異世界17日目 4月17日(水) ①保育園説明会、荒れる
最近は降り注ぐ日差しも徐々に強くなってきており、大変過ごしやすい気候となっている。
この世界において、遅ればせながら季節や気温事情をイリアさんに伺い、色々と確認出来た事があった。
カレンダーも雑貨コーナーの隅の方においてあったので購入しておいた。
というより、気付かないよ、こんなマニアックな場所……まあ、四月になってカレンダーを求める人は少ないだろうから、当然といえば当然かも知れないけどさ。
なにはともあれ、この世界にも暦があり、1年365日で一週間の曜日もあった。この辺りは元の世界と共通なのでブレが無く助かっている。
それにしても望んだ世界とはかけ離れているが、かなりご都合良く設定が元の世界と被る事が多い。
いや、望ましい事なんだけどね? 上司さん、お願いですからこれ以上ハードモードにしないで下さいね!?
ただ流石に日本の祝日は無い。いや、そもそも祝日の概念自体が無く、しっかりと完全週休二日であった。
季節としては日本と同じく春夏秋冬はある模様ではあるが、冬の寒さは特に厳しいとの事。まあとりあえず今後は気温が上昇していくので、それに見合った夏向けの衣類や対策を打っていく必要がある。
そんな気温上昇に伴い、ルーミィさんの服装も軽やかなものとなっている。多用しているのはシャツとスカートのシンプルコーデだが、素体が抜群の性能を誇るのでとても良く似合っている。
スカートが少々短い気もするのだが、今までの共同生活において、パンツが見えた事は無い。
尚、胸は小さ……おっと、この辺りにしておこう。もう睨まれるのは勘弁だ。
「今日は白銀狼夫妻が来る日だね……」
明らかに警戒と動揺が見受けられる。相当ビビっていらっしゃるご様子だ。
「今日から私達は先生になるんですから、親御さんに対しては毅然とした態度で接して下さいね」
「う、うん……」
中々の緊張具合だ、食事も喉を通……ってるな。綺麗に完食しているし、大丈夫そうだ。安定の食欲におっさんは脱帽でございます。
≪≪≪
約束の時間が近づいてきたので園の運動場で待機する事にしたのだが、やはりルーミィさんが固い。より緊張してしまっているようだ。
「大丈夫ですよ。この前みたいに殺気を投げ付けてきたりはしないですよ」
「うう、でもぉ……神が恐れる存在だよ? 食物連鎖の頂点だよ?」
食物連鎖って……神様を食料にしている訳ではないでしょうに。
しかし、神様を差し置いて頂点に君臨するモンスターとは。この世界は一体どうなっているんだろうか……まあ、異世界だったらよくある事なのかも知れないが。
そんな雑談をしていると突如、衝撃波にも似た突風が巻き起こり、その衝撃に耐え切れず俺とルーミィさんは共に地面に投げ出され、尻をついて座り込んでしまった。
「あっ! すみません、大丈夫ですか!?」
「おじちゃん! おねえちゃん! きたよ~!」
聞き覚えのある男性の声と、元気いっぱいの可愛らしい声が同時に聞こえた。
運動場に舞う砂埃が収まると、銀色の狼とその背に乗った幼児が姿を現した。パパさんとアメリアちゃんの御到着である。
しかし一体何キロで走ってるんだ? 停止の衝撃波でこれじゃあ、少し触れただけで人生ジ・エンドだぞ……。
「アナタ! もっとゆっくり走らないと!」
遅れて登場したのは狼状態のママさんである。パパさんと同じく急に現れた事には違いないが、優雅な着地で砂埃はおろか、衝撃波も発生しなかった。
なんたる上品な立ち振る舞いであろうか……そうです! もっと言ってやって下さい!
「すまん、すまん。これでもスキップぐらいだったんだが……」
まったくもって規格外である。貴方のスキップで人が死にますよ?
「よ、ようこそいらっしゃいました。とりあえずご説明の方がありますので園長室へどうぞ」
なんとか立ち上がり、砂を払いながら園長室へと案内した。ちなみにルーミィさんはパパさんの背から降りたアメリアちゃんとお話していた。
「おねえちゃん、だいじょうぶ~?」
「う、うん。大丈夫だよ。ちょっと驚いちゃっただけだから」
ルーミィさんも立ち上がり、二人は手を繋いでなにやら和やかなムードである。どうやらアメリアちゃんのおかげで緊張も解けたようだ。
しかし、あと少しで轢かれる所だったな……なんらかの対策打たないと保育園内で交通事故が発生してしまう……。
≪≪≪
白銀狼夫妻のカリムさんとシルフさん、そしてアメリアちゃんを園長室へお招きし、保育園の概要を説明させてもらった。
保育園は基本的に一週間の内、平日の月~金曜日の間で保育を行い、時間は午前九時から午後三時とした。
保育園はあくまで補助である事と、家族で過ごす時間も大切にして欲しい旨も伝えさせてもらった。
「――となります。なにかご質問ございますか?」
「いえ、よく分かりました。保育園とはそこまで考えられてるんですね!」
ママさんのシルフさんからお褒めの言葉を頂けた。ありがとうございます、でも俺が考えた訳ではないんですよね……日本の教育委員会とかが考えたのかな?
しかも教員免許も持っていないのでまあまあ当てずっぽうだったりしますけど、異世界なので合わせて見逃して欲しいです。
「それではこちらが保育園の制服や備品になります」
保育園セットの入った布袋をシルフさんにお渡した。これは事前に神力で用意したものであり、もろもろ込みで100神ポイント相当である。おかげで現在はマイナス920ポイントまで落ち込んでいる。
ちょっと取り返せるか不安だが、この世界にはそういった類の商品は無いので止むを得ず、神力で用意しておいた。
「そうそう、この前言いそびれたのですが、カズヤさんは神力が使えますよね?」
パパさんことカリムさんからトップシークレットである言葉が出て来た。
神ブックの事は先日伝えたが、試練を受ける者が神力を使える訳ではない。これは転移ミスによるお詫びで借りているチート能力なのだ。
隠していた訳ではないけど見抜かれてましたか、流石は銀狼のトップである白銀狼さんだな。
「ええ、お渡しした物は神力で用意したものです」
カリムさんに嘘を付いても何のメリットもないので正直に伝えた。上司さんも別にいいって言ってたし、なにより園児の親御さんだしね。
「しかし、神でない者が神力を使うとなると、相応の対価を払わなければならない筈ですが?」
「あ、はい、試練の達成ポイントがマイナスされます。あ、でも保育園のお仕事をすればプラスされますので」
「なんとそうでしたか……服や物を頂いた上に、これから保育して貰うのにこちらも対価を渡さない訳にはいきません」
あら、そんなお気を使っていただかなくても。と言いつつ下衆い気持ちを押し込むのに必死だ。
すみません、うちには食べ盛りの女神様が居るもので……。
パパさんが目で合図を送ると、ママさんはお手持ちのカバンから虹色に輝く神秘的な光を放つ玉を取り出して差し出してきたのだが……それ、明らかにその辺にある物じゃないですよね? RPGで言うとキーアイテムになりそうなやつですよね?
「これは我が銀狼に伝わり、白銀狼の二つ名を持つ者のみ所持する事が許される宝玉で、万物の理を変える事も可能とされる――」
「受け取れません! しっかり御一族で管理して下さいっ!」
一体何を考えているのだ!? 呆気にとられた表情をしているが、ひょっとしてこの二人、親バカなのか?
そもそも万物の理を変えるって意味が分らないんですけど?
「そ、そうですか。では金銭では如何でしょうか?」
そちらがありがたいです。むしろそれでお願いします。そんなラストダンジョンに眠る秘宝を頂いても困りますので。
「とりあえず少ないとは思いますが、100億Gほど用意して来ましたので――」
「そんな大金受け取れませんっ!」
娘一人の入園に100億Gって……やっぱり親バカは確定だ。こっちは1個50Gのスライム水まんじゅうを売って生活してるんですけど?
「保育園の維持費と私達が生活出来るだけのお金さえあれば十分です。そうですね……月に10万Gぐらいで如何でしょうか? 何でもお金で解決してしまうのは教育上も宜しくありませんからね」
実際、元の世界の通貨で換算して保育料10万円となると相当高額であるが、悲しいかな、何度も繰り返すが、こちらには育ち盛りの女神様を養っていかなければならない事情もある。
だが、いきなり100億円の提示をぶち込んでくるぐらいなのだ。これぐらいなら痛くも痒くもないだろう。
「じゅ、十万G……ですか……」
あれ? なんか思ってた雰囲気と違うんですけど? なんかカリムさんとシルフさん焦ってるみたいだけど……。
「す、すみません。少し取り乱してしまいました。そうですか、しかし今は1億Gより下の金銭は持っていないので明日、アメリアに持って行かせようと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「は、はい、そちらでお願いいたします」
……なんかシルフさんがカリムさんに小声で、一族総出で硬貨を探させる云々とか言ったのが聞こえてしまった。
やっちまった感が半端無い。大分迷惑な事を言ってしまったのかも知れないな……。




