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異世界21日目 4月21日(日) ①独特の食感、スライムタピオカ!

 

 陽の光が徐々に差し始める早朝のキッチンに立ち、スライム料理の下ごしらえである黒糖を混ぜる作業をしながら外の景色を眺めている。端から見れば優雅な朝を迎えているとも取れるのだが、実際の所は頭が痛くてフリーズしているだけである……これは完全な二日酔いだな。


 それにしても昨日は幸せな時間だったなあ。ルーミィさんはお酒が入ると結構積極的になる事も分かったし。だが、彼女は再研修中とはいえ神様である。いくらなんでも神様を口説く訳にはいかない。


 口説いたとして受け入れてくれる可能性は『ゼロ』だけどね! それにそんな技術をそもそも持ってないですから。


 っと、一人でノリ突っ込みしてる場合ではない、黒糖焦げちゃう、焦げちゃう。ちゃんと混ぜ合わせないと味にムラも出てしまう、集中せねば。


「甘い匂い~」


 はい、黒糖の匂いでルーミィさんが釣れました。ってどうしよう!? 昨日の事が頭によぎって直視出来ない! めっちゃ恥ずかしいんですけど!?


「ねえねえ、朝ご飯まだぁ~? お腹空いた~」


 その言葉にがっくりと肩が落ちた……女神様に至っては通常運行なんですね。お酒が入ると忘れてしまうタイプなの? でもしっかり覚えて貰ってたらそれはそれで恥ずかしいからもうこれでいいです。


「はいはい、少々お待ち下さい。今準備しますから」


 そんないつもと変わらないルーミィさんを見ていると自然と肩の力が良い意味で抜けた。これでいいのだ、あくまでルーミィさんは俺が元の世界に帰る為にお手伝いしてくれているのだ。それに俺も再研修のお手伝いをしている状況。

 持ちつ持たれつ、仕事上の関係である。ただ、その関係も友好であればある程物事は上手く進む。今後も上手に付き合っていかねばならないな。


 でも昨日の仕草って……いや、あれは酔っていたんだ。勘違いしてると恥ずかしい目に合いそうだからそっと胸の内に仕舞っておこう。

 良い思い出として……幸せでしたよ、女神様!




 スライム料理の下ごしらえをしていた為、少し遅くなってしまったが朝食を食べ終わり、続いて昼食のお弁当を作った。露店ブースの販売の合い間にイベント広場で食べる予定である。

 さて、今日はスライムミルクティーのデビュー戦だ。売りまくってやろう!



≪≪≪



 イベント広場に到着した頃には太陽も高く昇り、昼前となってしまったが、天気にも恵まれ汗ばむ程の陽気が降り注いでいる。どうやら天も味方してくれている。

 ふはは、さあ皆、喉が乾いてきたでしょ? ここに美味しい飲み物がありますよ~!


「和也、どうしたの? 変な顔して」


 少々浮かれて笑いを浮かべている所で冷静なツッコミが入った。真顔で質問されるとちょっと恥ずかしいじゃないですか。

 それに個人的には微笑み程度と思っていたのですが……そんなに変でした? 地味に傷付くんですど。


「いえ、気にしないで下さい……。あ、このPOPを店先に貼ってもらえますか?」


 ルーミィさんに渡したのは力作のPOP。元の世界では仕事でよくプレゼンしてたから資料作成は手慣れている。しかし人生どこで何が起こるか分かったもんじゃないな、まさか異世界に来てまでPOPを作るとは。


「よう、カズヤ! 今日は新作の発売日なんだってな? これ、ただのミルクティーじゃなくて異世界の料理なんだろ? ん? 説明があるのか?」


 最初のお客様は我らが村長のクレイドさんであった。どうやら村を見周りがてら様子を見に来てくれたようである。今は自慢のPOPを見てふんふん頷いているようだが。


「なるほど、独特の食感が楽しめるのか。しかもなんか風情を感じるグラスだな。竹で作ったのか? 折角だしそっちをもらえるか?」


 はい、毎度あり~! ふふ、作戦通りだ。このPOPを見たら最後、購入せずにはいられないだろう。そしてこの異世界には無いであろう竹のグラスにも趣きを感じることを禁じ得ないだろう。

 まあ、タピオカもミルクティーも日本由来ではないので、あくまで日本アレンジになっているんですけどね。

 今度はもっと純日本風な物を作ってみようかな。


 次のスライム商品のプランをおぼろげに考えながら商品をクレイドさんに渡すと、早速初食感に対面した様子であり、『おおっ!?』などと言いながら味わってくれている。


「これは新しいな!? 癖になりそうだ!」


「またフラムに持って行ってあげたらどうですか?」


 横からルーミィさんが顔を出してクレイドさんにお伺いを立てた。この、商売上手め! うちの看板娘は出来る子です。でも料理は全く出来ませんが。


「そ、そうだな。折角の新製品だし、も、持っていってやるかな。ははっ……じゃ、じゃあまた三個もらえるか?」


「は~い!」


 クレイドさんがルーミィさんに商品を渡して何やら詰め寄られている様子を眺めていたのだが、急にこちらに向き直り、場を作り直すかのように咳払いをして真剣な表情を俺に向けて来た。


「ところでカズヤ、保育園に新しく入った園児の事なんだが……」


 その言葉にルーミィさんも慌てて俺の傍に来て姿勢を正した。このクレイドさんの雰囲気、やはり村では受け入れてくれないのであろうか。アメリアちゃんはいくら可愛いといえどモンスターである事に違いはない。


 モンスターと人とは分かち合えない……俺の知り得る限り、RPGゲームの大半はこの構図である。もちろんみんな仲良しこよしで共存している物もあるんだけど。村人の中にモンスターの方は居ない。

 つまり、残念ながらこの異世界においては前者になっているのだろう。


 今後、保育園の規模が大きくなれば人の園児も保育してく事は間違い無いだろう。そこに大きな問題がある。アメリアちゃんは神をも凌駕する戦闘力を持つモンスターの娘さんである。まだまだ幼いが為に、万一喧嘩とかして感情的になって力加減を間違えて大怪我をさせてしまう可能性もある。


 かといってアメリアちゃんを園から放り出したら間違いなく親御さんに殺される。一瞬で村は全滅だろう。


 と言うよりも俺にはアメリアちゃんを放り出すなどという選択肢は元より無い。あんなケモミミ、そして尻尾を持つ可愛らしい子供を見捨てるなんて俺には断じて出来ない!


 いや、誤解を生みそうだな……子供に対して不平等などあってはならない。何気に自分でケモナー認定してしまったような……。


「その子って、人じゃないよな?」


 憶測が確信に代わる瞬間とはこう言う事か……ルーミィさんも不安が募っているのが感じ取れる。考えろ! 何か、何か手はある筈だ。


「それらを踏まえ、村の総意をフォレスト村の村長として二人に伝えさせて貰うんだが……」


 ルーミィさんが今にも泣きそうな表情を向けながら俺の腕にしがみついて来た。こんな寂しそうな顔を見るのは初めてだ。

 ボディタッチに一瞬気が行ってしまったが、今はそれどころじゃない。


 大丈夫です、俺はアメリアちゃんを見捨てはしません。人とモンスターは仲良くやっていける! それを俺達が証明すれば――


「大歓迎するぜ!」


 ……はぁっ?


「園児ちゃんがモンスターってのは驚きだが、おばちゃんもとっても良い子だって言ってたしな。あの人の見る目は確かなんだぜ? おばちゃんに気に入られる奴に悪い奴はいねえ」


 いや、そのおばちゃん、見る目とか言う以前にお姉ちゃんと言う言葉に踊らされてたように記憶しているのですが? 


 それよりも……そんちょおさんよぉぉぉ! ビビらすんじゃねえよっ! マジで今後の事考えたじゃねえか!!


 ルーミィさんの方に目をやると、俺の腕を掴んだまま安堵感と怒りが混じったような複雑な表情となっていた。これはあれだな、分かりやすく言うと笑いながら怒るというやつだな。


 そしてさっきからされてるボディタッチ……ちょっと照れるんですが。


「そんな訳で村への出入りはもちろん制限しない。むしろ連れて来てどんどん村を案内してやってくれ。おっと、折角の新製品がぬるくなっちまう。ほい、これお代だ。それじゃ、俺は行くわ!」


 よほど早くギルドに行きたいのであろう、今日もまた商品を持つと足早に去って行った。


「……まあ、正式に認められて良かったですね」


「うん、でも何だろう、やり場の無い怒りと言うか何と言うか……」


 同感である。いや、ありがたい話ではあるし、おばちゃんの活躍が異常だ。この村の本当の村長は彼女じゃないかと疑ってしまう程だ。


 でも村長としての立場もあるだろうけども、もう少しフランクに伝えて欲しかった……いつものノリではダメだったのであろうか。こっちはノミのハートなんだからいちいち改まるのはやめて欲しいな……。 


「と、とりあえずルーミィさん? そろそろ腕放してもらえますか? スライムタピオカの準備をしていきたいので」


「あ、やっ、ご、ごめん! 違うのワザとじゃないんだよ!? つ、ついそこに掴まるものがあったからというか! 藁にもすがる感じだったの!」


 俺の腕を放り投げるかのようにして距離を取られた。いや、なにもそこまで拒絶しなくても……そしてそのことわざ知ってるんですね。

 今回はかなり傷ついちゃいましたよ? おっさん、藁と同等なんですね。


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