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異世界275日目 12月31日(火) ④異世界×日本酒


 大晦日の夕食といえば年越し蕎麦、であるが、今年は普段と同じ食事を用意させてもらった。

 本当は蕎麦を食べたかったのだが、いかんせん蕎麦粉が手に入らなかったのだ。この時期は雪の影響で物流の動きも鈍くなるとの事で一般的なものならともなく、普段雑貨店に置いていないものは手に入りにくいらしい。


 ただ、存在していない訳では無いので、春を待って取り寄せてもらう事にした。蕎麦は普段でも使えるメニューになるし、夏になったらザル蕎麦でも作ろうかな?


 今は夕食を終え、おせちの準備も完了し、四人揃ってこたつでまったりしている。新年を迎える前のこのまったり感……ああ、幸せだ。テレビの特番や歌番組が見れないのは残念であるが。

 まあ、個人的に歌番組にそれほど興味は無いけどね。歌えないし……。


「今年も終わりですねえ……」


「ああ、だが日にちが変わるだけの話だろ? そんなのは毎日の事じゃないか」


 風情の欠片も無い返事がイリアさんから届いた。どうやらこの異世界の方は新年に対して、全くと言っていい程興味が無いようだ。イリアさんに至ってはただのお泊り会気分のようである。


 ですが、今年からはこの村に正月を植え込んで行きますよ! まずは手始めにこの三人からだ! そしてゆくはクレイドを巻き込んでこの村全体にお正月をすり込んでみせる!


「そうだ、イリアさん、お酒でも飲みませんか?」


「お、いいな! ちょうど喉が寂しくなっていたところなんだ!」


 なんですか、その表現……ほんとお酒好きですねぇ……。


「実はお正月用にとっておきのお酒を用意したんですよ。ちょっと待って下さいね」


 少しイリアさんの顔が険しくなった。流石の俺でもお酒は作れない。つまり神力を使ったのが悟られたのだろう。


「……全く、試練失敗しても知らないからな! まあ、させないけどな!」


「お心強いお言葉、ありがとうございます。私も失敗する気など毛頭ないですよ。それにいつもご協力して頂いておりますからね、私からも少しサービスさせて下さいよ」


 神ポイントはケチり過ぎると余計貯まらない気がする。大盤振る舞いこそ出来ないがコンスタンスには使っていきたいのだ。

 神ポイントは天下の回り物ってね!


「まあ、カズヤの事だ。ある程度はセーブしているだろうが、無茶する時は振り切るからな……それが一度や二度じゃないから心配してるんだぞ? もうあたしを悲しませないでくれよ?」


 冗談交じりではあるが、本音も入っている言葉だ。ルーミィとレインも頷いてこちらを見ている。


「はい、自重いたします。ですが、やっぱり皆さんの身に何か起こった時は躊躇したくないんですよ。それで手遅れにでもなったら……おっと、年末にする話ではありませんね。さ、お酒の準備をしてきますね!」


 あまり湿っぽい話はしたくない。それが伝わったのか三人とも再び談笑し始めたので、こたつから出てキッチンへと足を向けた。


「今年も大変お世話になりました。来年も宜しくお願いいたしますね」


 小さく呟きながらリビングを後にした。ほんと、いくら感謝してもし足りないぐらいですよ。



≪≪≪



 キッチンに再び舞い戻り、冷蔵庫の中に用意してある料理を取り出し、少しづつ小皿に盛っている。大晦日ならでは晩酌のアテと言えばやっぱりこれだよな。

 普段とは違い、おせち料理に入れるもの達がアテになるのである。そう、フライングでおせちの具材を食べちゃうのもこれまた一興なのだ!


 先に用意しておいた沸騰しているお湯に沈むとっくりを布巾を使って取り出し、お盆におせちのアテと共に乗せた。


 とっくりからは湯気が出ており、蒸発するアルコールの匂いと日本酒の香りが漂ってくる。さあ、晩酌タイムと行きますか!




「お待たせしました~」


「なんだ、やけに時間がかかったな。なんだ? その入れ物と小さなグラスは」


「これは私の世界のあるお酒『日本酒、熱燗』です」


 お酒のアテをこたつテーブルに並べほんのり湯気が漂うとっくりを置くとイリアさんが驚愕の表情を浮かべた。


「さ、酒を温めたのか!? そ、そんなのありなのか!?」


 この世界におけるポピュラーなアルコール飲料と言えば葡萄酒、つまりワインである。一部でワインを温めて飲むという事はあるそうだが、これは一般的では無く、村で提供しているのも見た事が無い。


 そもそも、お酒を温めて飲むという文化は以外に少ないようであり、ホットなお酒を飲む日本は珍しい部類に属するらしい。ましてやここは異世界、イリアさんが驚くのも当然である。


「温まりますよ~、さあ、どうぞ」


 とっくりからおちょこへと温めた日本酒を注ぐと蒸気に混ざり日本酒の良い香りが鼻に付いた。


「こんな小さなグラスで飲むのか? しかも透明の酒か――っとっとっと!」


 いやあ、いいリアクションですね! バッチリです! まずはお酒に強いイリアさんからご賞味頂いてもらおう。結構度数も高いからルーミィとレインには慎重に飲ませないと。


 おちょこに入った熱燗をくいっと一飲みにすると笑顔が漏れた。どうやらお気に召してくれたようだ。


「ふぅ……これは美味いな……喉通りもいいし、体の芯から暖まる感じだ!」


「葡萄酒とはまた違った風味があるでしょ? ただ、あまり飲みやすいからと言っても度数は高いので注意して下さいね」


 さて、俺の一口いただくとしよう……かあぁ~、久しぶりだなぁ~! この喉に付く感じ! 堪りませんなあ~!


 っと、おっさん臭い感じになってしまった。でもおっさんだから気にしないでいっか。


「私も飲んでみたい!」


「カズヤ様! 私も是非!」


 もちろん飲んでもらって構わないんですけど……おちょこ一杯程度にしてね?


 待望の眼差しを向けられたので二人に注いであげるとイリアさんと同じく一飲みで飲んでしまった……そこはちびりちびりといって欲しかったんだけど。


「かぁ~ってなるぅ!! 喉が!? うっ! ごほっ、ごほっ!?」


「か、体の中が燃えているようですぅ~! ふぅふぅ! ふひゅぅ……」


 よし、もう二人には飲ませないでおこう。ルーミィに至っては蒸発したアルコールのせいか、咳き込んでしまってるし……。


「はい、お二人はもうやめておきましょうね」


「だ、大丈夫だよぉ……ちょ、ちょっとむせただけだから。でも美味しかったよ~」


「わ、私も大丈夫ですぅ……も、もう大人ですので!」


 ダメだ……これ以上飲ませる訳にはいかない。絶対酔い潰れるぞ。


「ダメなものはダメです。それにイリアさんもあまり飲み過ぎないように――」


「いやあ~美味い! 暖かい酒がこんなに旨いとは! 堪らないな、ヒック!」


 ふと気付くと自分で酌をしながらぱかぱかやっている姿が映った。その姿は頬が染まり、目が蕩けている。その上……しゃっくりですと!?


 ……酔ってる? 初めて見ましたよ、そんな顔! 葡萄酒だと何杯飲んでも顔に出ないのに日本酒だと1合程で酔っちゃうの!?


「カズヤぁ~、お代わりぃ~……ヒック……もう一回作ってくれぇ……」


「イ、イリアさん、もうやめておきましょう。ちょっと酔いが回っているようですから」


「やあだ! もっと欲しい~! それに暑いから脱ぐぅ~!」


 ちょっ! なんか幼児化してるし! それともデレモードなの!? もしくはただの酔っ払いか!?


「脱いだらダメですって! レ、レイン、ルーミィ! 早くイリアさんを! って居ないし! 何処行ったの!?」


 先程までこたつに入っていた二人が居ない……ま、まさか。


「イリアさん、ちょっと待ってて下さいね! 服は脱いだらダメですからね!」


 こくこく頷くイリアさんを残し急いでキッチンの方に向かった。頼む、思い過ごしであってくれ! キッチンには……開封済みの一升瓶が置いてあるんだ!




 キッチンの入り口に立った瞬間、自然と床に手を置いた……。


「はひゅ~、きゃずやが二人~」


「ぽかぽかぁ~、うふっ!」


 通常サイズのグラスを手に持ち、足元がふらつきながら辛うじて立っている美少女二名を発見した。やっぱり飲んでしまっていたのか……どうしてそういう事しちゃうかな? 一升瓶、半分ぐらいになってるしさ。


 飲むなって言われたから反抗心出しちゃったの? 押すなよ、絶対押すなよとは訳が違うんですからね!? 


「冷たいのも美味しかったですぅ~」


「りぇいんは三人ににゃってるよ~」


 終わった……ええい、とりあえずこの二人に大量の水を飲ませる! それしかない! 目を覚ますんだこの馬鹿タレ美少女達!


 急いでグラスに水を入れ、二人の元に駆け寄り、グラスを突きつけた。


「二人とも! 勝手に飲んじゃダメでしょ! さあ、お水です、これを飲んで落ち着いて下さい!」


「口移しがいいですぅ~カズヤ様、お願いしますぅ~」


「じゅるい~、私もぉ~」


 本格的にダメだ、この二人……頭から水をかけてやろうか……。


「この酒は冷たくても最高だな! んぐんぐ……」


 イリアさんの声が聞こえ振り返ると……ラッパ飲みで一升瓶の日本酒を飲んでいた……。しかも半裸で。パンツとキャミ姿である。服、何処にやったんですか!? 丸見えですよ!

 あ、脇、綺麗ですね……って違う違う!


「イリアさん! ダメですって! そんな飲み方しちゃ! それに服を着て下さい!」


 イリアさんから一升瓶を取り上げて中身を確認すると三分の一程まで減っていた。お正月用のお酒が年を越す前に全て無くなる……。


「うう……んっ!」


 イリアさんに両腕を掴まれたかと思うと、なんの躊躇も無しに唇を合わせて来た。それと同時に日本酒が口の中に流れ溢れた。


 突拍子も無しにいきなりなにしてるの!? 口の中が日本酒でいっぱいに……きょ、強制的に飲まされる!? 待って、動けないし、これってアルハラだよ! アルハラダメ! 絶対ダメ!

 重症時のスライム経口補水液の飲ませ方じゃないんだから!


「ああ、ずるいですぅ! 私もしますぅ~!」


 お姫様が俺から一升瓶をふんだくるとそのままラッパ飲みし始めた……王様が見たら泣くからそんな事しないで!?


 なんとか口の中のお酒を飲み干し、呼吸を整えた。吐き出しても良かったのだが、折角大掃除したばかりなので汚したくない思いが勝ってしまったのだ。


「んぐ――かはぁ~! ふう……レ、レイン! そんな事しちゃ――」


 完全にふやけ切った顔でイリアさんの時と同じく両腕を掴まれた。酔っているせいか力加減がおかしい! 痛い! 痛いですぅ!! 腕折れちゃうって!


「ぐああっ! レイ――」


「んっ!」


 レインの唇から俺の唇が繋がり、日本酒が流し込まれた。もう、胸は当たり倒しているし必要以上に唇は当ててくるし、瞳はふやけてはいるものの、しっかり見開いてうっすら笑ってるかのようだ。

 エロフだ……エロフの表情だ、これ。サラちゃんも似たような顔してたし……。だけど怪力による拘束により今は痛いしか感じないんですけどね!?


「次はぁ~私のばんらお~! ちゅっちゅしよ~ねぇ~」


 ル、ルーミィ!? やめなさい! お酒が入って大胆になり過ぎているから! あんなに恥ずかしがり屋さんなのに一切の躊躇が無くなってるから! 初めて会った時よりも完全にパワーアップしてませんか!?


 くっ、な、なんとかしなくては! し、しかし、さっきから日本酒を一気飲みしてるようなもんだから、あ、足元が。


 気付くと既にルーミィに抱き着かれ、蕩けた顔が迫り同じく日本酒が流し込まれた……。その後宣言通り何度もちゅっちゅされた……多分これはクレイドとフラムさんの真似だな……。


 もう、やだ……酒癖悪過ぎでしょ、貴女達……。


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