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異世界17日目 4月18日(木) ③エプロン

 

 魂がお散歩して抜け殻と化したルーミィさんを我に返すのに手惑ってしまい、校外学習から戻って来た頃には昼前になってしまった。急いで昼食の準備をせねばならない。

 

 アメリアちゃんをパンチドランカーになっているルーミィさんにお任せし、足早にキッチンへと向かった。


 今日のお昼はサンドイッチの予定だ。さあ~て、早速調理にかかるとしよう。

 子供が食べやすいように小さめにパンを切り、下ごしらえした卵と野菜を挟む。シンプルであるが卵の味付けにはひと手間かけてあり、評判は高い一品だ。

 判定基準は俺、異論は認めない。


 どうせボッチですよ……さ、大人用も作るか。ルーミィさんはこんな小さいのじゃ足りないもんな。



≪≪≪



「さあ、昼食が出来ましたよ~!」


『わ~い!』


 先生が四歳児と同じテンションで喜ばないの。二人共可愛いけど……。


「それではご飯を食べる前に手を洗いましょう!」


「お手てをあらうのぉ~?」


 手には目に見えない細菌が数えきれない程付いている。ましてや今日は手掴みで食べるサンドイッチ。しっかり手洗いをしないとね。


「そうだよ。手にはいっぱいバイ菌が付いているから綺麗にしないとダメなんだよ。じゃないと病気になっちゃうかも知れないからね」


 果たして白銀狼のご息女がそこらの菌に負けるとも思わないが、俺は一般ピーポーなのだ。しっかりと感染する。それに最強種族かも知れないが、小さい子は免疫力が低い可能性もある。ここはしっかりと教えておきたく思う。指の間、手首、爪の間など入念に洗おうね。




「それでは、改めていただきましょう!」


『いただきま~す!』


 アメリアちゃんは小さな口でサンドイッチにかぶり付くと、愛らしい大きな瞳が更に大きく見開き、尻尾が左右に触れ出した。どうやら気に入ってくれたらしい。


「カズヤせんせ~! このたまごおいし~! アメリアこんなのはじめてぇ~!」


「ほんと美味しい~っ! いくらでも食べれちゃうよ~!」


 ふふ、和也特製のマヨ卵の味付けは伊達じゃないんですよ? このマヨネーズのとろみと白身と黄身の絶妙なるバランスに辿り着くまでに相当試行錯誤したのだ。マヨの分量はもとより、卵の茹で具合、刻み具合、全てが計算された究極のタマゴサンドなのだ!


 ちなみにルーミィさん、俺のサンドイッチはあげませんよ? 自分の分を食べながらも完全に俺のサンドイッチをロックオンしてますけど。


 それにしても二人とも美味しそうに食べてくれる。料理人冥利に尽きるとはまさにこの事だ。今はサラリーマン改め、保育園の先生だけどね。




 昼食を終えると午後からは約束通りお店屋さんごっこを始める事にした。商品は紙があれば何でも作れる。丸めるも良し、折り込むも良し。

 そんな即席の物だが並べてみるとそれなりものである。新しい知識を使った遊びであり、アメリアちゃんは黄色い瞳を輝かせていた。


「じゃあカズヤ先生がお店屋さんをするからね、ルーミィ先生とアメリアちゃんはお客さん役をしてみようか。後で交代するからね」


「アメリア、おきゃくさ~ん!」


「ふふ、じゃあ一緒にやってみよっか!」


 アメリアちゃんは尻尾を振りながら丸められた紙を籠に入れている。やはり自分で商品を選んだり決めたりするのが楽しいみたいだな。それに自分で作った商品というのにも思い入れがあるのだろうな。


「カズヤせんせ~! これくださ~いっ!」


 お買い物を終え、レジ係のおっさんの所に来てくれたのだが……笑顔がマジ天使だわぁ! 小さい子に触れ合う事なんて皆無だったから気付かなかったけど、もう堪りませんな!

 それにケモミミと尻尾付きときたものだ。これで可愛くない訳が無い。将来が今から楽しみ――


「カズヤ先生、口元が緩み倒してるよ? 私がどうにかしてあげようか? 例えば猿ぐつわとか」


「はい、全部で5個なので250Gになりま~す」


 あぶねえっ!? 今女神様の手が拳になってたのが見えましたよ!? 叩くつもりだったんですか!? しかも猿ぐつわって!

 ダメですよ、女神様がそんな過激な事を園児が居る前で言っちゃ! も、もちろん居なくなればOKという訳でもないですからね?



≪≪≪



 女神様の脅しに怯える一面もあったが、それはあくまでこちらの話であり、アメリアちゃんは夢中になってお店屋さんごっこを楽しんでいた。

 しかし無情にも帰宅時間が迫り、まだまだ遊びたい様子の少し悲しそうな表情を出していた。俺としても大変心苦しいが、明日も保育園はあるし、今日の出来事をパパとママに教えてあげてね、と諭すと笑顔でお片付けしてくれた。


「カズヤせんせ~、ルーミィせんせ~! いっぱい楽しかったよ! また明日もあそぼ~ね!」


 アメリアちゃんをゲートの前までお見送りし、帰る間際まで満面の笑みであった。最初はどうなるかと思ったが、案ずるより産むがやすしとはよく言ったものである。どうやら保育初日は大成功だ。




「今日はお疲れ様でした。無事初日を終える事が出来ましたね」


 アメリアちゃんを見送った後、遊戯室へ戻って部屋の掃除をしながらルーミィさんに話しかけた。使った部屋、いや場所はごく一部であるが案外髪の毛や埃などが落ちているものである。掃除はしっかりと行わなくてはいけない。

 

「うん、アメリアちゃんも喜んでくれて良かったよ! 誰かさんは変な目で見てたけどね?」


「ねえ、ルーミィさん? 信じてくれてます? あれは純粋にアメリアちゃんの挙動が可愛らしくて――」


「特にアメリアちゃんの耳を触ってた時の顔と言ったら無かったよ。小さな子相手にデレ~っとしちゃってさ!」


「さて、掃除はこれで完了ですね。園長室で神ポイントの確認をしてみましょうか!」


 ケモミミは……正義だ。そして話題を変えたいと思います……。


 女神様のお小言……いや神託を受けつつ園長室に足を運び、デスクの上に神ブックを乗せた。お客さんが来た時にしか使用しない園長室だけど、記念すべき保育初日なので雰囲気を出す為にこの部屋をチョイスしてみた。


 今日は初めて保育園が機能した日だ、神ポイントの変動が気になる。高鳴る胸の鼓動を押さえつつ、開いた神ブックに触れ、残高照会を行った。



 ――神ポイント――


 ・前日までの神ポイント 580ポイント


 ・日常保育1人 2ポイント

 ・初めての校外学習 100ポイント


 ・現在の神ポイント 682ポイント



 おおっ!? 今回も初回ボーナスが付いているじゃないか! しかし昨日に比べてポイントが低いな……そうか、難易度によってポイントに差が出る仕組みなのか。

 確かに今日の校外学習自体は思い付きで行えるぐらいのものだったし、事前準備的なものは無かった。この辺りが影響してるのかも知れないな。

 後、保育をした日にはデイリーポイントが付くのね。少々ポイントが少ないようにも思うが人数が増えてくると大きな収益源になるだろう。


 ところで一体誰がこのポイント決めてるんだろうか……上司さんか?


「やはり保育園の行事を行えば初回ボーナスが――ってあれ?」


 さっきまで一緒だったルーミィさんが居ない。どこに行ったんだ? トイレですか? まあいいや、明日の献立でも考えておこう。今日はサンドイッチだったから、明日はご飯系のメニューにしようかな……。


 神ブックに書き留めておいたメニューを見ながら、献立を組み立てようとしたのだが、案外難しい事が発覚した。栄養のバランスなんかも考えないといけないので良く練らないと……。


「か、和也? ちょっといい?」


 気が付くとルーミィさんが戻って来ていた。手には先程購入したであろうイリア雑貨店印の布袋を持っている。どうやらそれを取りに行っていたようだ。

 

 おやつタイムですか? でもくれませんよね?


「こ、これ、今日、雑貨店で買ったんだけど。どうかな?」


 ちょっと照れくさそうに布袋の中から黄色い布を渡してきてくれた。先程までおっさんをロリコン扱いしていた冷やかな目とは打って変わって女の子らしい挙動を取っている。

 なんか改まれるとおっさんも緊張しちゃうんですけど?


 慌てて神ブックの機能を終了させて袋を広げてみるとそれはエプロンであった。しかもポケットが多く収納性が高そうである。確かに元の世界でも仕事着として着用している保育士さんも多いだろう。


 正直これは嬉しい、そして何より渡したお小遣いでこれを買ってくれた事に涙が出そうになる。大方食べ物に代わると思っていた俺を蹴飛ばしてやりたい気分です。


 しかしだ。ルーミィさんのご厚意には感謝しても仕切れない程有難いのだが、どうしても一点気になる箇所がある。それはエプロンを広げた時に気付いたのだが、中央に大きなワッペンが張り付けてあったのだ。かなり大きめのワッペンが。

 いや、この際ワッペン自体は構わない。だが、なぜあほ顔をしたひよこなのだろうか……見ようによっては可愛いのか知れないが。


「ど、どうかな? 気に入ってくれたかな?」


 照れくさそうに眩しい笑顔を混ぜて質問された……そんな笑顔を向けられたら批判なんて出来よう筈も無い。ましてやこれは我が人生において始めて女性から貰った贈り物なのだ。

 たとえ不細工なひよこのエプロンでも……。


「は、はい。ありがとうございます。大事に使わせて頂きますね」


 その返事にルーミィさんは喜んでくれた。どうやらルーミィさんもお揃いのエプロンを付けるらしい。仕事着、制服と言えばそれまでだが、ペアルックとも取れなくはない。今はその喜びに浸ろう。


 たとえギャグ顔のひよこのエプロンだったとしても……何故にこの柄を選んだんだ……。


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