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異世界転移前日 料理好きサラリーマン、寿和也

 

 寿(ことぶき) 和也(かずや) 三十二歳独身。


 どこにでも居る一般的なサラリーマンであり、その勤め先は今時珍しくもないが、ブラック企業スレスレの会社だったりする。


「ただいま、俺~。腹減ったなぁ……さて、何を作ろうかな」


 会社のマイデスクの上に積まれた手付かずの書類は、広大な山脈を彷彿とさせる末期状態となっており、とても捌き切れない程の膨大な量になっていた。


 そこで最後の手段として『これは紙切れ、これは紙切れ、シュレッダーにかける分』と自己暗示をかけ、終電間際の電車に飛び乗り先ほど強制帰宅して来た。


 別段珍しくもない毎週末の光景である。震えながら月曜の朝を迎えるというフラグは、自動的に立つようになっているという訳だ。


「少し肌寒いし、何か暖かい物がいいな……確か卵があったよな……じゃあ出汁巻き卵でも作るとするか」


 今は春も近付く三月の最終日、そして日付が変わるかどうかの時間になっている。日中は陽気が心地良い季節だとは思うが、生憎と俺に太陽を浴びる時間なぞ無い。

 ああ、野に咲く花になりたい……。


 そんな疲れきった体に鞭を打ち、ジャケットを脱ぎネクタイを外して入念に手を洗った。


 料理をする前の手洗いは基本中の基本。怠って食中毒なんぞ起こそうものなら目も当てられない。と言うか一人暮らしなので下手したら死ぬ。

 衛生面と賞味期限の管理はしっかりしておかないと、マジで人生そのものが終わる可能性がある。


「にしても今日は疲れたぁ。中間管理職なんてやるもんじゃないな」


 愚痴りながら冷蔵庫を開けて食材を眺めてみたが、週末なのでストックは乏しい。九割方は何も無い空間となっており、マヨネーズとソースがその存在感をアピールしている状況だ。

 だが、卵は辛うじて残っていたので問題は無い。でも明日は買い出しに行かないといけないな。


 料理は得意だけど、食材が無ければどうしようもないもんな。



≪≪≪



 卵焼き用の四角いフライパンに薄く油を引き、味付けした溶いた卵を流し込み、テンポ良く巻いて行く。

 ちなみに隠し味兼ふんわりと仕立てる為のマヨネーズは忘れていない。これが有ると無いとでは雲泥の差が出る。


「さ~てと、こんなもんでどうかなっと……おしっ! 焼き目はばっちり! さてお味はいかがかなものかな?」


 包丁でカットした断面から湯気が上がり、優しい香りが漂った。早速一つ口に入れてみたが出来立てなので中々に熱い。


「ほふっ、ほふ……うん、我ながらいい味だ。100点、いや120点だな! 後はビールっと」


 料理の出来映えを確認した後、冷蔵庫からビールを二本取り出し、ほんのり湯気の上がる出汁巻き玉子を持ってリビングのソファーに腰掛けた。


 ビールのプルタブを開ける小気味の良い音が響き渡り、早速ビールを流し込んだ。喉を通る炭酸の爽快感と同時に、麦の苦味と香りが鼻から抜け、思わず目を瞑った。


「はあぁ、この一杯の為に生きてるなあ~!」


 おっさんが言う『独り言ランキングベスト3』に入っているであろうセリフを吐くと同時に目を開け、テーブルの上に持って帰って来た郵便物の山に目を向けた。


「そういえば郵便受けに結構な量の配達物溜まっていたな。まあ、いつもの如く大した物は無いだろうけども」


 でも、もしかしたら大事な物が混じってるかも知れないし、確認はしておかねば。それに電気代やガス代の請求書は目を通しておきたい。料理が趣味のおっさんはガス代が嵩張るのだ。


「不動産のチラシは要らないな、俺には一緒に住んでくれる嫁も彼女も居ませんよっと、これは、宅配ピザか。美味そうだけど一人で食べるにはちょっと多いんだよな……うん?」


 広告やチラシの中にひときわ品質の良い封筒が目が付いたので手に取って確認した。まっ白な封筒で明らかに紙の質が違う。

 これは、結婚式の招待状か。宛先は……弟だ。そうそう弟は来月結婚する予定だったな。


 ……この状況、何かフラグっぽいな。


 世間一般で認知されているこの結婚フラグだが、これはダメなやつなので成立して頂かなくて結構だ。俺はまだ死にたくない。


 そういえば、弟は高校時代から同級生の彼女がおり、誰もが羨やむような高校生活を送っていた。


 それはもう一昔前に流行ったギャルゲーさながらのイチャラブっぷりを満喫していたらしい。

 そんな話を逐一聞いていた俺は当時、既に社会人になってはいたが、何度嗚咽を漏らしながら枕を涙で濡らしたか……数えきれたもんじゃない。


 高校卒業後も大学生として優雅なキャンパスライフを送り、社会人としても立派に成長し、兄を差し置いて結婚にまで至った訳だ。


 まあ、弟が大学に進学した時に俺も一人暮らしを始めたので、大学生活のイチャラブは少ししか聞いていないが、たまに実家に帰って弟と話をした夜は何故か枕が濡れるという怪奇現象はあったが……。


「しかし、安心しろ我が弟よ。兄は寛大な心を持っている。そんな昔の事なぞ気にせずに盛大に祝ってやるぞ」


 とは言うものの、少し悔しくて涙目になったので、涙がこぼれないようにビールを一気に流し込み、出し巻き卵を口に入れた。


 出汁の香りとほくほくの食感のおかげでなんとか堪えれた……にしても、我ながらこの出汁巻き卵、旨いな!


 なんとか自作料理のおかげで気分も持ち直せたので、一本目のビールを飲み干し、続け様に二本目のビールのプルタブに手をかけた。


「やっぱり今度会ったら兄として妬みと恨みを愚痴ってやろう」


 結局逆恨みする器の小さな兄でごめんよ。まあ大体は冗談だが、彼女自慢され続けた恨みだけは墓まで持って行くからな!


 しかしなんだ、まだビールも出汁巻き卵も残ってるのにものすごく眠い。やはり激務の影響かな……ああ、片付けをしないと。でも眠い……ま、明日でいいか……。


 そのままソファーに転がって瞼を閉じると、吸い込まれるように意識が遠くなっていく……これは寝落ちする直前のやつだ。こうなったらもうどうしようもない。


「はぁ、ギャルゲーのような楽しい高校生活、俺も送りたかったなぁ……」


 人に聞かれるとちょっとアレなやつだが、誰が聞いている訳でもないし問題無いだろう。しかし寝る直前に何を言ってるんだか……お休み、俺ぇ……。


完全版と銘打ってリニューアルしてみました! 旧作も掲載されてますが、ネタばれになるので完全版の方を読み進めて頂ければと思います!


どうしても気になる方は……見て頂いても構いませんが、処女作なので文面が拙くなっております。ご了承下さいませ~。


超長期連載予定ですので前半部分はリメイク、中、後半は完全新作となります。

中編までかなりの文字数がかかりますけど……お付き合い頂ければ幸いでございます!


ブクマ、評価、ご感想、お待ちしております!

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