異世界275日目 12月31日(火) ①お餅つきは危険
異世界の年末、元の世界のように慌ただしい年の瀬の雰囲気は特に無く、こちらの世間様は至って通常運行である。
大晦日からのお正月の流れるようなコンボ。俺は一年の中でこの二日間が堪らなく好きなのだ。これを味わえないなんて気がおかしくなってしまう。なので……作り出して見せる! 異世界での大晦日とお正月を!
大きな決意を胸に秘めてキッチンに向い、早速新しいブックホルスターから神ブックを取り出した。
尚、ルーミィからのお守りはホルスターに結んでおく事にした。まあ、レインやイリアさんからの問い合わせはあったが、お守りと言う事は説明させて頂いており、了承も取れている。
散々揉めていたが、『今年のクリスマスプレゼントは三人とも身に着けるものという事で』との俺の一言でピリオドが打たれた。しかし、貰った物一つ身に着けるのに許可が要るとは……。
そんな過去を振り返りながらも、気を取り直してキッチンの調理場に向き合い、イメージを膨らませた。
――まずはなにはともあれおせちを入れる重箱だ。これがなければお正月が始まらない。それにお酒は日本酒を用意しよう。一升もあれば十分だろ。後はとっくりとおちょこだな。
神力の白い光がキッチン内で連続で輝いた。連続具現化である。
「カズヤ様! 今、神力の光が!?」
ひいい! バレたぁ! だって日本のお正月用品ってイリアさんの所にも無いんだもん……。
最後のとっくりとおちょこを具現化した所でレインがキッチンに飛び込んで来て、オッドアイを光らせながら俺に迫って来た。
「あ、あのですね、これはお正月を迎える為には仕方が無いものでして……」
「し、しかしですね! 最近神力の使用が多くありませんか!?」
「レイン、今日は許してあげようよ……じゅる……」
どこまでも食い気に純粋な女神様だ。完全に意識がおせちに行っている。まあ、下ごしらえした食材は所狭しと並べられていますが。
でも俺の失敗は女神様の再研修失敗と同義ですからね?
「レイン、料理を美味しくいただくには器も大切なんだよ……」
なんかどこかで聞いた事のあるような事を言ってますね。どこで覚えて来たのかな? さて、ルーミィでは説得力が無いので俺の方から言葉を添えておこう。
「レイン、今回はそれほど大きくは神ポイントの消費も無いと思いますし、先日のクリスマスでポイントに増加もありましたので。後、私の世界の料理もこの世界で広めたいという思いもあります。それに神ポイントは、ただ貯める事に専念していては効率が悪くなる時もあります」
ほぼサマーフェスでのアレクから受け売りであるが、さも自分で導き出した答えかのように言ってしまった……。
限度こそあるが、効率度外視にしてみんなに楽しんでもらったりする方が俺的には嬉しいのは本音である。ただ、最終日に『あと1ポイント足りない……』なんて事のならないように余裕は欲しいけどね。
「……分かりました。そうおっしゃるのでしたら……ですがご自愛下さい……カズヤ様が消滅するなんて絶対に嫌ですからね」
「もちろんですよ。私も皆さんを悲しませたくはありませんから――」
急に両手を握られじっと顔を見つめられた……う、嘘なんてついてませんからね?
「嫌……ですからね……」
本当に心の底から心配してくれているようだ……これからも上手に神力は使っていかないとな。よし、やる気もチャージ出来た事だし、早速おせち作りを――
「おほん! 随分と仲が宜しそうで……私だって心配してるんだからね!? それにいつまで手を繋いでいるのかな? お料理作るんじゃなかったの!?」
どうやらルーミィの機嫌の悪さまでチャージされてしまったようだ……慌てて手を離して姿勢を整えた……最近さくら保育園の先生達のボディタッチが激しくなって来てるな……。
「はい、分かってますよ。ルーミィ、ありがとうございます。ちゃんと伝わってますよ」
「そ、それなら……いいんだけど……」
とりあえず怒りは収めてくれたようだ。みんなが俺を支えてくれている……だからこれは俺からの本のささやかなお返しである。俺には美味しい料理を作る事ぐらいしか出来無いからさ。
≪≪≪
一の重には祝い肴を、二の重には焼き物、三の重には酢の物、四の重には煮しめと出来上がった料理を詰めていく。そしてお正月といえば忘れちゃいけなのは雑煮の存在だ。これは関東風のおすましを用意したく思う。おすましのベースの味はシイタケスライムでばっちり出汁が取れる。
そして必要不可欠なお餅の存在。これも忘れずにしっかりと今、もち米も蒸しているところである。お餅の準備もばっちりだ。それにそろそろ……。
「カズヤ~持って来たぞ~!」
キッチンに顔を覗かせるのはイリアさんであるが、もはや自分の家の冷蔵庫を開ける感覚で入って来る。一応、お客人なんですけどね?
「ありがとうございます。こちらも準備が出来たので早速ですが始めましょうか、お餅つきを!」
遊戯室に置かれているのは先程イリアさんが持って来てくれた木製アイテム、臼と杵である。尚、イリアさんに手配して頂いた一品である。
杵は武器のような装飾がしてあるがそこは気にしないでおこう。昔ながらの手法でお正月用のお餅を作るのだ。さあ、サクサク始めて行こう。雑煮用、焼き餅用、鏡餅用と結構沢山作る必要があるもんな。
早速、臼に水を馴染ませ、蒸した餅米を入れると蒸気が舞い上がった。うんうん、いいね、雰囲気出て来たよ!
「うわあ、なんかわくわくするね!」
「最初はこうやって杵で押し潰すように押さえていきます」
水に濡らした杵をもち米に押し付けお手本を見せてあげた。まあ、俺も実際にするのは初めての筈なのだが、何故か身に付いている技術だ。覚えてないけど小さい頃に経験したのかな?
「へえ~、ねえねえ、私もやってみたい!」
先程から目を輝かせて見ているルーミィから声が上がった。まあ、ルーミィならいいかな? レインやイリアさんのパワーをまだ米粒の状態で発揮されたら四散してしまう可能性があり、全員火傷してしまう。
「う、結構重いね……」
「おいおい、大丈夫か?」
「ルーミィ様、お気を付けて!」
杵を手渡し、アシストをするつもりで臼の傍にかがんだ。ルーミィはふらふらとした足取りで杵を振り上げ……ちょっと待って! なんで振り上げるの!? 聞いてた!? 最初は押し潰すようにって言ったよね!?
「えいっ!」
可愛らしい声と共に杵が振り下ろされた。臼の近くでかがんでいた俺は完全に逃げ遅れ、杵は既に重力の加速度をプラスし臼に向かっていた。
「あっづううぅ!!!!?」
「きゃあっ!! 和也! だ、大丈夫!?」
案の定、俺の顔面に餅米が飛んで来てのたうち回った。しまった……最近ルーミィに料理を教えていないので失念していたが、これも調理の一種であったな……というよりも話を聞こうよ……。




