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異世界31日目 5月1日(水) ②カズヤのイイ所?


 給食参観が終わったその夜、異世界に来てちょうど一ヵ月となったので、一つの節目として収支の確認をしている。


 実は神ブックの便利機能の一つに家計簿機能が付いており、こちらに日々の収支をこまめに記載しているのだ。まあここでも社畜の心得が染み出している訳だ。

 毎日とは言わないが、帳簿チェックは欠かせない。実際この一ヵ月、スライム料理の売り上げと園児の保育費を足してなんとかトントンだった。


 一番群を抜いているのが食費。育ち盛りの娘さんを抱えると目が飛び出る数値になるな……。元の世界に居た時の軽く倍はかかってるもんな。


 まあ、今月は異世界に来て生活必需品等の初期投資の分もあったにも関わらず、収支をイーブンに出来たのはスライム料理の売り上げのおかげとも言える。

 それに前回のルーミィさん作クッキーで金銭的にはかなりゆとりが出来ている。しかしあのお金は貯金に回す事にして、今後もスライム料理を作り資金調達をして行く予定だ。


 家計簿を付け終わり、続いてレシピをイメージしながらページをめくった。レシピが完成している物、途中の物がかなりの枚数になっている。スライム料理はいくつか商品化出来る状態のものはあるのだが、これからの季節に合わせた物を投入したく思っている。

 夏が近づく季節に暖かい物を作っても売れないからね。


 更にいくつかの案を神ブックに記載したところでお風呂上がりのルーミィさんがリビングにやってきた。ほんのり石鹸の良い香りを漂わせ、俺の横の開いているスペースにチョコンと座った。


 もうおっさんが居るのにパジャマ姿が定番化している。ずいぶん慣れたものですね。別にイリアさんのように露出している訳ではないので、目のやり場に困るという事は無いのだが。それでも……ねえ……。


 よし、邪念は捨て置こう……今は神ポイントチェックのお時間だ!


「さて、神ポイントの確認をしておきましょうか」



 ――神ポイント――


 ・前日までの神ポイント 1960ポイント


 ・日常保育2人 4ポイント

 ・初めての参観 300ポイント


 ・現在の神ポイント 2264ポイント



 うーん、あわよくば給食参観と保育参観で二重取りかと思ったけど参観は一括りであったか。でもボーナスはしっかり付いているので良しとしよう。それに遂に2000ポイント超えか。園の遊びの枠ももう少し広げていこうかな?


「ねえ、和也~?」


 パジャマルーミィさんがお呼びのようだ。なんでしょうかね?


「今日の参観ね、帰る時に親子で手を繋いでいたよね? あれ、なんか良くなかった?」


 嬉しそうな、しかし少し寂しそうな表情を浮かべて尋ねられた……驚きだ。ルーミィさんも同じ事を考えていたとは。あの光景こそリア充のその先にある『暖かな家庭』というものなのだろう。

 ふ、俺には未知の世界だし、辿り着くのは非常に困難……いや絶望的かも知れないが、可能性は『0』ではない筈!

 そうですよね!? 上司さんっ!?


「私も……あんな風になりたいな~って」


「そうですね。確かにあの光景は心打たれました。それにルーミィさん程の美しい方なら心配しなくてもきっと良い家族を持つ事が出来ると思いますよ」


 ただ一つ、料理の腕前を改善出来ればの話だが。まあ、芸術センスはズバ抜けて高いので練習さえすればなんとかはなりそうだけどもね。多分……確証は微塵も無いけど。

 この再研修中の期間は花嫁修業も兼ねて頑張って頂きたい。


 そんな事を考えているとルーミィさんは小さなため息を一つ吐き、不機嫌な様子で俺の持ってる神ブックを取り上げてきた。

 怒ってるというよりも……なんだ、呆れてる? 違うか、なんだ? 感情が読み取れない。


「もうっ!」


 あ、普通に怒ってたわ。一言そう言って取り上げた神ブックを俺に投げつけて部屋に戻って行った。本は投げちゃダメでしょ! しかもこれは上司さんからの借り物なんだから!


 とてもご立腹な様子なのだが、今、俺何かおかしな事言ったでしょうか? しかし最近妙に怒りっぽいような気がする。アレクさんの所の牛乳を飲ませてカルシウムの摂取量を増やしてみるか……。 いや、それよりも小魚を摂取させた方がいいかも知れないな。


 そんな冗談を考えつつ再び神ブックを開こうとしたところで、閃きに近い物が頭をよぎった。


 ――もしかしてルーミィさんがさっき怒ってたのって俺が見当違いな事を言ったからか? も、もしかして俺に気があるとか!?


 俺にだって多少はいいところがある筈だ、例えば料理! これは絶大な自信がある! それに……それに……。


 しばらく本気で自分の良い所を考えてみたのだが、一向に次の言葉が出てこなかった。


「俺ぇ……大丈夫かぁ? 俺って料理だけで出来てるの? 料理100%かよぉ。いや、違う! 絞り出せ! ある、何かある筈だ……おっさんの隠された魅力、魅力……」


 更に自分を追い込んだ、かつてここまで自分を苦しめた事など無い。だが今がその時! 今苦しまねば今後この答えが出る事など無い!


「料理……ギャルゲー、ケモナー、お酒好き……って俺クズじゃん!?」


 散々考えて出て来た答えが残念極まりない物だった……合わせて見ると、『ギャルゲー好きのケモノ娘愛好家の料理が出来る酒飲みのおっさん』となる。


 血の気が引いて行くのが分かる……完全に料理が出来るというメリットが他のデメリットの属性に食われて全く輝いていない。いやむしろメリットである料理が出来るという事すらも逆転して気持ち悪さ三割増しぐらいになってる。 

 いらない、そんな負のゲレンデ効果なんて……。


「俺は……俺は……ダメなのかぁ、いい所なんて何も無いじゃないか……」


「……そんな事、無いよ」


 俺の痛い独り言に誰か返事した!? っていうかここにはルーミィさんしかいない! 


「ルーミィさん!? そこに居ますぅ!?」


「う、うん……」

 

 リビングの入り口からひょっこりと姿を現すのはパジャマルーミィさん……そこは空耳であって欲しかったぁ……。


「ど、何処から聞いてました?」


「え、えっと、『俺ぇ……大丈夫かぁ?』から……」


 はい、全部ぅ~! オワタ~!


「さっきちょっと八つ当たりみたいな事しちゃったから謝りに来たら……でも和也って普段はあんな風に話すんだね。初めて聞いたよ。いいんだよさっきの口調でこれからも――」


「女神様、今宵は暖かいですが宵も過ぎ、夜風も冷たくなってきております。お風邪などを召されぬよう、暖かくしてご自身の体をご自愛下さいませ。それでは私めも就寝させて頂きます。おやすみなさいませ、良い夜を……」


「酷くなった!?」


 その後ダッシュで自分の部屋に戻り、異世界に来て初めて枕を涙で濡らした。おっさん、今宵は心に傷を負いましたよ?


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