異世界22日目 4月22日(月) ②フラグは順調に進む
アメリアちゃんのご指導ご伝達の下、無事生地を伸ばす事に成功したルーミィさん。料理下手もここまでくると賞賛に値するかも知れない。
上司さん……料理が出来るようになる事も再研修の内容に入っているのでしょうか? そうなればちょっと絶望的かも知れません。
とりあえず完成まで後もう少しだ……気を抜かずに頑張ろう……。
「それでは型で生地を刳り抜いていきます。好きな型を選んでね」
型を取り出し二人に見せてあげた。ハート型、星型、三日月型など様々な物がある。これで型を抜けば調理工程はほとんど終了である。
俺は星型をチョイスし、くり抜いた生地を二人に見せてあげた。流石にこれはルーミィさんでも失敗しないだろう。
「カズヤせんせ~できたよぉ~! でもちょっとあまっちゃった」
アメリアちゃんの生地を見ると上手に刳り抜かれた後の生地の残骸があった。型抜きをする以上はどうしても端切れが出来てしまう。こればかりは仕方が無い。
しかしこれはこれで別の楽しみ方も出来る。まずはアメリアちゃんの余った生地を再度まとめて、もう一度延ばして少し細工をして……形を整えてと……よし出来た!
「はい、これはアメリアちゃんへカズヤ先生からのプレゼントだよ」
余った生地を使ってひよこさんを作ってあげた。尚、普通の面構えの。これにアメリアちゃんは大喜びして飛び跳ねていた。
さて、問題児の方もなんとか型抜き作業が終わったようであり、同じく余った生地で何かを作っている様子だ。
ここまで来れば後はプレートに生地を並べてオーブンで焼き、荒熱を取ったら完成である。ルンルン気分でルーミィさんがオーブンへとクッキーを入れてくれたので、タイマーと温度をセットしてと……よし、これで後は待つだけだ!
初試作だが俺の想像した通りの仕上がりになってくれるだろうか。理屈上は最高のクッキーに仕上がる筈なんだけど。
クッキーって手軽に作れるし休みの日によく作ってたから手ごたえはあるんだよな~。まあ、いいおっさんが休みの日に自分専用のクッキーを自作しているなんて、恥ずかしくて誰にも言えませんでしたけどね。
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「さあ、出来ましたよ! 美味しそうに焼けましたよ~」
「うわ~! いいにおい!」
「お昼ご飯もあるから味見は一つだけにしようね。残りは帰る時に渡すから持って帰ってパパさんとママさんとで一緒に食べてね」
業務用オーブンの上段からアメリアちゃんの作ったクッキーの出来栄えを確認したが想像していた通りの物が出来上がっていた。
通常のクッキーとは違い、無数に小さな穴がある外観のクッキー。成功である。心の中でガッツポーズをしておこう!
スライムは熱をかけると液体化する性質がある。100℃を超えた時点で液状化し出し、更に高温になれば水分自体が蒸発し出す。
ペースト化させたスライムを練り込んだ生地はオーブンの熱で次第に蒸発し、元々スライムが練り込まれていた場所には小さな空洞が残り、生地の膨張でそれらは小さくなるのだ。
そして液状化から気化するまでの工程で水分が染み出た生地は従来よりもしっとりとした食感を生む。
逆転の発想であえてスライムの食感を犠牲にする事により、新たな食感を生み出したのだ。我ながらよく考えたものだ。この発想力に脱帽ものである。
誰も誉めてくれないから安定の自画自賛の嵐を送っておこう。
それにもうひとつの狙いとしてこの前作ったスライムタピオカミルクティーと、このスライムクッキー、相性としては抜群の組み合わせなのだ。これは今度の休日が楽しみである。セット売りとかしちゃおうかな?
「じゃあ出来たてを食べてみようっか! まだ熱いから気を付けてね」
会心の出来栄えのクッキーを一つ持ってアメリアちゃんに手渡すと、ケモミミをぴょこぴょこさせて美味しそうに食べていた。尚、ルーミィさんも自分で作ったクッキーをひとかじりしていたが、何故かすぐさま大量の水を飲んでいた……。
この原因はアメリアちゃんが帰ってから探らねばなるまいが、今はそっとしておきたく思うのだが、もしかしてフラグ踏破しちゃったのかな……。
≪≪≪
昼食を食べ終わり、午後からはルーミィさんがお外で遊んでくれている、その間に俺は荒熱が取れたクッキーをアメリアちゃんのパパさん、ママさん用にラッピングしておいた。
もちろんアメリアちゃんのおやつ用も忘れてはいない。これで今日のティータイムのお供は完璧だな。
親御さん、喜んでくれるかな? なにせ自分の子供が作った物だ。お金では買えない最高のプレゼントであり、100億G積んでも店では手に入らない代物である。
ただ……先程から出来るだけ見ないようにしているのだが、向こうに置いてあるルーミィさん作のクッキーが気になって仕方が無い……まだだ、まだ着手してはならない。さ、先送り、先送りと……。
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「はい、アメリアちゃん。クッキーだよ、割れないように気を付けて持って帰ってね!」
「うん! アメリア、気をつける!」
帰宅時間になったので運動場脇に設置されたゲートまで歩き、用意しておいたクッキーをアメリアちゃんに渡してあげた。
小さな手でしっかりとクッキーを受け取ると、挨拶をしながら胸にクッキーを大事に抱きしめながらゲートに向かって歩いて行った。
余程慎重になっているのだろう、尻尾がピンと立ち上がっており、こちらにまで緊張が伝わってくる。
でもその仕草に胸キュンしていまいます。ああ、ギャルゲーの世界で女子高生と甘酸っぱい青春を求めてたけど、こういうのも悪くないなぁ~。
まあ一番肝心な恋愛要素は一切無いけどね。
アメリアちゃんを見送った後、ルーティンワークの園内掃除を終わらせ、今はルーミィさんと二人でキッチンに向かっている。出来る事なら避けて通りたいが例のクッキーの味を検証せねばならない。
正直……嫌で仕方無いけど。逃げ出せるなら逃げ出したい気分である。
尚、ルーミィさんは酷い落ち込みようである。キッチンに着くなり脱力して地面を眺めていらっしゃる。まさに世紀末感が漂っており、絶望をひしひしと感じる。
とりあえず、俺の作ったクッキーを与えて気力を取り戻して貰おう。
「良かったら私のクッキーを食べてみて下さい。これは次の新製品になりますので」
俺の作ったプレートから丸型のクッキーを掴み、小さな口で咀嚼している内に笑顔が戻って来た。だが、口の中のクッキーが無くなるとまた再び暗い表情へと変化してしまった。
「和也のクッキー、すごく美味しい! でも……」
目線の先はルーミィさん作のクッキー……そう問題はここからだ。正直、食べたくない。でも食べねばなるまい。
やっぱり料理フラグってものは存在するんだな……。ギャルゲーで言うところの『幼なじみが作ったお弁当がゲロまず』イベントと置き換えれるだろう。だがそれでも主人公は食べるのだ! 体調を崩したり、保健室に運ばれたり、卒倒してもだ!
それがギャルゲー……主人公も全てがバラ色の人生を送れる訳ではない。俺もかつてはその世界に甘んじて行く予定だった身だ、ここで引く訳にはいかない!
無理矢理繋げた感はあるし、剣と魔法の異世界では何の関係も無いが、そうでも思わなきゃチャレンジする気になれない。
だがイケる! なぜならギャルゲーは俺の生き様だからだ! 食ってやろうじゃないか、幼なじみではなく、女神様が作ったクッキーらしき物を!




