異世界14日目 4月14日(日) ④狼さん夫妻>>>女神様
無事にアメリアちゃんの入園が決まったのは良いのだが、いかんせん急だったので、保育園自体の始業準備の時間が欲しい旨をお伝えした。
親御さん達には三日後に再度来て貰えるよう、お願いさせて頂いた。
運動場に出ると先ほどの雨はすっかりあがり、青空が広がっていた。やはり通り雨だったようだ。
「またね~! おじちゃん、おねえちゃん!」
はは、おじちゃんか……。確かにそう名乗ったけどね。だけど保育園が開業した以上、少なくとも先生は名乗らないといけないかな。
運動場に出た親御さんは、銀色に輝く光を放つと、初めて見た銀色の毛並みを持つ狼の姿に戻った。
その姿を見て少しびびったのは内緒である。ちょっとトラウマになりそうだ……。
「今度はしっかり掴まっているんだぞ?」
「は~い!」
べたっとパパさんの背中にくっつくアメリアちゃん。しっかりくっついてね、もう落ちちゃダメだよ?
「おっと、うっかりしておりました。そういえば散々ご迷惑をおかけしたのに名乗りもしていませんでしたね」
そういえばそうだった。だって初見で殺気放たれてその後は謝罪だったしなあ。お互い余裕が無かったですもんね、特に俺は。
「私は白銀狼のカリム、そして番はシルフと申します。以後お見知りおきを」
狼状態のまま二人は頭を下げてきた。多分会釈してくれているんだと思う。
「……は、は、はぁっ!?」
ルーミィさんや、急にどうした? なんの掛け声を出してるんですか。
折角相手様が名乗ってくれているのに。そんなに慌てふためいて……失礼ですよ?
「ご丁寧にありがとうございます。私は和也、そしてこの女性はルーミィさんと申します」
「それではカズヤさん、ルーミィさん。また三日後にお伺いします」
二匹の銀色の狼は軽い足取りで歩み始めたかと思うと、風だけを残して一瞬で見えなくなってしまった。
そりゃあ、そんな出鱈目なスピード出してちゃアメリアちゃんも落ちるわ……。
そんなハチャメチャな親子を見送り、ふと地面の様子を見ると、違和感が浮き出てきた。
先程まで降っていた雨によって運動場はぬかるんでいる。現に俺の足元も泥から水が浮き出て足跡が付いている。
そんな路面コンディションにも関わらず、人以上の大きさの狼さんが足跡一つ付けていないのだ。
……浮いてたって事? 空中を蹴ったの?
どういう仕組みなんだろうか。
それにしてもさっきからルーミィさんの様子がおかしいな。なんか青い顔してるし。
あ、さっきの俺と同じで狼状態のカリムさんとシルフさん見て思い出しちゃったのかな? 分かる分かる、マジで怖かったよねぇ~。
「大丈夫ですか? ルーミィさん。それにしても大変でしたね。でも念願の初園児の入園が決定しましたよ。早速いろいろと備品を揃え――」
「あのねっ! あの種族は銀狼と言って神界でも超有名なモンスターなの! その中でも圧倒的な力でトップに君臨するのが、白銀狼の二つ名を持つさっきの夫婦なの! もし仮に襲われたら神力が使える状態の私でも走馬灯見る暇も無く殺されるぐらいの強さだよ!? まさか、まさかこの世界に住んでたなんてぇ……」
えらい喰い気味で一気に語った後、頭を抱えてしゃがみこんで震え出した。
良く分からないけどそんなに強い固体なんですね。どうりで睨まれただけで体が動かなくなる訳だ。はっはっは。
……よく生きてたな俺。走馬灯の準備までは行ったもんなあ……しかし回す暇はくれないのかぁ。
「でもまあ……保育園は子供が主役ですし、今は保育園を開業出来た事を喜びましょう」
「……和也って意外と大物かも」
初めてに近いレベルでアッパー目線ではあるが尊敬された。
ですが何をおっしゃいます、俺はいたって小物ですよ。ま、情報が無かったおかげで今回は幸いしただけですから。
でも神ブックの事を教えちゃったけどいいのかな? 一応上司さんに確認しておいた方がいいかも知れない。
ルーミィさんは構わないって言ってたけど、ちょっと信じられないというか……なんせ再研修させられるぐらいだもんな。
≪≪≪
リビングに戻るとすぐさまソファーに腰かけ
、神ブックを開き、念じた。
――神界、上司さんに繋がれ。
「はい、いつもお世話になっております。神界の上司でございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
神ブックから音声が飛び出してきたが、まさかの営業口調とは。俺も同じ事を毎日言ってたよ……今回はそれに当てはまらないけど、個人的には初めて連絡してきた人に対して『いつもお世話になっていますぅ~』って言うのは疑問に思っているのだが。
「お忙しい所すみません、実は先ほど白銀狼さんのご息女さんが入園する事になりまして」
「なんと! あの白銀狼夫妻の? これは驚きですね!」
やっぱ凄い事なんだ。そして白銀狼さんのネームバリュー半端ねえっすね。
「私はその辺の事情を知らなかったのですが、カリムさん達に神ブックの事を教えちゃったんですけども……やっぱりまずかったですかね?」
「いえ、特に話してはいけないという規則はございませんので。寿さんが認めた人ならば良いのではないでしょうか?」
結構アバウトな回答である。そして疑ってごめんよ、ルーミィさん。
「神力に関しては白銀狼夫妻はともかく、一般の方でしたらそちらの世界は剣と魔法の世界に分類されますので『異世界の魔法です』とでも言えば皆さん納得してくれるんじゃないでしょうか?」
うん、まあ、そうかな? でもあまり人前でポンポン使うのは止めておこう。俺は秘密組織にさらわれて紙幣製造機にはなりたくない。
「分かりました。後、上司さんは最高神と呼ばれていましたが、もしかして神様の中で一番偉い方なのではありませんか?」
「いえいえ! とんでもない! 私なんてただの中間管理職にしか過ぎませんよ。上から叩かれ、下から求められ、毎日の胃薬はかかせませんよ」
……なんか、神様も大変なんだな。俺も同じ境遇だったから痛いほど分かるが。最高神よりもまだ上の役職があるという訳か。
「すみません、余計な事まで聞いてしまって。後もう一つだけ宜しいでしょうか? 実はルーミィさんもおっしゃっていましたが、白銀狼さんはとてもお強いとの事ですが、いかほどなものでしょうか?」
これは個人的に気になった事だ。女神様が瞬殺されてしまうと言うぐらいなのだ、気にはなる。
「そうですねぇ、確かに番でこられると私より下の地位の神では、どれだけ束になった所で到底太刀打ち出来ないでしょうね。まあ彼らと戦いになる事なんてありませんので、あくまでも想像の話になりますが」
実はさっきその番に殺される寸前だったんですけどね。しかしこの口ぶりから推測すると上司さんは少なくとも負けないのだろう。
普通の神様じゃ絶対に勝てない領域の方を、なんとか出来る戦闘力をお持ちなんですね……。
マジで化け物じゃないですかぁ!? そんな親御さんの娘さん預かるのって超怖いんですけどぉ!?
「な、なるほど、参考にさせて頂きます。お忙しい中ご対応ありがとうございました」
「いえいえ、それではお二人とも、頑張って下さいね!」
ふう……とりあえずは情報も得れたし、今後の神ブックや神力の秘密は信頼を置ける人のみに伝えるとしよう。
「私が言った事、信用してなかったでしょ?」
神ブックのページを閉じると同時にお声がかかった。
頬を膨らまし、腕を組み、可愛い目で睨まれちゃってる。いや、だってさ、女神様、再研修中じゃないですか? 確かにちょっとは疑ってましたが、確認はお仕事の基本ですからご容赦頂けると幸いでございます……。
「いや、あの、そういうつもりではなかったんですよ……あ、そうだ! さっきアメリアちゃんの服を出すのに使った神力のポイント確かめないといけませんでした!」
再び神ポイントを開き現在の残高確認を行う事にした。お金を出す時以来の消費なのでどれぐらい使用されたか気になる。べらぼうなポイントが消費されていませんように!
――神ポイント――
・前日までの神ポイント -800ポイント
・神力使用 -20ポイント
・現在の神ポイント -820ポイント
「あの園内着で-20Pですか。まあ、それなりですかね?」
「……むうっ!」
あ、まだ怒ってる……ふくれっ面のままだ。いかん、このままでは信頼関係にひびが入る! なんとかフォローせねば! 食べ物関係で……い、いや待てよ!?
「そ、そうだ! 最近暑くなってきましたし、園の備品を買いがてら新しい服を調達しませんか?」
「えっ? う、うん! 新しい服かぁ……欲しい!」
良かった……咄嗟に路線を変更したがやっぱり女の子である。食べ物関係でもなんとかなったかも知れないが、こっちはこっちで正解のようだ。
じゃあ、雑貨店に行って新しい服の調達をしに行きますかね!
≪≪≪
「新しい服? ああ、夏物も結構出揃ってるぜ」
「これ可愛い~!」
ルーミィさんは雑貨店でご機嫌な様子で店頭に並ぶ服を自分に当てて、鏡の前で着丈を確認している。とりあえず機嫌は直ってくれたようだ。
ちなみに俺は前回イリアさんが選んでくれた物が気に入ってるので、今回もお任せオーダーにしたく思ってる。
決して選ぶのが面倒な訳ではない。そう言い聞かせておこう。
「イリアさん、私は今回もお任せでお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、分かったよ。じゃあ今回こそルーミィには例のアレを――」
「ま、前のは要りませんからねっ!」
ルーミィさんが肩にTシャツを当てながら即座に拒否の声を飛ばしてきた。顔を真っ赤にしているが……まだ残してあったんだ『今夜はお楽しみだろ』グッズ。
「なんだ、あれから結構経つからもうてっきり――」
「何もありませんからっ!」
もうアレがどんなものなのか気になって仕方が無い……しかし真相は闇の中である。どんな物か見せてくれるだけでいいんですけども、ダメですかね?




