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異世界27日目 4月27日(土) ③店長は見た!

 

 園へ帰って来て程なくして玄関のチャイムが鳴り、ルーミィさんが『は~い』と返事をしながら玄関に向かう様子が映った。


 今ではすっかり機嫌が直り、いつもの調子である。ルーミィさんに頼る事を教えられ二人の距離感が縮まった。今なら胸を張ってかけがえのないパートナだと言える。


 それにおそらくこの来客はイリアさんであろう。ちゃんとインターホンを理解してくれたようだ。この世界にはチャイムという認識が無いようなので『御用の方はこの丸ボタンを押して下さい』というPOPを表示をしている。


 さて、俺も向かうとしよう。先程購入したあの荷物はルーミィさん一人では到底持ちきれないでしょうからね。


 玄関から運動場へと向かうと馬車から荷物を降ろしているイリアさんが目に入った。思っていた通りだ。荷馬車での配達か……成程、大量購入した際にはこうやって届けてくれるのか。お馬さんも静かに待っている。よく躾けられていそうだ。


「よう、カズヤ、この食材はどこに置けばいいんだ?」


 既にルーミィさんは園の備品を受け取っており手は塞がっているようだ。園の備品も結構買ったからなぁ。荷馬車の中を覗くと小麦粉袋が大量に積まれている他、各種調味料も大量に乗っていた。


 今ここで全てを渡されてもキッチンまで運ぶのが大変だな。ちょっと調子に乗って買い過ぎたかも知れないな……。


「なんだ、その顔は。安心しな、あたしも運ぶのを手伝ってやるからよ。これもサービスだ、サービス!」


「す、すみません、それではキッチンの方へお願いします。遊戯室を通って行った方が近いですし間口も広いのでそちらに回ってもらえますか?」


 ルーミィさんには園長室に備品を運んでもらい、俺はイリアさんをキッチンへ案内する事にしたのだが、この抱えた小麦袋が結構重かったりする。

 一袋二十キロぐらいあるのかな? 両手でなんとか持ちあげている俺を尻目にイリアさんは軽々と左右に一袋づつ持っている。


 あの豊満な体……ではなくて、華奢な体のどこにそんな力があるのだろうか? 異世界の人ってみんなこんなパワフルなのか? いや、少なくとも今まで会った村の人はそんな馬鹿げた力は持っていなかった。あの牧場の勇者様を除いては。




「これで、最後ですね。ふぅ……」


「ああ、これで注文の品は以上になるな」


 三往復して息が上がっている俺に対し、常に二袋を持ちながら運んでいたイリアさんは息一つ乱していない。体力お化けでもあったんですね。


 人としてのポテンシャルの高さに驚きながらもお礼を言おうとした所、イリアさんが怪しい笑みを浮かべながら手招きしてきた……なんだ? とりあえず行ってみるか。と言うか行くしかないんだけね。


「どうされましたか? 何か不具合でもありま――」


「あそこは抱きしめてやるタイミングだろ? 突っ立ってないでさ?」


「ふぁっ!?」


 間抜けた声を発した後、無言の時間がしばし流れた。相変わらずイリアさんはにやにやしてるが俺の心境はもうお祭り騒ぎだ。


 あの現場を見られてただとぉぉっ~!? あそこに人の気配は無かったぞ!? それに馬の気配も! い、いや、この人は勇者様と同じく特殊枠だ。気配を消すぐらいやりかねない。でも馬はどうやったんだ? 馬って気配消せたっけ!? どんな躾したらそんな真似出来るようになるのさ!?


 俺がテンパって慌てていると更なる追撃が飛んで来た。


「あの状態で何もしないなんてさ、あんたら本当に進んでいないんだねぇ~。こりゃあ『アレ』の出番は本当に無いかもな?」


 俺も気にはなってますが先程も出てきましたが『アレ』ってなんですか? 服ですか? 物ですか? そして何自然な感じで俺に近づいてるんですかぁ!? 


 イリアさんの顔が近い! あと人差し指でおっさんの胸をツンツンしないでぇ!? セクハラですよ! あ、でもなんかいい匂いするなぁ。谷間もこんな近くで……って、そんな事を考えている場合ではない! こんな場面をルーミィさんに見られたら――


「か~ず~やぁ~!!」


「は、はいいいっ!!」


 ほらぁ、大魔神が降臨されたじゃないですか……なぜ神はこうも俺に試練を与えるのでしょう……って言うか実際、目の間に居るのが神様だわ。いや、そんな事はどうでもいい!


 イリアさんは絶望という名の精神の崖っぷちに立たされている俺から離れ、続いてルーミィさんの方に向かうと何やら耳元で囁いている……もうやめて、これ以上被害を拡大させるのは……やっぱり俺、恨まれるような事しました? 言って下さい、全身全霊の正座を以て謝罪しますから!


「イ、イリアさん!? そ、それって……あ、ちょっと待って!」


「ははっ! それじゃあな。またのご来店お待ちしていま~す!」


 散々場をかき乱し、最後はウインクを一つ残しそのまま帰ってしまった。もう、あの人絶対面白がってやってるよ……こっちは毎回冷や汗ものなんですよ?


 ルーミィさんの方に目をやるとイリアさんが何を言われたか分からないが、村へ戻る馬車を見ながら複雑な表情をしていた。


「ルーミィさん? イリアさんは何と?」


 当然の感情であるが、何を言われたか気になる。まあ、どうせ『あの場面見たよ』とかであろうけどさ。 

 そんなにおっさんに抱きついてしまった事がバレるのが嫌だったのか? まあ、嫌だろうけど。でもそれにしては不自然な表情だな……ひょっとして違うのかな?

 まさか女神様である事がバレたとか!? そっち系か!? や、やっぱり女神様ってバレると不味いよね? 最悪そこで再研修終了で失格とかもあり得るんじゃないのか!?


「な、何でもないよ! そ、それよりイリアさんを見過ぎだよ! 今後一切見とれない、ううん、この際見ない、そう、見ちゃダメ! 分かった!?」


 藪蛇だった。どうやら思っていた事とは違ったようだが、無茶苦茶な要求されてるぞ? 見ない事って……それじゃあ買い物にも行けないですよ? 俺は心眼なんて極めてませんよ?

 しかしこの焦り様と要求、やはりあの場面を見られたものにしては度が過ぎる。それにこの条件提示は無茶である。


「流石に見ないという訳に――」


「ダメ」


 最後まで発言させてもらえないどころか早々に強制終了されてしまった。本気で買い物に行けないじゃないですか……どうしてくれるんですか、イリアさぁん……。  


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