんてキレのあるワンツー。俺はもうダメかも知れない……」
クレイドさん!? 俺が思っている事をほぼ100%で口に出しましたね!? や、やっぱ歳が近いだけあって感性は似ているのか……とりあえず彼とは良い酒が飲めそうだ。
「クレイドさん、こんにちわ。なにか新しい告知ですかぁ?」
ルーミィさんがパンチドランカーになっている俺に変わって質問してくれた。なんかすみませんね……。
「そうなんだよ、遂にこの時期が来たんだよ。二人は当然初めてになるな、サマーフェスは」
サマーフェス……クレイドさんから聞くところによると、要は大きなお祭りみたいなものらしく、近隣の村の方も参加するという年無いで行われるイベントの中でもトップクラスとして名高いお祭りとの事だ。
まあその実態は皆で親交を深める為に、飲み喰いしながら楽しむのがメインテーマと言うのがいかにもクレイドさんらしかったが。
「どうだ? 折角だからカズヤも一つイベントを任せられてはくれないか? 異世界から来たなら盛り上がる案件の一つや二つ持ってるだろう?」
まさか村長直々のイベントオファーを受けるとは。でも俺が異世界から来た事をポンポン言っても大丈夫なの? 他の村の人も耐性持ちだったりするんですかね?
異世界人である事はむやみに拡散させるのはやめておいて欲しいが、村にはお世話になっているし恩返しの意味を含めて了承しようとは思っている。
ちらりと二匹の子猫ちゃんを見てみると目を輝かせてこちらに熱視線を送っていた。どうやら本能的に面白い事があるのを感じ取ったようだ。ここまで期待されてしまってはNOなど言える訳がない。
「分かりました。園の体験学習も兼ねて参加させて頂きます。あ、園児達も参加しますのでイベント開始時刻はお昼ぐらいの時間がありがたいんですが……」
「おう! 時間や場所などはいくらでも融通が利くぜ? なにせ俺は実行委員の会長だからなっ! どうとでもなるのさ!」
つまり職権乱用ですね。それ、いいんですか? 後で問題になったりしません?
サマーフェスは一日を通して行うお祭りで、昼の部と夜の部に分かれているらしい。もちろん園児達を夜遅くまで連れ回す訳にはいかないので、あくまで園の保育時間内で参加させてもらおうと思っている。
なのでここはありがたく村長に調整して頂くとしよう。
しかし雨のお散歩で思いがけない収穫があったな。異世界のお祭りかぁ……元の世界では混んでる場所にわざわざ出向くのも面倒だったので敬遠してきたが、こちらのフェスと呼ばれるお祭りは興味がある。
まあ、一人でお祭りに行っても面白くなかったから行かなかっただけではあるが。
しかしこの異世界では園児達は居るし、ルーミィさんも居る。ボッチじゃないならお祭りも楽しめる筈! いやいや……し、仕事が忙しくて行く暇が無かっただけだし! 飽きてただけだし!
「開催は雨季が終わってからになるからな。また詳しい日は追って連絡するぜ! 今年は少々雨季に入るのが早いようだから例年に比べると少し前倒ししようかと思ってるんだ。まあ、約一ヶ月後ってところだ」
やっぱり梅雨入り早かったんですね……。確かに六月にも入ってませんもんね。長雨による農作物の被害が心配である。お野菜が高くなっちゃう……。
≪≪≪
園に戻ってからもアメリアちゃんとソフィちゃんはサマーフェスについて興奮冷めやらぬようで、俺やルーミィさんに質問攻めであった。
もちろん俺も初めて異世界でのお祭りなのであくまで予想であるが、お祭りと言えば露店やイベントが盛り沢山あるじゃないかとを伝えた所、もう、はしゃぐこと、はしゃぐこと。
……ルーミィさんが。ほんと食い気の塊である。花より団子という言葉が生ぬるく感じる。『花なんか要らねえ! 団子くれ!』ぐらいはあるな。大変失礼なお話ではあるが。
園児達もはしゃいでいたのは確かだけど、完全にぶっちぎりでナンバーワンだった。しかしイベントかぁ……お祭りに参加するって何をすればいいのだろうか。まさか盆踊りを披露する訳にも行かないしなぁ……完全に浮く姿しか思い浮かばない。
なにより……俺、盆踊りのふりつけ知らないんだけどね?
そんな賑やかな楽しい雨の保育もいよいよ帰宅時間が迫り、運動場を見たのだが、相変わらず水たまりに波紋が出来ているのが確認出来た。
今日は終日雨が止まなかったが、折角なので新アイテムのネコちゃんレインコートを着て帰ってもらう事にした。恐らくあのご両親達なら喜んでくれる筈だ。ただ、初見である意味、悩殺されて殺されてしまう可能性は無きにしも非ずだ。もしくは安定の秘宝化。
くどくなるが今回のレインコートも秘宝にはせず、雨の日に着用させて下さいとお便り帳に記載しておいた。これを怠ると各ご家庭の秘宝がさくら保育園の園児グッズにすり替わってしまうから……。




