異世界22日目 4月22日(月) ③地獄から舞い戻りしクッキー
「と、とりあえず、いただきますね……」
ルーミィさん作の三日月クッキーを恐る恐る手に取り、先端部分を出来る限り小さくかじってみた。その瞬間、口の中に押し寄せる刺激、否、毒物を摂取したような感覚に思わず顔が強張った。
なにこれ……くっそ塩辛いですけど? これ、クッキー自体がもはや塩だわ。甘味なんて一切無い。焼き塩小麦粉だ。
口に広がる塩味を消す為に急いでコップに水を注ぎすぐさま飲み干し、一息付いてから尋ねてみた。
「し、塩は材料に無かった筈ですが?」
「う、うん。小麦粉をバラまいちゃった時に他の材料もこぼしちゃって。近くに似たような物があったから適当に入れたの……」
確かに砂糖と塩は間違いやすい。料理が苦手という属性が持つ者は必ず通るというもはやテンプレ的な要素もある。でも適当に入れるのは如何なものか……そしてどれだけの量を入れたの? ちょっと酷いですよ、これは……。
大変しょんぼりしているが止むを得ない。心を鬼にして死刑宣告を出そう。
「ざ、残念ですが今回作った分は処分させて頂きますね。これはちょっと食べれませんので」
ルーミィさんの作ったクッキーが乗っているオーブンのトレイを持ち、ゴミ箱に流し込もうとした時、明らかに異色を放つ物を見つけた。
「ル、ルーミィさん、これは!?」
手に取って見せたのはひよこさんのクッキーである。どうやら余った材料で俺と同じくひよこを作ったようだ。
しかし、俺が作った物とは出来が全然違う。今にも動き出しそうな造形に、細かいディティールも施され、生命の息吹すら感じる。もはや芸術品の域に達しており、俺の作ったひよこなんて児戯に等しいレベルだった。
そう言えばオーブンに入れる時も取り出す時も、ルーミィさんは自分でやっていたからこのひよこの存在に気付かなかったな……。
「……このひよこを捨てるのは忍びないですね」
「それね、本当は和也にあげるつもりだったの……」
しんみり語られる言葉が胸に刺さった。それを聞いた上で『お疲れ様でしたぁ~』などと言いながらゴミ箱にクッキーを流し込んだら男として、いや、人として失格である。
女の子が味はともかく俺の為に作ってくれた物。しかもお相手は美少女であり、女神様なのだ。それを無下にするなど俺の辞書には載ってない!
そもそも辞書に手作りクッキーを貰う事自体が載ってないんだけど。
「……じゃあ、せめてこのひよこだけでも頂いても宜しいですか?」
「えっ!? やめた方がいいよ! 塩辛いし、美味しくないから……」
別に毒という訳ではない、ただ塩辛いだけだ。思いには答えてあげるのが男ってもんよ! でもあらかじめコップに水は注がせて下さいね?
「そ、それでは……い、いただきます!」
手に持つ超造形ひよこさんは他の型抜きしたクッキーに比べて約二倍程の大きさがある。普通に食べても三口程度はかかるだろう。
だが耐えてみせる! 少々塩辛い小麦粉ごときで俺を止められると思うなよ!
勢い良くクッキーにかじり付いた。そのファーストバイトで目を見開いた。どうやら塩の塊をかみ砕いたようだ……一体どれだけの量を入れたんだ! ダメだぁ! み、水ぅ、水をっ!
く、くはぁ、口の中が塩味で満たされるぅ……クッキーが水に溶けて、まるで海水を飲んでいるようですよぉ……。
と、とりあえずひと口目は処理は完了した。だが、あ、あと三分の二もあるのか……。
こ、これは拷問だ。確実に塩分過剰摂取になる。毒ではないとタカをくくっていたがこれはもはや毒だ。このペースではあと二回同じ拷問が繰り返す事になる……ならばいっその事、次の一口で全てを飲み込み累積ダメージを減らすしかない!
「も、もういいよぉ。無理しないで……」
ふ、そんな悲しい顔は女神様には似合いませんよ? それにここまで来て引く訳にはいかない。これで終わらせる、一気にファイナルバイトに行かせて頂きます!
残りのひよこクッキーを強引に口の中に入れ、豪快に咀嚼した。なんとか口の中には押し込ん――
のぅおおっ!? さっきよりジャリジャリ言ってるぅ!? 何!? この生地の部分だけやたらと塩の分布が多くない!?
しかもここにきてスライムクッキーの特徴であるしっとりが邪魔をして飲み込めない! ええい、水だ、水で流し込んでしまおう!
蛇口をMAXで開きグラスからオーバーフローするのもいとわず、コップに入った水を口の中の隙間に押し込んだ。そして悟った。これは悪手であったと。
水分を含んだらクッキーが溶け出して口の中が塩味一色にぃ!? し、舌が痛い!? 舌にクッキーがまとわりついてきたぁ!? そしてもはや口を開く事すら叶わない。もう飲み込むしかない!
でもかなり大きめで食べたから完全に飲み込む為にはも少し噛まないと――
うわぁ……やっぱジャリジャリだあぁ……み、水を……。
一つのクッキーを平らげる為に水を三杯も飲んでしまった……しかも過剰な塩分のせいで舌の感覚がおかしい……痺れてる……。
食べるの止めとけば良かった……でも俺は成し遂げたぞ……。
「ご、ご馳走様でした。ルーミィさんの手作りクッキーありがたく頂きましたよ……」
美味しかったとは流石に言えない。流石に……。
「も、もう。で、でもありがとう……」
呆れた顔をしながらも嬉しそうな感情が溢れてるのが分かる。初めて好感度が上がったのではないだろうか。しかし、味は劣悪であったが造形技術には目を見張るものがある。これは今後のスライム料理を左右する重大な発見だ。
つまり、俺が生地を作り、ルーミィさんに形を作って貰えば見た目でのアドバンテージも得られる!
よし、とりあえず辛い……水をもう一杯飲ませて……。
≪≪≪
お腹が水で満たされつつも、夕食まで少し時間もあるのでリビングで神ポイントの確認を行う事にした。今日は新しい行事をしたので何かしらの変化があるかも知れない。
ルーミィさんはイリアさんの所にクッキーを届けに行ったので不在だ。なので今日は一人で確認しようと思う。
しかし、まさか平然と俺の作ったクッキーを代わりに持って行くとは。流石に詐欺になるので注意したら鬼気迫った顔で他言無用を約束させられたもんなぁ。
可愛い顔して怖かった……あまりの恐怖に素直に従ってしまったし。
夢にまで出てきそうだ、考えるのを止めよう……。
――神ポイント――
・前日までの神ポイント 684ポイント
・日常保育1人 2ポイント
・初めての調理実習 300ポイント
・現在の神ポイント 986ポイント
やはり初回ボーナスが付いたか。今回は色々と準備したし、実際にアメリアちゃんが一から体験したからか、前の校外学習よりポイントが高めだ。
やはり手の込んだ事や、体験をすれば高ポイントを得られるようだ。今はやる事に対し初回ボーナスがもれなく付いてくるが、後半になるにつれて初回ボーナス獲得は難しくなって行くだろう。二番煎じではポイントは手に入らないと言う訳か。だが定期的に行う行事もあるだろう。全てが一回ぽっきりという訳にはいかない。ここが運営の難しい所だな……。
とはいえ悪く無いペースだと思う。引き続き頑張っていこう!
にしてもルーミィさんはまだ帰って来ないか。まあ、女性同士話が弾んでいるのかも知れない。さて、それじゃあこの間に夕食の準備をしておくとしますかね。
しかし、この舌で味を感じれるかな。未だに痺れてるんだけど……。




