異世界22日目 4月22日(月) ①保育園でクッキー作り!
「今日もせんせ~達のひよこさんかわいいね~!」
俺とルーミィさんが装備する戦闘服『ひよこエプロン』はアメリアちゃんは大のお気に入りらしい。尻尾をぱたぱた振りながらルーミィさんに抱きついているのだが……可愛い……ですか? これ……。
「今日はなにしてあそぶの~?」
「あ、うん。今日はお菓子を作ろうと思ってるんだ。パパとママの分も作って持って帰ってね」
ひよこエプロンの事を疑問に思って少し反応に遅れたが、アメリアちゃんは言葉を聞いた途端、大きく目を開き輝かせて喜んでいた。尻尾の振り加減も従来の二割増しだ。
保育園の先生をしていて実感したのだが、子供の目ってどうしてあんなに純粋なんだろうか。ほんと生き生きしてるよなぁ~。
早速、通園バッグをしまってキッチンに皆で向かった。さて、今回作るのはもちろんただのクッキーではない。スライム配合の寿印の特別クッキーだ。
しかし、自分で言うのもなんだが、名前だけ聞くと結婚式とかのギフトにありそうだ。当の本人には全く縁の無いものだけど。
さあ、しっかり手を洗ってレッツクッキン! 事前に記載しておいた神ブックでレシピの確認といきますか。
――スライムエアーインクッキー――
材料
小麦粉、砂糖、牛乳、バター、卵、スライム
調理方法
①小麦粉と砂糖、牛乳、バターをよく混ぜ合
わせる。
②そこにみじん切りに刻んだスライムをフー
ドプロセッサーでペースト状にし再度よく混
ぜる。
③のべ棒で生地を平らに延ばし、型で抜く。
④オーブンで焼けば完成。
よし、材料の計量も済ませたし、後は手順に沿って調理するだけだ。
「今日作るクッキーは甘くてしっとり。でもサクッとした歯ごたえのあるクッキーを作るよ~!」
そう、このしっとりしているのにサクッとする相反する食感、これは矛盾しているとも言っていい。だが、実現出来るのだ、スライムを使えば!
これはスライムタピオカミルクティーに次ぐ、新製品として考えていたレシピだ。あえての連続新製品投入! これで一気に稼いじゃうつもりだ。しかも園の行事にも使えて一石二鳥だったりする!
唯一の憂いはアメリアちゃんと一緒になってはしゃいでいるそこの女神様のみ。大丈夫……だよな?
≪≪≪
「まずは目の前のボウル、この入れ物ですね。そこに材料を入れます。その際、小麦粉はそっと――」
説明しながら手元のボウルに小麦粉を入れて目線を上げた時にはルーミィさんが居たであろう場所から白煙が上がっていた。
お願い……話を話を聞いて下さい……ほら、アメリアちゃんも驚いてるでしょ……。
「ルーミィせんせ~、まっしろぉ~! だいじょうぶぅ?」
「だ、大丈夫よ、アメリアちゃん。ちょ、ちょっと散らかっちゃたけど……」
テーブルも服も綺麗な長い髪の毛も真っ白になってる……不安だ、とてつもなく不安だ。小麦粉を入れるだけだぞ……それで何故こうなる?
そ、そうだ、きっと小麦粉の存在を知らなかったんだ。だから勢い良く入れてしまったに違いない。まあ、ちゃんと話を聞いてくれていればそんなミスもしないんだけどね……。
なんとか片付けを終え、再びルーミィさんの小麦粉を計量し直して工程を進め、材料を混ぜるところまできたのだが、ここまでの時点で失敗は無いと信じたい。
少々目を離してしまう事に不安があるが、スライムのみじん切りを済ましてしまおうかと思う。
包丁を取り出し、まな板の上のスライムをスライスし、手際良くみじん切りにしていった。その際、アメリアちゃんが興味深々な様子で俺の手元を見ていた。
「カズヤせんせ~すごい! はや~い! ルーミィせんせ~もできるの?」
やめてぇ~!? アメリアちゃん、ルーミィさんを焚きつけないで! ってそっちはそっちでどうして袖をまくってやる気になってるの!? この前の人参さんへの斬撃レベルでは到底みじん切りなんて出来ませんから!
まずい! このままではほのぼの保育園がスプラッター保育園になってしまう! ホラー系は苦手なんですよ!
「ア、アメリアちゃん? 今日はスライムをひとつだけ調理するだけだからカズヤ先生がやるね。もちろんルーミィ先生も出来るんだけどね? そ、それよりほらこれ見て? これはね、フードプロセッサーと言ってもっと細かくする機械だよ~」
「ふ~ど? きかい? アメリア初めてみたぁ~!」
なんとかその場はルーミィさんの株を下げる事無く、フードプロセッサーでペースト状にする工程に興味を移させる事でなんとか誤魔化せた。
少々ルーミィさんが不服そうな顔をしていたが、ここはご容赦願いたい。それで血の惨劇は回避する事が出来るのだから……。
冷や汗が出る場面もあったが、ペースト化したスライムを生地に混ぜ込む工程でアメリアちゃんが『うんしょ、うんしょ!』と声を上げて生地をこねている姿を見て心に溜まったもやもやが全て癒された。
ほんとこの子癒し系だわ~。きっとアメリアちゃんの半分は癒しで出来ているに違いない。
「さて、スライムは良く混ざったかな? それじゃあ今度は生地を平らに延ばしてみようか!」
自分の生地でお手本を見せると二人とも真剣に手元を見つめてくれていた。そういえばこんな風に料理を教えるのって初めてかも知れない、基本独学だし、調理学校の先生ってこんな感じなのかな。結構緊張するもんだな……。
お手本を見たアメリアちゃんは上手に生地を延ばしており、中々に筋がいい。ルーミィさんものべ棒で生地を一心不乱に伸ばし続けていた。それはもう鬼気迫る様子で。
ルーミィさん? ちゃんと俺のお手本見てました? それ、持ち上げたら向こうが透けて見えると思いますよ? それでは次の工程の型抜き出来ませんから。餃子の皮より薄いですね……極薄ですな。
もう一周回ってある意味素晴らしい技量と言えよう。ほんとこの女神様、全く話聞かない上に見てもくれてないぞ? 一応目線は感じていたんだけどな……上司さん、そういうところなんですね、再研修に出させた理由って……。
そりゃあ転移ミスもするわな。もう少し落ち着きと緊張感を持って欲しいと切に願います……。
「ルーミィ先生、もう少し生地は厚めにして貰えますか? アメリアちゃんと同じぐらいに」
俺からアドバイスにルーミィさんも焦りながらアメリアちゃんの生地の厚みを確認している。クッキーって食べた事ありますよね? 気付いて下さい……。
「ルーミィせんせ~、もっとやさしくころころするといいよ~」
「あ、うん。や、優しくだね。こ、こうかな?」
「うん! そうそう!」
アメリアちゃんに教えて貰ってる……四歳に調理を教えて貰う十七歳って一体……。
上司さん、この再研修ほんとに有意義なものになりそうですよ……。




