異世界14日目 4月14日(日) ②狼さん襲来!
お風呂に入り、雨に濡れた体も十分に温まる事ができ、ようやく人心地付く事が出来た。しかしとんだピクニックになったものだ。まさかケモミミ幼女を保護する事になろうとは。
「アメリアちゃんの髪の毛って、ほんと綺麗な銀色だね!」
リビングではルーミィさんがケモミミ幼女こと、アメリアちゃんの髪をブラシでといてあげている。この子を見ていると、改めて異世界に来たと実感するなぁ。
スライムでも十分感じれるんだけど、やっぱ獣人となると世界観の見方が変わっちゃう。
そんなアメリアちゃんは俺の幼稚園時代のモチーフした服に身を包み、にこやかにルーミィさんとお話している。
しかし、綺麗を通り越して気品すら感じる輝く銀髪をしてるなぁ、ケモミミと尻尾の毛も同じく綺麗な銀色の毛をしているし。
後、大きな瞳は鮮やかな黄色であり、無邪気な笑顔と相まってとても愛らしい。
これが獣人か……是非大人の方も見てみたい!
「アメリアちゃんは何歳なのかな?」
「えっとね……よんさいだよ~!」
ルーミィさんの質問に対し、指を一つずつ確信しながら立たせた、四本の指が立ち上がったところで、その手と一緒に元気いっぱいの笑顔で答えてくれた。
何、この仕草……超可愛いんですけどっ!? なんか『にぱぁ~!』って感じが出てるし!
後、よっぽど園内着が気に入ったのか、何度も服を見てはご機嫌に尻尾を振っている。
「とりあえず昼食にしましょうか、アメリアちゃん、お腹空いてるかな?」
「うん! アメリア、おなかすいた~!」
「私も! お腹空いたぁ~!」
四歳の子と同じ反応……。一応アメリアちゃんに言ったんですけどね。
じゃあ昼食を用意するとしますか。子供が好きな物と言えばやっぱりアレかな、ルーミィさんも含めて。
≪≪≪
「いいにおい~!」
「おっ! 匂いにつられて来ちゃたのかな?」
鼻を突き出し、匂いを嗅ぐ仕草を取っているアメリアちゃんがキッチンに現れた。
今作っているのは過去ルーミィさんも雄たけびをあげた実績もあるオムライスだ。
しかしオムライス自体はそれほど匂いのきつい料理ではなく、換気扇も付けてあるのだが。
やはり獣人さんは嗅覚が優れているんだろうな。
それにしてもアメリアちゃんって何の獣人さん何だろうか、やっぱり犬さんかな? 毛並みが格好いいから……シベリアンハスキー的なやつかな?
「うわあ! おいしそう~!」
ケモミミがピンと立ち上がり、尻尾を左右に振っている。この動きはやっぱ犬さんだな。
「はい、お待たせいたしました。じゃあリビングに持って行くからね。皆でいただきましょうか」
リビングに場所を移し、テーブルにオムライスを並べたのだが、大人用のイスとテーブルなので少々アメリアちゃんには高さが足りない。
とりあえずイスにクッションをひいてあげ、高さ調整をして、なんとか様にはなったので良しとしておこう。
「さあ、お二人とも召し上がれ」
目を輝かせながらオムライスを口に運ぶ二人……ルーミィさん、四歳児と挙動が同じって、ちょっと問題ありませんか?
『おいしい~!』
はい、ありがとうございます。二人見事にハモってますね。
「アメリアね! こんなふわふわの食べたことないの~!」
口の周りがケチャップまみれになりながら感想を頂けた。まあ、こっちは年相応なので構わない。後で拭いてあげないと。
でもこの子一体何処から来たんだ? 森の奥に獣人の集落でもあるんだろうか? 雨も小振りになってきたみたいだし、昼食を食べたらもう一度森に行ってこの子の家族を探してあげなければ。
でもその前にまずは腹ごしらえだな。腹が減ってる状態では女神様が仕事しないので。
「デザートにスライム水まんじゅうでもお出ししましょうか」
折角なのでお腹一杯になってもらおうと思う。スライム桜餅はもう無いが、水まんじゅうの方は在庫しているのだ。
喜んでオムライスを食べてる二人を横目に、キッチンに向かおうとした時、全身の毛穴から冷や汗が溢れ出すという、今までに経験した事の無い感覚が襲ってきた。
寒い、いや、痛いと言った方が的確だ。例えるなら肝試しや怖い話のゾクっとする感覚のケタ違いに重い版だ。
ルーミィさんの方を見ると体は震え、可愛い目は大きく見開き、唇まで震えている。
とてつもない恐怖に怯えているかのようだ。
なんだ? 一体何が起こった?
混乱する中、ルーミィさんの目線の先を追うと原因はすぐに分かった。
どうやって入って来たのか分からないが、目の前には見た事も無い大きさの犬、いや狼が二匹、こちらを睨みつけていた。
大きさは成人男性が四つん這いになった状態よりも遥かに大きい。片方は一回り小さく感じるが、それでも体格差を感じさせない威圧感がある。
非常に興奮状態にあるのだろう、銀色の美しい毛並みは逆立っており、吸い込まれるような黄色の瞳は鋭く光り輝いている。
その姿を視認した直後、更なる感覚が体を襲った。体は硬直して動かなくなり、喉が異様なほど乾き、肺を突き上げられるかのような感覚が襲ってきた……これが金縛りという奴なのか?
この辺りにはモンスターは存在しない、それは村の人やギルドからも確認済みだ。となると、この世界における野生の狼なのだろうか? 森からも近いしそんな動物が生息していても不思議ではない。
しかし今はそんな悠長に分析をしている場合ではない。こちらには女の子と幼女が居るのだ、神力を使ってでも追い払わなければならない。
でも神ブックは今、手元に無い、体が動かない以上取りにも行けない。
まずい……絶体絶命じゃないか……。
俺とルーミィさん、そしてアメリアちゃんと順にその鋭い目で確認すると大きい方の狼が一歩前に出て、噛み砕けぬものは無いであろう、鋭利な牙を剥き出しにして口を開けた。
「人風情が……! よくも!」
喋った……狼が……。いや、狼はそんな芸当は出来ない。もしかしてこの二匹ってモンスターなのか?
聞いてないぞ!? この辺りにはモンスターは一切出ないと言っていたじゃん! いや、そんな事を考えても仕方が無い。今、目の前にモンスターが居る事実は変わらないのだから。
しかし先程の怒気を含んだ一言が発せられてから体は完全に動かなくなった。もはや指一本微動だに出来なくなり、呼吸をする事すら出来なくもなった。おそらくこのまま睨まれ続けたら窒息死する事は間違いない。
その上、狼モンスターの眼から視線も外せなくなり、もはや神ブックを見る事すら叶わない。
だがおそらく窒息させる気は無いだろう、それを待たずして噛み殺される。
そう確信し、走馬灯の準備が整った。思えば短い人生だった……心残りはルーミィさんとアメリアちゃんだ。俺が殺され、喰われた後は間違い無く二人を襲うだろう。すまない、何も出来ないおっさんで……。
そんな覚悟を決めた時だった。
「パパぁ~! ママぁ~!」
冷たく凍えた空気の中、元気いっぱいの可愛らしい声が響いた。
動けなくなっている俺達を尻目に、てけてけと口にケチャップを付けたアメリアちゃんが、笑顔で狼モンスターの下へ歩いて行った。
四歳の子が何故に動けるんだ!? おっさん、指先どころか息も出来ないのに!?
「おじちゃんとおねえちゃんにごはんもらったの! すごくおいしかったの~!」
張り詰めていた空気が緩み、なんとか呼吸が出来るようになったので、全身全霊を込めて言葉を言い放った。
「パ……パさ……ん? マ……マさん……? は、はじめ……まし…て」
何で俺、死にかけている状態で挨拶したんだろう……脳に酸素回ってなかったのかな?




