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異世界21日目 4月21日(日) ②複雑な乙女心

 

 白銀狼夫妻がご息女、ケモミミ娘、アメリアちゃんの存在が村から正式に認められる事になった。大変喜ばしい事ではあるのだが、クレイドさんからの報告にやや気分がモヤモヤしていたのは事実である。


 だがそれを軽く吹き飛ばす程のスライムタピオカミルクティーが売れに売れ、販売早々に持って来ていた在庫が無くなってしまったのである。

 あまりのリクエストの多さに急遽、園にストックしていた分を取りに戻ったもんな……。


 それでもあっという間に売り切れてしまうという人気を博し、作ってきたお弁当を食べる暇すら無かった。スライムタピオカは製作原価が安く中々の利益を誇る上、ストックも出来る事からこの人気は非常にありがたいものである。


 後、最大の特徴としては何と言ってもスライム桜餅のように期間限定のスライムを使わない点が魅力となっている。


 春から秋ぐらいにかけて売れ行きが期待出来る定番商品の完成である。ただ、竹のグラスは限定品なので大量生産は出来ないのがネックと言えばネックだ。この点はイリアさんに相談してみようと思う。


 露店ブースの片付けを終わらせ、イベント広場の木陰のベンチで遅めのお昼を取り、早速雑貨店へと足を運ぶ事にした。

 尚、ルーミィさんにはスライム販売を行った際の売上からお小遣いを渡すようにした。いわゆるバイト代である。ルーミィさん目当てのお客様も多く、何より接客はお任せしているのでもうタダ働きなどさせられない状況なのだ。



≪≪≪



「今日はスライム水まんじゅう用の小豆と、調味料も予備を買っておこうかな……」


 雑貨店の商品陳列棚とにらめっこしながらつぶやいた。今は資金もそれなりにあるので材料も大量に購入する事が出来るし、それに比例して売上も伸びている。

 こっちの世界に来た時のひもじさが嘘のようだ。スライムを味付け無しで食べていた頃が懐かしい……。


 思い出に浸りながら他の食材をかごに入れているのだが、まずはスライムタピオカミルクティーの改善策を見出さなければならない。

 とりあずこのお会計が終わったらイリアさんに伺ってみるとしよう。


「おや? この材料、クッキーでも作るのかい?」


 お会計をしてもらおうとイリアさんが居るカウンターにかごを置くや、購入品を見てイリアさんが言い当てて来た。


 流石ですね、材料で分かっちゃいましたか。しかしイリアさん、俺の考えてるクッキーは一味も二味も違うんですよ? 完成したら今度持って来てあげますからね。

 ……いつも目の保養をさせて頂いているお礼も兼ねて。


「ルーミィが作ってあげるのかい?」


 おっと、イリアさん。それは地雷です。ルーミィさんは人参さんを上段で振り抜き、真っ二つにする子なんです。

 ですが他言はいたしません。俺はあの人参さんと同じ運命を辿りたくないのです。


「うん! お手製のクッキーを作ってあげようかなって」


 ……えっ? 何で? 何でそこで見栄張っちゃう訳? 絶対クッキーなんて作った事ありませんよね? そもそも料理をした事すら無かったと伺っておりますが?


 こればかりは料理を嗜む者としてを黙っている事など出来ない。このままでは食材がゴミと化してしまう。ここは可哀そうだが本当の事を――


「ね? 楽しみにしててね」


 非常に可愛らしい笑顔が向けられた。でも俺には見える。『いいから黙ってなさい』という感情が背後から滲み出ているのが。


 俺は自分の事が可愛いです! この際、俺の料理人としてのプライドなんて心の棚に仕舞っておきますので! 厳重に鍵もかけておきますです! はい、大丈夫です! お好きに調理して下さいませ~!


「は、はい。楽しみにしてますよ」


「まったく、のろけなら余所でやっておくれよ」


「ち、違いますよ! そんなのじゃないです! お菓子を作るだけですから!」


 なんだろう、二人の会話が全然入って来ない。ふふ、屈してしまった……十七歳の美少女に……。


 さ、さて、切り替えてスライムタピオカミルクティーの件についてお伺いしてみよう! クッキーの件はまあ、そのなんだ。そっとしておこうと思う。


「あの、イリアさん? 実はですねスライムを使った新製品で飲み物を作ったのですが、グラスの配給に戸惑っておりまして……竹を作って入れ物にしたのですが、大量には作れなくて困っているんですよ。何か良い案ありませんかね?」


「うん? 飲み物? また新しいスライム料理を作ったのかい? まあ、案は無くもないが何か対価を用意してくれるのかい?」


 うぐっ……お、おっしゃる通り虫の良い話ではありますね。しかし案はあるんですね……ここは何としてもその情報を勝ちとらねば!


 恐縮して少し挙動不審な態度を取っていたところでイリアさんの笑い声と共に肩を叩かれた。


「ははっ! 冗談だよ、カズヤの頼みだ。特別にタダで聞いてやるよ!」


 何度か肩を叩かれたのだが、これがまた結構痛かった……力持ちさんなんですかね? それよりもその振動で柔らかそうなお胸が揺れて大変な事になってますよ? 今も尚、余震が続いて――


「いだぁっ!?」


 背中に激痛がぁ!? ル、ルーミィさんがつねってるし! しかも頬をパンパンに膨らまてるし!?


「うん? ルーミィに焼きもちやかせちまったか?」


「焼いてません! 和也の素行を注意しただけです!」


 いや、注意って……思いっ切りつねってましたよね? 言葉ではなく既に手が出てますよね?


「まあ、そういう事にしてやるよ。そうそうグラスの件だが……」


 グラスについてはまさかの解決法であっという間に解決した。実はイベント広場の備品倉庫には大量のガラス製のグラスがあるらしい。どうやらお祭りの時に使うものらしく借りる事が可能らしい。


「ちゃんと洗って返してもらえば返金する形なんかにすれば全てのグラスを洗わなくて済むし、客としては安く買えるからいいんじゃないか?」


 成程ぉ~。そういう仕組みにすればいいのか。じゃあレンタル料として50Gぐらいのっけて、150Gぐらいで販売していこうかな? 洗って返してくれたら50G返金すればいい訳だ。


「流石はイリアさん! 分かりました次回からはそれで対応してみます!」


「おう、力になれて良かったよ!」


 お礼を述べると同時に再び肩をバンバン叩かれたのだが……お、俺は見ないぞ! だってルーミィさんがジト目で両手で親指と人差し指のアップをしてるのが映ったから……。



≪≪≪



 スライムタピオカミルクティーの問題も解決し、やや背中の痛みを感じながら園に戻ってきた。多分、痣になっている可能性がある……いや、これは自業自得だ。ルーミィさんを責めてはいけない。

 そして食材を片付けている時にどうしても気になった、いや、自らの命を守る為にルーミィさんに恐る恐る聞いてみる事にした。


「ところでルーミィさんって、クッキー作った事あるんですね」


「え? 無いよ」


 はい、知ってました。知ってましたよぉ……。


「だって、あの時はああ言うしか無かったんだもん。只でさえ……」


 最後の方が聞き取れなかったが、とりあえず俺が教えればいいんですよね?


「はぁ……それでは当初の予定とは違いますが、園の行事としてお菓子作りを企画していたので明日、アメリアちゃんと一緒に作りましょう」 


 大丈夫な筈だ。材料もそれほど多くないし子供でも作れる簡単なお菓子だ。いくら料理をした事が無い女神様でもとんでもない味にする方が難しい。


 んっ? これってフラグになったりしないだろうか……考え過ぎであって欲しい……。


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