異世界2日目 4月2日(火) ①スライムで創作料理を作ってみた
初めての異世界での夜をひもじい思いをしながら過ごした翌朝、俺は桜の大樹に向かって一人歩いている。
朝は思ったより冷え込みが厳しく、カッターシャツ1枚では少々厳しい。
この異世界の気候事情はまだ分からない。これから寒くなるのか暑くなるのか……。
「うぅ、寒い。おっ、いたいた」
草陰で佇む水色の物体、スライムを見つけると掴んで先日購入したバッグに入れた。既にカバンの中には何匹か捕獲済みである。
「うん? あれは緑色のスライムか……結構な種類が居るんだな。よし、これも持って帰るとするか」
しばらく大樹付近のスライムを採取し続け、気が付くとバッグにスライムがてんこ盛りになっていたので、園に戻る事にした。
採取したスライムの内訳としては昨日の桃色のスライムが多い印象であり、緑色のスライムは結局一匹だけしか採取出来なかった。
ひょっとして緑はレアスライムなのかも知れないな。
園に到着しキッチンに向かう途中、リビングを見渡したがルーミィさんが起きて来た気配は感じない。まだ寝ているのだろうか……お気楽な女神様である。
昨日、お腹を空かせながら考えたのだが、やはり金策は早急に解決しなければならない問題である。食料を調達するにせよ、衣類を買うにせよ、都度神力でお金を出していては永遠に元の世界には帰れない。
というかそんな生活では三年後に確実に消滅する……。
神ポイントを得る為に保育園開業を急ぎたいのは山々だが、まずは生活基盤を固めてからだ。その為には何としても成功させなければならない。
『スライム料理』を。
勝算はある。昨日、雑貨店で買い物をした際に見た品揃えの中には、スライムを調理した物は一切無かった。
食用出来るにも関わらず、それらの料理が無いと言う事は、スライム自体が無味無臭の特徴を持っているからだろう。
それに日本の文化も無いようだった。日本を彷彿させる米などは何種類か置いてあったのだが、米は日本だけで食べられている食材ではないので確定要素としては微妙だった。
確信を得たのはお菓子コーナーを見た時だ。そこには和菓子が置いていなかった。これが決定打だ。
「作ってやろうじゃないか。スライムの和菓子を」
キッチンにスライムの入ったバッグを置き、手を洗った後に昨日雑貨店で購入した小豆を取り出し、鍋に入れ、火にかけた。
和菓子の基本……あんこ作りだ。まずはここから始める。
≪≪≪
「よし、アクは捨てて、少し蒸らしてと」
小豆の調理をしながら考えていたのだが、スライムには食材として素晴らしいポテンシャルがあると俺は感じている。
工夫次第ではヒット商品になる可能性がある。このスライム料理で生計を立てる! これが当面の目標だ。
とは言え、勝手に販売する訳にもいかないので、後程村長のクレイドさんに相談させて貰うとしよう。
「よし、蒸しはこんなもんだろう。もう一度火にかけて、塩を少々振って、溶いた砂糖を混ぜて……」
あんこの製造過程も終盤となり、独特の甘みのある匂いがキッチン内に漂い始めた。あんこの優しい匂いは心を落ち着くなぁ~。
……お腹空いた。とりあえず試作品は朝食としていただこう。おそらくこの匂いにつられてルーミィさんも起きてくるだろう。
「良く練り上げてっと。よし! 完成だ!」
「甘い匂い~」
お鼻をくんくんさせながらキッチンに入ってきたのは女神様のルーミィさん。仕草がお腹を空かせた子犬であるが、美少女がすると絵になってしまうのが恐ろしい。
しかしやはり匂いにつられて起きてきたな、昨日俺に食糧を与えなかった食いしん坊女神様め!
少々昨日の恨みもあったのだが、ふと服装に目をやると着ている服自体は昨日と同じではあるが、ケープはしっかり羽織ってくれていた。しがないおっさんからのプレゼントですが、ちゃんと着てくれているんですね。
……先程の発言は取り消しましょう。今日もお美しゅうございます、女神様。
「ねえねえ! 初めて見たけどその黒いのって何? 甘い匂いするし、食べれるよね!?」
「ええ、もちろん。ですがまだ調理中です。もう少々お待ち下さい」
ふふ、あんこはあくまで材料の一つにしか過ぎないのだよ、ルーミィさん。
あ! そうだ。スライム料理のレシピを神ブックに載せておこう。いやあ、便利だな、神ブック!
近くに置いていた神ブックを持ち、製作工程を順にイメージした。
――スライム水まんじゅう――
材料
小豆、砂糖、塩、水、スライム
調理方法
①小豆を鍋に入れ火を通し、アクを取り、蒸
らす。
②再び水を入れ煮る。
③十分煮詰まったら塩を少し入れ、溶いた砂
糖を入れる。
④よく練りあげればあんこの完成。
⑤スライムを十字に切り、四分の一にして中
身をくり抜く。
⑥くり抜いた部分にあんこを詰めれば完成。
おほっ! こりゃ便利……って違う違う、これは要らない。
イメージした通りの文章が神ブックに書き記されていく。考えるだけで文字になるのがこんなに便利とは。
今までやっていたPC作業が馬鹿らしくなるな。しかし余計な事を考えてたらそのまま神ブックに記載されてしまった……。
ここは削除と……気を抜くと考えてる事全部が書き記されてしまうが、まあ、こればかりは慣れだな。
神ブックを置き、最後の仕上げとして洗ったスライムを四分の一に切り、繰り抜いてあんこを詰めてお皿の上に置いた。
横から見ると、半透明の中にあんこがおぼろげに写っている姿が見える。異世界での初コラボ作品であるが日本風情を押し出せた料理である。本当は『朧月』とかしゃれた名前をつけたいのだけど……。
「さて、完成しましたよ。名付けてスライム水まんじゅうです。さあ、ご賞味下さい」
格好良い名前が格好良く響き、伝わる為には信頼と実績が必要である。今はシンプルな名前が無難である。
「本当にスライムを使った料理を作ったんだね。薄い水色に中の黒いのが透けて見えてなんか綺麗!」
見た目にも美味しさを演出する、それが日本の和菓子と言うものなのです。このコンセプトを最初に考えた人は本当に天才だと思うよ。
「いただきま~す!」
「あんこがこぼれ落ちないよう食べて下さいね」
本当の水まんじゅうは葛などを使用するが、残念ながらスライムは熱すると溶けてしまうのでこの調理法しかなかった。だか相性は抜群の筈ですよ?
「お味の方はいかがですか?」
咀嚼中ではあるが、満面の笑みなので大変満足しているのは見て取れますがね。
「おっいしい~! みずみずしさの中に濃厚な甘みが調和してるよ! スライムのおかげで口の中もくどくならないから食べ終わった後もすっきりするね、これ、何個でも食べられるよ! あっ、お代わり貰うね!」
お、おお。的を射た食レポしてくれるじゃないですか。おっさん、ちょっとびっくりしましたよ?
――お腹空いたぁ~! と言うだけの子じゃなかったんですね。
「お気に召して頂けて良かったです。それはそうと私の分も残してて下さいよ?」
「もえっ?」
気の抜けた返事が返ってきた。だって口の中にスライム水まんじゅうを頬張り過ぎてリスみたいになってるもんね。
――って、一気に全部喰いやがった……鬼ですか? いや、女神様か。
俺、お腹空いてるんですけど!? 昨日から何も食べてないんですけどぉ!?




